イスラエルが、レバノンで一大勢力になったイランが支援するヒズボラの最高指導者ナスララ師を殺害したことに対するイランの報復攻撃に対して、イスラエルがイランの軍事施設やミサイル製造施設をピンポイント攻撃したことに、イランの最高指導者・ハメネイ師が米大統領選前にも再報復する可能性があると警告していたが、今のところ、報復の連鎖は起こっていない。国際情勢解説者の田中宇氏によると、その背景にはロシアのプーチン大統領とトランプ次期大統領の働きかけがあったようだ。今後の中東情勢は、イスラエルがとっくの昔の大英帝国の時代に作り上げた「パレスチナ国家構想」を完全に消滅させたうえで、イスラエル、サウジ、イラン、トルコの4極体制を中心に、「パレスチナ国家構想」消滅の代わりに、エジプトやヨルダンなどでイスラム教スンニ派の政治・軍事・社会組織のムスリム同胞団が政治的・経済的・社会的影響力をさらに拡大させることで、武力衝突が緩和・解消される方向のようだ。
中東に平和は訪れるのかーカギ握るトランプ次期大統領とプーチン大統領
イスラエルが、モサドの諜報行為を通してつかんだイランの軍事施設やミサイル製造施設などをピンポイント攻撃したことに、イランの最高指導者ハメネイ師とその傘下にあるペゼシュキヤーン大統領政権が米大統領選前にも再報復する可能性があると警告していた(https://mainichi.jp/articles/20241103/k00/00m/030/010000c)。
しかし、大統領選後もイランは再報復を行っていない。むしろ、イランのペゼシュキアン大統領が14日、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長に対して、核不拡散のため「核開発問題に関して『わが国の平和的な核活動に関する疑惑を晴らすため、国際機関と協力する用意がある』と表明した。イラン首脳の公式表明に対して、米側陣営諸国は懐疑的だが、少なくとも核兵器(北朝鮮のように、完成しているかどうかは不明)を用いてイスラエルを攻撃するようなことは当面、あり得ないのではないか。余談だが、原子力発電所などの施設は、発電の結果などで生じる放射性核物質の安全な処理方法を確立するまでは、建設や利用は避けるべきだろう。ウランを高濃縮できるようになれば、核兵器はすぐに製造できるようになる。
さて、イランの対イスラエル再報復攻撃の可能性が次第に薄れつつある中、田中氏が「中東全体解決の試み」と題して投稿・公開された記事(https://tanakanews.com/241114mideast.htm、無料記事)によると、現在はむしろすべての中東紛争をトランプ次期大統領就任(2025年01月20日)前までに一応、停戦ないし終戦に持ち込もうとする動きが水面下で進められているようだ。
ドナルド・トランプの当選後、中東の敵対関係を全て解決していこうとする試みが進んでいる。いま中心になっているのは、米露(トランプ、バイデン、プーチン)が仲裁してイスラエルとヒズボラを停戦させる策だ。イスラエルの戦略担当相ロン・デルメルが、ヒズボラの代理をつとめるロシアを秘密訪問した後、11月11日に訪米してトランプやバイデンと会った。(1)ヒズボラがレバノン南部でリタニ川以北まで撤兵する(2)代わりにレバノン国軍が警備に入る(3)それらを見届けて2か月後にイスラエル軍が撤兵する、という停戦案を検討しているらしい。(Significant efforts to end fighting in Lebanon underway with both Trump and Biden support)(Dermer to discuss Lebanon ceasefire in US after reported secret Russia visit)
もちろん、任期が2カ月ほどしかないバイデン現職大統領は主役ではない。主役は、戦争は継続させたり新規に起こしたりしたくはないトランプ次期大統領と、イランが加盟しているBRICSプラス(+)の盟主であり、かつ、歴史的にもロシア革命などでイスラエル(ここではディアスポラのユダヤ人)と関係の深いロシアのプーチン大統領だ。まず、トランプ次期大統領とイスラエルのネタニヤフ首相との連携について、田中氏は次のように指摘する。
ヒズボラは、この10年あまりのシリア内戦を支援してイランからたくさん兵器をもらい、軍事技能を向上させてイスラエルへの攻撃力を強めてきた。その対策としてイスラエルは10月初め以来、ヒズボラを徹底攻撃しておおむね潰した。ヒズボラ潰しが一段落したイスラエルは、停戦して事態を安定化したい段階になっている。昨年10月のガザ開戦以来の一連の流れは、トランプの当選・就任への日程に合わせている。トランプは、米諜報界(DS)の有力な勢力であるイスラエル(リクード系)と組み、自分を敵視攻撃してくる諜報界の他の勢力(民主党・マスコミを傀儡化する単独覇権派とか)を抑止したい。(CIA Official Arrested Abroad For Leaking Secret Documents On Israeli Military Plans)(Israeli official covertly visits Russia for Lebanon ceasefire talks)
