ゼレンスキーは果たして徹底抗戦派なのかーウクライナ側の敗北認め「ロシア敵視政策」強化に加担との説も

ゼレンスキー大統領が米・英・独・伊・カナダ・イスラエル・日本の議会(国会)などで「ロシア敵視・徹底抗戦」を叫び、米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)に軍事支援やウクライナ上空の「飛行禁止区域」の設定を求めている。「徹底抗戦」の意志を露わにした形だが、今回のウクライナ事変での戦闘は既に同大統領率いるウクライナ側の敗北が確定しており、同大統領は世界を米欧日陣営とBRICs(またはBRICS)+中東諸国陣営に分割するというプーチン大統領の大戦略に沿って動いているとの見方も出てきた。

プーチン大統領とゼレンスキー大統領との関係

ウクライナでのロシアとウクライナの戦闘状況・戦況の詳細は、ロシア国防省と米英国防省の情報戦争が行われているため、真相は不明だ。ただし、NHKは26日午前6時21分、「ロシア軍 マリウポリの一部掌握 市内全域支配へ部隊展開か」との見出しの報道記事をサイトに掲載している。見出しにそって内容を引用させていただくと次のようになる。

ウクライナに侵攻を続けるロシア軍は、東部の要衝マリウポリの一部を掌握し、市内全域の支配に向け部隊を展開しようとしているとみられます。(中略)

ロシア軍は、ウクライナ東部の要衝マリウポリで戦闘を続けていて、ウクライナの地元メディアは、マリウポリの市長がすでに市外に退避したと伝えたほか、アメリカのシンクタンク「戦争研究所」は「ロシア軍は24日、マリウポリ中心部のキリスト教の教会を占拠し、市の全域の掌握に向けて部隊を展開している」との分析を示しています。マリウポリは、ロシアが一方的に併合した南部クリミアと、親ロシア派の武装勢力が事実上支配する東部地域を結ぶ拠点としてロシアが重視していて、市内全域の掌握を目指しているとみられます(注意:2014年2月のマイダン暴力革命は、バイデン副首相とヌーランド国務次官補がウクライナの米大使館を根城に、ウクライナに脈づいている極右ネオ・ナチ勢力を利用することによって画策された暴力革命だったという事実には意図的に触れていない)。

一方、首都キエフ周辺の戦況についてアメリカやイギリスの国防当局は、ロシア軍の一部の部隊が後退していると指摘し、ウクライナ側の激しい抵抗でこう着している模様です。

こうした中、軍事侵攻から1か月が過ぎた25日、ロシア国防省は戦況分析を発表し「軍事作戦の第1段階の主要目的は達成された」と強調しました。そのうえで「ウクライナ軍の戦闘能力が大幅に低下したため、われわれは東部ドンバス地域の解放という主要な目標の達成に力を注ぐことができる」と主張し、親ロシア派の武装勢力が影響力を持つ地域を中心に軍事作戦が強化されるとの認識を示しました。(以下、略)

米英国防総省筋の発表とロシア国防省筋の発表は情報戦争だから、真贋を簡単に見極めることは困難だ。ただし、サイト管理者(筆者)の観点ではどうやら、軍事力に勝るロシア軍が優勢に戦っているようだ。ゼレンスキー大統領はNATO首脳会議で軍事兵器の支援を求め、ことあるごとに「ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定」を求めている。しかし、同大統領が強く求めていたウクライナのNATO加盟は諦めているし、NATOも強力な空軍を必要とする「ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定」には及び腰だ。軍事兵器の供与でお茶を濁している感がある。

ただし、軍事兵器の供与はウクライナでの戦闘を激化させるだけで、ロシア側が当初の目標を達成するまではウクライナから軍を撤退させるとは思われない。こうなると、ウクライナの国民(市民)や施設に重大な被害が及ぶことになり、人道に反する。再掲になるが、セレンスキー大統領は次のように語っている。

ゼレンスキー大統領は21日、軟化を示す次のような発言を行っている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220322/k10013544421000.html)。これは実際のところ。ロシアとウクライナの戦闘状況がウクライナ側に不利になっていることを示すものではないだろうか。

