東京都の小池百合子知事は15日夕方からの記者会見でこのところ、都内での新規感染確認者が大幅に増加しているうえ、同席した都の「専門家」とされる国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染研究センター長が感染地域が、いわゆる新宿歌舞伎町や豊島区池袋の夜の街の「接待を伴う飲食店」だけでなく、感染経路不明な感染者数が増加し、市中感染が拡大しているとモニター報告したことから、感染警戒度の最高度の段階への引き上げを表明した。小池都知事は改正インフル特措法の24条9項に基づいて都民や企業などに各種の「要請」を行ったが、要請に従わない場合に備えて、罰則規定を設けるなど改正インフル特措法の「改正=改悪」を政府=安倍晋三政権に強く求めた。

まず、小池都知事が記者会見で感染警戒度を最高度の段階への引き上げを表明した場面を下図に示す。

なお、NHKが2020年7月16日11時57分2020年7月16日 15時43分の時点で投稿した「東京都 新たに280人台の感染確認見通し 新型コロナウイルス」という記事によると「東京都 新たに286人感染確認 感染者数1日で最多に 新型コロナ」と題する記事によると、小池都知事は本日16日段階の新規感染確認者は280人台に乗せる可能背があるとの報告を受けているという。公式発表は毎日、午後4時前。「東京都によりますと、16日、都内で新たに286人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したということです。都内で1日に確認された数としては、今月10日の243人を上回り、これまでで最も多くなりました」という。

NHKのサイト(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200716/k10012518311000.html?utm_int=news_contents_news-main_001)より。

改正インフル特措法第二十四条9項とは「都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、公私の団体又は個人に対し、その区域に係る新型インフルエンザ等対策の実施に関し必要な協力の要請をすることができる」というものである。協力の要請とは「営業の自粛や自宅待機」などの要請である。

日本国憲法は〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕として第二十五条で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めており、続く第2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と踏み込んでいる(国民の生きがいのある生存権の保証)。

また、第二十九条で「財産権は、これを侵してはならない」と規定しており、3項で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」と定めている。改正インフル特措法は、第二十四条などで都道府県の知事(首長)に一定の権限を付与しているが、各種の要請には憲法に基づく補償の義務が明記されていて当然だが、明確な言及がない。これが、改正インフル措置法の問題点だ。政府=安倍政権は憲法第九十九条で、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」としており、インフル特措法の改正では本来、「新型インフルエンザ」を同法の適用対象に盛り込むことよりも、この「補償規定」を明確に盛り込むことが最優先の課題であった。

ところが今回、小池都知事は今回、改正インフル特措法に明記していない休業補償を明確するよう求めるどころか、個人や「接待を伴う飲食店」の事業主、演劇など文化施設を運営する事業主に対してさまざまな要請を行っているものの、15日の記者会見で慣れ合い・お気に入りの記者から「要請しても効果が得られない」との質問に対して、「改正インフル特措法に罰則規定を設けるよう、国に対して働きかけたい」との旨の回答をした。「補償なき休業等の要請」から「補償なき罰則規定の盛り込み」への改悪を要請したことになる。ただし、「自粛」から「自衛」へのコロナ禍対策の抜本的な転換に従って、休業要請はしていない。

その背景には、小池都知事は権力の座を求めることだけが目的の政治屋であるが、新自由主義=弱肉強食の考え方に縛られていることも確かであることがある。加えて、ステルス都知事選で1兆円あった「財政調整基金」をばらまいたため、コロナ禍対策に使える資金がなくなっていることも大きい。2020年度補正予算にしても盛り込む総額3100億円と都民の生命と個人事業主を含む企業に対して、深刻な悪影響を及ぼしているコロナ禍への対策としては規模が不十分である。

また、「感染警戒度基準」を最高段階に引き上げる時期も遅かった。腹心とされる大曲センター長にしても、「今回は(軽症の)若者が多く、重症者が少ない。重症者の増え方は前回と比べ、非常に程度は低い。違う波を見ている感じがする」と語る一方、感染経路の不明な感染者の割合が増えており、現在の状況が続くと「感染経路不明の感染者が(注:だけで)4週間後には(1週間平均で、2の4乗倍の)1200人」に達すると危機感だけ煽っている。第二波であるか否かも分からないと専門家としては失格だ。