だが同時にトランプは、自分の政権下で新たな戦争を起こしたくない。むしろ既存の戦争を解決・終戦させていき、米軍を世界から撤収して覇権縮小(世界の面倒を見るのをやめること)を実現したい。だからネタニヤフを急かし、就任前にかたをつけさせた。(トランプ快勝の裏側)(Israel sees ‘progress’ in ceasefire talks with Lebanon, but no deal yet)
なお、トランプ次期大統領はイスラエルとサウジアラビアを仲介して成立させた2020年08月のアブラハム合意によって、イスラエルとサウジアラビア傘下のアラブ首長国連邦の国交正常化を実現させた実績がある。次期政権では、アラブ諸国がパレスチナ国家を認めていることなどさまざまな障害があるが、基本的にはイスラエルと(アラブ諸国の盟主・代表である)サウジアラビアとの国交正常化を実現する公算が大きい。
イスラエルは左派労働党のラビン首相時に、実質的にクリントン大統領が仲介してこぎ着けた1993年09月のオスロ合意に調印した。その内容は、①イスラエルを国家として、パレスチナ解放機構(PLO)をパレスチナの(暫定)自治政府として相互に承認する②イスラエルが占領した地域から暫定的に撤退し、5年にわたって自治政府による自治を認める。その5年の間に今後の詳細を協議するーというイスラエルとパレスチナ暫定自治政府(将来はパレスチナ国家への格上げの方向)の共存体制を認めるものだった。
しかし、ラビン首相はイスラエルの右派青年によって狙撃暗殺されてしまった。「パレスチナ国家構想」は、第一次世界大戦時に当時の世界覇権国であった英国が、フランスとロシアに働きかけ、ユダヤ民族とアラブ民族の協力を得るために、①敵側(ドイツ、オーストリア、オスマン帝国=現トルコ)のうちオスマン帝国をフランス、ロシアで分割する②パレスチナの地にユダヤ人がイスラエル国家を建設することを認める(映画:「栄光への脱出」)③アラブ人にも同じく、パレスチナの地にオスマン帝国の影響を受けない「パレスチナ国家」の建設を認めるーといった三枚舌外交を行った所産だった。
だから、本来はユダヤ民族の国家であるイスラエルとパレスチナ国家の共存(小イスラエル国家構想)というのは、英国の三枚舌外交が引き起こした(偽造した)もので、イスラエルは元来、「大イスラエル(パレスチナ難民キャンプのガザ地区とヨルダン川西岸はもともとイスラエルの領土)」でなければならないという認識が、その後のイスラエルの思潮、政界を支配した。その延長線上に現在の右派リクード党首が首相になったネタニヤフ政権がある。ネタニヤフ政権が昨年2023年から対ハマス戦争、ヨルダン川西岸など戦闘を激化させた理由は次の通りだ。
イスラエルは2001年の911以来、米国を中東の諸戦争に引っ張り込み、恒久的なイスラエルの衛兵として使う策を採ってきた。だが(この策を隠れ多極派が=米側陣営諸国の=自滅策に転換したこともあって)米覇権は衰退傾向にある。イスラエルは米国を頼れなくなる、米国を引っ張り込むために作った自国とイスラム側との敵対構造を崩し、和解していかねばならない。単にイスラエルが穏健化するだけだと、ヒズボラなどイラン系が米覇権衰退後、イスラエルに報復攻撃してくる。だからイスラエルは先に、イラン系を軍事的に無力化してレバノンやシリアから掃討した後でないと、和解策に転じられない。(Russian official: ‘Russia is prepared to assist in reaching a deal in Lebanon’)
またイスラエル(リクード)は、パレスチナ人を信用できず共存不能と考えており、ガザ市民をエジプトに、西岸市民をヨルダンに追い出すパレスチナ抹消策を進めている。パレスチナ建国案は80年間、米国の単独覇権派(英国系)がイスラエルの台頭を防ぐための弱体化策として強要してきた。英国系のライバルである覇権放棄屋のトランプは、パレスチナ抹消策に賛成してリクードと組んでいる。イスラエルは、自国周辺のイラン系を弱体化した上でイスラム側(アラブ、イラン、トルコ)と和解する策を模索しつつ、国内ではパレスチナ抹消を完遂したい。イスラム側はパレスチナ抹消に反対なので、イスラエルの策は矛盾を抱えている。イスラム側との和解は、非公式(対アラブ、トルコ)または冷たい和平(対イラン)になる。(Israel’s Smotrich tells authorities to prepare for West Bank annexation)(‘Netanyahu will want a lot from him’: Can Trump reconcile Israel and Iran?)
