ロシアとウクライナの停戦協定の行方ーミンスク合意Ⅱを早期停戦交渉の基礎に

日本時間で29日夜(イスタンブールとキエフ、トルコとの時差は6時間)トルコのイスタンブールでロシア(ロシア国防省のフォミン次官)とウクライナによる対面形式での停戦交渉が行われ、注目を集めているが、「停戦交渉妥結・文書調印」までこぎ着けられるかは疑問が強い。こうした中、国際ジャーナリストの田中宇(さかい)氏は「ウクライナでの戦闘はロシアの成功裏に終わりつつある」との見通しを示している。ただし、米欧日諸国の対ロ経済政策が続くことを予想し、ロシアは中国とともに反米・非米(中立)諸国とともに新しい国際秩序を築くとした。

ロシア・ウクライナ対面交渉、妥結は厳しいとの見方も

例えば、政府系のマスコミと揶揄される読売新聞は3月30日午前1時15分の「ウクライナが『中立化』提示、プーチン氏には受け入れ困難な内容も…予断許さぬ停戦交渉」と題するサイトの報道記事で次のように述べている。

ロシアのウクライナ侵攻を巡る29日の停戦協議で、ウクライナは「中立化」に関して具体的な提案を行った。これを受け入れるかどうかはロシアのプーチン大統領の判断に委ねられる。提案にはプーチン氏にとって承服し難い内容が含まれており、停戦協議の行方は楽観できない。ロシアは2月28日に始まった停戦協議で当初、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に「全面降伏」を迫っていた。今回の協議で、ロシア側はウクライナの提案についてプーチン氏に検討を求めると表明した。これは停戦に向けて一歩前進したとも言える。

ただしウクライナが提示した自国の安全の保障を巡る枠組み案では、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟を阻止し中立化は実現できるものの、ウクライナの安全保障に対し米欧の関与が深まることになる。ロシアとウクライナの「歴史的な一体性」を主張してきたプーチン氏にとっては受け入れのハードルは高い。ウクライナへの影響力低下につながるためだ。

ウクライナ側が主張するように、ウクライナの安全を「米国、英国、カナダ、ポーランド、トルコ」などの諸国が保障するというのでは同国が事実上、米国が盟主の北大西洋条約機構(NATO)に加盟したことになる。これでは、プーチン大統領が受け入れることは出来ないだろう。

NHKのWebサイトは30日午前5時01分の記事で、次のように伝えている。

交渉の終了後、双方が会見を行い、このうちロシア国防省のフォミン次官は「相互信頼を高めて次の交渉に必要な条件を整えて条約の調印という目標を達成するため、首都キエフ周辺と北部のチェルニヒウでの軍事作戦を大幅に縮小することを決定した」と述べました。

ウクライナ代表団「新安全保障枠組みが機能なら中立化に応じる」

一方、ウクライナ代表団の関係者はNATO=北大西洋条約機構への加盟に代わる新たな安全保障の枠組みについて協議したことを明らかにしたうえで、それが機能すればロシアが求めるウクライナの「中立化」に応じる考えを示すなど一定の進展があったという認識を示しました。
NHKのWebサイトでも、ウクライナがNATOに加盟しない代わりに新たな安全保障の枠組み(①米国、英国、カナダ、ポーランド、トルコなどの諸国がウクライナの安全を保障する②ウクライナに外国の軍事基地を置かない③軍事演習を行う場合は、新安全保障条約参加国の承認が必要ーなど:30日午前1031分のNHKWebサイトhttps://www3.nhk.or.jp/news/html/20220330/k10013558561000.html)を求めているが、ロシア国防省のフォミン次官がウクライナ側交渉団の求める新たな「安全保障の枠組み」に配慮したとしつつも、同意したと明記しているわけではない。加えて言えば、ウクライナに根付くネオ・ナチ勢力の台頭を阻止する方策が組み込まれているか、不明な点がある。なお、ロシア国防省のフォミン次官がウクライナ側の提案内容を容認する権限もない。ロシアとウクライナのプーチン大統領、ゼレンスキー大統領の首脳会談は、両国の外相の外相レベルの承認を前提としてなされる見通しだ。
今回のウクライナ事変(ロシアによるウクライナ侵攻)で、プーチン大統領が一貫して求めてきたのは、①ウクライナが米国の介入(現場の総指導者は、ウクライナの米大使館を根城にしたオバマ政権第二期のバイデン副大統領とビクトリア・ヌーランド国務次官補で、ウクライナに根付いているネオ・ナチ勢力を利用した)で2014年2月のマイダン暴力革命を成功させた後、現ゼレンスキー政権が(米国の傀儡政権として)反ロシア政策とNATO加盟外交政策を強化したことの反省(謝罪)とNATO加盟の断念(ウクライナが加盟すれば、ロシアに脅威となる軍事兵器を設置しロシアに脅威を与えるため、これを阻止する意味での軍事化を伴う)②マイダン暴力革命後、東部ドンバス地方のロシア系住民の大量殺戮が起こったたため、ウクライナ系ロシア人の安全を保障する体制(システム)を確立すること(ロシア系ウクライナ人が多数を占めるクリミア半島地域では住民の自主投票によって同地域のロシア編入が決定されたから、領土交渉の対象にはならない)ーの三点だ。
この点で、ウクライナ側の歩み寄りがあったかどうかは定かではない。なお、東部ドンバス地域、クリミア半島地方についてはゼレンスキー政権の性格次第で、領土交渉で妥協する余地はある。さて、ロシア側とウクライナ側で対面交渉が始まる前の日本時間で28日、国際ジャーナリストの田中宇(さかい)氏が「世界を多極化したプーチン」と題するニュース解説記事で「ウクライナでの戦闘はロシアの成功裏に終わりつつある」と断定に近い判断をしておられる。著作権に抵触しないギリギリの範囲で一部、紹介させていただきたい。

