イスラム同胞団パレスチナ支部のハマスがイスラエルを攻撃して人質を大量に捕獲して以来、イスラエル軍(ISD)の戦争犯罪を思わせるハマス拠点のガザ地区猛攻が続き、ガザ難民は南ガザの南端ラファに100万人から120万人が避難を余儀なくされている。しかし、イスラエル軍はラファもハマスの拠点になっているとして、攻撃の手を緩めていない。ラファが攻撃を受けているうえ、空間的にも狭いガザにこれほどの大量のパレスチナ難民が居住することは不可能である。ガザ難民の死亡者は3万5千人とあまり変わっていないことから、ラファに移動したパレスチナ難民はどこかに移動していると思われる。国際情勢解説者の田中宇氏は取り敢えず、イスラエルとエジプトの「協力」でエジプトのシナイ半島にガザ難民が80万人以上移動したと見ている。
ラファから100万人移動したガザ難民、移動先は取り敢えずエジプト・シナイ半島か
米国CNNの日本語版は「ガザ南端ラファからの避難者、3週間で100万人 国連発表」と題する報道(https://www.cnn.co.jp/world/35219415.html)で次のように伝えている。
(CNN) 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は28日までに、パレスチナ自治区ガザ地区最南部のラファから過去3週間で約100万人が避難したと発表した。UNRWAはX(旧ツイッター)への投稿で、安全な避難先はなく、絶え間ない爆撃と食料や水の不足、山積みのごみ、劣悪な生活環境に耐えながらの避難だったと指摘。「来る日も来る日も、支援と保護はほぼ不可能になっている」と訴えた。
イスラエル軍がラファへの空爆と地上作戦を強化する前の時点で、同市にはガザ地区のほかの地域から100万人以上の避難民が集まっていた。イスラエル軍はラファの一部地区に退避命令を出した。イスラエルのラファ攻撃に対しては国際社会の批判が集中し、国際司法裁判所(ICJ)が攻撃停止命令を出していた。
一方、NHKは「イスラエル国防相 “ラファに人質” 軍事作戦の継続を主張」と題して、次のように報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240531/k10014466421000.html)。
イスラエル軍がガザ地区南部ラファでの軍事作戦を拡大し、エジプトとの境界地帯を制圧する中、ガラント国防相はアメリカのオースティン国防長官と電話会談し、ラファに人質がいる確証があるとして、軍事作戦の継続を主張しました。一方、国連機関は南部などで飢餓が急速に進んでいるとして支援物資のさらなる搬入を訴えました。イスラエル軍は29日、ガザ地区南部ラファでの軍事作戦を拡大し、全長およそ14キロにわたるエジプトとの境界地帯、「フィラデルフィア回廊」を制圧したと発表しました。イスラエルはこれまでこの境界地帯が、エジプト側からガザ地区に武器などを密輸するルートになっていたと主張していて、この一帯で発見したおよそ20の地下トンネルを調査して、(注:完全に)破壊していく方針だとしています。(中略)
一方、ガザ地区の保健当局は30日、過去24時間で53人が死亡し、これまでの死者は3万6224人にのぼると発表しました。
これらの報道が正しいとすれば、①イスラエルのラファ攻撃は今後も続く➁ラファでのガザ難民はどんどん増え続ける状況にはなっていない③ラファに「避難しているガザ難民」のうち、100万人程度はラファからさらに避難しているが、その避難先は明らかにされていない−などのことが分かる。ラファからガザ北部方面に避難しようとしても、イスラエルの徹底破壊作戦で廃墟と化しているから、避難先としては選択できない。
