来週月曜日で月初めの11月1月曜日に実施の「大阪都構想」の可否を問う住民投票が1週間後に迫ってきた。藤井聡京都大学院教授は「都構想の真実ー『大阪市廃止』が導く日本の没落」(改訂版、以下本書という)を10月15日に緊急出版され、住民投票で賛成多数になると現在の大阪市はもちろん大阪府や近畿圏、西日本ひいては日本全体が没落していくことを明快に説いて、警鐘乱打されている。サイト管理者も徹夜で拝読したが、説得力を強く感じた。本投稿記事では藤井教授の著書に基づいて、イメージ表現でしかない「大阪都構想」の危険性を指摘したい。大阪市・大阪府の住民の皆様だけにかかわることではなく、近畿圏や西日本、そして日本の経済社会の没落につながる国民的事案でもあるからだ。
10月26日月曜日の新型コロナウイルス新規感染者は、東京では午後15時の速報値で前週19日月曜日の78人より24人多い102人だった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。検査態勢の影響で感染者数が少なくなる傾向にある月曜日としては、8月31日(100人)以来の100人超えとなった(https://digital.asahi.com/articles/ASNBV4V9HNBVUTIL01M.html)。東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は154.9人、PCR検査数は4066.7.件だから、陽性率は3.81%。東京都独自の計算方式では3.4%。感染経路不明率は56.23%。全国では午後23時59分の時点で、 410人の感染者と8人の死亡者が確認されている。
東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、10月25日時点の実効再生産数は全国が前日比変わらずの1.05人、東京都が同0.01人増加の0.89人だった。
◎追記:「ABCテレビはJX通信社は、大阪市を廃止し4つの特別区に再編するいわゆる「大阪都構想」の住民投票についての合同情勢調査を9月19日・20日から毎週実施してきました。10月24日・25日に行った6回目の調査では、前回と比べ賛成が1.0ポイント減り、反対が0.8ポイント増えました。賛成と反対の差は5.7ポイントに縮まりました」(https://www.asahi.co.jp/abc-jx-tokoso/)。再び、反対派の割合が増加したが、男性の反対派が多いことに気づく。大阪府・市の経済成長・発展にストップがかかっている現状に不満があるものと見られる。藤井京都大学院教授の「大(だい)大阪構想」など、大阪市の住民の皆さまが新たな経済成長・発展の道があることを知られることに期待したい。
住民投票で賛成多数になっても首都としての「大阪都」が誕生するわけでは、もちろんない。「大阪都構想」の可否を問う住民投票というのは、大阪府、大阪市で定められた「特別区設置協定書」(以下、協定書)の賛否を問うものだ。協定書の内容は具体的には第一級の政令都市・大阪市を廃止し、4つの特別区を設置するとともに、4特別区に共通の業務を行う一部事務組合=「プチ大阪市役所」という複数の地方公共団体を作ることだ。その実態は、大阪府知事時代の橋下徹知事が声高に叫んだ、大阪府内で最も財源が豊富で独自の街作りの権限を持っている政令指定都市の「大阪市が持っている権限、力、お金を大阪府がむしり取る」(読売新聞2011年8月30日付)ことである。
コロナ禍のさなかでの大阪市の解体が、現在の大阪市に巨大な負担をもたらすことは当然であるが、大阪府と4特別区、一部事務組合=「プチ大阪市役所」の間の対立をもたらし、行政サービスの提供に無用な時間が割かれる。併せて、8600億円程度の自主財源を持っている大阪市が解体、4つの特別区に分割されることによって残る自主財源は2500億円〜2600億円。大阪府からむしり取られる財源は、6000億円であり、自主財源は2500億円〜2600億円になる。6000億円のうち4000億円は大阪府議会と大阪府知事の判断によって4特別区に小遣い並みに支給される。しかし、大阪市民の人口は大阪府全体の3割のため、現在の大阪市民の要望は実際には反映されない。また、4000億円の支給がいつまで可能なのかはっきりしない。4特別区はもちろん政令指定都市ではなく、厳密には地方交付税交付金を受け取ることのできる基礎自治体でもない。併せて、4特別区は独自の街作りの権限をも失う。
