韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領は12月3日夜、同国に韓国軍の軍事力を背景とした非常事態戒厳令を発令すると発表した。しかし、韓国は憲法77条で非常事態戒厳令(非常戒厳令)は、「国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求すれば、大統領は解除しなければならない」と定めており、韓国軍が国会(一院制、定数300)の開催をさせずに封鎖・占拠すれば、非常事態戒厳令は発令されるはずだった。ユン大統領としては、国軍を動員して国会を封鎖すれば戒厳令を発令できたが、国軍の動きは鈍かった。このため、国会が緊急に招集、開催され、過半数の多数決で戒厳令を解除させられ、非常事態戒厳令発令未遂に終わった。最大野党の「共に民主党」は既にユン大統領の弾劾決議案を国会に提出しており、与党「国民の力」は残念だろうが、弾劾決議案を支持せざるを得なくなっており早晩、ユン大統領は失脚する。そして、大統領選が行われ、国会と大統領の双方を掌握した「共に民主党」政権が誕生する公算が大きい。同党は北朝鮮(朝鮮人民共和国)との和合を目指しており、トランプ次期大統領が来年2025年1月20日に政権に返り咲けば、キム・ジョンウン(金正雲)総書記と改めて対談する可能性が強く、新政権の動きを後押しするだろうから、朝鮮半島の緊張緩和・和合の動きが展開する可能性がある。
韓国の少数与党・「国民の力」は、ユン大統領弾劾決議案に反対へ
NHKの報道によると、「韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領が一時宣言した『非常戒厳』をめぐり、与党(『国民の力』)のハン・ドンフン(韓東勲)代表は『大統領の早急な職務執行停止が必要だと判断する』と述べ」たという。これより先、ユン大統領と会談したハン代表は、「非公開の党の議員総会に出席し『わたしの判断が覆るほどの話はなかった』と述べて、大統領の職務をただちに停止すべきだという考えに変わりはないとする立場を明らかにした」ようだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241206/k10014659941000.html)。これは、少数与党・「国民の力」の間で、ユン大統領を見限る動きが広がっていることを示唆している。
ハン代表の言葉の端々にも与党としてユン大統領弾劾決議案への賛成を示唆する内容が読み取れる。ウ・ウォンシク(禹元植)国会議長も、国会での緊急談話で「大統領による非常戒厳は歴史を否定し、国民の自尊心に大きな傷を与えた」と述べて、ユン大統領が一時、「非常戒厳」を宣言したことをあらためて批判したという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241206/k10014659941000.html)。ただし、少数与党・「国民の力」は表向き、「議案に反対する党の方針に変わりはないという立場を示し」ているが、「7日午前、再び議員総会を開いて対応を話し合うことにして」いるという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661111000.html)。
こうした中、ユン大統領は7日午前10時から、国民に向けて談話を発表、その中で、「誠に申し訳なく国民に心からおわび申し上げる」と述べ、非常事態宣言の発令は少数与党政権であることの政治的危機感から発令したものだが、「国民に不安と不便を与えた」ことから、「非常事態戒厳令発言の法的・政治的責任は回避しない」、「私の任期を含めて政局を安定させる方法はわが党に一任する」、「第二の非常事態宣言の発令はない」と断言したとのことだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661111000.html)。野党の「共に民主党」が国会に提出した自らに対する弾劾決議案が可決されることを予想し、覚悟を決めたような発言だ。
このユン大統領談話を受けて、与党・「国民の力」のハン・ドンフン(韓東勲)代表は「大統領は正常な職務の遂行が不可能な状況で、早期退陣は避けられない」と述べ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661111000.html)、与党議員が8人以上賛成したうえで、弾劾決議案が可決されることを示唆した。ただ、少数与党・「国民の力」は党の方針として最終的に、弾劾決議案には賛成しないことに決めた。ただし、投票は無記名で行われることから、同党のすべての党員が反対票を投じるとは限らない(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661111000.html)。