国際司法裁判所(ICJ)は南アフリカが昨年12月、ICJに対してイスラエルを「集団殺害(大虐殺)」の疑いで提訴したが、今年の1月26日と先月の5月5月24日の2回にわたってイスラエルに対し、ガザ地区での軍事作戦を停止するなどの暫定的な措置を命じた。これに対してイスラエルは、「自国の領土と国民を守る(注:集団殺害と人質の拉致から国民を守る)権利に基づき、道徳的価値観に沿って、国際人道法を含む国際法に従って行動している」としたうえで、「ラファでパレスチナの民間人に物理的破壊をもたらす可能性のある軍事行動は行っておらず、今後も行うつもりはない」と述べた(https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/05/c83bee0d829c4dca.html)。
イスラエルがガザのパレスチナ難民に対して大量殺戮(逆アウシュビッツ)を行ってきたことはほとんど確実だが、ラファに避難してきたガザ難民がCNNの報道のように、これまたラファ以外の地に大量避難していることを考慮すると、「ラファでパレスチナの民間人に物理的破壊をもたらす可能性のある軍事行動は行っておらず、今後も行うつもりはない」というイスラエルの声明は必ずしも嘘であるとは言い切れない。
これに関して、国際情勢解説者の田中氏は5月26日に公開した「ガザ市民の行方」と題する解説記事(https://tanakanews.com/240526gaza.htm、無料記事)で、イスラエルがICJに対して、「ラファにいた避難民の大半がすでに他の場所に移ったことは、イスラエル当局も指摘している。5月24日、国連の国際司法裁判所(ICJ)からラファ攻撃停止を命じられたイスラエルは即座に拒否したが、拒否する際に言った理由の一つが「ラファに避難した市民の多くがすでに他の場所に逃げ出し、ラファに残っている市民が少ないので、市民の犠牲が少ない。だから攻撃を続けても問題ない」というものだった。イスラエル当局も、避難民がラファからどこに移ったのかは言っていない。(Israel unlikely to heed ICJ on Rafah halt, prepares for diplomatic fallout)」と述べている。
イスラエル側のICJに対する反論は、CNNの報道とも合致する。それでは、ラファに避難したガザ難民はどこに行ったのか、また、ラファに残っているガザ難民は今後、どうするのか。これについて、田中氏は次のように分析・展望している。
避難民はラファからどこに行ったのか。私は、こっそりエジプトに越境したのでないかと勘ぐっている。「こっそり」と言っても、イスラエルもエジプトも、当局は、避難民の移動を事前に協議してお膳立てし、80万人のガザ市民が当局ぐるみで隠然と越境したのでないか。ラファの越境検問所は閉まったままだ。だが、イスラエルとエジプトがその気になれば、検問所以外の国境線のどこかを通行可能にして、ガザ市民をエジプトに流出させられる。イスラエルは、ガザ市民を全員エジプトに追い出してガザとパレスチナを消滅させることが目標だから、国境線に穴を開けてエジプト流出を誘発しても不思議でない。(Cementing its military footprint, Israel is transforming Gaza’s geography)
また、今月始めのラファ侵攻開始後、国境検問所は、イスラエル(米傭兵会社に下請けしたとの指摘あり)とエジプト民兵団の共同管理になっており、この不透明な管理体制下で、検問所が通行できるようになっている可能性もある。UNRWA(注:国際連合パレスチナ難民救済事業機関)によると、IDFラファ侵攻開始直後の5月12日の時点で、8万人がラファからエジプトに越境した。その後も越境者が増え続けていると考えるのが自然だ。(Egypt Building A Militia Force To Handle Rafah Refugee Influx)
ラファはガザとエジプトにまたがった町で、検問所のエジプト側にも市街地がある。エジプト側のラファの郊外(al-Arjaa)では、流入したガザ市民を収容する住宅街・難民キャンプが建設されている。建設を手掛けているのは、この地域(シナイ半島)に昔から住んでいたベドウィン系の諸部族の連合体を率いる民兵団(イスラム主義武装勢力)の指導者で実業家のイブラヒム・オルガニ(Ibrahim al-Organi)で、エジプトのシシ大統領の賛同を得て、新たにできる都市を「シシ・シティ」と命名して建設計画を進めている。
