米国金融界救済のためのQE再開は高水準の消費者物価上昇率を再加速させる(追記:クレディスイス破綻問題と「戦争研究所」の正体)

米国で2023年3月10日と12日にカリフォルニア州のシリコンバレー銀行(SVB)とニューヨークの仮想通貨専業のシグネチャー銀行(SNY)とが預金流出で破綻したことをきっかけに、全米の商業銀行が連鎖破綻をしかねない状況に陥ったため、バイデン大統領は両行の預金を全額保護することを発表したが、米国の連邦準備銀行はQT(Quantitative Tigtening=量的金融引き締め、中央銀行保有証券を売却して市場から資金を引き揚げること=)を止め、金融界救済のためQE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)を再開するようだ。しかし、QEはつまるところ、政府と中央銀行の持つ通貨発行権を乱用した金融・資本界の債券買い支えだ。取り敢えずは債券や株式価格の上昇をもたらすが、その資産効果や6%という高インフレ率での新規通貨発行の一部が実体経済に流れることで、過剰流動性を顕在化させ、高インフレ率を再加速させる。米国を中心とした金融・資本界の大波乱の始まりになるだろう。

QE再開はヘリコプター・マネーにつながる

東京新聞は03月14日に、「バイデン氏「預金は保護される」シリコンバレー銀行の破綻で演説」と題する次の記事を公開している(https://www.tokyo-np.co.jp/article/238018)。

バイデン米大統領は13日、シリコンバレー銀行(SVB)など中堅2行の経営破綻を受けて演説し、「国民は、銀行決済のシステムが安全だと自信を持っていい」と述べ、平静を呼びかけた。不安心理の拡大に歯止めをかけ、破綻の連鎖を防ぐ狙いがある。銀行に対する規制を強化する考えも示した。資産規模で全米16位のSVB(西部カリフォルニア州)の10日の破綻に続き、12日には29位のシグネチャー銀行(東部ニューヨーク州)が破綻。不安が拡大し預金が流出したとみられる。2008年のリーマン・ショック以来の大型破綻に、13日のニューヨーク株式市場では引き続き銀行株が売られ、動揺が続いている。

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米財務省などは預金を全額保護すると発表していたが、バイデン氏は演説であらためて「預金は保護され、預金者はいつでも手にできる」と国民に安心するよう呼びかけた。一方で「何が起きたのか、全容を明らかにしなければならない」と、両行が破綻した経緯と原因を調査する考えを表明。「銀行破綻を起きにくくするため、議会と金融機関の規制当局にルールを強化するよう求める」とした。

田中史観で有名な国際情勢解説者の田中宇氏によると(https://tanakanews.com/230315bank.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)バイデン大統領の演説の背景には、両行の破綻を受けて週明け12日には、ファーストリパブリック銀行、パックウェスト・バンコープ、ウェスタン・アライアンスなどの銀行群が連鎖破綻しそうだと懸念されて、これらの株価が暴落した。ムーディーズは米銀行界全体の格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたことがある。

このことを受けて03月12日、財務省と連邦準備制度理事会、連邦預金保険公社(FDIC)は、シリコンバレー銀行の全ての預金者を保護すると発表した。新たな資金繰り支援策として、金融機関を対象に米国債などを担保として最長1年の融資を提供する。本来、預金保険による救済額の上限は25万ドルだが、シリコンバレー銀行の預金者の大半の預金額は25万ドルを大幅に上回っている。これは、米国政府が銀行の連鎖破綻を恐れていることを伺わせる。

バイデン大統領は一応、法定上限を無視した銀行救済の財源として、全米の銀行が積み立てている預金者保護のための基金から徴収するとして、納税者の負担はないと弁明している(https://www.fnn.jp/articles/-/499144)。

アメリカで史上2番目の規模となる、シリコンバレー銀行の経営破綻を受けて、バイデン大統領は緊急会見を開き、「銀行システムは安全だ」と呼びかけた。アメリカ・バイデン大統領「国民は銀行システムが安全だと確信を持つことができる。預金は必要な時に引き出せる」。バイデン大統領は会見で、銀行預金の保護を強調したうえで、損失は、銀行が預金を保護するために積み立てている基金から埋め合わせるため、「納税者の負担はない」と重ねて訴えた。シリコンバレー銀行の総資産は、日本円でおよそ28兆円で、アメリカメディアによると、銀行の破綻としては史上2番目の規模となる。