最大野党・「共に民主党」が7日の議決を目指して提出した弾劾決議案は国会議員総数の3分の2(200票)の賛成が必要だが、野党全体で192票(議長票含む)だから、与党・「国民の力」の国会議員のうち8人が賛成すれば、3分の2には達する。
12月7日土曜日の「ユン大統領弾劾決議案」が大統領弾劾に必要な賛成数を獲得することはほぼ確実だ。ユン大統領に残された最後のカードは、韓国国民向けの談話で「第二の非常事態宣言発令はない」と述べたが、万が一、国民を欺き油断させるための虚言だとして、弾劾決議案が議決されて可決しないうちに、韓国軍の特殊部隊がが国会を封鎖・占拠する一方、国軍がすべての機関を武力で制圧する以外にないが、①すべての閣僚・大統領補佐官が辞任している②韓国の国軍を指示する在韓米軍が、レームダックにあるとは言え、米国の大統領職にあるバイデン大統領政権の命令でユン大統領を抑えるように指示されているーことなどから、それは不可能だ。ユン大統領に取っては、万事休すである。
【追記】韓国ユン大統領弾劾決議案の結果は、ほとんどの与党議員の本会議退場で廃案となった
韓国国会での大統領弾劾決議案の採決を行う国会は、7日午後17時から開会された。最初はユン大統領のキム・ゴニ(金建希)夫人の収賄や株式相場の不正操作などの疑惑に関する特別検察官の任命をめぐる法案を審議を行ったが、大統領が拒否権を行使したため否決された。その後、弾劾決議案の採決に入ったが、採決の前に与党「国民の力」の国会議員のうち数人は、国会議長らの説得もあり投票したが、ほとんどの同党議員が退場したため、議長らが投票数を数えたところ、国会議員の投票人数195人とが採決に必要な200人に満たなかったため、弾劾決議案は廃案になった。
与党としてはユン大統領が任期前に辞任する道(任期を短縮する道)を探っている模様だが、野党「共に民主党」は臨時国会11日に再度、ユン大統領弾劾決議案を本会議に提出する構えだ。ユン大統領の弾劾決議案の廃案が確定したため、ユン大統領は職務を続行できるが、閣僚や大統領の補佐官らはほとんど辞任しており、韓国の政府機能は停止することになる恐れが強い。また、NHKによると、「与党『国民の力』のハン・ドンフン代表は7日夜『ユン大統領の退陣まで大統領は事実上職務から排除される』」語っている(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241207/k10014661111000.html)。
韓国の政界は大混乱に陥り、国民生活にも大きな悪影響が出る恐れがある。このため早ければ、トランプ前大統領が次期大統領に就任する来年2025年1月20日ころに、韓国の新たな大統領を選出する大統領選挙が行われる公算が大きい。各種の報道によると、与野党の間で大統領選の駆け引きが行われているという。その場合は、与党・「国民の力」が大敗するだろうから、以下の見通しに変更はない。
韓国ユン大統領は在韓米軍に国会の封鎖・占拠を阻止されたようだ
韓国の国軍は、日本の自衛隊と同じように実質的には、在韓米軍の指揮命令系統下にある。韓国の軍が国会を封鎖・占拠できなかったのは、米国のバイデン政権が戒厳令の発令を知らされておらず、ユン大統領の非常事態戒厳令発令に驚き、在韓米軍にも韓国軍による国会の封鎖・占拠を阻止するよう命じたからである可能性が強い。ロイター通信は、「韓国大統領は判断『ひどく誤った』、戒厳令巡り米国務副長官」と題する報道を行っている(https://jp.reuters.com/world/us/JLPFQSQLXVI5JEAC7YT5FES56Y-2024-12-05/)。
米国の国務副長官とは、日韓関係に詳しく、ジャパン・ハンドラーとしても知られ、2009年に成立した鳩山由紀夫首相・小沢一郎幹事長を中心とした民主党第一期政権を潰したカート・キャンベル氏である。ロイター通信は、上記の報道記事の中で次のように伝えている。
キャンベル米国務副長官は4日、韓国の尹錫悦大統領が3日に戒厳令を発令したことについて、判断を「ひどく誤った」との見方を示した。尹氏は3日夜、「反国家勢力」の撲滅などを理由として戒厳令を発令したが、与野党に拒否されたことを受け、宣言後わずか数時間で解除した。キャンベル氏はイベントで、米国が主要同盟国の情勢を把握していなかったのは情報活動の失敗かと問われ、大統領府を含め米国が連絡を取り合う韓国側当局者ほぼ全員が尹氏の動きに非常に驚いたと説明した。
