保守反動勢力、日本学術会議への菅首相の人事介入問題を「会議見直し」事案にすりかえ

菅義偉首相が、日本学術会議法(日学法)の法解釈を「変更する」ことなく同会議が推薦した105人のうち6人の人文科学者・社会科学者を任命拒否した法律違反行為が、国会閉会中審査の一環として開かれた衆参内閣委員会などで明らかになっている。これに対して、菅政権は同会議を「行政改革」の対象にして、日本学術会議法の見直しを図ろうとしているようだ。この構図は、安倍内閣(当時)が検察庁法を無視して黒川弘務東京高検検事長の定年延長を閣議決定し、その後、検察庁法改正案を国会に提出した経緯に似ている。しかし、同改正案が今年の通常国会で見送りになり、「病気」理由の安倍晋三首相の辞任の真の理由のひとつとの指摘が高まっているように、日学法の改正を強行すれば菅首相も同じような末路をたどる可能性がある。れいわ新選組の山本太郎代表は11日に行った札幌市大通公園近辺で行ったゲリラ街宣で野党共闘参加に前向きな姿勢を打ち出しており、次期総選挙は「政権交代」が最大の争点になる見通しだ。

◎追記:10月12日の新型コロナ感染者数は、東京都で1周間前の5日月曜日の66人より12人多い78人だった(https://www.fnn.jp/articles/-/94454)。2周間前の9月28日と同じ。重症者は東京都基準で前日比1人増え25人になった。東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は177.6人、PCR検査数は4140.9件だから、陽性率は4.29%。東京都独自の計算方式では3.6%。感染経路不明率は60.02%。全国では午後23時59分時点で278人の感染者が確認 され、4人の死亡者が出た。東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、10月11日時点の実効再生産数は東京が前日比0.04人増加の1.00人、全国が同0.03人増加の1.02人。東京都でも全国でも緩やかに感染者が増加している傾向が窺える。

FNN プライムによる10月12日の東京都での新型コロナウイルス感染者
FNN プライムによる10月12日の東京都での新型コロナウイルス感染者

菅政権を支える保守反動勢力の動きについて述べる前に、菅首相の不可解な発言を指摘しておく必要がある。首相は5日、内閣記者会に所属するマスコミ各社を限定する「ピックアップ・インタビュー」を行い、「日本学術会議については、省庁再編の際、そもそもその必要性を含めてその在り方について相当の議論が行われ、その結果として(同会議)に総合的、俯瞰的活動を求めることにした。まさに総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の人事も判断した」と述べている。

そして、2018年(平成30年)に内閣府日本学術会議事務局の「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」なる文書を持ち出してきて、今回の菅首相の任命拒否を正当化しようとした。この論理が破綻していることは、既に紹介させて頂いた。

付け加えさせていただくと、日学法では第7条1項で「日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下『会員』という)をもつて、これを組織する」、2項で「会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」としており、第17条は「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする」と規定している。菅首相が記者会見で語った「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」というのは抽象的で意味不明だが、「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考」するという日学法の会員推薦要件とははっきり言って、関係ない。

むしろ、日本学術会議を支配する狙いからの発言と思われる。明らかに、「優れた研究又は業績がある科学者」のうちから会員に推薦するという推薦要件に反するものであり、日学法に違反して任命を拒否したということだ。なお、「総合的、俯瞰的」という言葉は、学識経験者や実践的知識を持つ者などから構成され、行政庁の意思決定に際して、意見を聴取することを目的とした政府の有識者会議で乱発されている(https://www.youtube.com/watch?v=sCGOhOlTWzE)。

有識者会議というのは、基本的には政府の意思決定にお墨付きを与える御用機関である。この有識者会議ではさかんに、日本学術会議の見直しが議論されている。このため、日本を日本国憲法に違反して米国とともに戦える国にしたいという安倍、菅政権としては、日本学術会議が目の上のたんこぶであり、政権の支配下におけるようにしたいがため、菅首相も「(日本学術会議に)総合的、俯瞰的活動を求めることにした」と発言したのだろう。

