シリア解放機構によるアサド政権の突然の崩壊、背後にトルコの支援かートランプ次期政権とネタニヤフ政権が「影の主役」(追記:欧米文明の再興強化)
アサド政権崩壊

イスラエルがイラン傘下のイスラム武装組織ヒズボラを壊滅させて停戦協定が成立した11月27日の翌日28日から、シリア解放機構=米国がテロ組織に指定しているアルカイダ系のイスラム過激派勢力「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)=がトルコによって匿(かくま)われていたイドリブからやや北上し、シリア第二の都市アレッポを支配下に置いた、その後、主要幹線道路の要衝であるハマやホムス経由で首都ダマスカスに到達、ほとんど戦わずに首都ダマスカスを制圧した。アサド大統領はロシアに亡命して、親子二代50年間にわたってシリアを支配してきたアサド政権はあっけなく崩壊した。国際情勢解説者の田中宇氏が12月9日に投稿・公開した「シリア政権転覆の意味」(https://tanakanews.com/241209syria.htm、無料記事)をサイト管理者なりに解釈すると今回、HTSに対してダマスカスを制圧し、アサド政権を打倒するように指示したのは、反アサド勢力の筆頭であるトルコ(のエルドアン大統領)である。

シリアではチュニジアで始まった北アフリカや中東での「アラブの春」(民主化運動とする専門家もいるが、イスラム教系武装組織が欧米で誕生した民主主義体制の確立を志向していたかは疑問なので、取り敢えず、反政府運動としておきます)の影響を受け、2011年から、内戦が始まった。内戦勃発後、アサド政権はイラン(直接的には地上戦を担当したイラン傘下のイスラム系民兵団組織)とロシア(反政府系組織への空爆を担当)の支援によって、内戦でほぼ勝利していた。

シリアとその周辺国の地図

ところが、反政府側組織を支援していたトルコや米国(民主党のオバマ政権)のうち、トルコのエルドアン大統領(第一次世界大戦で敗北したオスマン帝国の将軍で近現代トルコの基礎を築いたケマル・アタチュルクの脱イスラム化政策に反して、イスラム化政策を推進)は、イスラエルのネタニヤフ政権が「パレスチナ国家構想」を葬り去るため、イスラエル内のガザやレバノンに近いヨルダン西岸を守っていたハマスやヒズボラに対する大掃討作戦を展開し、世界一とされる諜報組織モサドに加え、米国の諜報組織(CIA)の情報提供もあって、「極めて正確」な攻撃によりハマスやヒズボラの指導者を殺害、イラン傘下のイスラム武装諸勢力を壊滅状態に陥れることに成功。ロシアもウクライナ戦争での勝利を何よりも優先していることから、積極的な支援には消極的であるため、トルコのエルドアン大統領は、現在がアサド政権打倒の好機と判断した。

トルコのエルドアン大統領

このため、イスラエルとヒズボラが停戦協定を結んだ11月27日の翌日の28日、アサド政権の打倒を目標にHTSに指示して、イドリブから決起させた。これより先の昨年2023年10月7日、ハマスがガザから越境攻撃を行い、人質を奪ったことにイスラエルが(表向き)激怒して、ハマスが潜伏しているガザ地域を徹底攻撃。加えて、今年2024年10月1日からユダヤ人が入植を行っているヨルダン川西岸に近いレバノンに侵攻し、レバノンの政府軍よりも強力なイラン傘下のイスラム民兵団・ヒズボラも攻撃した。こうした中でイスラエルは、世界一の諜報機関とされるモサドや米国の諜報機関(CIA)などから情報を得て、ハマスやヒズボラの指導者を正確に殺害するなどして、イラン傘下のイスラム民兵団組織の壊滅にほぼ成功した。