(Egyptian militia leader Organi unveils plans for ‘Sisi City’ at Israel border)エジプト(や他のアラブ諸国、国際社会)は、パレスチナ国家の建設を「譲れない目標」として(建前的に)掲げているので、エジプトに越境してきたガザ市民は「いずれガザに戻る難民」だ。だが、イスラエルが賛同して支援しない限りパレスチナ国家は存在できない。イスラエルはパレスチナ国家を否定し続けるだろうから、いったんエジプトに流入した難民は二度とガザに戻れない。ガザ市民の多くはハマス(ムスリム同胞団)の支持者だ。200万人のガザ市民が全員エジプトに来てしまうと、エジプトの最大政党(非合法野党)で軍事政権が力で封じ込めているムスリム同胞団が強化され、同胞団が軍から政権を奪う「アラブの春」が再燃する。(As it expands operations, Israel weighs Rafah options, looks to Egypt)シシ政権はそれを避けたいが、ガザがこんなに不可逆的に破壊されてしまうと、避難民を受け入れないわけにいかない。シシは、米イスラエルと協議し、ガザに隣接するシナイ半島の地域限定策として、地元の社会を牛耳るイスラム主義勢力(ハマスと親密)に事実上の自治を与え、彼らの下に避難してきたガザ市民が入る策を採っているようだ。(‘Welcome to City of Sisi’: Egypt’s Rafah residents claim new city is named after president)
ハマスはムスリム同胞団パレスチナ支部であるが、1928年にエジプトで成立したムスリム同胞団は王政を否定するイスラム教徒からなり、軍事組織はもちろん統治機構、経済支援組織、外交部門を有しており、エジプトを含む中東に広範な支持者(イスラム教徒)を有している。戦後、イスラム教徒(特に、主流派のスンニ派)は盟主のサウジアラビアを中心に、米英領国に支配されていたが、両国が中東諸国をいつまでも貧富の格差の大きい「発展途上国(=発展不能国)」に抑えていたことや、2022年2月のウクライナ戦争以降、米国を影で支配する軍産複合体ないしディープステートに限りが見え(注:帝国の論理から資本の論理に従って多極化を進めていく隠れ多極主義に転換した公算が大きい)、インチキな地球温暖化やコロナ対策、ウクライナ戦争支援を強いられる欧州諸国など米側陣営は衰退している。並行して、欧州諸国ではマスメディアから「極右政権」と言われる民衆政権が樹立されるか、こうした政治勢力が台頭している。その一方で、非米側陣営が興隆してきたため、イスラエルもいつまでも米英両国に相互依存するわけには行かなくなった。
このため、イスラエルも非米側陣営にシフトしており、英国がオスマン・トルコ、ユダヤ系シオニスト、イスラム諸国を三者をだましたことの一環としてぶちあげたパレスチナ国家樹立という実現性のない構想をあきらめさせ、イスラム諸国と関係改善を図り、自国の安定性と安全性を図るために起こしたのが、今回のハマスを利用したガザ(並びにヨルダン川東部)消滅作戦と思われる。
イスラエルと米国、ハマスの関係は単純ではない。イスラエルはハマスをパレスチナ国家構想を永遠に消滅させるために、ハマスを背後から支援した可能性がある。
ラファのエジプト側に「シシ・シティ」を作る計画を主導するオルガニは、シナイ半島の諸部族を統合する民兵団(ISカイダ系=注:Isramic Stateとアルカイダの造語と思われるが、要するにイスラム過激派=のイスラム主義武装組織)の頭目だ。彼らはハマスと親密、というかハマスの一部であると考えられる。(ムスリム同胞団が武装するとISカイダ系になる。ハマスはムスリム同胞団であり、すでに武装しているから、ISカイダ系である。ISもアルカイダも、米諜報界から支援されることが多いが、米国側からより強く支援されているのがISだ。ハマスは、イスラエルから支援されている)(Rafah op focused on transferring control of crossing from Hamas to private US firm)
