新型コロナウイルスは、ウイルスに対する集団免疫を獲得すれば自然に収束するから何もしないで嵐が過ぎ去るのを待っておれば良いという現実無視の空論がまかり通っている。基本再生産指数が2であると、免疫力を持つために感染すべき国民は全人口の50%。1億2650万人だから6325万人が感染しなければならない。しかし、厚生労働省の「公式発表」などを元に朝日デジタルがまとめた致死率は2.7%。「最良の場合」でも230万人程度の死亡者、後遺症者を覚悟しなければならない。暴論としか言うほかない。こうした論者は決まってPCR検査等を精度が低い、精度が高まっても治療方法はない、膨大な検査には多額の防疫設備・設備投資がかかるなどと屁理屈を述べて、政府=安倍晋三政権、小池百合子都知事を首長とする東京都の感染症対策の失敗を隠し、擁護する「悪徳識者」である。

社会が未知のウイルスに感染した場合、社会の一定割合の構成員が感染し、確実な免疫力を持つとウイルスの感染拡大は止まり、感染拡大は収束に向かうという「集団免疫」獲得の「対処法」が昔からある。

「集団免疫獲得によるウイルス感染拡大の収束」という事実が過去に存在した可能性は否定できないが、新型コロナウイルスの場合は犠牲者(死亡者、後遺症者の爆発的拡大)があまりにも巨大すぎる。「集団免疫獲得」を叫ぶ「評論家」は非人道主義者でしかない。「医は仁術で救命第一」をモットーとすべき医師の中にもこうした主張をする人がいるのは、日本人の倫理・道徳も落ちぶれたものだと嘆かざるを得ない。

集団免疫については、キヤノングローバル研究所で経済政策を担当しておられ、コロナ大不況が現実のものになっている事情から、新型コロナウイルスについても研究を重ねておられる小黒一正主任研究員(マクロ経済担当)の「【半歩先を読む経済教室】新型コロナウイルスに関する一考察」に分かり易い解説がある。

「集団免疫」獲得による対処法の妥当性は、ウイルスの基本再生産数(R0)が決定的な基準になる。本サイトでもしばしば触れてきたが、「基本再生産数(R0)は、感染力の強度を示すもので、一人の感染者が(免疫の獲得あるいは死亡で感染力を喪失するまで)平均的に何人に感染させるかを表す値である」。詳細は小黒研究員の解説を閲覧していただきたいが、結論は国民のZ%がウイルスに感染したとしても確実な免疫力を産生したと仮定して、「一般的に集団免疫が機能するには「Z>1-1/R0」という関係が成立する必要」があるということである。

新型コロナウイルスの基本再生産数については、世界保健機構が1.5から2.5としている。仮に2と仮定すれば、50%の国民が感染しなければならない。その場合、現在の日本の人口は1億2650万人程度だから6325万人程度が感染しなければならない。朝日デジタルが2020年4月26日2時17分に投稿した記事によると、「新型コロナウイルスの感染者が25日午後10時半現在で新たに368人確認され、国内の確認(確認)者は1万3229人となった。死者は15人増え、360人」になっている。PCR検査を抑制し続けてきた厚生労働省の公式発表を元に集計したものだから実際のところは不正確だが、それ以上に信頼できる数字はないので、この公表統計をもとに致死率を計算すると2.7%。

そうすると、6325万×2.7%で170万人程度の死亡者・後遺症者は覚悟しなければならない。ジョンズ・ホプキンズ大学が4月26日午前8時の段階で公表した世界全体の感染者数は289万2508人で死亡者数は20万2688人。致死率7.0%と極めて高い。仮に日本の政府=安倍晋三政権の実質的な不作為が続き、死亡率が7.0%まで上がったと仮定すれば、6325万×7.0%で440万人程度の死亡者・後遺症者数となる。「集団免疫獲得」を願望する不作為の「対策」を取れば最悪、その覚悟はしなければならない。

ただし、この数字でも二度と感染しない免疫力を確保できた場合のことである。実際は、陽性だったが免疫力がついて陰性に変わったため退院した方の中に、再度陽性になったというケースも報じられている。強力な免疫力をもった抗体を産生できるとは限らない。ロイター通信によると17日、世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスに感染した人が持つ抗体が再感染を防ぐために十分な免疫力を持つかは現時点では分からないと述べた。

スイスのジュネーブにある世界保健機関=ロイター通信

新型コロナウイルスの感染症対策としては、➀世界の各国ではWHOの勧告に基づき「積極的な検査と隔離」をIT技術などで補完した「韓国型」②集団的免疫の獲得を待望する不作為型③両者の併用型-に分けられる。米国は両者の「併用型」に分類される。州知事が共和党の知事の州はリバータリアニズム(「自由」自身を目的とする米国の歴史に根強い、個人の生き様に連邦政府・州政府は関与するなという利己主義)に基づいて、基本的には不作為を続け、「集団免疫」の獲得を待望している。