こうしたことから、シリアのアサド大統領は政権を支援しているイランに自らの政権の支援を頼んだようだが、田中氏によると、イランは核ミサイルを保有するイスラエルの徹底したイラン攻撃を恐れ、アサド大統領の懇願を断ったようだ。ウクライナ戦争勝利が第一のロシアも、アサド大統領自らの政権に対する支援は期待できない。このため、アサド大統領は政権の維持が困難と判断し、先に妻子をロシアに亡命させるとともに、自分自身もシリア国内が不安定化しないように政権崩壊後の政局安定化(政権移譲)のシナリオを描き、シャラリ首相に託した後、ロシアに亡命してしまった。

以下、田中氏の「シリア政権転覆の意味」から引用させていただく。なお、田中氏は11月29日投稿・公開された「イスラエルの安全確保」と題する分析・解説記事(https://tanakanews.com/241129israel.htm、無料記事)で、アサド政権の崩壊を予測されていた。「トルコ当局は、ISカイダ(注:アルカイダから出てきたカリフ制=イスラム教の教祖である預言者ムハンマドの後継者で、イスラム教団の最高指導者=によるイスラム国家再興を目指すイスラム過激派組織)の反攻は防衛的・限定的なものであり内戦の再燃でないと言っている。本当にそうなのかはわからない。アレッポが陥落したら、次はダマスカスだ。イスラエルに防衛力を削がれたアサド政権が倒される懸念がある。もしアサド政権が潰れても、シリアがイラン傘下から(注:裏ではイスラエルを経済支援している)トルコ傘下に移るのであれば、イスラエルにとって大した問題でないので米国も黙認する。イスラエルの安全確保は進みつつあるが、まだ中東情勢は流動的だ。Turkey says Syrian rebel assault near Aleppo is a 'limited operation'」。

さて、次から田中氏の「シリア政権転覆の意味」の一部を紹介させていただきます。

だが、(アサド政権打倒の戦闘が)終わってみると、今回の戦争での死者数が市民も入れて910人と、とても少ない。イスラエルからの諜報提供を受けてHTSが政府軍の拠点を上手に攻撃したのなら、戦死者がもっと増えるはずだ。今回は、HTSが強くなったのでなく、アサドの政府軍がイランの支援を失って弱くなったから負けたと考えた方が良さそうだ。アサドは、イランがイスラエルに譲歩した時点で、次は自分がやられると覚悟しており、むしろ国家的な枠組みを残したまま、自分だけ辞めて亡命して円滑な政権転覆を実現した方がシリア国民にとって良いと考えて、早々に軍を退却させたと考えられる。アサドは亡命の(注:という)結末を予測していたらしく、妻子を11月末にモスクワに逃避させている。Damascus Has Fallen: Assad Has Reportedly Left The Capital

さて、こうしたアサド政権崩壊の背後には、韓国のユン・ソンニョル大統領の非常事態戒厳令発令の失敗と同様、米国ディープステート(諜報界)内の権力構造の転換がある。ディープステートの権力は最終的に米大統領選挙を通じて、軍産複合体と好戦的なネオコンからなる英米単独覇権派から、ロックフェラー家などの大財閥とウォール街、シオニスト=右派リクード党首のネタニヤフが首相を務めるイスラエル政権=、トランプ次期大統領からなる「隠れ多極派」に移行した。特に、ネタニヤフ首相はトランプ次期大統領と組み、世界の多極化に備えている。要するに、そうした世界の多極化の中では、イスラエルも米国の庇護を受けられなくなり、イランを中心としたイスラム諸国家が立ち直った際、これらの諸国家からの攻勢から自国を守れなくなる時がいずれくる。

そうした時に備えて、イスラエルはイラン、トルコを含むイスラム諸国家との外交関係の回復や正常化、中東の平和を確保しておかなければならない。この動きを今、ネタニヤフ政権がトランプ次期大統領と組んで行っているというのが、田中氏の基本的な国際情勢分析・解説の根底にある。