2000億円については、推進側(実質は維新側)は「管理は大阪府に移っても、これまでとは違う項目に流用されることはなく、その事業を行う役所が(大阪府役所に)変わるだけで、現在の大阪市民に対する行政サービスは変わらない」と説明している。しかし、それは口約束でしかない。それを保証するためには、大阪府の財政システムに「(現在の大阪市民のための)特別会計」を創設することが有効だし、その議論もなされているようだが、特別会計を創るにしても2000億円の半分の1000億円程度が限度とされている。しかも、議定書には特別会計創設については明記されていない。
こうなると、大阪府と大阪府は大阪市より債務が多く、むしり取った権限とお金は、大阪府の借金の返済や政府からの地方交付税交付金を得て必要最小限の行政サービスしか行えていない他の市町村など基礎自治体の行政サービス提供のための財源として流用されるだけになる(本書65頁)。本書では触れられていないが、識者の間では何故2000億円の半分なのかについて、日本維新の会が目論んでいるカジノを含む統合リゾート(IR)、インバウンド(大阪万博による外国人観光客の増加)など、維新「政策」の実現のために流用されると見られている。
カジノやインバウンドは欧米でコロナ第二派が吹き荒れていることから、カジノはバーチャル・カジノになり、インバウンドも全く期待できない。大阪の経済成長に寄与できないことは明らかだ。これでは要するに、第一級の政令指定都市・大阪市の解体は、日本国憲法第92条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」で定められている地方自治体の地方自治が損なわれてしまうことになる。
4特別区で使用できる財源は、自主財源1800億円程度に大阪府議会、大阪府知事の判断によって支給される4000億円の合計5800億円程度になる。このため、バリアとなっていた政令指定都市の権限を失うこともあって、大阪市が政令指定都市として行ってきたこれまでの都市計画や道路、大規模公園、下水道、港湾などの各種の「街づくり事業」に加えて、高等学校、大学、特別支援学校、精神福祉センターなどの広域行政(大阪府)に譲り渡される各種事業はいずれも、そのサービスレベルが低下するリスクを抱えることになる(本書88頁)。その結果、一極集中で成長してきた東京都や技術革新力を持つ愛知県と対抗するために必要な、キタやアベノ、ベイエリアへの投資が中長期的に停滞し、4特別区などの大阪府の特別区市は都市間競争に勝ち抜くための「エンジン」を失うことになる(本書167頁)。
本書136頁〜137頁からもう少し詳細に述べさせて頂く。今、大阪市内では、ミナミやキタ、さらにはアベノやベイエリアなどの開発や都市計画が進められている。ハルカスで有名な阿倍野区の再開発、JRの北側の広大な敷地を使った「ウメキタ」(大阪市の中心地、梅田の北側のエリア)の開発などだ。もちろん、大量の民間資金が投入されているが、大阪市の豊富な財源がなければ開発は不可能。そして、もうひとつ不可欠だったのが、大阪市という政令指定都市が持っている「都市計画=街づくり」に関する「強力な権限」だった。
つまり、現在の大阪の繁栄を支える大都市行政を支えたのは、「政令指定都市・大阪市の強力な財源と権限」だった。そして、この大阪市の繁栄がこれまで関西圏(阪神工業地帯)と西日本の繁栄の原動力になってきた。「大阪都構想」はその政令指定都市・大阪市を解体し、財源と自治権限をカツアゲする政策とは言えない「政策」である。これでは、関西圏の経済発展が次第に低下してきたとは言え、なお日本国民を引きつけ、日本第二の都市・大阪市のだ没落は必然的になり、その余波を受けて関西圏、ひいては西日本の経済的没落が惹起されてしまう。吉村洋文知事や松井一郎大阪市長は「経済成長をストップさせるな」と耳触りの良いキャンペーンを行っているが、「大阪都構想」への賛成票が多くなれば、関西圏没落という真逆の事態が起きてしまう。
身近な行政サービスで言えば、現在の大阪市が提供していた①所得の低い家庭の子供たちが学校に通学するにあたって、一定の援助を行う「就学援助制度」②中学生までの子供の医療費を無料にするという大変手厚い医療保険制度③高齢者が公共交通を非常に安く利用できる敬老バスーなどの行政サービスの利用が制限されたり、廃止されたりする公算が極めて大きくなる(本書129頁)。大阪市では水道料金が全国の自治体よりもかなり安いが、政令指定都市である大阪市が廃止されれば、水道料金も高くなるだろう。「都構想が実現し、政令(指定)市という保護システムが消滅すれば、自分たちが今受けている行政サービスが大なる可能性で低下していく」という深刻なデメリットが存在することは、しっかり認識しておかなければならない(本書150頁)。
