学術会議会員任命拒否事案を盾に取らなかったため種苗法改正法案が衆院農水委で可決、会議にも軍事研究を要請

本サイトで危惧した通り、立憲民主党の安住淳国会対策委員長が自民党の森山裕国対委員長との国対委会談で日本学術会議会員任命拒否問題の集中会議を最優先せず、月内という形(実際は月末)に行うということで決着させられたため、同会議で軍事研究の是非を検討することを求められることになった。また、日本の農家・農業に大きな打撃を与え、米国・欧州系多国籍企業のアグリビジネス会社に日本の農業を与える種苗法改正案が衆院農林水産委員会で可決成立してしまった。安住国対委員長はいつもゼロ回答しか持ち帰らない。立憲は国対委員長を交代すべきだ。

11月18日のコロナ感染状況

本日11月18日水曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では午後15時の速報値で新規感染確認者は1週間前の11日水曜日の317人より176人も多い過去最多の493人(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)になった。これまでの最多は8月1日の472人だった。また、東京都基準の重症者は前日比3人減の39人だった。東京都は感染状況を最悪のレベル4に引き上げる方針。東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は355.0人、PCR検査人数は5386.7人だから、陽性率は6.22%。東京都独自の計算方式でも5.8%。感染者のうち感染経路不明率は57.28%だった。PCR検査人数は増えているが、陽性率も高まっており、厳しい状況が続いている。
全国では、午後23時59分の段階では14日の1737人を超えて過去最多の2201人の新規感染者が確認され、15人の死亡者が出ている(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data/?utm_int=special_contents_list-items_045)。特に、維新の大阪府が感染者数、重症者用病床使用率がかなり悪化している(https://lite-ra.com/2020/11/post-5700.html?utm_source=onesignal&utm_medium=button&utm_campaign=push)。
東洋ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、11月17日時点の実効再生産数は全国が前日比0.02人減少して1.34人、東京都では前日比0.05人減少の1.26人となっている。

【追記:午後15時50分】これまで新型コロナウイルス感染拡大防止のため、「非常事態宣言」の発出を可能にする改正新型インフルエンザ特措法が3月制定されたが、春から夏の終わりまでの第1波、2波の知見を活かすとともに、休業要請と補償をセットにした「新型コロナウイルス感染症対策特別措置法」を制定した方が良いとサイト管理者(筆者)は思っている。時間の制約があることを考えれば、少なくとも、誰でもどこでもPCR検査、抗体検査ができるようにするとともに、国民の生活を守るために休業補償規定を改正インフル特措法に盛り込んだうえで、政令によって運用を柔軟にする必要はある。
高所得者、豪華ホテル、旅館を優遇するGo To トラベルなどの政策は直ちに停止すべきだ。新型コロナウイルス感染症は今年1月28日から来年の2月6日まで、第Ⅱ類相当の指定感染症に閣議決定(政令指定)されたが、東アジア諸国では人口当たりの死亡者が少ないとして季節性インフルエンザ相当の第Ⅴ類に変更すべきだとの意見もある。しかし、冬場のコロナの「威力」が不明であるうえ、政府による国民の健康と生活保障措置を講じることができなくなる恐れもあり、慎重に対応すべきだ。

立憲の安住国対委員長が国対委員長としての役割を果たしていないことについては、既に本サイトで指摘しておいた。

今臨時国会で政府=菅義偉政権と自公与党が政府提出法案の中で成立を急いでいるのは、➀種苗法改正法案②予防接種法改正案③日英FTA協定の批准ーだ。このうち、種苗法改正案が昨日11月17日に衆院農林水産委員会で、立憲と日本共産党が法案に反対したものの、自公与党と他の野党が賛成したため、「すんなり」と同委で可決されてしまった。これによって、衆院本会議で可決された後、参院議員に回されるが、今国会で成立することはほぼ確実になった。日本学術会議(以下、会議)の軍事研究の実質的強要の問題については後述する。