ウクライナに侵攻したロシア軍は、ウクライナ側の軍勢(主に極右民兵団・アゾフ大隊)を掃討していき、戦闘は終わりつつある。これまで最も激しい戦闘が行われていたのはアゾフ大隊の中心地であるドネツク州のマリウポリだった。そこでは極右たちが市民を人間の盾にして市街地に立てこもった。市街を包囲した露軍が人道回廊を作ったのに、極右は市民が人道回廊を通って市外に避難することを許さず、事態が膠着していた。しかし露軍はしだいに人道回廊を機能させて人間の盾にされていた市民を避難させ、市民の避難後に露軍が極右を制圧し、市街地を少しずつ解放した。3月24日にはマリウポリの中心街や市役所から極右が排除され、露軍の占領下に入った。極右は市内の南部に退却し、そこを最後の拠点として露軍に対抗しようとしている。中心街から極右が排除されたことで、マリウポリの戦闘は山を越えた。 (Russia’s War on Ukraine Is Far From Over) (Escobar: Make Nazism Great Again?

ウクライナの空軍と海軍はすでに消滅し、地上軍も装備の多くを失って弱体化している。政治的にもゼレンスキー大統領がロシアへの譲歩を重ねている(彼は欧米向けの発言だけが好戦的だ)。ロシアはウクライナで非武装化と非ナチ化(極右の排除)という侵攻の目的を達成しつつある。露軍は今後、ウクライナの中でロシア系住民が多い東部2州(ドネツクとルガンスク)の安定化に力を入れていく。東部2州はすでにウクライナからの独立を宣言し、ロシアは2州を独立国として承認した。今後2州は住民投票をやってロシアに併合してもらうことを正式に希望する。それを受けてロシアは2州を併合する。ロシアは、2州を併合する形でウクライナの国境線を変更し、すでに新たな国境線の近くにいる露軍がそれを防衛する。 (Zelensky suggests Ukraine’s Western backers lack courage) (Referendum on joining Russia may be held in LPR in near future – LPR head

いずれゼレンスキー政権のウクライナは国境線の変更を承認する。(以下、略)

要するに、ウクライナのオリガルヒ(新興財閥)であるイーホル・コロモイスキー氏が資金を拠出して創設したアゾフ大隊などのネオ・ナチ勢力を権力基盤としたゼレンスキー大統領は、今回のウクライナ事変(ロシア軍侵攻)で事実上、プーチン大統領に屈すると見ている。ただし、NATOの盟主・米国がそうした決着を許すはずはないから、ロシア軍としてはウクライナから完全に撤退することはできない。だから、米国がウクライナに設置した生物・化学兵器研究所などを制圧し、ネオ・ナチ勢力の動向を監視して一掃するために、ロシア軍の一部を駐留させておかねばならない。

