ロンドンとニューヨークの商品取引所での金・原油価格の抑圧に限界ー金・原油相場は大上昇してドル価値は崩壊か

世界の金相場と原油相場は長年、英国のロンドン金塊市場(LBMA)と米国のニューヨーク商品取引所(COMEX)が牛耳ってきたが、ウクライナ事変以降、米国(米側陣営)が対露経済制裁の大きな柱のひとつとしてロシア産の金地金の輸入を禁止したため、その傾向はますます強くなり、「基軸通貨ドル」の見せかけの価値を維持するためドルの不倶戴天の天敵である金相場や原油相場の上昇は抑圧されてきた。このため、ロシアは中国などと協力してルーブルや人民元で金地金を購入できる新たな金地金取引市場、ひいては商品取引所の創設に取り組んでいるようだ。「基軸通貨ドル」の時代は終わるだろう。

「世界経済のネタ帳」(https://ecodb.net/)が公開している金相場のグラフを下に掲げてみる。上手は年次チャートであり、下図は月次チャートだ。

第二次世界大戦後は1944年のブレトン・ウッズ(米国ニューハンプシャー州)体制で世界の貿易決済が行われ、ドルは1トロイオンス( 31.103 4768グラム)=35ドルで金と交換できる金・ドル本位制が敷かれ、欧日諸国は米国に低価格・高性能の製品を輸出して得たドルを金と交換して、米国から徐々に金を引き出していった。その結果、ドルの価値を裏付けていた金は次第に米国から欧日諸国に引き出されて、米国は金の保有量が減少していった。

このため、1971年08月15日、当時のニクソン大統領は金とドルとの交換を禁止し、いわゆるニクソンショックが国際金融・為替市場を襲った。その結果として、為替相場制度はドル・金本位制から変動相場制に移った。ドルは金の裏付けを失い、金相場の上昇という形で価値を下落させていった。それでも、一定期間は金相場は2000年ころまで一定の水準を保っていたが、冷戦が終結して以降の2000年代に入り、金相場は上昇傾向をたどり、2009年09月15日のリーマン・ショックを経てから上昇速度は加速するようになる。

ただし、米欧諸国は基調としてQE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)政策を採るようにして金融・資本市場の安定に努め「基軸通貨ドル」の価値崩壊を抑えたことから、金相場の上昇はある程度抑制されるようになった。現在では、1トロイオンスは2000ドル以下で推移している。これは、2000ドル以下で推移しているというよりも、ドルの見せかけの価値がばれないように米側陣営の中央銀行の中央銀行である国際決済銀行(BIS)が金相場を2000ドル以下に抑圧する不正操作を行っていたためだ。

BISは昨年2021年、「バーゼル3」と呼ばれる金融改革の中で、信用取引(金相場が上昇傾向を見せてくると金の現物を借り受けて現物を売り、金相場が下がったところで現物の金を買い戻して現物を返済する、というのが基本)を使った金相場の抑圧政策を大幅に制限する策を打ち出したとされていたが、これは見せかけのようだった。

国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は自戒を込めて、昨日09月12日に投稿した「米英の金相場抑止とロシア」(https://tanakanews.com/220912gold.php、有料記事)と題する論考で、英国の権威ある金取引商社モカッタゴールドの幹部が、金相場の不正な抑圧を金融界にやらせてきたのはBIS自身だと暴露した。BISは、表向き金相場の抑圧をやめさせる「改革」を発表しつつ、裏では金融界にドルの覇権維持のための金相場の抑圧を傲然とやらせている。(Don’t forget the golden rule: whoever has the gold makes the rules) (Paper Gold Price Manipulation – Rigged To Failことを指摘している。この指摘は以前の論考でも紹介されていた。

このため、米川陣営の商品取引所では金商品の正しい取引は不可能になっている。そうした事情から、ウクライナ事変以降、世界第二の金地金生産大国であるロシアで金相場を需要と供給に応じて正しく示すことの出来る金取引市場を形成しているようだ。これには、世界第一の金生産国である中国も協力しているようだ。