種苗法改正案の今臨時国会成立が確実になったことで、日本の農家・農業に大きな打撃を与え、米国系・欧州系の多国籍企業のアグリビジネス会社に日本の農業を与えることになり、日本の食糧(食料)安全保障が極めて危うくなった。苗法改正案は米や野菜、果物などの新品種を開発した場合、開発者(育成権者)の知的財産権を保護することを目的として成立した種苗法を、種苗新品種が海外に流出することを禁じるという名目で政府側が提案した改正案だが、同時に現在の種苗法では認められている農家の自家増殖を登録品種については禁止するという内容の改正案だ。

11月17日の衆院農林水産委員会で種苗法改正案が可決された瞬間
11月17日の衆院農林水産委員会で種苗法改正案が可決された瞬間

しかし、日本共産党の田村貴昭衆院議員(https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-11-07/2020110706_01_0.html)へのインタビュー記事やヤフー・ニュース(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6376777)などを総合すると、種苗法改正案でもブランド果樹など農作物新品種の種苗の国外への持ち出しを制限または禁止することができない。税関で徹底的な検査をする必要があるが、それでも物理的な限界はあるし、そもそも、税関で新種苗の海外への流出を阻止できるなら、現在の種苗法を改正(改悪)する必要はない。

国際条約では新品種を開発した場合には、開発後6年以内に海外諸国に新品種登録を行うことが定められている。海外諸国(中国や韓国など)で品種登録をしない限り、育成権者の知的財産権の保護は出来ない。このことは、政府も認めていることだ。ヤフー・ニュース(https://news.yahoo.co.jp/articles/fcaea0658920f27582ffad03cc61a8d73069fd03、京都新聞からの配信記事)は、「11月12日の衆院農水委員会。農産物の国産品種の海外流出防止を目的とした種苗法改正案について、政府は『(流出を)止めることは難しい』と答弁した」と報道した。この通りで。参院農水委での参考認人質疑でも農業の専門家が、「(国際条約に従って)海外で品種登録を行わなければ、新しく開発された種苗の海外流出は防げない」と陳述している。なお、日本の種苗研究公的機関で開発され、海外諸国で登録された新品種の一例を挙げておく(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6376777)。

中国と韓国のサイトで販売が確認された主な登録品種
中国と韓国のサイトで販売が確認された主な登録品種

しかも、日本の種苗の新品種は主に国の研究機関や各都道府県の農業試験場などの公的機関で開発されている。よく取り上げられるジャインマスカットも日本の農林水産省が所管する農業・食品産業技術総合研究機構(農林機構)によって育種・登録されたブドウの栽培品種だ。公的機関が種苗の新品種を開発し、それを日本の農家に安く売り渡して、農家が自家増殖し農業を営んできた。だから、新品種を海外登録するのは、本来的には政府の役割だが、政府(担当省庁は農水省)は上図のような一部の品種を除き、これを怠ってきた。だから、今回の種苗法改正案の狙いは別のところにあると言わざるを得ない。

それは、海外諸国(米国、欧州)の多国籍アグリビジネス企業の日本での農業活動を加速するためだ。アグリビジネス業界では、ドイツを拠点とするバイエル=米国のモンサントを買収=)、スイスに拠点を置くシンジェンタなど上位4社が種苗市場の6割超を独占している。これらのアグリビジネスはもともとは化学薬品・化学肥料を開発していたが近年では、遺伝子組み技術やゲノム(生殖細胞が持つ一組の染色体のDNAに含まれるすべての遺伝情報)解析技術を取り入れて、新たな種苗を開発。そして、化学肥料とセットで種苗も販売している。遺伝子技術を駆使していることと高度な化学肥料を組み合わせていることから、悪天候にも強い 農作物を育てることができる。

ただし、遺伝子組み換え作物は「食の安全性」が保障されない。日本でもすでに140種の遺伝子組み換え作物が栽培が認可され、3年後の2023年からは「遺伝子組み換え作物」という表示もできなくなる。ベトナム戦争で大量使用された枯葉剤の製造会社で有名なモンサントは、同社のグリホサート製品の除草剤のラウンドアップに関し、「ラウンドアップは生分解性で土壌に蓄積されません」、「安全で人や環境への有害な影響を引き起こすことはありません」といった一連の安全性に関する広告を行っていた。