ゼレンスキー大統領「国民投票を実施して決定」

ウクライナのゼレンスキー大統領は21日、首都キエフでウクライナ公共放送などのインタビューに応じ、「どんな形式であれ、ロシアの大統領との会談が実現するまでは、停戦に向け彼らにどのような用意があるのか、真に理解することは難しい」と述べ、プーチン大統領との対話を実現させたうえで、交渉の妥協点を見いだしたい考えを示しました。

そのうえで、当面NATO加盟は難しいとの考えを改めて示したうえで、「われわれの安全保障について話す中で、憲法の改正やウクライナの法律の変更についても話し合うことになるだろう。どんな結果になろうとも、大統領だけで決定をすることはない。変更が歴史的に重要なものになる場合は、国民投票を実施して決めることになる」と述べ、停戦交渉での合意内容によっては国民投票が必要との考えを示しました。

ゼレンスキー大統領は、米国を盟主とするNATOが参戦してこないので、ホンネはプーチン大統領と会って「早期停戦合意」にこぎ着けたいのではないか。そうしないと、同大統領の大統領としての存続があやうくなる。こうした見方をさらに一歩進めたのが、国際ジャーナリストの田中宇(さとし)氏だ。田中氏は「プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー
」と題する記事で次のように述べている(https://tanakanews.com/220322ukraine.htm)。

ウクライナのゼレンスキー大統領が2週間ほど前から、米英独伊カナダイスラエルなど、ロシア敵視の欧米諸国の議会でビデオ演説し「ロシアとの戦争に参加し、対露経済制裁を強化してほしい。プーチンを許すな」と求めている。日本の国会でも3月23日に演説する。この展開に関して私が抱いている疑問は、ゼレンスキーが世界に対してロシアと戦争してくれ、経済制裁してくれと扇動しているのに、それによって脅威を受けているはずのロシアが、ゼレンスキーの通信手段を切断して封じ込めることもせず、世界にロシア敵視がばらまかれるのを黙認していることだ。ロシアはゼレンスキーのビデオ演説を妨害しようとしたが失敗したのか。そんなことはない。ロシアはウクライナの制空権を奪い、ゼレンスキーの居場所も知っており、ゼレンスキーと世界との通信手段を破壊できる。それをしないロシアは、ゼレンスキーがロシア敵視を世界にばらまくことを意図的に容認している。 (In Address to Congress, Zelensky Pleads for Help With War Against Russia

前回の記事に書いたように、すでにロシアは軍事的にウクライナの敵(主に極右民兵団)に対して勝利している。ゼレンスキーが世界に呼びかけても、ロシアの制空権を破って対露戦争を辞さずにウクライナに戦闘機を送り込んでくれる国はない。ゼレンスキーの演説を聞いた各国の議員たちは、国内の人気取りのため熱狂的に賛同する演技をするが、それだけだ。各国とも、やれる対露経済制裁はすでにやっているが、ロシアは持ちこたえ、むしろ欧米を逆制裁して困らせている。米欧はこれ以上ウクライナを助けられず、ゼレンスキーはすでに敗北が確定している。 (ウクライナで妄想し負けていく米欧)(中略)

ゼレンスキーは、クリミアとドンバスをウクライナに戻さない限りロシアと和解しないと言っており、これが今の対立点になっているが、これはいずれどちらかが折れることで解決できる。ウクライナがロシアの傀儡国として安定すれば、重要なセバストポリ露軍港があるクリミアをウクライナに戻すことも安保的に可能だ。ドンバスも戻せる。ドンバスがウクライナに戻る代わりにクリミアはロシア領のままにするという折衷案もありうる。領土問題は解決できる。 (Zelensky reveals compromise he won’t make) (ロシアは正義のためにウクライナに侵攻するかも(以下、略)

国会内でのゼレンスキー大統領テレビ演説

 

なお、26日付の田中氏の次の記事「ロシアが負けそうだと勘違いして自滅する米欧」(https://tanakanews.com/220326russia.htm)も参考にしてください。なお、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ系でロシア系のウクライナ人であり本来、反ユダヤで極右のネオ・ナチ勢力とは相容れない。ウクライナ語の特訓を受けて、映画ドラマ「国民の下僕」に主役として出演した。イスラエルがロシアとウクライナの停戦協議の仲介をした理由のひとつでもある。なお、イスラエルとロシアはイスラエルの建国でつながりを持っているとともに、ロシアがアサド政権を支援するシリア内戦問題でも、両国の間に暗黙の了解があるとされている。