そうすると、米欧日諸国は経済制裁を続けるだろうから、ロシアは中国やインドなどBRICs(南アフリカを加えれば、BRICS諸国)に加えて、非米諸国に転じつつあるサウジアラビアやアラブ首長国連邦など中東諸国、それに南米諸国を加えて、米国を盟主とするG7諸国に支配されない一大経済圏を形成する動きを進めると、田中氏は見ている。これらの反米・非米圏は。石油や天然ガス、IT産業など先端産業に必要な金属資源、それにドル基軸通貨体制に対抗できる金地金などの大生産国である。米国では「冷戦終結」後、金融技術こそ発達し、弱肉強食の新自由主義を世界に押し付けてきたが、2008年9月15日のリーマン・ショック後はQuantitative Easing=QE(量的金融緩和)を行い、10年物米国債に象徴される債券や株式を購入、証券価格の値下がりを抑え、金融バブルを引き起こしている。

米国の連邦準備精度理事会(FRB)を頂点とした中央銀行システムは、物価上昇率(インフレ率)が急上昇しているから、政策金利をゼロ%から2.5%に引き上げ、今後7回ほど引き上げる予定だ。政策金利が上昇すれば、中央銀行がコントロールできない長期金利は急騰・暴騰し、いずれQEがもたらしたバブルは崩壊せざるを得ない。米国では公開市場委員会(FOMC)が今年の1月15日にQEの停止を公言し、Quantitative Tightening=QT=量的金融引き締め政策(債券や株式を市場に売り出すこと)を行うことを決定した。ただし、バブル崩壊を恐れていることやウクライナ事変=侵攻が起こったことなどから、隠れQEをなお続けているようだ。

哀れなのは日銀で、黒田東彦(はるひこ)総裁は未だに空虚な「黒田バズーカ砲」を打ち続けており、円相場はⅠドル=123円まで下落していて、このままで行くと少なくとも1ドル=150円まで値下がりするとの相場関係者の見方もある。今回の米欧州日本でのインフレの原因は、コロナ禍で世界のサプライチェーンが破壊されたことに加え、イラク事変=イラク侵攻によるロシア制裁で、石油・天然ガス、それにIT産業など先端産業に必要な鉱物資源の日米欧諸国への供給が断ち切られたことにある。日本の場合は、1997年の逆噴射政策(景気が回復にさしかかった時点で財政引き締め政策を行うこと)以来の30年間のデフレ不況で、スタグフレーションが顕在化する恐れがある。

コロナ禍やイラク事変=イラク侵攻によるロシア制裁で石油・天然ガス、それにIT産業に必要な鉱物源の供給が断ち切られているから、QEを続けようがQTに転換しようが、供給ショックによるインフレは止まらない。これに、おそかれ早かれ欧米諸国でのバブルは崩壊するから、資産効果は薄れ、不況になってしまう。欧米日諸国で待ち受けているのは、スタグフレーションの本格化だ。

これに対して、ロシアや中国、インドなどBRICs(南アフリカを加えれば、BRICS諸国)に加えて、非米諸国に転じつつあるサウジアラビアやアラブ首長国連邦など中東諸国、それに南米諸国は石油・天然ガスを中心に鉱物資源(総じて、コモディティ)が豊富であり、経済成長の基盤である人口が多い(潜在成長力としての内需換気が可能)。コモディティと最終的には紙くずと同様になる債券とどちらが強いか。軍配はコモディティ生産・保有国に上がるだろう。ロシアや中国など反米・非米圏ではこれに加えて、ドル基軸通貨体制の本来の主敵である金を生産する。ロシアは世界第三位の金産出大国だが、欧米日諸国の経済制裁によってロシア産の金は世界中で販売できないようになっている。

しかし、金には精錬技術があるから、ロシア産も中立国産として精錬でき、販売は可能だ。ロシアとともに欧米日諸国に脅されている中国も次第に一段と反米傾向が強まっていくだろう。自国の通貨を複数の外貨に連動したレートにする固定相場制である通過バスケット制に金を連動させる金・バスケット通過体制を築き、金融技術を駆使してドル基軸変動相場通貨体制(ブレトンウッズⅡ)に代わる通貨体制を構築できるかもしれない。

いずれにしても、ウクライナ事変(イラク侵攻)が長期化すればするほど、欧米日諸国は不利になる。プーチン大統領が、田中氏の「ドルはプーチンに潰されたことになる」(https://tanakanews.com/220306dollar.php)との指摘どおりに、ウクライナ事変=ウクライナ侵攻でドル基軸通貨体制の崩壊を狙っているとすれば、プーチン大統領は大戦略家=大策士家ということになり、ウクライナ事変は簡単には収まらないだろう。