ここで、問題になるのはイランだ。今回の米国大統領選挙後のトランプ次期大統領の政府高官人事で、米国の単独覇権体制が崩壊していく(具体的には、傘下の大物政治家は粛清される)趨勢が明確になった今日、トランプ次期政権は国内の経済・社会再建のために莫大な財政資金(革命資金)を要する。今後、ディープステートはロックフェラー家など大資本家が表に出てくるようになり、トランプ次期大統領は彼らとの協力関係を強めるだろうが、トランプ次期政権は米国にとっての革命政権であることを理解する必要がある。そうして、世界は文明をひとつの単位とした多極化体制になるだろう。その際、言葉では対イラン強硬姿勢を取っても、科学・技術が日本を上回り(科学・技術文献の引用数は日本よりもイランが上)、人口9000万人と内需の興隆が可能なイランを説得する力は、米国にはない。代わってイランとイスラエルを仲介するのは、プーチン大統領を中心としたプーチン政権だ。
トランプは、自分の大統領就任より前に、イスラエルが上記の戦略をできるだけ進めておくことを求め、急がせた。ネタニヤフは、2023年夏にトランプと話をつけ、2023年10月にハマスの攻撃を誘発してガザ戦争を開始した。そしてガザ抹消が一段落した後、今年10月にヒズボラ潰しの大攻撃に踏み切った。ネタニヤフとトランプは、1月20日のトランプ就任より前、早ければ今年11月中に、レバノンでの停戦を実現したい。これにはヒズボラを支援してきたイランの了承が必要だ。イランと親しいロシアは、イランをBRICS(注:プラス)の非米側の経済システムに組み入れ、イランが中露印度などとの取引で儲けて経済発展していく策を提示し、その代わり、レバノンやシリアに対する軍事影響力の解消(イスラエルがイラン系の軍事拠点・補給路などを空爆して破壊しても黙認すること)や、イスラエルとの冷たい和平の実現を了承してくれとイランに要請した。イランはおおむね了承したようだ。(Iranian, Russian Card Payment Systems ‘Officially Linked’: Tehran)(At War in Ukraine, Putin Emerges as Potential Peace Broker in Middle East)
この話には、トルコとサウジアラビアも絡んでいる。イランが手を引いた後のレバノンとシリアに対してトルコやサウジ(GCC諸国)が支援に入ることで、レバノンとシリアを非イラン系の国として安定させられる。レバシリはイラン側からアラブ側に戻る。イスラエルやトランプは、トルコやサウジに感謝しつつ、隠然と良い関係を維持していく。トルコは、シリア内戦の負け組から挽回できる。トルコもサウジも、シリアのアサドとの正式和解を寸止めしており、準備はできている。(厚顔無恥なイスラエルの成功)(Neutral for now: Persian Gulf states’ gamble in the Iran-Israel showdown)
サウジはイスラエルと非公式な協調関係を維持しつつ、習近平の仲裁で和解したイランとも親睦を深めている。サウジはトランプ当選後、イランと安保協定の締結に向けて話し合っている。米国が単独覇権派の政権だった従来、サウジは米国に反対されるのでイランと安保協定できなかった。トランプも表向きイラン敵視だが、実際は覇権放棄屋・隠れ多極派の系統(世界が多極化した後の米国の繁栄を模索)なので、サウジがイランと安保協定しても許す。(Saudi armed forces chief visits Iranian counterpart for rare meeting)(A Mideast Shift Is Underway, Without Israel)
こうして、プーチン大統領の仲介で、イランはイスラエルと「冷戦状態」を続けることになる。ただし、中国の習近平国家主席の存在も重要だ。習近平主席は昨年2023年12月にサウジアラビアを公式訪問し、サウジの最高実力者であるモハメッド・ビン・サルムーン(MbS)皇太子兼首相と原油の人民元建ての決済で合意した。そして、習近平政権はサウジとイランの国交正常化を仲介している。今年の10月下旬にロシアのモスクワ東部に位置するカザンでのBRICS+(プラス)会議には、バイデン政権の圧力と思われるが、MbS皇太子は出席しなかった。しかし、ファイサル・ビン・ファルハン外相が代わりに出席した。