日本学術会議は日学法の前文で「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」と定められているように、戦前・戦中のファシズム政権によって太平洋戦前・戦中に科学者が無謀な戦争に駆り出されたことに対する反省から、行政機構の重要なひとつの組織として設置されたものである。

日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する」声明
日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する」声明

安倍政権とその後継政権である菅政権としては、こうした目的のもとに設置された日本学術会議が邪魔だったのであろう。菅首相の任命拒否は明らかに日学法違反である。ところで、朝日新聞社などが10月9日に行ったインタビュー(https://digital.asahi.com/articles/ASNB95V9XNB9ULFA020.html)によれば、「首相が任命を決裁したのは9月28日で、6人はその時点ですでに除外され、99人だったとも説明した。学術会議の推薦者名簿は『見ていない』としている」という。

これは、①10月5日の記者会見で、「まさに総合的、俯瞰的活動を確保する観点から、今回の人事も判断した」という「6人の任命を主体的判断で拒否した」との意味の発言と矛盾する②日学法第7条1項では、「日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下『会員』という)をもつて、これを組織する」と規定しているが、この定数要件を無視したことになるーと思われる。まったく、理解できない菅首相の発言である。野党は一連の菅首相の発言に対しても徹底的に追及していかなければならない。

日本を米国とともに戦える国にしたい自公政権としては、行政改革の一環として目的に沿うように解体・再編する動きがあったが、これに火をつけたのが、2016年1月28日、週刊文春が報じたUR口利き金銭授受疑惑の責任を取って内閣府特命担当大臣(経済財政担当)を辞任した甘利明衆院議員である。何故か、検察の起訴を免れて復活したが、この疑惑に対する説明責任は果たしていない。

BS朝日に出演した甘利明衆院議員
BS朝日に出演した甘利明衆院議員

甘利氏は今年8月6日、自身のブログの「国会リポート」(https://amari-akira.com/01_parliament/2020/410.html)で、日本学術会議が中国の「選任計画」に加担していると厳しく批判した。中核部分を引用させて頂く。

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日本学術会議は防衛省予算を使った研究開発には参加を禁じていますが、中国の「外国人研究者ヘッドハンティングプラン」である「千人計画」には積極的に協力しています。他国の研究者を高額な年俸(報道によれば生活費と併せ年収8,000万円!)で招聘し、研究者の経験知識を含めた研究成果を全て吐き出させるプランでその外国人研究者の本国のラボまでそっくり再現させているようです。そして研究者には千人計画への参加を厳秘にする事を条件付けています。中国はかつての、研究の「軍民共同」から現在の「軍民融合」へと関係を深化させています。つまり民間学者の研究は人民解放軍の軍事研究と一体であると云う宣言です。軍事研究には与しないという学術会議の方針は一国二制度なんでしょうか。
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この内容が安倍、菅政権を支えてきた保守反動勢力によって広く拡散され、日本学術会議の解体・再編論の火に油を注いだ。甘利氏の「千人計画」に関する発言は5月4日付の政府系読売新聞の連載記事でも取り上げられた。しかし、この甘利氏のブログ記事には根拠が示されていない。事実関係を調査しているBuzFeedJapanの「日本学術会議が『中国の軍事研究に参加』『千人計画に協力』は根拠不明。『反日組織』と拡散したが…」と題する記事によると(https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/thousand-talents-plan)によると、要するにフェイクであると結論づけている。結論部分を引用させて頂く。

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日本学術会議の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、中国の軍事研究への協力について「そのような事業、計画などはありません」と明確に否定した。また、「千人計画」ついても「学術会議として、計画に協力したり、交流したりするようなことはしておりません」と同様に否定した。日本学術会議と中国の関係についていえば、中国科学技術協会との間に2015年に「協力覚書」を結んでいる。(中略)