ブリンケン米国務長官は4日、戒厳令について米国は事前に知らされていなかったと述べた。また、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は戒厳令について米国がテレビで知ったと語った。
レームダック下のバイデン大統領ももちろん、テレビなどで初めて知ったのだろう。つまり、バイデン政権は大統領をはじめ、国務長官や国務副長官、安全保障担当の大統領補佐官も誰もが知らなかったと見られる。これはウソをついているのではないだろう。だから、韓国国軍を指揮している在韓米軍は、国軍による国会の封鎖・占拠を阻止したと見られる。もし、ユン大統領が、リベラル全体主義独裁制を敷いてきたバイデン民主党政権のもと、朝鮮半島の緊張激化を志向する従来の「日韓米」協調路線を外交政策の根幹と考えていたならば、戒厳令の発令に当たって必ず、バイデン政権に相談し、許可を求めたはずである。
そのための大義名分としては、与党「国民の力」の議席数が108しかなく、最大野党の「共に民主党」が170議席を占め、さらに議長も含めた他の野党が22議席を占めるという少数与党政権であるうえ、大統領夫人が収賄や株式相場の不正操作などで韓国国民の批判にされされていることなどから、ユン政権の支持率が17%、不支持率が75%とユン政権が国民に見限られていることで、朝鮮半島の緊張化を志向する、従来の「日韓米協調路線」は維持が不可能になったことを訴えれば良い。日本の右派の国際政治学者にも、韓国政府の機能が麻痺していることから、戒厳令体制への移行は成功して欲しかったとの声が出ている(https://www.youtube.com/watch?v=WlzEn8Jzp5Y&t=235s)。
ところが、レームダックに陥ったバイデン政権だが、ユン大統領からのそうした働きかけはなかったようだ。それでは、ユン大統領は単独で戒厳令を発令したのかと言えば、韓国は日本と同じく対米従属を通り越して、対米隷属国家だ。韓国は中国と国交を回復し、対中貿易で経済を活性化したことにより、1人当たりの国内総生産(GDP)で日本を追い抜いた。しかし、こうした動きは韓国の経済成長・発展が韓国の国力を強め、朝鮮半島に緊張をもたらす冷戦型の「米韓日」連携体制の強化に寄与することから、長く続いた全体主義独裁体制を確立・維持してきた米国民主党政権も、しぶしぶ認めてきたものだ。検事総長から政界に転出したとは言え、米国民主党政権の指示に従わなければならないことくらいは当然、熟知していたはずだ。
それでは、ユン大統領が戒厳令を発令した経緯はどこにあるのか。ここで、大胆な仮設を提示しているのが、国際情勢解説者のか田中宇氏だ。田中氏は、軍産複合体と好戦的なネオコン派、シオニスト(右派リクード系ネタニヤフ政権)、ロックフェラー家などの大財閥からなる米国のディープステート(諜報界)内で、シオニスト(右派リクード系ネタニヤフ政権)、ロックフェラー家などの大財閥からなる「隠れ多極主義勢力」が、従来、主流だった軍産複合体、好戦的なネオコン派からなる米(英)単独一極覇権体制派との熾烈な闘争に打ち勝ち、単独覇権体制派を傘下に置くことに成功したと見ている。
米国でトランプ前大統領が11月の大統領、上下両院議員選挙でトリプル・レッドを築くほどの大勝利を納めたのは、右派リクードの党首であり、イスラエルの大統領でもあるネタニヤフ首相らのシオニスト達が、バイデン大統領の認知症を米国の左派メディアに暴露させたうえで、大統領選の資金源を断ったほか、大統領としての資質のない無能なカマラ・ハリス氏を大統領候補者に仕立てたからだ。次期大統領のトランプ氏も、「アメリカ・ファースト」で、要するに、「世界の警察」となることを放棄し(世界各国に駐留している米軍を撤退させ)、戦争を終結させる「多極主義派」に属し、ネタニヤフ首相と組んでいる。お陰で、激戦7州はすべてトランプ前大統領が制した。2028年大統領選挙では、民主党の牙城であるカリフォルニア州やニューヨーク州も席巻・奪還する可能性がある。過去の例としては、米ソ冷戦勝利の基礎を築いたロナルド・レーガン共和党大統領候補のランド・スライディングがある。