なお、既に引用させていただいたように、ネタニヤフ政権が大イスラエル主義を堅持することは間違いない。ネタニヤフ政権が「戦争犯罪」を犯してもパレスチナ自治政府を抹殺する代わりに、エジプトやヨルダンなどの国内でイスラム教スンニ派系統にあり、イスラム国家の樹立を目指したムスリム同胞団が政治的・経済的・社会的影響力をさらに拡大させることを認めるだろう。米国単独覇権派の傘下にあるメディアは、200万人ものガザ難民がどこに行ったのか報道しない。南北ガザ地域の廃墟に住んでいるとは考えられない。田中氏は既に、ガザ難民がエジプトに流入していると見ている。GoogleのAIによるとムスリム同胞団は、1928年にエジプトでハサン・アル=バンナによって創設された。エジプトの社会、経済、政治などの変革を背景に、貧困層から支持を得て成長してきた。
現在は、次のような活動を行っている。①シリアでは、1963年にシリア・バアス党政権によって非合法化されたが、2012年以降は反体制派の支援などを行っている②パレスチナでは、1987年に発生した反イスラエル闘争(インティファーダ)を機に、ハマス組織が結成された。ハマスの正式名称は「ムスリム同胞団パレスチナ支部」だ④サウジアラビアでは、エジプトから逃亡したムスリム同胞団員によってイスラム大学が設立・運営されたーなどの実績がある。エジプト、ヨルダン、シリアなどに広範な組織的基盤を有する。
また、中国とインドとの関係も緊張緩和に向けて動き出した(https://www.toonippo.co.jp/articles/-/1901533)。サウジアラビアやインドは今後、BRICS+の中核国になるだろう。トランプ次期政権が来年2025年01月20日に誕生することで、世界は文明多極化の趨勢になる。ただし、その前に、非米側陣営諸国はグローバル・サウス諸国を取り込んで、同陣営の興隆を米側陣営諸国に見せつけることになるだろう。何度か引用したが、米側陣営と非米側陣営の国力は次のようになっている。
中東和平確立の宗教的基礎について
中東地域はユダヤ教(古代イスラエル教)、キリスト教、イスラム教といった同じ唯一神を信奉する高等宗教が文明の基礎になっている。これらの三大高等宗教は、旧約聖書の創成期に登場するアブラハムから分かれでた。分かれでたのは、鳩を裂かなかったアブラハムの嫡男・イサクの象徴献祭の失敗のためである(創世記22章)。その理由は聖書学者でも分からなかったが、世界平和統一家庭連合(旧世界基督教統一神霊協会:略称統一教会)の創始者である文鮮明師がキリスト教史上、明確に解かれた。
何故、アブラハムからユダヤ教(古代イスラエル教)、キリスト教、イスラム教が分かれ出たのか、その理由を解明できる現代版宗教改革が必要だ。各宗教の系譜を図示してみると次のようになる。新約聖書マタイ伝では、救い主であり救世主(メシア=油を注がれた者、本来は王の王を意味する)イエス・キリストの系図が記されているが、イサクの子であるヤコブの子(イサクの孫)であるユダの血統からヨセフが生まれ、そのヨセフの妻・マリアが天使長・ガブリエルからの知らせ(マタイ伝1章19節〜20節)により聖霊によって身ごもり、イエスが誕生したとある。
この処女懐胎と「父なる神」「子なる神」「聖霊なる神」の3者が、それぞれ自立した存在でありながら、本質はひとつであるという三位一体の考え方(「三位一体論」)が、キリスト教正統派(アタナシウス派)の考え方である。この三位一体説を神学・哲学的に基礎づけ、中世以降のキリスト教の基礎を確立した人物が、古代ローマ帝国(西ローマ帝国)末期に活躍したアウグスチヌスである(https://www.y-history.net/appendix/wh0103-157.html#:~:text=%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%82%B0%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%8C%E3%82%B9%E3%81%AE%E6%80%9D%E6%83%B3%20%E5%BD%BC,%E6%A0%B9%E5%B9%B9%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%80%9D%E6%83%B3%E3%81%AE)。