イメージ先行の「大阪都構想」が住民投票で賛成に至れば、現在の大阪市を中心にした経済活力は喪失し、行政サービスは低下するが、4つの 特別区を代わりに設置した塗炭、正式には「一部事務組合」という名のプチ大阪市役所が創設されることになる。この一部事務組合というものも法的には立派な地方自治体の位置づけだ。これまで大阪市が行っていた事務サービスを個々の特別区が独自に行うようになれば、公務員ゃシステム機器を新たに揃えなければなくなり、余計なコストが嵩む(当然に、住民に税負担のツケが回ってくる)という問題が発生するという問題から創設されることになったものだ。
具体的には、4つの特別区がおカネを出し合って共同の事務を一部事務組合に行ってもらうという仕組みのことだ。「一部事務組合」と言えば、誰しも簡単な一部の事務と思うが。そうではない。本書122頁によれば、次のような膨大な作業を行う。
事務内容名 | 詳細な事務内容 |
各種事業 | 国民健康保険事業、介護保険事業、水道事業および工業用水事業 |
施設管理 | 住民情報系7システム(住民基本台帳等システム、戸籍情報システム、税務事務システム、総合福祉システム)、国民健康保険システム、介護保険システム、統合基盤・ネットワークシステムなど)の管理 |
施設管理 | (福祉施設) 児童自立支援施設、児童心理治療施設、児童擁護施設、母子・父子福祉施設、大阪市立心身障害者リハビリテーションセンター、福祉型障害児施設、障害者就労支援施設、特別擁護老人ホーム、医療保護施設 (市民利用施設) 青少年野外活動施設、ユースホステル、青少年センター、こども文化センター、障害者スポーツセンター、大阪市中央体育館、大阪市プール、靭庭球場 (その他) 大阪市動物管理センター、大阪市立北斎場、大阪市立小林斎場、大阪市立佃斎場、大阪市立爪破斎場、大阪市立葬祭場、泉南メモリアルパーク、爪破霊園、服部霊園、北霊園、南霊園 |
財産管理 | 「大阪市未利用地活用方針」に基づき処分検討地とされた土地の管理および処分 |
一般事務組合が正式名だが、「プチ大阪市役所」と言われるだけあって、かなりの規模の業務を行う。これでは、大阪府、4特別区、一般事務組合の間で、意思決定や事業遂行プロセスが三重化し、行政サービスの実施に時間がかかる(大幅に遅延する)ようになってしまう。これは、新たな「三重化行政」の問題と言われる。
この三重化行政の問題に関し、維新が主力を占める推進側は、「大阪都構想の実現で、実際には、都、特別区、一般事務組合の三重行政にならないの?」という住民の説いに対して、「大阪都と特別区で明確に役割分担することが、都構想の基本的な考え方です。一部組合という組織で、ごく限られた事務のみを共同実施しようとしていますが、三重という言葉は当てはまりません。都道府県が担う方向で議論が進んでいる『国民健康保険』や民営化を予定している『水道事業』が含まれているため、財政規模が大きく見えてしまいがちですが、保険料のバラツキ見直しや保健財政安定の観点から、国民健康保険や介護保険の運営を共同で行うことはむしろ当然です」と回答している。
この説明には、①「三重という言葉はあてはまりません」と記載されているが、その「理由(意思決定や事業遂行プロセスが二重化、三重化して行政サービスの提供処理に大幅な遅延が生じるなどの住民サービス低下などの問題)」が一切書かれていない②協定に明記刺されている上述の一部事務組合の事業リストは「ごく限られた事務」とは決して言い難い膨大な事業である。ちなみに、東京都の特別区が設置している一部事務組合等の組織が対応している業務は、ゴミ焼却炉などたった4つしかない。そこからみても、「大阪都構想」で予定されている一般事務組合の教務数の「異常さ」が分かる(本書115頁〜125頁)。
さて、「大阪都構想」の維新を中心とした推進側が同構想の目的として掲げるのは、「府と市の二重行政の廃止による行政の無駄をなくし、行政を効率化して大阪の経済成長と発展」を達成することだという。しかし、本書では二重行政の廃止による行政の削減コストについて詳細に論じている。本書の154頁以降によると、筆者(藤井聡京都大学院教師)は大阪都構想が主張され始めた当初(2010年10月ころ)は、都構想が実現すれば二重行政が解消し、年間4000億円の財源が浮いてくる、それが最低ラインだと説明していたと指摘している。