しかし、ムーディーズが米銀行界全体の格付けを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたことからすれば、全米の銀行が預金保護のために積み立てている基金ではとても事態に対処できないだろう。こうしたことから、財務省と連邦準備制度理事会、その傘下にある連邦準備銀行に対して、QE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)の再開を求める圧力が強まりつつあり、米国の金融システムもこれに応えようとしている。田中氏は上記の公開記事序文で次のように指摘している。

米金融界では今回の銀行危機を利用して米連銀が銀行救済の名目でQEを再開し、その資金で銀行界の預金流出を穴埋めするだけでなく、利上げ停止とQE再開で債券価格を反騰させ、下がっている株価もテコ入れしてほしいという期待がふくらんでいる。今回の金融危機は、連銀がインフレ対策の名目でQEをやめてQTを進めていることから発生している。連銀が金融危機を止める名目で利上げを停止し、QTもやめてQE再開に転換すれば、銀行の危機は去り、債券や株の価格も反騰する。金融界は、何でもいいから理由をつけてQEを再開してもらいたい。

米国金融・資本業界としては、連坊準備制度理事会(FRB)が開始し、強化しようとしていたQT(Quantitative Tigtening=量的金融引き締め、中央銀行保有証券を売却して市場から資金を引き揚げること=)では、業界が立ち行かなくなることを理解している。実は田中氏によると(https://tanakanews.com/230312bank.php)、シリコンバレー銀行は破綻の2週間前にSVBの経営陣が保有していた自社株の一部を売って益出ししていたことが発覚している。経営者自ら経営破綻を察知していたものと見られる。

このため、米国の財務省と連邦準備制度理事会は預金者保護だけでなく、QTを止めてQEを再開し、金融機関を対象に連邦政府と中央銀行が持つ通貨発行権を悪用してドルをばらまく公算が大きく、同国の金融・資本業界もそのつもりで動いている。

だが米金融界では逆に、この危機を利用して米連銀(FRB)が銀行救済の名目でQE(造幣による債券買い支え)を再開し、その資金で銀行界の預金流出を穴埋めするだけでなく、利上げ停止とQE再開で債券価格を反騰させ、下がっている株価もテコ入れしてほしいという期待がふくらんでいる。そもそも今回の金融危機は、米連銀がインフレ対策の名目でQEをやめてQT(債券放出による資金回収)を進め、金融システムから資金を吸い上げていることから発生している。連銀が金融危機を止める名目で利上げを停止し、進めてきたQTもやめてQE再開に転換すれば、銀行の危機は去り、債券や株の価格も反騰する。金融界は、何でもいいから理由をつけてQEを再開してもらいたい。(EUでは、地球温暖化対策に巨額資金が必要なのでECBのQE再開でまかなうべきだという、トンデモにトンデモを重ねる話も出ている) (Schiff: Federal Reserve Launches “QE Extra Lite” To Bail Out Banks) (ECB Hikes 50bps As Expected, Issues Dovish Forward Guidance, Unveils Climate QE

【追記:03月17日】田中氏が本日公開された「リーマン以上の危機の瀬戸際」(https://tanakanews.com/230317bank.php、有料記事)によると、米国の中小銀行を中心とした金融機関を救うための緊急融資機構として03月15日に創設されたのはBTFP(銀行向け定期貸し事業)というものだが、実際の中身は銀行救済のための融資額に上限は設定されていないことから、「連銀が造幣した資金(注:連邦政府と中央銀行が持つ通貨発行権が根拠になっている)を銀行群に貸し出す制度」で要するに「ステルスQE」だという。なお、同論考ではクレディスイスが再び破綻の瀬戸際に立たされていると警告している。

クレディスイスはリーマン危機前に米国で投資銀行や証券化の事業を大々的に展開して世界最大級の銀行になったが、リーマン後は不調になって不祥事も発覚し「大きすぎて潰せない銀行」の筆頭格になっている。昨年の危機露呈後、延命しているがかなり脆弱で、今回のSVB発祥の新たな危機の影響を簡単に受けてしまっている。昨秋の繰り返し的に、スイス中銀が500億フランを「予防策」と称して注入したが、それでは足りないという指摘が出ている。クレディスイスが破綻すると、欧米両方の経済に大打撃を与える。それはリーマン倒産以上の衝撃になる。世界は、リーマン以上の危機の瀬戸際にある。 (“Too Big To Fail” Credit Suisse Domino Effect Far More Potent Than SVB) (巨大な金融危機になる