なお、トランプ次期大統領によって次期副大統領に選出されたバンス副大統領はイラクに派兵(海兵隊)されたが、高校卒業にしては非常に頭脳明晰のため、海兵隊とマスコミの仲介をする広報担当になり、イラク戦争後その優秀さを認められて、米軍から大学で学ぶ奨学金を得て、オハイオ州立大学(オハイオ州コロンバス)に入学、哲学と政治学の学位を取得した。その後、オハイオ州立大学を卒業後、イェール大学のロースクールでJD(法務博士)の学位を取得した。バンス次期副大統領はトランプ次期大統領と同じく、原稿などがなくても自らの見解を述べることができる人物だが、同副大統領が愛読した書物がアウグスチヌス、マックス・ウェーバーの著書などであったという。
ただし、キリスト教アタナシウス派の教義の根本である処女懐胎や三位一体論は、現代科学の知見では理解不能である。無条件に信じる他はない。このため、民主党は英国から宗教迫害によって米国に逃れてきた清教徒(ピューリタン)の子孫によって結成されたが、「多様性の容認」を名目に「LGBTQ」が広められ、キリスト教の根幹を否定することになってしまった。このことが、多民族国家であるけれども、白人、黒人、ヒスパニック(いずれもキリスト教アタナシウス派のプロテスタンティズム、カトリックを信奉)がキリスト教をコモンセンスとして合衆国国民統合の精神的支柱とすることにより、国の統合を保っていた。
しかし、キリスト教アタナシウス派が現代の要請に応えられなくなったため、米国は分断の危機に陥っていった。米国社会の分断を解決し、世界の米側陣営と非米側陣営との分断をも解決するためには、キリスト教アリウス派を高次元的に引き上げ、アタナシウス派を吸収することが根本的に必要である。
ウクライナ戦争の終結について
米国の共和党が大統領、議会上院、議会下院を制覇したことと、共和党はウクライナへの軍事・経済支援よりも自国の経済再建、不法移民問題やバイデン政権時代に大量に発生・増加したホームレスの救済など、「米国ファースト(MAGA)」の実現のために最大の努力を行うことを優先する。
このため、ウクライナ戦争は、①現状のロシア、ウクライナの支配領域で国境を定め、1800マイルの緩衝地帯を設定して国連軍が警戒態勢を敷く(北大西洋条約機構=NATOに任せる案もあるが、NATOが攻撃を受けた場合、NATOが機能していれば、ロシア・ウクライナのネオ・ナチ勢力のいずれが被害を与えたとしても、直ちにロシアが攻撃されるので、この案は現実的に無理だろう)②東西ドイツ統一の際、ブッシュ大統領とベーカー国務長官がゴルバチョフ大統領とシェワルナゼ外相(いずれも当時)との間で約束したNATOは東方拡大をしないという約束(その後、反故)に立ち返り、ウクライナは20年間はNATOに加盟しないーという案で、終戦を迎える公算が大きい。
ただし、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア軍の軍事力を分散させるためと称して、ロシア西部のクルスク州に侵攻しているので、プーチン政権はウクライナ側がクルスク州から撤退しない限り、ウクライナと和平を結ぶことはあり得ない、としているようだ。ただし、ウクライナのクルスク州侵攻は全く成功していない。ドネツク州の最大の要衝であるポクロウシクに向けて、ロシア軍は着実に前進しており、ポクロウシクの陥落も時間の問題だ。ウクライナ側が、ウクライナの二割に当たるロシア軍が自国に編入している東南部地方を奪い返すことは現実的に不可能だ。
なお、ロシアがクルスク州にNATOのような軍事同盟を結んだ北朝鮮の兵士を派遣していることも事情を複雑にしているが、ロシア側としては非米側陣営加盟諸国が安定して貿易・投資ができる共通通貨体制の構築のためにはある程度の時間がかかるため、わざとクルスク州からウクライナ軍を追い返すことを先延ばしにして、時間稼ぎをしていることもある。事態は重層的で複雑だ。ウクライナは一時停戦して、大統領としての任期が今年5月末で切れたゼレンスキー大統領は、米国のように選挙をやってみてはどうか。
石破茂首相は米国と中国、ロシアの仲立ちをせよ
アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議に出席するためペルーを訪問した日本の石破茂首相は、日本時間の11月16日午前7時過ぎから、中国の習近平主席と日中首脳会談を行った。NHKによると、首脳会議は30分間行われたという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241116/k10014640321000.html)。