建前や常識で考えると「イスラエルは、敵であるハマスがシナイ半島を乗っ取って避難してくるガザ市民を傘下に入れる策を容認するはずがない」となるが、実のところハマスはイスラエルにとって「敵として振る舞う道具」だ。イスラエルの目標はパレスチナの消滅であり、敵としてハマスを使って目標を実現している。ハマスが、西岸とガザから追い出されたパレスチナ人たちを引き連れてエジプトやヨルダンの政権を乗っ取ることは、むしろイスラエルの望むところだ。替わりに、西岸とガザは完全にイスラエルのものになり、イスラエルの独立戦争と、パレスチナ人の祖国喪失(ナクバ)が80年かけて完結する。(Israel sends Shin Bet delegation to Egypt as Netanyahu, Gallant clash)
イランが4月14日、初めてイスラエルを攻撃したが、これは予告攻撃であり、イスラエルをできるだけ害することのないように行っている。これはイスラム諸国が内心、パレスチナ国家構想を諦め、イスラエルとの安定的な経済、外交関係を有したいと思っている証拠だろう。イランのライシ大統領は5月19日、悪天候のため視界が悪くなり専用ヘリコプターが墜落、同乗していたアブドラヒアン外相らが死亡したが、「イラン軍は29日、同国のライシ大統領らが搭乗したヘリコプターの墜落事故について『破壊工作の証拠はなかった』とする報告書を発表した」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR30DOM0Q4A530C2000000/)。単なる事故であった可能性が高いが、次期大統領のもとでもイスラエルの敵国とされてきたイランの対イスラエル関係改善外交政策は継承されるだろう。
なお、米国でもイスラエルのガザ攻撃に反発、反対の声が強まっている。例えば、英国のBBCニュースは4月30日、「米コロンビア大に警察突入、ガザ戦争抗議で建物占拠の学生ら排除 逮捕者も」と題する報道を行った(https://www.bbc.com/japanese/articles/cn0w10wzdx9o)。
米ニューヨーク市警は4月30日夜、パレスチナ自治区ガザ地区での戦争に抗議する学生らが占拠するコロンビア大学の建物に突入し、抗議者を排除した。多くの逮捕者が出たもよう。警官数百人による突入を捉えた劇的な映像には、警官がはしごを上ってハミルトン・ホールに入り、学生を排除する様子が映っている。大学側は先に、学生側に対し、占拠している建物から退去しなければ停学処分を受けることになると述べていた。
抗議者たちは大学側に「ジェノサイド(集団虐殺)から資金を引き揚げ」るよう要求。武器製造企業や、イスラエルによるガザ攻撃を支援するその他の産業に、大学基金を投資し、運用するのをやめるよう訴えている。
コロンビア大学のように、イスラエルに対するガザ難民虐殺抗議を行う大学など米国の市民・国民は急増しており、民主党のバイデン現大統領に対する今週の2024大統領選での支持がかなり減ってきているようだ(https://www.youtube.com/watch?v=ghnohXaBcTM(動画の半ば)。なお、孫崎享氏からはウクライナ戦争の現状=軍人やその予備軍の国外脱出や弾薬不足がますます深刻化しているほか、ロシアの戦闘機やミサイルを迎撃できなくなっている。米議会がウクライナ支援を決議したが、その決定的な効果は期待できない=やプーチン大統領の第一首相ベロウソフ氏=65歳のインテリで、プーチン大統領の後継者として予想=の国防省への起用などについても興味深い解説がなされている。