とろが、大阪市が取り組んだ2013年8月の制度設計案では976億円に激減し、2013年8月の日経新聞にも「『年4000億円』目標に遠く及ばず」と報道されている。その976億円の中にも、都構想とは無関係の項目(地下鉄の民営化や市独自で実施している市民サービスの削減)が含まれていることについて、同紙も指摘している。こうした都構想とは無関係の項目まで含まれているのは、2013年10月13日付の朝日新聞の記事で、橋下市長や松井一郎大阪府知事が都構想で年間4000億円の財政効果を打ち出すとの目標を打ち出したが、思うような効果が出てこないことを理由に、大阪市職員に財政効果を捻出するように指示し、その結果、「一部の職員らは疑問を感じながらも、市民サービスを廃止・縮小した市政改革プラン(237億円)や、市営地下鉄の民営化(2億円〜3億円)、ごみ収集の民営化(79億円)などを加えていった」という。
その後も、2014年6月7日の府市の試算では年間155億円(17年累計で2634億円)にまで縮小した。ただし、この153億円にも市営地下鉄の民営化などの都構想とは関係のない項目も加えられており、それらを差し引くと年間1億円に過ぎないということが、大阪市議会で明らかにされている(2014年10月23日付日経新聞)。このため、橋下元市長は「多様な計算の仕方がある」という趣旨の発言を行い、二重行政の廃止による財源の捻出という当初の「目的」は議論されなくなった。松井市長も8月の21日の大阪市議会で、「今は二重行政はない」と言い切らざるを得なくなっている(https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-10-16/2020101604_01_1.html)。
それどころか、この1億円という数字すら怪しいのではないかという疑惑が出てきて、初期投資などを考慮すれば黒字どころか赤字になるとの予測も出てきた。平成26年10月17日の府議会では、都構想とは必ずしも関係のない項目を除外し、特別区設置のための初期投資費用を加えれば、年間平均13億円の「赤字」が産み出されてしまうとの指摘が出たことも指摘されている(日経新聞10月17日付)。維新を中心とした二重行政が悪しざまのように言われるが、大阪市立図書館と大阪府立図書館はともに利用者が存在し、ともに役割を果たしている。府立と市立の体育館にも同じ状況だ。「必要な二重行政」というものもある。
行政コストが無駄になるという意味での二重行政の解消については、2014年に地方自治法で重要な改正が行われている。大阪市のような政令指定都市と大阪府など広域行政を行う都道府県の間に、二重行政についてのさまざまな問題について調整するための会議=指定都市都道府県調整会議=を設置することが義務付けられた。この調整会議でも調整が出来なかった場合は、最終的には地方自治体を所管する総務大臣に下駄を預けて(委ねて)、最終調整を行うということになったのである。この法改正で、大阪都構想は法的には風前の灯火になった。
こうした経緯の中で、2015年に大阪都構想の可否についての住民投票が行われたが、結果は僅差で都構想反対の票が多くなり、僅差だが否決された。ところが、来る11月1日には再び、住民投票が行われる。表向きは、大阪の成長をストップさせるなというものだが、大阪府の実質経済成長率は全国平均より低い。これについて、松井市長は東北大震災があった東北3県で復興需要があったためその分、全国平均が嵩上げされたためとしている。しかし、全国には大阪府よりも実質成長率の低い県が相当数ある。東北3件の「復興需要論」は維新による大阪府政の経済成長政策が間違っていたということを示す証拠以外の何物でもない。
理論的に考えれば、「大阪都構想」は大阪市民に対する行政サービスの低下をもたらし、大阪市を成長の原点にした関西圏の経済発展を阻害することはもちろん、西日本やひいては日本の没落をもたらすものでしかない。こうした「大阪都構想」の住民投票を1週間後に行うというのは、前回は反対に回った公明党が「賛成しなければ、総選挙で大阪府の小選挙区に対立候補を立てる」と脅されためである(本書17頁〜19頁)。
なお、詳細は本書をひもといて頂きたいが、政令指定都市・大阪市は二度と復活できない。ただ、没落の一途をたどるのみだ。本書で藤井京都大学院教授は、大阪府を中心とする関西圏が経済発展できなかったのは、安倍晋三政権時代の国策としての緊縮財政という経済政策が誤っていたことは別にして、大阪都構想が実現しなかったからではないとして、代案を提示している。第4章の「『大(だい)大阪』が日本を救う」がそれである。「大阪都構想」に反対派の方はもちろな。賛成派の方にも是非、一読をお勧めしたい書物である。