冒頭、石破総理大臣は「日中両国は地域と国際社会の平和と繁栄に重要な責任を有している。両国の間には発展に向けた大きな可能性が広がっていると同時に、多くの課題や懸案が存在している」と指摘しました。その上で「両国が『戦略的互恵関係』の包括的な推進と、建設的かつ安定的な関係の構築という大きな方向性を共有することは国際社会にとって重要な意義がある。習主席との間で率直な対話を重ねる関係を築いていきたい」と述べました。(中略)
(これに対して)習主席は「国際情勢や地域情勢が大きく変化する中で、中日関係は改善と発展の重要な時期にある。中国は、日本と共に、互いにパートナーとなり、脅威とならないという重要な共通認識を守って、戦略的互恵関係を包括的に進め、新しい時代の要求にあった建設的で安定した中日関係を構築したい」と述べました。また、中国外務省の発表によりますと、習主席は会談で「歴史や台湾などの重要な原則の問題を適切に処理するとともに意見の隔たりを建設的に管理し 両国関係の政治的な基礎を守ることを望む」と述べたうえで人的・文化交流を深めるべきだと強調しました。
日本は1972年の日中共同声明、1978年の日中友好平和条約で、①中華人民共和国は中国(孫文の革命で樹立された当初の中華民国)の唯一の正統で合法的な後継国家②台湾は中華人民共和国(中国)の不可分の領土ーであることを公式に認めている。同声明と同条約を公式に破棄しない限り、首脳会談を含む日中両国間系は全て同声明、同条約を根幹に置く必要がある。これは当然のことであるが、嫌中論者は国際条約が気に入らないから、日中両国は有効を深めるべきだというと必ず、それは「中国に買収された中国のスパイ」と決めつけてかかる。どの国も相手国の内政には不干渉であるべきであり、相手国の主権は尊重しなければならず、相手国国民の体制の選択も同じである。
サイト管理者は、あまたの中国崩壊論は崩壊しつつあると思っている。韓国の一人当たりの国内総生産が日本を上回ったのも、官民挙げて中国との貿易を振興したからである。日本も同じことで、中国との経済関係を深めることによって、経済成長・発展のバネにすれば良い。例えば、ウクライナ戦争、イスラエルを主とした中東での戦闘でドローンを使った無人機が一躍有名になったが、世界最大のドローンメーカーは中国のDJI(https://www.dji.com/jp)だし、電気自動車の世界最大の生産国は今年、既に1000万台を突破した中国だ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241114/k10014638671000.html)。
スマートフォンでも、極めて高額だが日本では飛ぶように売れているアイ・フォーンは製造番号を見てみると中国で生産されているし、エントリーモデルからハイエンドモデルまで揃っているアンドロイド・スマートフォンの世界最大手は、シャオミやオッポなど中国のIT企業で、相当に高性能だ。また、ミニノート・パソコンもミニスフォーラムやツーウェイなどが、高性能で低価格なモデルをアマゾン経由で発売している。政府が自動車や家電製品の買い替え促進策を打ち出していることもあって、10月の中国の小売売上高は9月よりも伸びが拡大して前年同月比4.8%増だし、工業生産も同5.3%増と9月よりもわずかに鈍化したが、堅調さを保っている。
不動産関連の投資は低調だが、「中央銀行や政府が減速する景気を下支えするため、新たな対策を相次いで発表していますが、不動産市場の改善や内需の拡大につながる、より大規模な景気刺激策が必要だという指摘も出て」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241115/k10014639371000.html)いる。習近平政権が財政・金融政策を何も検討しないように見えるが、米国の大統領選を睨んでいたため、景気刺激策の発動が遅れているのだろうとの指摘も出ている。