今回の韓国ユン大統領の戒厳令発令とその失敗について、田中氏は12月5日、「韓国戒厳令の裏読み」と題する分析・解説記事を投稿・公開している(https://tanakanews.com/241205korea.htm、無料記事)。この記事のリード文は、「米大統領選でハリスの惨敗を実現したバイデン政権内の米諜報界リクード系が、バイデン政権の代表者のふりをして尹錫悦をそそのかして戒厳令を発令させ、大失敗させて辞任への道に追い込んだ。これはトランプの(在韓米軍)朝鮮半島撤兵のためだ。トランプは尹の自滅後、韓国の次の政権を取り込みつつ金正恩との対話を再開し、南北を和解させて朝鮮半島の米国覇権を放棄していく」というものだ。
現実は、尹が米国に無断で戒厳令を発令したことになっている。ブリンケン国務長官は、事前に韓国側から何も聞いていなかったと言っている。米政府は、テレビの報道で尹の戒厳令を知ったという。おそらく、尹の戒厳令発令をテレビで知ったバイデン政権は、すぐに反対することを決めて尹に電話して発令を撤回しろと命じた。米政府は、在韓米軍を通じて韓国軍に戒厳令に協力するなと要請した。米政府は韓国与党にも、尹に協力するなと加圧しただろう。これらの結果、戒厳令は1-2時間で尻すぼみになり、議会に派遣された特殊部隊も動きが鈍くなり、野党議員たちが議事堂に入れるようになり、戒厳令解除が可決された。与党も尹に戒厳令解除を勧めた。(US was not aware in advance of South Korea martial law decision, Blinken says)
尹は、事前に米国側に相談しなかったのか。そんなはずはない。問題は、尹が米国側の誰に相談したのか、誰からそそのかされたのか、だ。トランプはまだ就任前なので、バイデン政権内の誰かだ。バイデン政権の上層部には、自滅的で奇妙な展開を引き起こす勢力が、以前から存在していた。彼らは今年6月、バイデンがトランプと大統領選の討論会をやることを仕掛け、バイデンが認知症であることを暴露させた。(中略)
この流れの背景にはおそらく、トランプが就任後、1期目にやった北朝鮮の金正恩との対話を再開し、韓国と北朝鮮の和解をトランプが仲裁し、朝鮮半島を緊張緩和し、在韓米軍を撤退する流れを計画していることがある。この計画の中で、韓国の大統領が尹のままだと、北との和解を拒否しかねず、南北対話が進まない。今回、尹を戒厳令騒動で自滅させ、来年早々、トランプ就任後ぐらいに韓国も大統領選挙をやって「共に民主党」が大統領と議会の両方を握る与党になる。トランプは、南北和解に積極的になった韓国の新政権を取り込みつつ金正恩との対話を再開し、南北を和解させて朝鮮半島の米国覇権を放棄しようとしている。諜報界のリクード系は、中東や欧州だけでなくアジアでも、トランプが対立抑止と覇権放棄の功績を成功できるよう、協力している。これが私の推測だ。(イスラエルの安全確保)
大胆な仮設を踏まえた現状分析だが、バイデン左派全体主義独裁政権が、二酸化炭素による地球温暖化問題やウクライナ軍事・経済支援で、フォンデアライエン欧州委員会委員長が支配する欧州連合(EU)傘下の欧州諸国を自滅させてきたのは確かだ。
また、北朝鮮との和解を進める「共に民主党」が国会と大統領を掌握した安定的政治基盤で、北朝鮮外交を進める。こうした中で、トランプ次期大統領は大統領に就任後、キム・ジョンウン総書記に会って朝鮮半島の緊張を解き、「共に民主党政権」とともに、韓国と北朝鮮の融和を進める。そして、北朝鮮の経済再建・発展のためには、日本が北朝鮮を支配下に置いてきた日本帝国主義時代に起こした太平洋戦争でもたらした被害の償い(敗戦国の責任)のための膨大な賠償金を利用する。ただし、米国は在韓米軍を本国に撤退させる。在日米軍も同じだ。
ただし、以上の田中説には二つの問題がある。ひとつは、ユン大統領がバイデン政権内の誰から指示された(そそのかされた)のか、不明な点もある。ただし、ユン大統領が7日午前の国民向け談話で、自らの独自判断で非常事態戒厳令を発令したかのような発言をしているので、この点は暗闇に葬り去られるだろう。二つ目は、非常に大きな問題で、ロシアが北朝鮮と軍事同盟を含む包括的な二国間連携協定を結んでいることだ。北朝鮮がロシアから高度な軍事技術の供与を含む軍事支援を得ていることからすれば、在韓米軍の撤退はまかり間違えば、第三次世界大戦を引き起こしかねない。
これについては、米国のトランプ次期大統領とロシアのプーチン大統領が、両者のコネクションを利用して、ウクライナ戦争終結で合意しているような朝鮮半島終結と朝鮮半島版融和・将来の統一政策に向けて合意に至る必要がある。北朝鮮を支援してきた中国の存在も忘れてはならない。在韓米軍と在日米軍の撤退、北朝鮮の核不使用宣言とその保証体制の構築を根幹に、韓国・北朝鮮・米国・ロシア・中国・日本の六カ国平和協議会のような組織を創設し、新文明のひとつの核として、東アジア共同体の創造を目指すべきだろう。