米国が言っている「露軍はウクライナで苦戦して敗退寸前だ」という話は、日本のマスコミや権威筋も、米国発の話を鵜呑みにして喧伝している。この話が本当なら、ドイツなどがロシアと完全に縁を切ってガスを止められても、2-3か月以内にプーチン政権が崩壊して次のロシアの弱い政権が米英の傀儡になり、欧州へのガス輸出を戦争前より安値で再開してくれるかもしれない。しかし私が見るところ、露軍が苦戦して敗退寸前という話は、現実と正反対の大間違いである。現実のロシア軍は、ウクライナで大した被害も出さず、おおむね当初の予定通りにウクライナで極右勢力を排除しつつある。これまで何本かの記事で書いたとおりだ。 (ウクライナで妄想し負けていく米欧) (優勢になるロシア

ゼレンスキー大統領はロシアの意向に従いつつある。彼は先日まで「ドンバスとクリミアの分離独立は絶対に許さない」と言っていたが、その後「領土問題は柔軟に交渉できる(2地域の分離独立について交渉しても良い)」と態度を変えている。ロシア政府は「ウクライナで露軍が占領している地域の行政機構を改変する予定はない(戦争前のウクライナ政府側の行政機構をそのまま残す)」と言っている。ウクライナ政府は従来、政府機関のあちこちにロシア敵視の極右が入り込んでいた。ロシアの目標の一つは、極右をウクライナから排除することだ(注:もう一つの目標はウクライナのNATO加盟阻止=中立化=ネオ・ナチ勢力主導の軍事組織の解体)。今後、こっそり親露に転向したゼレンスキー傘下のウクライナ政府に任せても、ロシアが望んだ極右の排除をやってくれるとロシアが考えている。ロシアのウクライナ支配が間もなく大失敗するようには見えない。 (Ukraine would discuss Crimea, Donbass with Russia after security guarantees — president) (No plans to set up structure to reshape local authorities in Ukraine — Kremlin spokesman) (プーチンの策に沿って米欧でロシア敵視を煽るゼレンスキー

つまり、ゼレンスキー大統領はイーホル・コロモイスキー氏らオリガルヒやネオ・ナチ親衛隊の後ろ盾を失い、プーチン大統領の軍門に下ったとの見立てだ。こうなると、ロシア軍が一時的にキエフから離れていることも理解可能だし、ゼレンスキー大統領を打倒する必要もなくなる。ゼレンスキー大統領はウクライナをロシアから守った「英雄」としてノーベル平和賞を受賞するかもしれない。

東京新聞の「ロシア包囲網『かつてない結束』でも、見えた限界 各国が抱える事情と苦悩とは」と題する次の記事も参照の価値がある(https://www.tokyo-np.co.jp/article/167788)。

ロシアのウクライナ侵攻から1カ月というタイミングで開かれた三つの首脳会議では、対ロ包囲網を強める日米欧が「かつてない結束」(バイデン米大統領)をアピールした。しかし、ウクライナが求める戦車や戦闘機の提供やロシアからの全面的な燃料禁輸など強力な措置は打ち出せず、包囲網の限界も示した。(以下、略)

プーチン大統領の米国軍産複合体=Deep State=解体戦略

さて、田中氏の見立てによると、プーチン大統領がウクライナ事変(侵攻)を起こしたのは、詰まるところ世界の経済が、次のような経済情勢に差し掛かっているからだと見る。第一に、米国の連邦準備精度理事会(FRB)=中央銀行システムの頂点=がドルを擦りまくって、米国債や株式を購入しまくり、米国債価格や株式相場のバブルを引き起こした(量的金融緩和政策=QE(Quantitative Easing)=)が、コロナウイルスでサプライチェーンが寸断されていたところに、ロシア事変(侵攻)が起こり(注:バイデン大統領が挑発した可能性が高い)で極めて厳しい経済制裁を行ったことから、供給ショック型のコストプッシュ・インフレーションに直面し、消費者物価(とともに卸売物価)が暴騰し始めた。次の図はヤフー・ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052)による。