イスラエルは昨年秋にガザ戦争(パレスチナ抹消策)を始めた時から、トルコに対し、パレスチナ抹消を黙認してくれたら、見返りにアサド政権を潰してシリアをトルコのものにしていいよ、と持ちかけていたふしがある。トルコのエルドアン大統領は、表向きイスラエルを猛烈に非難しつつ、裏では石油などの物資をイスラエルに輸出するのを止めずに続け、経済面でイスラエルを支援し続けた。イスラエルとトルコは、今回のアサド転覆を1年以上前から謀議していたと考えられる。イスラエルはアサド転覆によって、シリアをイランの傘下からトルコの傘下に移し、イラン系が再びシリアに入ってこないようにして自国の安全を確保した。'Target is Damascus,' Erdogan Hopes 'Smooth March' Toward Toppling Assad
中東全体解決の進展

イスラエルはサウジアラビアに対しても、同様の持ちかけをしていると思われる。レバノンは、シリアの影響力が強くなる前、サウジの影響力が強かった。イスラエルがヒズボラを潰し、その余波でトルコがアサドを潰せば、レバノンは再びサウジの影響下に戻っていく。だからパレスチナ抹消を黙認してくれとイスラエルが持ちかけ、サウジはおおむね了解しているように見える。サウジなどアラブ諸国は(ヘラヘラと)アサド転覆を歓迎している。アラブ諸国は、パレスチナ支持も口だけになっている。Saudi Arabia says it is satisfied with steps taken to ensure safety of Syrian people

トルコもサウジも、中露も米国(注:バイデン政権の頃からだが、本格的にはトランプ次期大統領政権以降)も、イスラエルがパレスチナとイラン系を潰すのを黙認ないし支持してきた。イスラエルに譲歩しなよと諸大国から説得されたイラン(注:科学技術論文引用数は日本より多く、ドローン製の攻撃兵器は世界各国の脅威になるなど近い将来、経済・軍事大国になる公算が大きい)は、多極型世界の大国として認められることと引き換えに譲歩に同意した。この流れの犠牲になって、アサドは転覆された。The End of Pluralism in the Middle East

アサド政権崩壊後のシリアはどうなるー国内正常化と安定化は困難

アサド政権を打倒したシリア解放機構=米国がテロ組織に指定しているアルカイダ系のイスラム過激派勢力「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)=のシャウラニ指導者は10日、シリアの「平和的な政権移譲」についてシャラリ首相と会談したうえで、シリア暫定政権の首相に北西部の統治機構のリーダーを務めてきたバシル氏を任命(任期は来年2025年3月1日まで)、正式なシリア新政権の発足に向けて急ぐ構えだ(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241210/k10014664311000.html)。

アサド政権崩壊後のシリアが安定化するかどうかは、シリアに存在するアルカイダ系のイスラム諸過激派の連携が成立したうえで、、アサド大統領からジャラリ首相に託された政権移譲行程が軌道に乗るかにかかっている。特に、HTSに指令を出したトルコのエルドアン政権の舵取りが奏功するかが最も重要な焦点だ。しかし、トランプ次期大統領が「米国は関知しない」と語っているように、シリア国内の正常化と安定化は難しい側面がある。何しろ、アルカイダ系でカリフ制のイスラム国家を目指す勢力が多数存在し、互いに牽制ないし闘争し合うからだ。

しかし、アサド政権が最終的にはトルコ傀儡の政権に変転すると思われ、この結末についてはトランプ次期政権下の米国にとっても、ネタニヤフ政権下のイスラエルにとっても特に問題はない。今後暫くの間、トランプ次期大統領はネタニヤフ首相と組み、米国の単独覇権放棄と自国最優先(アメリカ・ファースト)、多極世界の建設などの政策を実施しようとしていることに注意が必要で、来年2025年1月20日に第二次トランプ政権が誕生すれば、世界は劇的に変化することになる。