しかし、ラウンドアップが健康被害や環境への悪影響をもたらすことが次第に明らかになってきたため1996年、ニューヨークで、一連の虚偽を行い、かつ誤解を招くと判決された。このため、巨大な損害賠償を行わなければならなくなったので、バイエルに買収されることになった。遺伝子組み換え作物やこれに類する技術で製造された化学肥料では、食の安全性が保たれないのである(Wikipedia参照)。

しかし、安倍晋三政権(当時)は、これらの多国籍大企業のアグリビジネスの要請に応え、日本での農業活動を促進しようとした。その際に邪魔になったのが、国の研究機関や各都道府県の農業試験場などの公的機関による新品種の開発・販売と農家の自家増殖である。まず、2017年4月、国の研究機関や各都道府県の農業試験場などの公的機関による新品種の開発・販売を財政的に支援する「種子法」をほとんど審議することなく廃止を強行。加えて、2020年6月「農業競争力強化支援法」を成立させ、国の研究機関や各都道府県の農業試験場などの公的機関に加えて農協や農家の農作物生産に関する知見を民間企業に提供させることで、海外の多国籍アグリビジネス企業の日本農業参入を大幅に支援した。

アグリビジネス企業に残った問題は、農家による種苗の自家増殖である。農水省は日本での登録品種は少ないから、日本の農家が打撃を被ることはないと言っている。しかし、田村衆院議員によると農水省は事実を覆い隠している。一部を引用させて頂く。
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―農林水産省は、自家増殖が禁止されるのは登録品種で、一般品種は対象外であり、大半の農業者に影響しないといいますが?
実は、農水省は、生産者がどれだけ影響を受けるのか、正確に把握していません。例えば、農水省は、稲作で登録品種は17%しかないといいます。しかし、実際はもっと多いのです。最も作付面積の大きい「コシヒカリ」は、育成者権がない一般品種だとされます。ところが、「コシヒカリ」には「コシヒカリ新潟BL」などの登録品種も含まれます。それを登録品種に加えると、17%より多くなります。

また、特産物に力を入れている地域ほど登録品種が多く、影響が大きくなります。例えば、ブドウでは、農水省は、登録品種は9%ほどだといいますが、山形県では、大粒種だと56%に上ります。北海道の小麦は99%、大豆は86%が登録品種です。沖縄県のサトウキビは半数以上が登録品種です。

―どのぐらいの数の農家が自家増殖をしていますか?
2015年の農水省の実態調査では、聞き取りを行った1000戸余りの農家のうち、登録品種を使って自家増殖する農家は全体の約5割にのぼります。これらの農家は、「改正」によって、新たな負担が増える可能性があります。特に、有機農業や自然農法では自家増殖する農家の割合が高いはずです。
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今回の種苗法改正案では、「規制強化により生じる可能性がある農家負担への配慮を政府に求める付帯決議も採択した」が、付帯決議には各委員会の希望であって法的効力を持たない。日本維新の会や国民民主党が賛成するための単なる「文言」にすぎない。今回の種苗法改正=改悪によって、日本の農家・農業は大きな打撃を被り、食料自給率は下がる。食糧(食料)安全保障政策は失われ、欧米のアグリビジネスによる日本の農業支配が展開されることになる。遺伝子組み換え作物が多くなるため、食の安全性は保障されなくなり、日本国民の健康状態も悪化するだろう。これが、種苗法改正案=改悪案の大きな問題点であると同時に、立憲の安住国対委員長を更迭しなければならない理由のひとつである。

立憲の安住国対委員長を更迭しなければならない第二の理由は、日本学術会議会員任命拒否事案を会議の在り方論に変質させてしまったことである。井上信治・科学技術担当相は昨日17日の参院内閣委員会で、研究成果が民生にも軍事にも使える軍民両用技術の開発について、日本学術会議に対して検討するよう要請したことを明らかにした。会議任命拒否事案は明らかな日本学術会議法(以下、日学法)違反であり、日本国憲法第23条に定められた「学問の自由(➀研究活動と成果公表の自由)②学術会議をはじめ学術団体や大学の自律性・自治制の保障」)を破壊するものである。