英国も当初は集団的免疫の獲得を待望する不作為型だったが、数十万人の死亡が予想されるとの報告に、犠牲者が多すぎると批判されたために「積極的な検査と隔離型」に転じた。そのお陰で、ボリス・ジョンソン英国首相は2020年3月27日、新型コロナウイルス感染症の検査を行ったところ、陽性反応であったことが明らかになり、国民に明かした。その後は自宅に自主隔離を行い、会議にはテレビを通じて参加。しかし、高熱などの症状が続き、4月5日には念のため検査入院したが、翌6日に意識はあるものの容態が悪化し、人工呼吸器が必要になった場合に備えて集中治療室に入った。その後持ち直し、9日夕方に集中治療室から出て一般病棟に移り12日、退院した。生命が助かったことは喜ばしいことだが、首相としては大醜態だろう。

集団免疫の獲得を期待するスウェーデン

現在、明確に集団的免疫の獲得を待望する不作為型(ただし、多少の対策はしている)を採用しているのは、スウェーデン。果たして期待通りワークするか、見守らなければならない。なお、ジョン・ホプキンズ大学が公開しているサイトによると、4月26日午後1時31分の段階で、1万8177人が新型コロナウイルスに感染、そのうち、2192人が死亡している。致死率は12.1%と非常に高い。スウエーデンの人口は2019年で1023万人と東京都並みだから、人口10万人当たりの死者数は21.9人。スウエーデン政府は人口の4分の1が感染すれば集団免疫が獲得されると予想しているようだが、250万人×12.1%の単純計算で30万人程度の死亡者・後遺症者が発生する。政府は感染確認者は国民が自由を尊ぶからそれに従っているだけだとするが、既に人倫を失っている感がある。現在の対策を維持できるのか疑問である。

日本は、PCR検査が極めて少いことから、世界からは集団的免疫の獲得を待望する不作為型に分類されているが、安倍首相は否定している。

しかし、実際のところは、安倍晋三首相-加藤勝信厚労相-尾身茂地域医療機能推進機構理事長ラインが、検査利権を厚労省-国立感染研究所-地方衛生研究所-保健所を軸とする検査利権ムラで独占することを優先している。WHOの「徹底的な検査と隔離」の方針に逆らってきたことは明らかだ。ただし、WHOの勧告に逆らって感染検査利権ムラでPCR検査を妨害してきたため、相次ぐ院内感染で医療崩壊が現実のものになっていること、感染源が不明な感染者数が東京都など大都市圏を中心に爆発的に拡大し、集団感染対策の破綻が明らかになったことなどから、安倍内閣の支持率が低下し、不支持率が上回っきているうえ、コロナ禍への適切な対策を打ち出せる政党はないとの世論も高まってきている。

このため、尾見氏が副座長を努める政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は4月22日、厚労省内で記者会見し、感染者集団(クラスター)追跡を基本に据えてきた対策の失敗(PCR検査抑制から始まった院内感染、家庭内感染による医療崩壊)は明らかにしないまま、「医療崩壊防止と重症化防止により死亡者数の最小化を図っていくかに力点を置く」などとして、PCRセンターの設置に取り組むなどの対策の基本方針の転換を迫られる状況に陥っている。ただし、政府も都も専門家会議の口にすることは「接触率の8割削減」だけだ。

また、それらのための財政支援については、明確にしていない。加えて、来年夏に延長しても、東京オリンピックは中止に追い込まれるとの識者の声も出始めている。延長には3000億円ほどの多額の費用が見込まれるとされるが、その費用負担の分担も不明だ。国際オリンピック委員会(IOC)は日本に押し付けてくるだろう。それほどの財政支出(税金が原資)をするならまず、医療崩壊の食い止め、つまり、中核ないし規模の大きい病院の防疫体制の完備やエクモの導入に拠出すべきだ。オリンピックの任期中の開催にこだわるよりも、人命救助の優先度が高いことは子どもでも分かる。それがわからないのが安倍首相、小池都知事である。

ということで、新自由(放任)主義に基づいて財政政策を否定する政府=安倍政権が、WHOの勧告に反したために医療崩壊をもたらしていることを明確に謝罪し、積極的に「韓国型」に政策転換するかは期待できない。本来は責任を取って安倍内閣は総辞職、専門家会議もメンバーの総入れ替えが必要な時である。

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