なお、トランプ次期政権はBRICS諸国に対し、ドル以外の通貨を国際決済システム(貿易決済システム)に使用すれば、「100%の関税をかける」と脅している。これについて田中氏は、12月2日に投稿・公開した「終わりゆくEUやユーロ」(https://tanakanews.com/241202europ.htm、無料記事)で、「同時に、欧州ではドイツもフランスも政権崩壊が進んでおり、欧州が米国と並ぶ世界の中心である状態から急速に遠ざかっている。ウクライナが停戦しても、米欧は世界の中心に戻らない。トランプが非米諸国を経済制裁(すれば)するほど、非米側は『米国要らず』の世界体制を構築していく。その全体状況を見て、プーチンはトランプのウクライナ和平策に乗ることにしたのでないか」と見ている。要するに、米欧諸国は欧米文明没落の時代に突入しているのである。

米欧キリスト教文明圏没落の回避には「正統派アタナシウス派キリスト教」に対する宗教改革が不可欠

マックス・ウェーバーは「世界宗教の経済倫理・序論」で、「人間の行動を直接に支配しているのは、理念ではなく、(物質的な、観念的な)さまざまの利害である。しかし、『理念』によってつくりだされたさまざまの『世界像』は、きわめてしばしば、線路の切り替え役(注:転轍手)として、進路を規定し、その路線にそってさまざまの利害のダイナミズムが人間の行為を推進させてきたのである」(青木書店「現代社会学体系」5・ウェーバー、202頁)と述べている。

そして、世界宗教が説いてきた世界像が歴史の発展に重大な役割を果たしてきたことを、「古代ユダヤ教」を起点とする「世界宗教の経済倫理」で実証している(執筆途中で逝去し、未完に終わった)。特に、西欧のドイツ人であることと、実存哲学者であり、イエス・キリスト生誕前の紀元前5世紀から3世紀にかけて、ゾロアスター教(世界最古の一神教、イラン)、儒教(中国)や仏教(インド)、古代ユダヤ教(古代イスラエル)の再構成など、世界の各地で高等宗教や高度な哲学が誕生、現代に至るまで人類の精神構造を基礎づけた「枢軸時代」が展開したことを提唱したカール・ヤスパースと親交があったことなどもあり、ユダヤ教から生まれたキリスト教と政治・経済の相関性を重視している。現代はまさに、新たな世界宗教が提示する「世界像」によって新たな文明圏を創造すべき時に来ているのである。

マックス・ウェーバー

さて、米欧文明没落の原因は、「人権の多様性」などと称して、リベラル全体主義独裁体制派が容認させようとしているLGBTQの「文化共産主義」の潮流や、G7諸国での離婚・晩婚・非婚・少子高齢化という米側陣営諸国の現代社会の超難問題に対して、正統派アタナシウス派キリスト教が解決の道を提示できていないことにあると断定して良い。キリスト教には正統と異端の流れがある。

その正統と異端に関して、高校生でも理解できる「世界史の窓」は「キリスト教の教義において問題となるのは、単純化して言えば、主としてイエスは神であるか、人であるか、あるいはその両方であるのか、という論争であった。三位一体説が正統教義として確立してイエスは神性と人性の両面をもつとされたわけだが、イエスが神性か人性のいずれかだけをもつと主張するものが異端とされることが多かった」(https://www.y-history.net/appendix/wh0103-152.html)としている。

正統派は歴史上、しばしば異端派の弾圧を行ってきた。ただし、正統と異端というのは人間が定めたことで、宗教的真実がどちらにあるのかは、正確には分からない。そして、正統派にも問題が少なくない。キリスト教の正統派であるアタナシウス派の門団点としては、例えば聖母マリアの処女懐胎は信仰による以外に、現代人には理解できない。また、イエスと聖霊が神の別の姿とし、究極的には神とイエスと聖霊はすべて同じというのも難解である。また、正統派キリスト教は「キリストの十字架の贖罪死」を信ずれば、キリスト教信徒は救われると説いているのに、一方では、キリストは再臨されるとも説いている。何のために再臨されるのか、不明である。

