首をかしげる5月29日専門家会議報告−「SARS-CoV-2に感染しても80%の人は感染させない」

改正インフル特措法に基づく非常事態終結宣言を受けて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症対策専門家会議が5月29日公表した報告書には首をかしげる箇所がいくつかある。また、菅義偉官房長官が専門家会議の記事録は公表しないと発表したが、今回のコロナ禍が日本の国民や経済社会の存続に甚大な被害を与えたことを考えると常識では考えられないことであり、重大事実を隠していることを想定させる。

今回の専門家会議の報告の特徴のひとつは、感染者の行動を過去の行動までさかのぼって濃厚接触者を追求し、新型コロナウイルス感染者を早期に発見する「日本型集団感染分析(以下、クラスター分析)」が成功したとして自画自賛することである。

議事録を作らないコロナウイルス感染書対策専門家会議

さて、報告で首をかしげることの第一は、報告書の本論でも附論でも述べていることだが、「この感染症については、3 月 2 日の見解6でも述べたように、感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約 8 割の方は他の人に感染させない特徴を有して」いると述べていることである。丁寧に、下図も使って説明している。

そこで、3月2日の専門家リポート(北海道で自民党系の鈴木直道知事が独自に最初の非常事態宣言を発出した件についてのリポート)を拝読すると、
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(1)症状の軽い人からの感染拡大
これまでは症状の軽い人からも感染する可能性があると考えられていましたが、この一両日中に北海道などのデータの分析から明らかになってきたことは、症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっていると考えられることです。なかでも、若年層は重症化する割合が非常に低く、感染拡大の状況が見えないため、結果として多くの中高年層に感染が及んでいると考えられます。
 
(2)一定条件を満たす場所からの感染拡大、
これまでに国内で感染が確認された方のうち重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません。
一方で、一定条件を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染させた事例が報告されています。 具体的には、ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント等です。このことから、屋内の閉鎖的な空間で、人と人とが至近距離で、一定時間以上交わることによって、患者集団(クラスター)が発生する可能性が示唆されます。そして、患者集団(クラスター)が次の集団(クラスター)を生むことが、感染の急速な拡大を招くと考えられます。
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と記載されている。「重症・軽症に関わらず約80%の方は、他の人に感染させていません」という「事実」とその「理論的根拠」は寡聞にしてサイト管理者の記憶の中にはない。

ノーベル医学・生理学受賞者の山中伸哉京大教授が国民と日本のために情報発信しているサイトでは「新型コロナウイルスに感染しても、多くの場合は症状が出ないようです。症状が出る場合も大半の人では咳や発熱などの軽症で終わります。そのため、多くの人は新型コロナウイルスに感染しても気づきません。そのため、感染が急速に広がる恐れがあります」とある。

山中教授の指摘するように多くの国民は企業は、自分自身や自社の社員は無症状でも感染している可能性があるから他の人に感染させてはいけないと思い、休業や自宅待機の要請に応じてきたのではないか。また、上記のリポートでは、感染していないかも知れないし、しているかもしれない無症状の人については明確な言及がない。

そういうことなら、感染者のどのタイプの感染者が他の人を感染させるのか、早期の究明が必要ではなかったか。それができないというのなら、誰が感染させるかしているのか分からないのであるから、大量のPCR検査を行うべきだろう。そのためには財政措置を講じて医療機関の防疫体制を完全に整備したうえで、国直轄または地方自治体傘下の保健所に設置された「帰国・接触者相談センター」などを通さず、地元の医療機関その他を通してPCR検査を民間検査機関や大学の研究機関に大規模に発注すべきだったのではないか。そうしないと、新型コロナウイルス感染症は指定感染症Ⅱ類に指定されているにもかかわらず、「検査と隔離(入院)」は不可能になり、初期段階での対症療法もできなくなる。

日本での新型コロナウイルス感染の初期の段階では、①37.5度以上の高熱が4日間続いている(高齢者・持病のある患者さんは2日)②相当程度の倦怠感がある−患者さんしか、保健所の許可を受けたうえで「帰国者・接触者外来」を持つ医療機関での診察・検査しか受けられなかった。

このため、地元の医療機関でかかりつけ医(主治医)がPCR検査が必要だと判断し保健所に連絡しても検査を拒否されたり、たらい回しにされる患者が圧倒的に多かった。その間に、症状が悪化して俳優の志村けんさんや岡江久美子さん、外交評論家の岡本行夫氏など、著名人も含め多数の国民が亡くなられることもなかったのではないか。この問題は次の死亡率も関係してくるが、その前に、専門家会議の議事録を非公開にしたこととも関係するので、述べておきたい。