実態はどうか。学術会議との協定では、会議やセミナーなどを通じた「情報交換」や、研究者間の交流、共同ワーク ショップやセミナーの開催などの取り組みを進めていくことなどの取り決めを交わしている。しかし、事務局によると「実際の事業は覚書が結ばれて以降、行われていないのが実態です」と語った。そもそも学術会議の予算面の問題から、国際的な研究プロジェクトなどを実施することは、中国以外の国ともできていないという。つまり、軍事研究や千人計画以前に、学術会議として他国との間で「研究(計画)に協力」しているという事実がない、ということだ。

学術会議は先述の通りBuzzFeed Newsの取材に対し千人計画への関与は否定しているほか、「中国と一緒に研究するのは学問の自由」とする声明などを出した事実は公式的には存在しない、としている。実際、甘利氏のブログについても明確なソースは示されていない。ネット上では「機密情報だから」などという憶測も飛び交う。

BuzzFeed Newsは甘利議員の事務所に、学術会議側が否定しているとして情報の根拠についての取材を10月5日にFAXで申し込んだが、内容ではなく、日程上の問題として9日午前までに回答は得ていない。回答があり次第、記事を追記します。
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BuzzFeed Newsはその他、「日本学術会議、答申が出ていないため『活動』が見えていない」はミスリード。2008年以降、321の提言と10の報告を提出」(https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/gakujutukaigi-fact-check)でも、日本学術会議に対する言われなき非難に対する擁護記事を投稿している。また、デモクラシータイムスがhttps://www.youtube.com/watch?v=sCGOhOlTWzEで指摘しているように、答申は政府からの諮問があってからなされるものであるが、日本学術会議は政府の御用諮問機関ではないため、政府はそもそも諮問をしていない。

敏腕検事として知られる郷原信郎弁護士はブログ(https://nobuogohara.com/2020/10/10/%E3%80%8C%E8%8F%85%E9%A6%96%E7%9B%B8%E3%83%BB%E6%8E%A8%E8%96%A6%E8%80%85%E5%90%8D%E7%B0%BF%E8%A6%8B%E3%81%9A%E4%BB%BB%E5%91%BD%E6%B1%BA%E8%A3%81%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E7%94%98%E5%88%A9%E6%B0%8F/)で、「日本学術会議は、国の機関であり、独立した民事上の請求の主体ではない。しかし、刑事上の名誉棄損罪の客体が『人の名誉』である。この場合の人とは、『自然人』『法人』『法人格の無い団体』などが含まれるとされていること(大判大正15年3月24日刑集5巻117頁)からすると、それ自体法人格はない日本学術会議も、名誉棄損罪の客体にはなり得ると考えられる。この点については、地方自治体の名誉権に関する上記東京高裁判決の「地方公共団体の社会的評価を保護すべき必要性がある」との判示を参考にすべきだろう」と指摘。

そのうえで、「前述の甘利氏のブログの記述について、日本学術会議の会長名で、名誉棄損罪での告訴が行われた場合、同会議が、独立して社会的評価を保護する必要がある機関なのか否かという観点から、告訴の受理の要否が真剣に検討されることになるであろう」と見ている。要するに、日本学術会議としても、憲法第23条に保障された「学問の自由(人文・社会・自然科学社の研究と発表の自由と広い意味での研究機関の自律的な活動の自由)」を守るため、甘利氏に自己のブログ記事についての責任を求め、無回答を続けるならば名誉毀損で訴えれば良い。

いずれにしても、菅首相の不可解な一連の発言と経過、任命拒否または定員を105人にしないという日学法違反の問題と日本学術会議の在り方との問題は峻別しなければならない。前者の問題を徹底的に追及したうえで、日本学術会議の在り方を見直したいなら、構想を示して主権者国民を代表する国会での審議を求めれば良い。もっとも、菅首相は官房長官時代に安倍晋三前首相の違法行為を隠蔽する裏の活動に終始してきたため、デジタル庁の新設とか携帯電話料金の値下げ、不妊治療への保険適用とかの国民の人気取りを狙ったピンポイント政策しか打ち出せていない。