そもそも、イエスは実在したのか。実在したのなら何故、降臨されたのか(生涯の目的は何であったのか)。また、再臨された時に、キリスト教の説く救いを信じて他界した信徒は、肉体をもって蘇ると一部の教派では信じられている復活論も、現代人には理解が極めて困難である。本サイトでは異端とされたアリウス派キリスト教を高次元的に引き揚げ、アタナシウス派キリスト教を吸収する宗教改革が必要だと指摘してきた。そのためには、正統派または正統派を自認するグループと弁護士、強制脱会組織らがネットワークを組み、「異端」と決めつけたキリスト教系の新宗教団体を弾圧することを阻止しなければならない。つまり、現代世界に必要になっている宗教改革実現のために、日本国憲法を含めて米側陣営の民主主義諸国で保証されているはずの「信教の自由」が現実に保証されなければならない。

キリスト教の正統と異端の対立を克服するためには、「信教の自由」が欠かせない。

ところが、日本では例えば、上記のネットワークの影響を強く受けて、岸田文雄首相を中心とした内閣(当時)が一夜にして、刑法に違反していないキリスト教系の宗教法人である世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対して、宗教団体としての死を意味する「宗教法人解散命令を発出すること」を裁判所に請求し、「信教の自由」を事実上、否定した。民法第709条(不法行為=故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害すること=によって相手に損害を与えた場合の損害賠償責任を定めた民法条項)は、宗教法人解散理由を定めた宗教法人法81条第一項の「法令」には本来、相当しないが、岸田政権は民法第709条に違反していることが、解散請求理由としている。しかし、家庭連合は裁判で敗訴した場合は必ず、損害賠償を行っており、民法709条については違反しているのではなく、遵守している。

政府(岸田政権以降の文化庁)では、民事訴訟で認定された家庭連合による不法行為が多発(少なくとも22件)しているので、宗教法人解散命令を裁判所に請求したのだろうが、民法709条が定義する「不法行為」自体は法令ではない。強いて言えば、裁判所が「不法行為」として認定し、被告の家庭連合に損害賠償命令を下した民法上の法律があるはずであるが、その法律が民法の何条何項であるかは不明のようだ。民法第709条以下、第724条までに「不法行為」の具体的内容(名誉毀損罪など)および関連事項が記載されているが、こうした内容が、すべての自由および基本的人権の根幹とされる「信教の自由」を否定するに足りる内容かと言えば、そうではないだろう。政府(直接的には文部科学省・文化庁)がその条項を明示して、裁判で家庭連合と争うということをしない限り、裁判所に対して、家庭連合に対する宗教法人解散命令を請求することは本来は、できないように思われる。

ただし、宗教法人と同法人の提示する教義を捨てた元信徒(価値中立的な意味での「背教者」、旧統一教会の場合には半統一教会系の牧師らの指導で拉致監禁されて信仰を失い、教会を不法行為で訴えるようになった元信者も多い)との間には、民法709条に従った争いが耐えず、原告の教義を捨てた「背教者」が勝訴する場合もあれば、被告側の宗教法人が勝訴する場合もある。双方が和解に至ることも少なくない。だから、米側陣営諸国のいわゆる民主主義諸国では、基本的人権の要(かなめ)である「信教の自由」を否定する結果になる宗教法人解散の法的理由としては、その宗教法人の代表役員らが重大な、刑法違反の「刑事罰」を犯した場合に限定している。岸田前政権以前の自民党政権もそうであった。