余談だが、米議会が承認したウクライナへの軍事支援は役に立っていないようだ。CNNは「米供与の主力戦車、『ロシアに標的を差し出しているようなもの』 ウクライナ兵証言」と題する記事を公開している(https://www.cnn.co.jp/world/35219478.html)。
米国からウクライナに供与された主力戦車「M1エイブラムス」の乗員らはCNNに対し、この戦車の一連の弱点や欠陥について語った。乗員らは絶えず変化する戦争の最前線での有用性に疑問を投げかけている。同戦車は、バイデン米大統領が米国の「ウクライナに対する永続的で揺るぎない関与」の証しとして供与を発表したものだ。(中略)
ウクライナの前線の多くは現在、自爆攻撃ドローンに圧倒されている。小型で精密な装置で、群れを成して歩兵を襲撃し、戦車に重大な損害を与えることもできる。兵士がゲーム用のゴーグルを装着して操縦する、いわゆる一人称視点(FPV)ドローンは戦争の性質を変えた。装甲車両は動きが制限され、新たな脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。ウクライナの乗員らは、ロシアが2月に制圧したアウジーイウカ周辺での激戦でエイブラムス戦車の限界を身をもって学んだ。装甲が貫通し、操縦士が片足を失ったのだ。
一方で戦車は技術的な問題も抱えているようだ。乗員によると、CNNが目撃したエイブラムス戦車はポーランドから到着したばかりにもかかわらず、CNNの訪問中、エンジンのトラブルでほとんど動かなかった。さらに雨や霧の中では結露で車内の電子機器が壊れることもあるという。
ドローンの性能が戦闘前線の勝敗を分けているようだ。ドローン生産で世界NO1の企業はDJIだが、DJIは中国企業であり、軍事兵器としてはロシアと取引があると思われる。プーチン大統領は大統領就任後、初の外遊先として中国を訪問、習近平主席と公式・非公式の会談を行い、政治的・軍事的関係を深めるとともに、経済・技術面での協力関係を深化させることも約束してきた。先の孫崎氏の調べでも、ウクライナ軍のロシア軍のミサイルやドローンの迎撃能力は確実に低下している。
逆に、ロシアのキンジャールを含む対ウクライナ攻撃ミサイルや無人機(ドローン)は大幅に増えている。ジャーナリスト魂が欠落した米側陣営のマス・メディアは、バイデン大統領の責任を問わせないために、ウクライナ戦争はロシアの勝ちで決まっていることを伝えようとはしない。特に、外信部が米国の戦争研究所や有名所の通信社、新聞社の翻訳に頼っている日本のマス・メディアは、冷戦集結時に米国のブッシュ大統領やベーカー国務長官が北大西洋条約機構(NATO)の東方不拡大を約束したことを含め、2014年2月のマイダン暴力クーデターやロシア系住民が多い頭部ドンバス地方の大弾圧、翌2015年2月の頭部ドンバス地方に高度の自治権を認めるミンスク合意Ⅱの不履行などを伝えないばかりか、戦局の根本には触れずにウクライナ軍の武勇伝しか伝えない。
ウクライナ側のウクライナ戦争への対処法としては、直ちに敗北を認め、ゼレンスキー大統領が辞任するとともに、終戦処理(配線処理)を適切に行うほうが、ウクライナおよび人口4千万人のうち、1千万人が海外脱出を余儀なくされているウクライナ国民には最良の選択になる。NATOは解体し、冷戦終了時のゴルバチョフ大統領が遺言として残した「欧州共通の家」構想を次元を高めて消化することが今後の大きな将来につながる。
話をラファからも逃げつつあるガザ難民に戻す。ラファからの避難先について思案に暮れているようなら、ラファに逃げ込んだガザ難民をエジプトに脱出させたほうがはるかに安全だ。それに、右派のリクルード出身でシオニスト系ユダヤ人(イスラエルの領土拡張と国家としての独立や安定性、アラブ諸国との共存共栄策の確保を最優先)と思われるネタニヤフ首相が、ハマスを血祭りにあげる対パレスチナ(ガザ)戦争を強力に推進しているのも、英国がぶちあげた「パレスチナ国家構想」を抹殺するためということも考慮する必要がある。