菅首相は、安倍前首相の新自由主義路線を受け継ぎさらに過激化する方向だ。主権者である国民が最も求めている長期デフレ不況を克服しながら、コロナ禍にある日本の経済社会を再建し、日本を復活するための政策・国家像は持っていない。むしろ、日本国憲法を破壊し、日本の経済社会を大不況から大恐慌に陥れるのが関の山だ。

また、現在の日中新冷戦の時代、外交面にも不安がある。菅首相は官房長官の時代に異例の米国詣でをしてきたが、宗主国の米国が11月3日の大統領選後に「不正郵便投票」による混乱で、勝敗を巡って大混乱に陥るとの見方が強まってきている。中国は購買力平価ベースで米国の国内総生産を上回っており、コロナ禍からの立ち直りも早かった。科学技術論文数でも米国と争うようになっているし、5Gなどの特許件数では日本はもちろん、米国も上回っている。

購買力平価で見た世界各国の国内総生産(GDP)比較
購買力平価で見た世界各国の国内総生産(GDP)比較

従来の対米隷属の外交を続け、中国敵視政策を強行するわけにも行かない国際情勢になってきている。もはや、戦争は紛争の最終的な解決手段ではなくなってきた。今こそ、言葉の真の意味での「積極的平和外交」を展開すべき時だが、そういう見識はさらさらないように見える。新型コロナウイスル感染拡大問題も終わりが見えない。日本学術会議会員の任命問題を発端として、党内基盤の弱い菅首相の勢力が弱まることも考えられる。

札幌市でゲリラ街宣を行うれいわ新選組の山本太郎代表
札幌市でゲリラ街宣を行うれいわ新選組の山本太郎代表

こうした中、ゲリラ街宣を続けているれいわ新選組の山本太郎代表が、11日に行った札幌市大通公園近辺で行ったゲリラ街宣で野党共闘に前向きな発言を行った。その中で、「消費税率の5%以下への引き下げを野党共闘の柱とするなら野党共闘に加わるということになっているので、(そうした状況になれば)話し合いを行い、れいわからの総選挙立候補者の調整を行い、選挙協力をする」と明言した(https://www.youtube.com/watch?v=gSpC2GXWClgの1時間20分45秒以降)。れいわ新選組は、経済政策を前面に押し出しているが、日米地位協定の改定など外交政策にも注力している。かなり明確な国家像を持っている。

東京都知事選挙で山本太郎代表の応援演説に駆けつけた立憲民主党の馬淵澄夫衆院議員
東京都知事選挙で山本太郎代表の応援演説に駆けつけた立憲民主党の馬淵澄夫衆院議員、須藤元気参院議員

立憲民主党内では、枝野幸男代表がいまだに「消費増税は、中長期的には経済の活性化に資すると考えています」(https://www.huffingtonpost.jp/yukio-edano/post_4881_b_3350515.html)と愚論を述べているが、一時的な措置として消費税減税を認めざるを得なくってきている(当面のエダノミクス)。総選挙の争点にするかが問われているが、そうしなければ党内に根強い消費税凍結派の突き上げを食らい、党内基盤は一層弱体化するだろう。一方、小沢一郎衆院議員と中村喜四郎衆院議員が日本共産党と選挙協力を行い、組織選挙戦略を固めるように立憲の総選挙対策を行っていると見られる。

ただし、これだけでは総選挙の有権者の投票率は上昇しない。「無党派層」という名の政治不信層、政治離反層に国民主権を訴え、投票率をアップさせる役割を担っているのが、れいわ新選組だろう。表に出てこない馬淵澄夫衆院議員が立憲とれいわのパイプ役になっているものと思われる。

いずれにしても、米国支配の国際情勢は大きく変貌している。日本もまた、新たな国家像を探し、実現していかなければならない。なお、日本共産党は「天皇制・自衛隊・非武装中立・生産手段の社会化」という重要な案件で答えを国民に提示していかなければならないが、その場合には「共産主義」という思想の全面的な再検討を要する。そうした際には、党名の変更が必要になってくるだろう。



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