リテラが2020年05月30日02時16に投稿した「安倍政権がコロナ『専門家会議』の議事録を残さないと明言!『37.5度以上4日以上』の相談目安に異論があったことも隠蔽か」と題する記事によると、「安倍首相が専門家会議を設置したのが国内初の感染者が確認されてから約1カ月後の2月14日、初会合が開かれたのが同月16日。その翌日の17日、加藤勝信厚労相が記者会見で『風邪の症状や37.5度以上の発熱』『強いだるさや息苦しさがある』といった症状が4日、重症化のリスクのある人は2日続いた場合という『相談・受診の目安』を発表している」。しかし、2月14日の初会合では、「この初会合の結果を伝えた読売新聞によると、じつは初会合では、〈受診や相談の目安を示す予定だったが、専門家の間で議論がまとまらなかった〉というのだ(2月17日付読売新聞)」。

つまり、PCR検査の基準を示して同検査を抑制したのは、コロナ禍対策は後回しにして、東京オリンピックの強行開催に狂奔し、感染者数を少なく見せかけようとしていた政府=安倍晋三政権の「政治判断(仕業)」である可能性が強いことだ。なお、国難に陥れているコロナ禍へのすべての対策決定過程を議事録として残しておくべきことは、民主主義・法治国家として当然のことである。

第二は、Covid-19(新型肺炎)による死亡者数に関してである。専門家のリポートでは、日本型クラスター対策に国民が(休業補償なき)自粛で協力したことによって、死亡者数が抑えられたことを強調している。もちろん、東アジアでは何故か、他の諸国と比べて死亡者数が少ないことは記しているが、その理由としては日本の医療技術のレベルが高いことや保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高いことを挙げている。しかしさらには、「市民の衛生意識を挙げ、さらにはダイヤモンドプリンセス号への対応の経緯が生かされた」とまで記している。

ダイヤモンドプリンセス号の日本のコロナ禍対策は完全な失敗であり、海外諸国からの乗客に対して米国を始めとして各国が日本政府を信頼せずチャーター機を出して救援活動を行うなど、日本は国際的信用を失った。これは、①3711人の乗客・乗員に対して当初、PCR検査が268人にしかなされなかったこと②感染者と非感染者の隔離すらできなかっため、船内に感染がすぐに蔓延した③新型コロナウイルスは消化器系からも感染(ヒト−モノ−ヒト)するのに、厚労省などから派遣された医師系担当官が紙で乗客乗員とやりとりしたため、医師系担当官なども相次いで感染した−などの問題があった。

重要なことは、世界保健機関(WHO)の指示に従って「検査と隔離」を徹底的に行うべきだったことである。

専門家の公表リポートが「ダイヤモンドプリンセス号への対応の経緯が生かされた」というなら、PCR検査を徹底的に行って、「検査・隔離・対症療法」を行うことを訴えるはずであるが、PCR検査数の増加については専門家会議は当初はほとんど熱意がなかったし、政府=安倍政権にPCR検査数の増加に向けて談判する様子もなかった。ちなみに、専門家会議の尾身茂副座長は独立行政法人地域医療機能推進機構理事長であるが、傘下の東京メディカルセンター(旧厚生年金病院)では院内感染を起こし、今でも面会は全面禁止になっている。コロナ禍対策が全く不十分だったわけだ。

話を元に戻すと、リポートは次のように日本の死亡者数が少ないことを自慢している。

しかし、植草一秀氏がメールマガジン第2641号「選挙買収資金と化す第2次補正予備費10兆円」で、専門家会議のリポートと同じサイトで調べたところによると、人口100万人当たりの死亡者数は次のようになっている。なお、上記のサイトは人口10万人当たりの感染者数、死亡者数ではなく、人口100万人当たりの数字が原数値だ。

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5月30日現在の人口100万人当たりコロナ死者数は、欧州では
1.ベルギー   814
2.スペイン   580
3.英国     562
4.イタリア   550
5.フランス   440
6.スウェーデン 431
7.オランダ   346
8.アイルランド 333
9.スイス    222
10.スクセンブルク176

米州では
1.米国     316
2.エクアドル  189
3.カナダ    185
4.ブラジル   132
5.ペルー    128

であるのに対し、東アジアでは
1.フィリピン    9
2.日本       7
3.インドネシア   6
4.韓国       5
5.シンガポール   4
6.マレーシア    4
7.中国       3
8.タイ       0.8
9.ミャンマー    0.1
10.モンゴル     0
  ラオス      0
  カンボジア    0