田中氏は5月29日に「英ユダヤ3重暗闘としてのパレスチナ、無料記事=https://tanakanews.com/240529israel.htm=」という論考を公開している。イスラエル・パレスチナ問題を中心にした重要資料だが、筆者が拝読する限りでは今回のイスラエル・ハマス戦闘は、イスラエルにおける、一極覇権体制の維持をしてきた英国の影響を受けたと見られるシオニスト系ユダ人と国際資本家系ユダヤ人(ユダヤ人ネットワークの維持強化を優先)の対立・構想の妥協の産物のように思われる。次の引用文が参考になるかも知れない。こうした分析記事は、ウクライナ戦争で米側陣営の衰退が明確になった反面、非米側陣営が、①資源・エネルギー大国である➁人口大国のため、経済発展・成長による貧富の格差を是正すれば、内需が旺盛になる③中露を中心として非米側陣営での電子マネーを利用した国際決済システムを構築している−ことなどによる。
イスラエルが目論んだ安定化策を破壊したのは、米国からイスラエルに移住(帰還)してくる若者の中にいた、西岸やガザを併合すべきだと主張しつつ、入植地を建設して事実上の併合を進めていく過激な入植者たちだった。彼らは、パレスチナ国家を否定する政党リクードを作り、イスラエルのエリート層だった労働党側(従来のシオニスト)をしのぐ勢いを持つようになった。リクード(入植者)は、親イスラエルのふりをして過激にやって潰す反イスラエルの傾向を持ち、資本家の代理勢力(ニセのシオニスト)だと疑われる。労働党は、リクードに対抗して、西岸とガザにPLOのアラファトがパレスチナ国家を作ることを認める代わりに、米国がイスラエルとアラブ諸国を仲裁して和解させ、イスラエル周辺を安定させる、オスロ合意につながる策を打ち出した。これは、中東を米国の覇権下で安定化する米覇権維持策でもあり、シオニストと米英覇権派の合作だった。(世界を揺るがすイスラエル入植者)
西岸とガザは、経済やインフラがイスラエルの傘下にあり、パレスチナ国家は、イスラエルに支援されないと存在できない。シオニストはオスロ合意によって、パレスチナ国家を認めて面倒見てやる代わりに、イスラエルが米政界を牛耳り続ける暗黙の権利と、国際社会のエリート国家群の一つになる道を、米国からもらう話になっていた。
オスロ合意の策は1994年から具現化したが、合意を推進したイスラエル首相のラビンが翌年に暗殺された。ラビン暗殺は労働党の「終わりの始まり」となり、この後イスラエルは過激なリクードが優勢になり、与党になった。当時から今までリクードを率いているのがネタニヤフだ。労働党はイスラエルを国際社会の尊敬される一員にしたがったが、リクードは国際社会を信用せず、米国を牛耳ることがイスラエルの安全の全てだと思っている。(「国際社会」は英国が作った体制で、本質的に偽善なものだ)(西岸を併合するイスラエル)リクード系はもともと米国からきた勢力であり、米国の軍産複合体や諜報界を牛耳れる。彼らは、米国とイスラエルが、イスラム主義のテロ組織と永遠に戦う(この戦争の枠内で米国がイスラエルを永久に守る)という「テロ戦争」のシナリオを作り、911事件を2001年に起こしてテロ戦争を具現化した。彼らは、パレスチナ人を911事件の犯人としてでっち上げることもできたはずだが、あえてそれをやらないことでパレスチナ問題とテロ戦争を直接に結び付けず、イスラエル系の謀略である感じを薄めた。(覇権転換とパレスチナ問題)(中略)
資本家vsシオニストのユダヤ内部の暗闘は、どうなったのか。昨秋からのガザ戦争で、アラブ諸国やイランの諸政府が団結して軍事的なイスラエル敵視を強め、米覇権衰退で後ろ盾を失ったイスラエルがイスラム側に負けるのであれば、資本家がシオニストを潰すことになるが、そのような展開にはなっていない。アラブの盟主であるサウジアラビアはイスラエルとの和解の可能性を残しているし、サウジの子分であるUAEはイスラエルとの国交を保持している。(イスラエルでなく米覇権を潰すガザ戦争)