ロシアが主導し、旧ソ連の5か国が加盟する国際組織「ユーラシア経済連合(EAEU)」は今年7月、モスクワの金地金市場を整備し、米英から独立したルーブル建ての金相場を新設する構想を出した。現在、ロシアの金融界との調整が行われている。ロシアは、ルーブルと金の関係性を強化して、ルーブルを金本位制の通貨にしていきたい。 (Eurasian Alliance Plans A Moscow World Standard To Destroy LBMA’s Monopoly In Precious Metals Pricing

上記の引用記事を見てみると、次のように寄稿している。

 

Eurasian Alliance Plans A Moscow World Standard To Destroy LBMA’s Monopoly In Precious Metals Pricing
Tyler Durden’s Photo
BY TYLER DURDEN
SUNDAY, SEP 04, 2022 – 08:00 PM
Submitted by Ronan Manly, BullionStar.com

Towards the end of July, news emerged in the Russian media that Moscow and a number of its Eurasian allies are now reviewing a proposal to create an entirely new trading and pricing infrastructure for the international precious metals in order to both destroy London and New York’s monopoly over global precious metals pricing, and to stabilize the Russian gold market.

ここで述べられるていることは、プーチン大統領率いるロシアがロンドンとニューヨークの金塊取引所と商品取引所を破壊するため、EAEUがモスクワに新たな金を含む商品取引所の創設を提言しているといことだ。取引に使われる通貨はルーブルだが、世界最大の金生産大国である中国も協力するだろうから、人民元でも取引ができるようになるだろう。ロシアのルーブルはロシア事変(ロシアのウクライナ侵攻)直後は急落したがその後は持ち直し堅調に推移している。ルーブルは国際為替市場で売買が可能ということだ。

つまり、世界の金投資家は米側陣営から相場が抑圧されて安い金地金を買い、モスクワに創設されるであろう商品取引所で金地金を高く売ることができる。それだけで、巨大な売買差益を稼ぐことが出来る。しかし、こういうことは長くは続かないからいずれ、米側陣営の金相場、そしてそれにつれて原油相場も適正価格になる、つまり、高騰することになる。需要分析しかしないいわゆる金融業界系エコノミストが、世界が不況になり原油相場や金相場が下落すると言ってもそれは当たらない。田中氏は上述の論考で次のように将来を展望しておられる。

最近、利上げやQTによる流動性資金の減少、インフレの影響を受け、米国の長期金利が3%から4%に向けて上がっている。米長期金利が4%を越えると、ジャンク債の金利が10%以上へと高騰し、資金難から金融危機が起きやすくなる。一つの山場は、これからの今年10-11月だろう。それを過ぎると年を越し、来年に次の金融危機の可能性がある。米国側のインフレはずっと続く。ウクライナ戦争もずっと続き、露中など非米側は資源類を米国側に高値でしか売らない状態が続き、現物(非米側)とバブル(米国側)の対決で現物側が仕返しをする「再下剋上」が続く。(最初の下剋上は1980年代以降の金相場の抑止、再下剋上はウクライナ開戦後の現物反騰と米バブル崩壊の現状) (This Author Foresees a Global Gold Standard) (Hedge Fund CIO: “Illiquidity Is The New Leverage And Flows Are More Important Than Fundamentals”

米長期金利の上昇はドル崩壊(信用低下)の象徴だ。ドルが崩壊するほど、石油ガス穀物など資源類が高騰する。今はまだ石油相場が金相場と同様、米英側から金融的に引き下げられている。だが今後、ドル崩壊が進行すると、石油や金の相場を引き下げるドルの金融技能も低下し、金も石油も高騰する。原油は1バレル80ドル台まで引き下げられたが、これから米国の金融技能が低下すると200ドルに向けて高騰する。歴史的に見て、金相場は原油相場の10-30倍だから、金相場も1オンス2000-5000ドルへと高騰する。これらは実のところ、資源類の高騰というよりもドル崩壊の具現化である。 ($50,000 gold is likely once the monetary system returns to a gold standard) (Is The Oil Market Really Broken