イラク事変に関連して再浮上するバイデン氏関与のロシア・ゲート問題

イラク事変に関して、バイデン大統領が副大統領の際に持ち上がったロシア・ケート問題が再浮上している。これは、政治経済評論家の植草一秀氏がメールマガジン第3186号「バイデン大統領の不都合な真実」などで取り上げているもので、バイデン氏の子息がロシア企業から不正資金を受け取っていたが、バイデン副大統領がこの事件を捜査していたウクライナの検事総長を当時のポロシェンコ大統領に解任させ、闇に葬ろうとしたという問題である。

植草氏は、拓殖大学教授の名越健郎氏が2020年11月に発表した論考(https://president.jp/articles/-/40870)をもとに詳細を説明しておられるから、名越氏の論考を引用させていただきたい。

一連のウクライナ訪問には、次男のハンター・バイデン氏が必ず同行してきた。ハンター氏は、2014年4月、ウクライナのエネルギー最大手、ブリスマ社の取締役に就任した。同社のプレスリリースには「法務部門を担当し、国際業務を支える」と書かれている。結局、(エネルギー問題の専門家ではない)ハンター氏は2019年4月までの5年間ブリスマ社の取締役を務め、非常勤ながら月5万ドル(約500万円)の報酬を受けた。経済破綻したウクライナの平均賃金は300ドル程度なのだから、この報酬は何と平均賃金の166倍以上ということになる。エネルギーの知識もないハンター氏がいかに破格の報酬を得ていたかがわかる。

このブリスマ社は脱税や資金洗浄の疑いがあり、ウクライナ検察当局が同社とオーナーのズロチェフスキー氏を捜査していた。在ウクライナ米大使館も徹底捜査を求めており、米政府内には、ハンター氏が札付き企業の役員を務めることに批判の声があったという。しかし、バイデン副大統領は2015年、ポロシェンコ大統領に対し、同社を捜査していたショーキン検事総長の解任を要求した。解任しないなら、ウクライナへの10億ドルの融資を撤回すると警告していた。

これに応じる形で、ポロシェンコ大統領は検事総長の解任を決めた。議会も承認し、米国の融資は実行された。検事総長は解任後、バイデン副大統領が圧力をかけてきたとメディアで告発した。大統領選に向けてバイデン氏の疑惑に目を付けたトランプ大統領は2019年7月、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で、バイデン父子を捜査するよう要請し、捜査しなければ軍事援助を凍結すると警告した。この「ウクライナ・ゲート」事件では、民主党が多数派の下院で大統領弾劾(大統領選妨害の容疑)が決議されたが、共和党が多数派の上院は無罪評決を下している。

この名越氏の論考を裏付ける動画が、Youtube(https://www.youtube.com/watch?v=lk9r-d8toko)で視聴できる。

日本語に翻訳されたバイデン副大統領の発言を紹介すると、以下のようになる。「ウクライナへの融資保証をするために、関係者を説得しに足を運んだよ。キエフを訪問するのは12~13度目だった。10億ドルの融資保証をすると発表する予定だった。ポロシェンコ大統領とヤツェニュク首相(マイダン暴力革命の後、首相に選任された親欧米路線の民族主義政党・人民戦線党の党首。マイダン暴力革命の後のウクライナ政権には米国が関与し続けており、内政干渉と言える。その後、米国主導の親欧米路線内での対立が激化しペトロ・ポロシェンコ大統領と袂を分かつ)は検事総長を解任すると約束したのに実行していなかったんだ、彼らはそのまま記者会見に臨もうとしていた、私は『それなら10億ドルはやらないぞ』と言った。すると彼らは『あなたにそんな権限はない、大統領ではないのだから』と言った。私は、『じゃあ大統領に電話してみろ、10億ドルはやらないと言っているんだ』と言った。そして、『私はあと6時間で出発するからな』と念押しした。『検事総長をくびにしないなら金はやらん』とね、案の定、あのクソ野郎はクビになった。そして、代わりにマシな人間を任命したのさ」

バイデン副大統領が、ウクライナに傀儡政権を作ってきた一幕である。このYoutube動画は削除される可能性もあるので、動画キャプチャを下記に貼り付けておきます。

 

米国のディープステート(闇の帝国:軍産複合体と弱肉強食の新自由主義を信奉する米系多国籍企業)を終わらせない限り、地球に平和は実現しない。


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