覇権の非米化・多極化に成功しつつある資本家は、非米側を主導するロシアや中国の上層とつながっていると思われるが、中露は長期的に、イスラエルを潰すのでなく、非米側の主要な成員として取り込む方向にある。中露が親密にしているイランは、イスラエルの仇敵だったが、最近イスラエルと一戦交えた後、双方がこれ以上攻撃しないという態度になった。イランとイスラエルは「冷たい和平」の関係を構築した観がある。(イランとイスラエルの冷たい和平)(イスラエル窮地の裏側)
資本家は、イスラエルを潰そうとしていない。潰すのでなく、崩れていく米英覇権から切り離して非米側に転向させ、多極型世界の発展に貢献する存在にして維持させる策だろう。世界のユダヤ人を束ねるイスラエルの貢献は、非米側を強くする。ユダヤ人がイスラエル以外で最も多く住むのは米国だ。イスラエルとユダヤ人が非米化することは、米国が非米化することを意味する。「米国の非米化」は一見、矛盾した表現だが、深く考えるとそうでない。(世界資本家とコラボする習近平の中国)
米国は、建国から第二次大戦まで、反英・反帝国・反覇権的な存在であり、世界の諸民族の独立を支持支援していた。だが、第二次大戦に参加して英国からもらった覇権を国連に与えて覇権の機関化・多極化したつもりが、逆に米国が英国に入りこまれて英傀儡の覇権国にされてしまった。(その後、イスラエルが英国を真似て米国に入り込んで牛耳った)
「米国の非米化」は、英国に傀儡化された米国が、覇権喪失とともに傀儡を解かれ、もともとの反覇権的な米国に戻ることを意味する。(替わりに、これまで反覇権をうたっていた中国が、覇権まみれになっていくとか)ユダヤ人は、米国の安保諜報界やマスコミや学術界などの上層部に多くおり、まさに米国を牛耳っている。ガザ開戦後、反イスラエル色を強めた米国のブロガーなどが、これまでタブーだったそのことを公言している。(Biden fears ‘huge Jewish influence’ – White House aide)(Pure theater: The Biden–Netanyahu ’fallout’ over Rafah)ユダヤ人が米国を引き連れて非米側に転向していく流れは、今後の国際政治・地政学のダイナミズムになりうる。米政界で、この流れを意識していると思われるのがドナルド・トランプだ。彼は大統領だった時、イスラエルに最低限のパレスチナ国家を承認させ、その見返りにイスラエルとサウジを和解させるアブラハム合意の構想を提案した。トランプの主眼は、サウジをイスラエルと和解させ、イスラエルを安定させてやり、民主党寄りだった在米ユダヤ人を自分の側に惹きつけることだった。(軍産の世界支配を壊すトランプ)
あの構想は、今から思うと、オスロ合意(注:1993年にイスラエルとパレスチナ解放機構の間で同意された一連の協定。イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として相互に承認する、ということが中心内容でイスラエルとパレスチナ国家の併存を求める内容)の流れをくむ米国からの最後の提案だった。その後、イスラエルは昨秋のガザ開戦に入ってしまい、パレスチナ国家の創設を二度と認めなくなった。オスロ合意は、イスラエルが米国を傀儡化し、米国がパレスチナ国家やヨルダンエジプトを傀儡化して安定を維持する策で、米国の強い中東覇権が必須だ。これから米覇権が衰退すると、オスロ合意の構図は実行不能になる。(対米離反と対露接近を加速するイスラエル)
米覇権衰退を前に、イスラエルは当時すでに、パレスチナ人をガザと西岸から武力で追い出す「ナクバの完遂」を検討していたはずだ。それに対してトランプは、最低限のなんちゃって(一応、国家としての形態を有した)パレスチナ国家をイスラエルが承認・支援して、パレスチナ問題が解決したことにして、サウジなどアラブ側と和解する方が、ナクバ完遂戦争より良いんじゃないか、と言ってアブラハム合意(注:2020年8月13日にアラブ首長国連邦=UAE、サウジの子飼い。サウジが行いたいことを、先駆けて行う=とイスラエルの国交正常化合意が発表され、その後9月11日にバーレーン、同15日にはスーダンとモロッコもこれに続いた。パレスチナ国家の樹立を認める面はあるが、それを条件にイスラエルとイスラム諸国との安定的で有効的な関係を目指す内容)を提案した。だが結局、イスラエルもサウジも乗り切らず、話が流れた。その時点で、ガザ戦争への道が決まっていた。