植草一秀氏は、メールマガジン第3925号「想定通りのトランプ勝利」で、「中国政府が9月末以降、経済対策発動の方針を示してきたが、最大の焦点である財政政策発動を明示してこなかった。その主因は大統領選期日を待ったことにあると思われる。(中略)早期に中国政府が本格財政政策を公表すれば中国株価が急騰し、これが米国株価上昇を誘発する可能性が高い」としている。中国の中央政府の財政に余裕がないわけではない。不動産投資による損失に対しても、習近平政権は不動産会社の経営責任を厳しく追及したうえで、損失を被った中国人民の救済措置を講じるだろう。
書籍やネットであまたの「中国崩壊論」が出ているが、中国という国家が崩壊してなくなるのだろうか。「中国崩壊論」そのものが崩壊しているのではないか。サイト管理者が心配しているのは、トランプ次期政権が中国に対して警戒論から敵対論に変質しているのではないか、ということだ。中国に対して60%から100%以上もの高関税をかけると、シェールガス・オイルの生産増でコストプッシュ・インフレが解決に向かうところ、新たなコストプッシュ・インフレが発生し、インフレが解決しなくなる恐れがある。また、過度に敵対関係を深めると、中国は米国債の購入の停止や売却(既に始めている。日本はできないから、事実上、凍結されたままだ)といった形で対抗し、米国の10年物国債に代表される長期金利が上昇し、産業の再生にマイナスになる公算が大きい。
石破茂首相は腹をくくって、台湾の頼清徳(ライ・チントー)総統が党首の民進党の台湾独立画策運動(注:台湾の世論調査では、現状維持を臨む声が多数)に引きずられることなく、台湾の国民の意向に従って中国と台湾の良好な関係を維持するとともに、トランプ次期大統領の米国革命政策が実を結ぶよう米国と中国の間を仲介すべきだろう。
このことは、ロシアとの関係についても言える。ロシアのプーチン大統領は、「歴史的に(第二次世界大戦時の日ソ不可侵条約の破棄と樺太への侵攻など)悲劇的な時期もあったが、誇らしい時期(鳩山一郎政権下での日ソ国交回復など)もあった」と語り、日本との外交関係が悪化することを望んでいない(https://www.sankei.com/article/20241108-MLRMYNBMRRJGZAPYAIKDNOCQPI/)。
サハリンプロジェクト(サハリンⅠ=サハリン石油ガス開発が出資=、サハリンⅡ=三井物産、三菱商事が出資=)もまだ有望だ。北方領土問題も解決の道が閉ざされたわけではない。日本は、COP26(気候変動対策の国連の会議)からG7諸国と同様の「化石賞」を授与されたくらいだから、トランプ次期大統領と同様、石油・天然ガスを掘って彫りまくればよい。トリガー条項を全面的に発動して、財政資金を無駄に使う必要は、さらさらない。
これまでは、米国のディープステート単独覇権派の圧力で対米隷属外交しかできなかった。しかし、トランプ次期政権は、ディープステート単独覇権派の解体を目指している。石破茂首相が覚悟を決めて(トランプ次期大統領が人事で行っているように、外務省や財務省の高官の移動が必要)、米国を助けつつ、米国と中国、ロシアとの仲立ち外交を展開する多極化外交を展開すれば、石破政権の道は開けるだろう。なお、安倍晋三がトランプ大統領に気に入られたのは、「地球俯瞰外交」と称して多極化外交を展開することを説明したからだろう。通訳を置いて話したようだ。
それ以外に、石破政権が来年夏の参院選を超えて生き延びる道はない。なお、北朝鮮が露朝軍事・経済同盟を結んだ今日、問題が複雑になってきたが、拉致問題を解決するためにも、石破政権は北朝鮮との国交を正常化しておいたほうが良いし、韓国、北朝鮮、日本、中国、米国が参加する北東アジア共同体構想を立案し、実現に向けて努力するべきだ。
【追記:11月16日(土)午後17時】日本の政治刷新の内政面の最大の課題は、①企業・団体からの政治献金の全面禁止②消費税の高々5%への引き下げーである。国民民主党はこれを阻み、日本の政治刷新を阻止している。野党第一党の立憲民主党も企業・団体献金の廃止はうたっているものの、消費税問題は素通り。上記の外交政策の大転換とともに、石破政権がこの二点を打ち出せば、支持率は急騰する。一年おきに自動更新になっている日米安保条約も、米国では交戦権の決定は議会にあるから第5条は「日本の防衛義務」を定めたものではなく、第6条の在日米軍の日本駐留が要(かなめ)である。トランプ次期政権は「米国ファーストによるMEGAの実現」だから、その費用を賄うためにも日米安保を解消するとの「爆弾宣言」を行い、日本の独立を促す可能性もなくはない。 |