新型コロナウイルスはRNA型で、変異しやすい。弱毒性のものに変異するのが最良だが、現在の「首都圏ウイルス」の遺伝子解析を行い、第一次感染時との異同、当初は若者に感染者が多かった理由、毒性について解明するのが専門家と指定の最初の基本的な任務なのではないか。大曲センター長が述べたことは、感染者の統計数字を見れば、特に専門家ではなくても分かる内容だ。

東京新聞のWebサイト(https://www.tokyo-np.co.jp/article/42818?rct=main)によると、現在の感染のじょぅきょうは下図に示すとおりだ。

東京新聞のサイト(https://www.tokyo-np.co.jp/article/42818?rct=main)による。

陽性率や入院患者数、重症者数が少ないが少しずつ上昇している。新規感染確認者が多くなり始めた時点で今回の「首都圏コロナウイルス」の遺伝子解析を行うべきだった。そうでないと、対策の立て方も、取り敢えず打ち出した対策の効果についても、都民は戸惑うことになる。

基本的には、事業者、区市町村地方自治体任せであり、「警戒レベルは最高度の段階」と言いながら、踏み込んでおらず、腑に落ちるところがない。今回の新型コロナウイルスについては、武漢型、欧州型、東アジア型をはじめとして様々な型がある。今回のコロナウイルスの遺伝子解析を基本として、感染拡大抑制と人命尊重を第一にして、営業活動の自由化や移動の自由化は、地域・職場レベルでの全員検査を行い、徐々に再開していくというのが基本であり、筋だ。

さて、小池都知事が示した対策は下記の通りだが、重要な問題点がある。それは、東京都の基準に沿った感染防止対策を行い、ステッカーを貼った店でなければ、都民は入店してはいけないとしていることだ。それなら、事業主が行った感染防止対策が完全であることを都が確認して、「証拠の印」を押印する必要がある。ステッカーが本物か偽物か見分けがつくのか、また、本物のステッカーを貼っている店なら、絶対に感染しないのか、それらの点を東京都は保証できるのかという問題が必ず出てくる。

実際に、東京・新宿の劇場で発生した集団感染では、東京都が感染防止対策の可否を判断していなかったことが浮き彫りになっている。劇場側は対策に問題はなかったと理解していたが、小池都知事は記者会見で問題があったと発言しているが、事業主が問題はないたと判断しても、東京都にとってはそうでない場合があるということの端的な例だ。小池都知事も「ステッカーを貼った飲食店や劇場では感染者を出さないように」とチラリと懸念を表明したが、そうした場合に誰が責任を負うのか。

【1】積極的な検査の拡大による感染拡大の抑制
○検査体制の拡充(検査処理能力の向上と保健所の体制強化)
 ・最大処理能力1万件/1日を目指す
 ・保健所の支援拠点を設置予定(7月20日)
○背極的な検査の受診勧奨による感染者の早期発見
 ・「社交飲食店(接待を伴う飲食店)」の従業員等へのPCR検査
○入院や宿泊療養による他者との接触機会の制限
 ・中等症患者用にレベル2(2700床)の確保を要請
 ・7月16日と来週に、新たに2つの宿泊療養施設を開設
2】都内共通の対策に加え、地域の事情を踏まえた重点的・ピンポイント対策
○感染防止策を確実に実施しているお店の利用
 ・ガイドラインの尊守
 ・「感染防止徹底ステッカー」の提示
 ・ステッカーを提示しているお店の利用
○区市町村と共同での地域における感染症対策の推進
 ・地域の事業者団体への連携支援
 ・都と区市町村との協議会の設置
 ・区市町村との共同による感染症拡大推進事業(7月補正予算)
【3】年齢層や業態に応じたきめ細かい対応
○重症化のリスクの高い高齢者等への対策の徹底
 ・社会福祉施設等の施設内感染防止策の再徹底
 ・施設職員の施設外での感染予防の注意喚起
○感染リスクの高い業態への感染拡大防止対策の徹底
 ・検査の拡大(希望する高齢者施設など)、休業要請
 ・協力金の支給を一体とした区市町村との連携事業
○年齢等に合わせた多様なツールによる広報
 ・感染動向を踏まえたターゲットに合わせた戦略的広報