また、香港0.5 台湾0.3になっている。

https://www.worldometers.info/coronavirus/
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東アジア諸国では、日本はワースト2位だ。台湾は0.3人で特筆すべきだ。韓国は日本との人口比で言えばかなり健闘している。また、世界全体の感染者数604万5424人に対する死亡者数は36万7112人で死亡率は6.0%。これに対して昨日の段階で日本は感染確認者数1万6882人に対して死亡者数は890人とと死亡率は5.3%。世界全体での死亡率の平均より少し低い程度だ。

さらに問題なのは、死亡者数が過小評価されている疑いが濃厚であることだ。先の植草氏のメールマガジンによると、「国立感染症研究所が公表する超過死者数(感染症が流行した一定の期間の死亡数が、過去の平均的な水準をどれだけ上回っているか示す指標で、超過分が感染症による死者である可能性があると捉えるもの)が2月から3月末にかけて数百人規模で存在した。コロナ死として取り扱われていないコロナ死が多数存在したと考えられる」とのことである。

コロナ感染死者数が過少公表されている疑いを2020年5月25日2時55分に日本経済新聞までが報じた。「新型コロナウイルスの感染が拡大した2月中旬から3月までに肺炎などの死亡者が東京23区内で200人以上増えた可能性がある。同じ期間に感染確認された死亡数は都全体で計16人。PCR検査で感染を確認されていないケースが潜み、把握漏れの恐れがある。こうした『超過死亡』の分析に必要な政府月報の公表は2カ月遅れで、欧米の対応と差が出ている」。正しい死亡者数は公表値より多く、東アジア諸国で最悪なのかも知れない。世界の諸国では日本型のクラスター対策を「称賛」するより「日本の不思議」として、科学的な解明を行っている。

第三に不思議なことは感染の収束・終息に決定的な影響を与えるウイルスの実行再生産数が不確かなことだ。リポートでは同数が全国平均で1.0を下回っているが、東京都の状況は全国平均以上で、感染者が増加する1.0を上回っている。

下図は表示してないが、推計値であり、しかも、1.0をわずかに下回っている推計のため省略。しかも、リポートには、「ただし、元々の感染者数の実数自体が少なくなっているため、実効性再生産数が大きく増減して変化し得る。今後、1 を上回った状態が続くのか、注意深く継続的にモニタリングしていく必要がある」との指摘もしている。感染者数の実数は、PCR検査や高精度な抗原・抗体検査をしなければ正確に掴めないだろう。このため、厚労省の「謹製統計」だけでは新型コロナウイルス感染者の実態は掴めないのは当然だ。

これに加えて、極めて重要な実行再生産数を、各地方自治体が感覚的に決めている「自粛要請緩和・自粛再要請」の数値目標に加えていないのも奇妙だ。高精度な抗原検査・抗体検査・PCR検査などを一定の規模で行わない限り、国内感染の実態とその脱出策(出口戦略)を見出すことは困難である。

第四に不思議なことは、リポートではPCR検査と抗原検査の重要性についてはいたるところに記しているが、抗体検査(東大の児玉龍彦教授によれば、高精度の検査装置を使って定量分析を行えば感染履歴と感染の程度が15分程度で血液検査で判定できる)にはほとんど触れていないことだ。唯一触れているのは、20ページの「各種検査方法の特徴と留意点について」の箇所だけ。

そこには、
「○ 抗体検査とは、病原体に対応するため、体内で作られる「抗体」と呼ばれるたんぱく質が、血液中にあるかどうか調べるもので、過去の感染の有無を確認する検査である。一般的に抗体がある場合には、病原体に対する免疫が獲得されているとされるが、新型コロナウイルス感染症における知見は明らかでなく、現時点では、過去の感染の確認以上の意義を持たない。
○ 今後、政府は、6 月初旬に地域での感染拡大の状況を把握するために 1 万人規模で抗体検査を行う予定である。ここでは、抗体の保有状況を正確に把握するために定量的測定が可能な手法などにより詳細な評価を行う予定である」
と記されている。専門家会議が感染確認以上の意義を持たない抗体検査を、政府(厚労省)が何故1万人規模で行うのか、理解に苦しむ話である。

なお、専門家会議の座長は国立感染研究所の脇田隆字所長だが、専門家会議の記者会見ではいつも尾身茂氏が説明する。改正インフル特措法で設置された政府の対策本部(本部長・西村康稔経済再生担当相)の諮問会議の座長は尾身茂独立行政法人地域医療機能推進機構理事長である。尾身氏は都立、市立、厚生年金病院などの公的医療機関の独立法人化=本質は民営化に「大きく貢献」しているとみられる。

政府には、検察や弁護士出身は多数いるが、医師の資格を持った議員は立憲の阿部知子衆院議員ほかそれほどはいないようだ。本来は、専門家会議に国会議員代表として与野党双方の医師も参加し、議事録も作成、完全公開すべきだ。

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