【追記:終わり、論を再開します】しかし、田中氏はQEについて「造幣による債券買い支え」とされている。要するに、連邦政府と中央銀行が持つ通貨発行権を悪用した新規発行通貨による債券の買い支えのシステムだ。しかし、新規の通貨発行による「財政出動」(QEも一種の財政出動)は、ケインズ経済学の泰斗と言われるジェームズ・トービンが「ニュー・エコノミクス」を掲げて華々しく登場してきたケネディ大統領(当時)に対して語ったように、消費者物価上昇率(インフレ率)が2%(緩やかに経済成長が続き、実質賃金も上昇するインフレ率の水準)までという条件付きだ。れいわ新選組の山本太郎代表もよく言っていた。

しかし、米国労働省発表の今年2月の消費者物価上昇率は前年比6%と表面的には下がってきているものの、依然として高水準だ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230314/k10014008391000.html)。

アメリカの2月の消費者物価指数は、前の年の同じ月と比べて6.0%の上昇となりました。アメリカで相次いだ銀行の破綻を受けて、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が、物価の動向と利上げによる金融システムへの影響を踏まえ、どういった政策判断を示すかが焦点となります。

鈍化してきたとはいえ、米国の消費者物価上昇率(インフレ率)は依然として極めて高い。こうした状況の下で一種の財政出動であるQEを行えば、第一は債券価格や株価の上昇による資産効果で需要が拡大すること、第二に、連邦政府と中央銀行が発行した新規通貨の一部が実体経済に流れることで過剰流動性が蓄積されることで、需要面からも高インフレ率を再加速させることになる。

本サイトでは、米国を始めとするG7諸国(米側陣営)のインフレ率上昇の原因について、コロナ禍に伴う流通網の混乱とウクライナ戦争による資源・エネルギー価格の上昇によるコストプッシュインフレと指摘していた。これにインフレ率6%の下で新規通貨発行を行えば、需要面からもインフレ率加速の重大な要因になる。要するに、「ヘリコプター・マネー」になってしまうのである。米国の財務省と中央銀行システム(連邦準備制度理事会と連邦準備銀行)がQEを再開すれば一時的には見せかけの「景気回復」を演出できるが、いずれ、インフレ率が加速して、QEとQTのダッチロールを繰り返すことになる。

そうなれば、米国を中心としたG7諸国の金融・資本・為替市場は大きな混乱に見舞われる。なお、インフレ率の再加速は実質賃金の大幅な低下をもたらし、今年2023年は不況入りとの見方が強い米国経済の不況をさらに深刻化させる。今回のシリコンバレー銀行など二行が経営破綻した際、金が「国際基軸通貨」とされてきたドルよりも安全な資産として買われたことは象徴的だ。田中氏も次のように疑問を呈しておられる。

米連銀は昨年春からのQTによって6000億ドルあまりを金融システムから吸い上げた。連銀が今後、銀行連鎖破綻回避の名目でQTをやめてQEを再開し、何千億ドルかを金融システムに再注入すると、景気が良いような感じが演出される。バイデンの不人気も解消できるかもしれない。米国の預金総額は4兆ドルであり、かりにそのすべてを連銀がQE資金で穴埋めしたとしても、8.5兆ドルの連銀の資産総額が12兆あまりに増えるだけで、ドル崩壊を引き起こさずに肥大化できるかもしれない。 ( Factors Affecting Reserve Balances, March 9, 2023) (債券金融システムの終わり

米国の覇権は一直線に潰れていかない。米連銀が銀行連鎖破綻回避の名目でQTや利上げをやめてQEと利下げを再開するのかどうか。今は景気悪化で沈静化しているように見えるインフレが再燃することはないのか(今のインフレは景気過熱が原因でないと私は考えてきたが、どうなのか)。これらが今後の注目点になる。ドル崩壊への準備をするBRICS) (行き詰まるFRBのQT

中露を中心としたBRICSや上海協力機構、サウジアラビアを銘酒とする中東産油国、ホンネのASEAN諸国など非米側陣営ではもはやドルを基軸通貨とみなしてはいない。G7諸国を中心とした政治・経済システム(欧米文明)はやはり、英国のブレア元首相がほのめかすように「黄昏(たそがれ)」の時代に突入している。

ドネツク州の要衝バフムトはロシア側が有利に戦闘を進めている模様(ウクライナの制空権を掌握するロシアが優勢なのは当然のこと)