さらにサイト管理者(筆者)が付け加えれば、米国はドルベースの実額でみて、世界最大の財政赤字国、経常収支赤字国、体外純債務残高国である。これを「三つ子の赤字」問題という。対国内総生産(GDP)比ベースではそうではないが、実体経済も極めて不健全な姿に陥っていることに注意が必要だ。これらのことを踏まえると今秋以降、「基軸通貨ドル」の化けの皮が剥がれてくるという田中氏の主張も「さもありなん」と言えるだろう。今秋以降は要注意である。

なお、田中氏には「世界の警察官」という形で敷かれた米国一極覇権体制維持することは困難であり、米国は自国のことに専念すべきだという「隠れ多極主義派」が隠然とした主力勢力をなしているという主張がある(注:ただし、サイト管理者(筆者)の理解のレベル)。サイト管理者(筆者)の理解では、「隠れ多極主義派」にも二通りのタイプが存在するようだ。

その第一は、米国のバイデン政権を支配している本来の「新保守主義」(ネオ・コンサーバティブ、信教・思想の自由(注:自由と法令遵守・責任・結果の追求は本来、一体である)と家庭重視の価値観を大切にし、LGBTに対しては、旧約聖書創世記の教え「人がひとりでいるのは良くない」として「アダムのあばら骨を原型としてエバを創造した」ことや新約聖書のパウロの「ローマ人への手紙」が同性愛を戒めていることから、距離を置く)から著しく逸脱した好戦的なネオ・コンが支配する過激な「隠れ多極主義派」(米側陣営、特に欧州諸国を自滅させようとしている)だ。

第二は、米国にはもう「世界の警察官」という形で「一極覇権体制」を維持する能力はないことを素直に認める穏健な「隠れ多極主義派」が並立しているらしい。さしずめ、軍産複合体には属さず、2020年の郵便不正投票で敗退の煮え湯を飲まされたトランプ前大統領がその代表だろう。英国労働党から首相を務めたブレア善首相が「西洋支配の時代は終わる」と述べたことは第二の穏健な「隠れ多極主義派」が存在していることの証左だ。

「ビッグ・バン」とか称して異常な金融商品を開発して米側陣営の諸国民を不幸のどん底に落として入れているキリギリス的な「金融大国」の米側陣営と、原油や天然ガスなどの資源や価値の源泉になる金銀など貴金属(コンピューターやスマートフォンを製造するIT産業にも不可欠)、それに穀物などの「コモディティ大国」であり、人口大国で内需に厚みを形成・確保できて、教育・科学・技術の振興にも熱心なアリ的な非米側陣営のどちらが将来的に有望かといえば、それは後者の非米側陣営だろう。ただし、米国での今秋11月08日の中間選挙(下院前議席、上院三分の一議席改選)や2024年秋の大統領選挙で穏健な「隠れ多極主義派」勢力が同国を支配できるようになると、米側陣営と非米側陣営の共存は可能になる。

その最大のカギを握っているのが、韓国と日本だろう。韓国は既に裏では非米側陣営に属している。日本は韓国と欧州の中間に位置するが、法的根拠のない国葬を虚構された首相経験者の吉田茂以来の長年の対米隷属外交を国是としてきたことからすれば、恐らく安倍晋三の意向を受け継いだ岸田文雄政権が裏の動きを本格されなければ、本来の日本の使命を果たすことは難しい。今や、日本国民にはアレフ(旧オウム真理教)以下の評価しかない日本の世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会:略称統一教会)は朝日新聞によると、文化庁の「宗教法人解散命令」(「旧統一教会『解散命令対象に当たらない』文化庁が見解」、https://digital.asahi.com/articles/DA3S15414164.html?iref=pc_ss_date_article)だけは避けられるようだが、リベラル陣営の野党側ーそれも、反政府系の真正野党側ーは黙ってはいないだろう。

日本の世界平和統一家庭連合や国際勝共連合(国際「勝共=反共=滅共?」連合)は冷戦終了後の情勢認識の全くの甘さを徹底的に反省し、社会科学的な分析を通して朝鮮半島(韓半島)の統一に向けて世界的な人脈を駆使して政策提言し、実績を出さなければ、日本の良識ある国民から理解を得ることは難しい。




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