岸田政権が、宗教法人を解散させる宗教法人法第81条一項に規定されている「法令」に「民法」も含めたことは、家庭連合だけでなく、他の宗教法人も解散に追い込み、事実上、日本での「信教の自由」を否定する結果をもたらす。それというのも、同法第48条の二に「解散した宗教法人は、清算の目的の範囲内において、その清算の結了に至るまではなお存続するものとみなす」と規定されているが、この規定に対する解釈としては、株式会社ぎょうせいが出版した「逐次解説 宗教法人法」(渡部蓊著、1997年版)の287頁に「清算法人が従来の目的たる活動を復活させることは(清算の)目的の範囲内に入らない」という解釈がなされている。つまり、ある宗教法人が解散された場合、その宗教法人に所属していた信徒たちは元の宗教活動はできなくなるからである(魚谷俊介著「反証 櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』xxii」=世界日報社刊=)。

この家庭連合に対する事実上の信教の自由の否定と不当な弾圧は、米国にも伝わっている。そして、このことはトランプ次期政権でも大きな問題になってきている。トランプ次期大統領は実のところ、キリスト教の根本主義に相当する福音派のキリスト教徒で、ポーラ・ホワイト牧師(全米信仰指導委員会会長)を宗教顧問に登用している。ホワイト牧師は今年2024年12月8日に日本で行われた、信教の自由の重要性を訴え、民主主義を発展させるための活動を行う「国際宗教自由連合(ICRF)日本委員会(代表・伊東正一九州大学名誉教授)」主催の東京大会にビデオ・メッセージを寄せた(https://www.youtube.com/watch?v=EX7ikCdK5u0、関連Youtube動画として、アシジの聖フランシスコの影響を受けてクリスチャンになり、穏健福音派教会の「主の羊教会」主任牧師を務める中川晴久牧師の中川TVチャンネル・https://www.youtube.com/watch?v=jUA_eJSQLgYを参照されたい)。

ホワイト牧師はその中でまず、トランプ次期大統領が安倍晋三首相(当時)と非常に親しかった間柄であり、2022年7月8日、凶弾によって狙撃殺害されたことを悼むことからメッセージを開始した。続けて、「信教の自由が他のすべての自由の基礎になる」と明言。そのうえで、米国務省の信教の自由に関する年次報告書を根拠として、安倍元首相殺害後に世界で宣教活動を展開している世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)が、日本で基本的人権侵害の不当な差別的対応を受けていることを憂慮するとともに、日本が1979年6月21日に批准した国連の「人権宣言ならびに市民的・政治的権利に関する国際規約(国連人権B規約)」(注:条約と同じ拘束力を持つ)を遵守していないことを厳しく批判した。また、日本政府が信教の自由が遵守されているかどうかを調査する国連の担当者を受け入れなかったことに強く反発し、日本政府(岸田前政権から事実上、政権を禅譲された石破茂政権)に対して、すべての日本国民に対して「信教の自由」を守るように警告している。

トランプ次期大統領の宗教顧問であるポーラ・ホワイト牧師

なお、安倍元首相の狙撃殺害テロの犯人は、山上徹也被告とは考えられない。外務省の国際情報局長やイラン大使、防衛大学教授などを歴任した国際情勢に詳しい孫崎享氏は、安倍元首相の後方に位置していた山上被告が、致命傷になった正面胸の2箇所の銃創(注:銃弾による損傷。2箇所の銃創のうち1箇所から入り込んだ弾丸が元首相の心臓系に到達、出血多量で死亡した=殺害された)を与える(銃弾で致命傷を負わせる)ことはできないと指摘。プーチン大統領との多数回に及ぶ直接の面談から、ロシアのウクライナへの「特別軍事作戦」を正しく理解していた安倍元首相の殺害を企てた黒幕が存在すると見ている(https://www.youtube.com/watch?v=v9oOdK_xiLYhttps://www.youtube.com/watch?v=_jpZ1uW0QnY)。

孫崎氏は安倍元首相のウクライナ戦争についての認識について、次のようにも語っている(https://dot.asahi.com/articles/-/198200?page=1)。