読売新聞社は16日、「要衝バフムト北部の金属工場、ロシア側が制圧主張…ゼレンスキー氏は徹底抗戦の強調」と題する記事を公開した(https://www.yomiuri.co.jp/world/20230315-OYT1T50388/)。ウクライナ戦争は当初、ウクライナ側が優勢と伝えられてきたがその後、次第に「ウクライナ、徹底抗戦」というような内容に変わってきた。なお、来週は3期目の習近平中国国家主席とロシアのプーチン大統領がロシア国内(モスクワの可能性)で首脳会談を行うとの報道もなされている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230314/k10014007391000.html

ロシアのウクライナ侵略に戦闘員を派遣している露民間軍事会社「ワグネル」の創設者エフゲニー・プリゴジン氏は14日、SNSで、東部ドネツク州の要衝バフムト北部にある金属加工工場の一部を「制圧した」と主張した。ウクライナ側は認めておらず、真偽は不明だが、戦果をアピールする狙いとみられる。プリゴジン氏は工場について、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が昨年12月にバフムトを訪問した際、兵士らを表彰した場所だと説明し、工場内を撮影した画像も投稿した。


ゼレンスキー氏は14日のビデオ演説で、バフムトに関し「(部隊を)強化し、占領者に最大限の打撃を与えるとの明確な立場で一致している」と述べ、徹底抗戦を続ける考えを強調した。

また、NHKは次のように伝えている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230316/k10014001711000.html)。

ウクライナのゼレンスキー大統領は14日、安全保障を担う政権幹部を集めた会議を開き、その後「すべての司令官から明確な立場が示された。現在の方向性を強化し、占領者に可能な限り最大の打撃を与える」と述べ、ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の拠点バフムトを防衛し、徹底抗戦する考えを改めて強調しました。

ただ、アメリカの有力紙ワシントン・ポストはウクライナ軍は実戦経験が豊富な多くの兵士が死傷し、大規模な反転攻勢が実行できるか、ウクライナ側から疑問視する声も出ていると伝えました。

ウクライナ戦争についての記事は「大本営発表」的な内容が多く、軽信できないが、上記二本の記事からすると、ドネツク州の要衝バフムトはロシア側が有利に戦闘を進めている模様だ。

なお、NHKがよく引用する「戦争研究所」は好戦的なネオコンを主導しているビクトリア・ヌーランド国務次官傘下の「シンクタンク(研究機関)」だ。ヌーランド国務次官は、プリンケン国務長官に次ぐナンバー2の役職。しかし、クリントン政権時代には国務次官補として2014年02月のマイダン暴力クーデターを主導し、合法的なヤヌコビッチ大統領をロシアに追放してウクライナに親米傀儡政権を樹立、ウクライナ戦争の直接のきっかけを作ったことで知られている。

ネオコンは1970年代に台頭したネオ・コンサーバティブ(新保守主義)の略だが、起源はもっと古く1940年にメキシコでスターリンに暗殺されたトロツキーの思想を受け継いだ左翼知識人集団にまで遡るようである。ネオコンが初めからロシアを敵視している理由も分かる。ウクライナ優勢、ロシア敗北濃厚の「戦況分析」を垂れ流し続けており、もともと情報内容が偏っている(下斗米伸夫氏による。https://www.youtube.com/watch?v=DwG4bIiS03Q&t=3041s)。もともと偏りのある戦争研究所の戦況分析を伝えた報道記事は、軽信してはいけない類(たぐい)の「偏向記事」と見てよいだろう。

サウジアラビアとイランが中国を仲介役に頼んで外交関係を正常化

中国がサウジアラビアとイランを仲介して、外交関係を正常化させた。次のヤフー・ニュースを参照いただきたい(https://news.yahoo.co.jp/articles/3a3d49b08cd0f3724c60aa1b6bc5279c84dd6bc5)。

中東において、中国の影響力がますます拡大するのは必至だ──。サウジアラビア、イランは3月10日、中国の仲介によって外交関係を回復させた。習近平国家主席によるサウジアラビア、イラン両国の隣国友好関係を発展させようとする積極的な呼びかけに応じ、サウジアラビアの国務大臣、イラン最高国家安全委員会秘書らが北京を訪問、3月6日から10日にかけて会談を行った。

その成果として、サウジアラビアとイランは、双方の外交関係を回復させ、2か月以内に双方が大使館、代表機関を再開させ、相互に大使を派遣、双方の関係強化について討議することなどが決まった。3か国は、地域の平和と安全を強化するよう自ら進んで尽力すると表明している。

米英二国による世界覇権体制は音を立てて崩壊しつつある(欧米文明の終焉)。米英両国がキリスト教国家としての使命を果たせなかったためだ。


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