なお、「Go to トラベル」キャンペーについて、小池都知事は「実施時期や方法にはよく考えて欲しい」とアリバイを作りながら、「国が判断すること」と政府=安倍政権、自公に屈した形だ。「Go to トラベル」は「Go To キャンペーン」の柱(他に、「Go to Eeat」、「Go to Event」、「Go to 一般商店街」)であり、2020年度第一次補正予算で決まったもの。総額1兆7000億円でそのうちトラブル・キャンペーンは1兆3000億円が投じられる。

ただし、「Go to キャンペーン」は、新型コロナウイルス感染拡大が「収束」した段階で実施するというのが4月の閣議決定だ。これに関して、国民民主党の馬渕澄夫衆院議員が15日の衆院予算委員会の閉会中審査で、「キャンペーンを行うということは、新型コロナウイルス感染症の拡大が収束したと判断したのか」と政府を追及。さまざまな不祥事を抱えて野党から追及されるのを恐れて欠席した安倍首相に代わり、西村康稔経済再生相は「(5月25日に緊急事態を解除した)時点で、その時の流行は収束したと判断した。ただ、その後、感染が増えている。危機感を持って対応する」と判断の甘さを認めざるを得ない苦しい答弁しかできなかった。

2020年7月16日零時27分に投稿した「全国で452人感染 大阪では緊急事態宣言の解除後最多」と題する記事によると、「東京への移動歴がある感染例も目立った。埼玉県の20~40代の女性会社員3人は、クラスター(感染者集団)が発生した「新宿シアターモリエール」の舞台を見ていた。神奈川県でも20代と30代の女性2人、長野県の20代女性もこの舞台を鑑賞していた。兵庫県の40代と70代の女性2人は今月4~5日に一緒に上京し、新宿にも寄ったという。静岡市の20代女性は今月、新幹線で都内に行き、感染者が出た飲食店などを利用していた」という。首都圏特に東京から全国の道府県に感染が拡大している。

ただし、政府の政策に詳しい政経アナリスト・政策提言者の第一人者である植草一秀氏は、メールマガジン第2682号「感染拡大だけでないGoTo政策致命的欠陥」で、次のように解散・総選挙目当てのステルス選挙運動だと見抜いている。

「GoToキャンペーンの場合、たった一つの事業者に数千万円から数億円の財政資金が投下されるケースが多発することになると思われる。また、旅行をする側の恩恵は、多数回、高額旅行をした者に財政資金が厚く投下されることになる。この恩恵を享受できるのは高額所得者に限定される。合計で100万円の給付を獲得する個人も出現すると思われるが、まず間違いなく富裕層になるだろう」と述べ、利権支出、秋にも予想されている解散・総選挙の血税を使った事実上の「買収資金」であることを示唆している。日本国憲法に定める「法の下の平等」の理念に著しく反する。


1兆7000億円もあれば、まずは経営難・コロナ禍対策(PCR検査などの重要な検査)を行えないために、危機的状況にある医療機関の支援に回すべきである。抜本的なコロナ禍対策はそっちのけにして、ステルス選挙に動くこのような政権には一刻も早く、退場してもらわなければなない。なお、野党と称する政党では立憲民主党が国民民主党の吸収を国民側に伝えており、日本共産党も新自由主義批判はするが、「野党共闘」に加わることを最優先している。この重要な問題については、のちほど述べる。

※追記:2020年7月16日
朝日デジタルが2020年7月16日17時47分に投稿した「GoTo事業『東京発着と都民は対象外』 国交相が表明」と題する記事によると、「赤羽一嘉国土交通相は16日夕、政府の観光支援策「Go To トラベル」事業について、東京発着の旅行を対象外にする考えを表明した。政府は支援策を22日に全国一律で始める考えだったが、地方自治体や与党などから異論が続出。方針を転換したうえで22日から実施に移すことにした」という。

神奈川県や埼玉県、千葉県のほか大阪府でも感染確認者が増大しているのに、何故、「東京発着」のみ中止なのか、大きな疑問だ。やはり、ステルス総選挙運動の一環なのだろう。「Go To キャンペーン」事業は即、すべて中止にしその分、確保した補正予算額はすべて医療機関の再建、PCR検査等の検査体制の充実(指定感染症に政令指定されているが、日本で広範に感染が拡大している以上、新自由主義政策のもとで大幅に減少した保健所だけに対策を任せるのは止め、国民の近場の病院で簡単に検査を受けられるような体制に切り替え、自己負担額も基本的には政府が補償するようにするなど)に充てるというのが筋だ。

政府=安倍政権のコロナ禍対策の支離滅裂さがまた示された。

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