(トランプのエルサレム首都宣言の意図)
ホロコーストで全民族の3分の1を失ったユダヤ人(注:ユダヤ人=古代イスラエル教徒=がイエス・キリスト=キリスト教では救い主でかつ救世主とされる。アタナシウス系のキリスト教派では、救い主としてのイエス・キリストの面が強調される=をローマ人をして、十字架で処刑させたことと関係付ける説もある)は、戦後1948年に自分たちの国民国家としてイスラエルを建国し、「栄光への脱出」という映画も創られたが、イスラエル建国の反面、当地の先住民だったパレスチナ人は追放、略奪、占領、殺害などあらゆる悲劇を被った。この「災厄」のことをナクバと言う。
ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒は同一の唯一神を信じる。旧約聖書によるとこれは、この一神教が信仰の父と尊敬されているアブラハムに始まるからだ。偶像商人テラの長男アブラハム(注:当初はアブラム)は、故郷から離れた際に唯一神より子孫の繁栄を約束されていた。しかし、旧約聖書「創世記」第15章によると、唯一神から命ぜられた三種の動物の象徴献祭では、命ぜられていた鳩を割かなかった。そのため、その罪をつぐなうため一人息子イサクの実体献祭を命ぜられるとともに、エジプトで苦役の路程を歩むことになった。ただし、その理由は不明である。その理由を理論的に明らかにしたのが、世界平和統一家庭連合の聖書の解説書である原理講論だ。それはさておき、アブラハムは三日三晩悩んだが最終的に、唯一神の命令に従順に従った(イサクを献祭するために、殺そうとした)ため、神はイサクの実体献祭を取りやめさせ、雄羊の象徴献祭で済ませた。このため、信仰の祖とされる。
アブラハムには、韓流ドラマで言えば正妻と側室がいたが、正妻サライの子がイサクであり、側室ハガルの子がイシマエルである。ハガル・イシマエルの子孫がイスラム教を興したマホメットにつながるとされている。ユダヤ教徒はイエス・キリストを十字架で殺害させた罪により、祖国を失ったとされ、ユダヤ教の代替としてキリスト教が誕生。その後の7世紀初頭、マホメットが三大天使長のうちのガブリエルか啓示を受けてイスラム教が勃興する。この辺りは、日本教のせいでキリスト教が根付かない日本の国民には理解できないところである。それはそれとして、このように、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は兄弟宗教の関係に当たるが、ナクバによりその兄弟関係は割かれた。
イスラエルとハマスの戦争の狙いは、英国がぶちあげ、オスロ合意やアブラハム合意でかすかに残っていた「パレスチナ国家構想」を完全に否定して、ナクバを完全化させ、その代わりに中東に根を張っているムスリム同胞団に中東の大勢力(エジプトやヨルダンを席巻する)としての資格を与えることで、イスラエル国家(主権、国民、領土)の独立性とサウジアラビア(スンニ派の盟主)、イラン(シーア派=ゾロアスター教の影響が残っていると言われる=の盟主)を盟主とするアラブ諸国の友好関係を樹立することにあると思われる。
2024年5月の金価格の推移
三菱マテリアル公表の2024年5月の金価格の推移は下図である。金地金の価格は2022年までは国際決済銀行の金先物売りなどによって、1トロイオンス(約31グラム)=2000グラム(金ドル本位性であった第一次ブレトンウッズ体制の時は、同35ドル)程度以下に抑えられてきたが、2023年を過渡期として2024年以降、同水準をかなり上回って上下しながら、趨勢的には上昇してきている(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/)。