いま思えば重要な意味合いを持つ(安倍元首相の)発言がありました。侵攻から3日後の昨年2月27日、安倍晋三元首相はテレビ番組で、「プーチンの意図は、NATO(北大西洋条約機構)がウクライナに拡大することを許さない、そして東部2州(ドネツク、ルハンスク州)で言えば、かつてコソボが独立した際にも西側が擁護したではないか、という論理をプーチンは使おうとしている。プーチンは領土的野心ではなく、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしている」という趣旨を話し、ロシア側にもそれなりに「理解しうる理由」があることを説明しました。

さらに安倍氏は5月の英エコノミスト誌の取材では「ゼレンスキーがNATOに加盟しない、東部2州に自治権を与えると言っていればロシアの侵攻はなかった」とも語っていました。

田中宇氏も安倍元首相を殺害した真犯人は、山上徹也被告ではなかったと見ている。そして、「安倍の死去により、日本の権力は岸田のところに転がり込んだ。これまで岸田は安倍の傀儡だったが、安倍が死んだので岸田は好きにやれるようになった。岸田が今後も安倍が作った米中両属の路線を継続する可能性はゼロでない。しかし、安倍殺害犯を動かした背後の勢力は、岸田に勝手にやらせるために安倍を殺したわけでない。安倍を殺した勢力はおそらく、安倍を殺すと同時に岸田を傀儡化し、安倍が続けてきた米中両属の路線を潰し、傀儡化した岸田に中国やロシアに対する敵視を猛然とやらせるつもりだろう」(注:「安倍元首相殺害の真相=https://tanakanews.com/220710abe.htm=、安倍元首相殺害の真相その2=https://tanakanews.com/220808abe.htm=」)としている。

安倍元首相の狙撃テロ事件は、山上被告の怨念によって引き起こされたものではなく、ウクライナ戦争という重大事件にかかわるものであり、黒幕はウクライナ戦争を引き起こした米国ディープステートのうちの軍産複合体や好戦的なネオコン勢力など米国単独覇権体制派(リベラル全体主義独裁体制派)だろう。トランプ次期大統領も、米国単独覇権体制派から暗殺されそうになったが、九死に一生を得た。支持勢力の福音派からは「神の加護」と考えられている。安倍元首相殺害の黒幕も、トランプ大統領暗殺未遂の黒幕も同じだろう。トランプ次期大統領がこのことを知ったら、岸田前首相に関わる宏池会首脳はただでは済まない。トランプ氏が石破首相との面会を断ったのは、その第一歩と捉えるべきだ。

トランプ氏は、フランスのマクロン大統領と会ったし、カナダのトルドー首相とも関税の件で連絡を取った。そして、イスラエルのネタニヤフ首相ともしばしば連絡を取っているのに、クリスチャンである日本の石破茂首相には、「トランプ氏陣営は、権限のない民間人が外国政府と外交協議を行うことを禁じた法律」(https://www.asahi.com/articles/ASSCJ4T42SCJULFA00TM.html)があるとの理由で、面会を拒否されたわけだから、つじつまが合わない。トランプ氏は石破首相を嫌っていると思われる。

これは、「信教の自由」を事実上否定し、最高裁判所にもそうさせようとしている岸田文雄前首相によって、清和会つぶしのために石破氏が自民党総裁に選出されたことと大きな関係があると思われる。この状態が続き、日本で「信教の自由」が無くなれば、日本はトランプ第二次政権からまともな相手をされなくなる可能性を十二分に考慮しておかなければならない。なお、日本での信教の自由の保証を主張するキリスト教系宗教教団としては、欧米文明凋落を回避するための宗教改革運動を行うことはもちろん、その関連団体も含め、キリスト教が従来から目指してきた「神のもとでの一大家族による世界平和」を実現するための現実的な政治・経済・外交・軍事すべての文明領域における抜本的な政策体系を提示しつつ、運動するべきである。

 

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