第二に、このため、FRBは隠れQEを行いながらも政策金利を引き上げ(0.25%)を引き上げるという矛盾した金融政策の展開を余儀なくされているが、いずれは、QEの終了を余儀なくされて政策金利を引き上げて行くから、FRBのコントロールできない10年物国債金利(現在、2.3%)など長期金利は急騰・暴騰し、バブル崩壊による金融破綻と経済破綻に見舞われる。つまり、少し長い目で見ると今後は米欧日諸国の経済破綻が本格化していくと捉えているからだ、というのである。

これに対して、ロシアは世界有数の資源大国だ。石油や天然ガスの大生産・輸出国であるだけでなく、現代社会の基幹産業であるIT産業に必要な貴金属資源も産出し、米欧日諸国にも輸出してきた。また現在、価格が高騰・冒頭している金の産出量も中国、オーストラリアについで世界第三位だ。今や、ドルという紙幣よりもコモディティ(資源・商品・実物資産)をたくさん保有している国が強い時代になってきている。

1971年のニクソン大統領(当時)による金とドルとの交換停止(禁止)=ニクソン・ショック=以降、金・ドル本位制というブレトンウッズ体制は破綻し、ドルを基軸通過とする変動相場制(第二次ブレトンウッズ体制)が始まったが、第二次ブレトンウッズ体制も2008年9月のリーマン・ショック以降、本格的にゆるぎ始め、今回のウクライナ事変(侵攻)で米欧日諸国は資源大国のロシアに最大規模の経済制裁を課したから、その反動としてコモディティの大不足に直面する。それは物価の高騰・冒頭とバブル崩壊という形で表れてくる。陰謀論の大家とやゆされるが、リーマン・ショックを的中させた副島隆彦氏も同じような見方をしており、2024年世界恐慌説を唱えている。

要するに、ドルという実物資産の裏付けのない紙幣は、保有しててもどうにもならなくなるということだ。大量のドル建て債権を保有していても凍結される恐れがあれば、反米・非米のどこの国だって保有したくない。これに代わって台頭してくるのは、コモディティを豊富に保有するBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)またはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)だ。こちらの諸国は人口が多く、弱肉強食の新自由主義政策を取らず、国民の取得格差をなくす努力をしていけば、潜在的な内需成長力は米欧日諸国より大きい。ただし、近代西欧キリスト教文明圏で確立した基本的人権思想は導入する必要がある。

田中氏は、米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と弱肉強食の新自由主義を信奉する米系多国籍企業)による世界支配に抗して、世界多極化の音頭を取るのが、ロシアと中国とみている。これに反米・非米的な中東諸国(親米のはずのアラブ首長国連邦=UAE=は国連総会での最初のロシア非難決議で棄権した:https://www.jiji.com/jc/v4?id=20220305com0001)、南米諸国が加われば、一大陣営をなす。ロシアは米欧日の経済制裁に対抗して、石油や天然ガス、IT産業などのための貴金属資源をルーブルで購入するように義務付けたが、田中氏はルーブル・金本位制がある程度の期間、登場する可能性も指摘している。金本位制度がどの程度機能するかについては、国際経済論を踏まえた現代貨幣理論(MMT)で、その位置づけを解明する必要があるが、当分は機能するだろう。

こうなると、ロシア敵視政策を採った米欧諸国は今後、時間の経過とともに重大な経済問題に直面せざるを得ない。例えば、石油・天然ガスを産出、輸出するサハリン1やサハリン2のプロジェクトから米国や日本の企業が撤退すれば、中国企業が取って代わるだろう。そうなれば、日本は大打撃を被る。岸田文雄自公政権は責任を取らされる。プーチン大統領は、「極悪戦争犯罪人」として世界中で喧伝されているが、田中氏の見立てが真相に近いとするならば、大戦略家・大策士と見ることも可能だ。ロシア国民が貧しくなるのをよそに、超有名なブランド物を着ているとか、大豪邸に住んでいると言って批判するのは、ものごとを一面から見ていない証拠だ。

いずれにしても、米国のアイセンハワー大統領が離任式の時に警告した軍産複合体による民主主義の歪曲・似非民主主義(「自由」の名目で世界各国に戦争を仕掛ける)の「世界宣教」を止めない限り、米欧日諸国は今後、厳しい経済情勢に直面していく公算が大きい。世界は「地球村」にふさわしい「理念」を必要としている。


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