まずは、学術会議としても真正野党としても、会議会員としての任命を拒否された6人の人文・社会科学者の任命を勝ち取る必要があった。会議の在り方はそのあとで、国会で詳細に議論すれば良い。ところが、立憲の安住国対委員長はこれを今月中(今月下旬ということらしいが遅すぎるし、当てにはならない)とすることで、自民党の森山国対委員長に屈した。いつものことであるが。仮に国会集中審議を行うにしても、重要法案が成立した後の臨時国会終了間際のことで、菅首相側としては時間稼ぎに終始するだけだろう。自民党が当初、集中審議を拒否していたのは、「今月中の国会集中審議」ということで野党側に譲歩したフリを演出するためだったのだろう。

しかも、学術会議が弱腰だ。会員任命拒否事案は明らかに日学法違反、憲法破壊の何者でもない。自民党側は甘利明衆院議員の「中国千人計画に会議加担」のデマ情報を長し、配下にあるネチズンを使って任命拒否事案を会議在り方論に変質させる戦術を用いた。梶田隆章会長率いる会議としては積極的に記者会見を行い、➀任命拒否の理由の明確化②任命拒否の撤回ーを中心に、反撃に出るべきであった。日本国憲法では第15条1項に「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と定めており、日学法にも内閣総理大臣による罷免権は規定されていない。だから、会議会員の罷免は国民の代表であり、唯一の立法機関である国会で審議しなければならない。

このため、任命拒否の理由と政府=菅政権が任命拒否撤回を行うまでは、政府側に対して6人の任命が拒否されたことで第一部会(人文・社会科学系)の運営はもちろん、「総合的・俯瞰的な立場」から第二部会(生命科学)、第三部会(自然科学)の運営にも支障を来していると訴えておれば良かった。ところが、10月23日に梶田会長と井上科学技術担当相の間で、学術会議側は、提言機能や情報発信力の強化、会員の選考方法の透明化など5項目を検証することを約束してしまった。そこを突け込まれて、5項目外の「科学技術の軍民両用」の検討まで要請されてしまうことになった。

学術会議側の戦術の失敗と言っても良いが、対策はある。自民党側が今月内に集中審議を行うことを約束したのだから、まずは国会での集中審議の結果を待つことだ。菅首相の答弁能力は著しく低いことが明らかになっているから、短期間だとしても、真正野党側は徹底して追及すべきだ。原則論としては、日学法違反で憲法破壊の任命拒否を取り消さなければ、コロナ3波対策のための厚生労働委員会での審議は続けて、それ以外の審議はストップすべきところだが、会期末のため有効ではない。

ただし、立憲が安住国対委員長を実質的に更迭することは必要である。もし、来年1月8日の通常国会召集が立憲への脅しか、第3派襲来でコロナ感染状況が大幅に悪化して、解散・総選挙がなくなれば、万年野党第一党を目指しているかのような枝野幸男代表ー福山哲郎幹事長ー安住淳国対委員長の執行部陣は変わってもらわなければならない。なお、百歩譲って政府=菅政権の諮問内容について答申するにしても、1950年、1967年、2017年に行った「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」との声明を上手く継承すれば良い。

なお、政府=菅政権がこうした「諮問」を行うのは、中国の軍事的・経済的脅威に対する対策が見つからないからだ。日本の輸出相手国のランキングはこのところ、中国がトップだ。日本の経済は中国なくしては存立し得ない。従来の「対米隷属外交」は既に限界に来ている。だから、日本の外交政策の問題点を指摘し、戦争のない状態を平和と捉える「消極的平和」に対し、貧困、抑圧、差別など構造的暴力のない状態を「積極的平和」とする概念を提起したノルウェーの社会学者(人文・社会科学者)ヨハン・ガルトゥング氏(Johan Galtung、1930年10月24日 – )の提言を深堀りして、日本国憲法の理念(前文に記載)と照らし合わせて、言葉の真の意味での「積極的平和外交主義」を提言すれば良い。





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