「新自由主義の自滅」(菊池英博著)を読んでー21世紀を生き抜く国家観を提示

政治・経済アナリストで日本財政金融研究所の菊池英博氏が2015年7月21日、最新著「新自由主義の自滅ー日本・アメリカ・韓国」(文春新書)を上梓されたので拝読した。本著は、新書版ながら日本における新自由主義研究の第一人者である菊池氏が最新の時点で21世紀の「妖怪」である「新自由主義」について本格的に説明、新自由主義が日本、アメリカ、韓国を食いつぶし、破壊していった形跡を論理実証的に、また、極めてわかり易く女実した大著である。併せて、本著の行間には「自滅」とのタイトルが示すように、新自由主義がその矛盾(ウソ)のゆえに崩壊することがにじみ出ており、代案としての経済政策とともに「21世紀を生き抜く国家観」を示していることが特長になっている。

説明が非常に分かりやすいので、財務省を中心とした政府のウソ、TPP反対と言って国民を騙した自民党のウソ、日本経済新聞を始めとしたマスコミのウソにだまされずに、現在の日本の状態に真に危機意識をお持ちの方に精読をお勧めしたい。

サイト管理者はかつて、新聞社に在籍したことがあるが、新聞社では社論として評価したものの、1980年に登場したレーガン政権のレーガノミックスに対してはどうも馴染めなかった。というのも、「減税すれば労働意欲が高まり、税収が増える」というラッファー理論は何かインチキくさいと思った。また、所得税の限界税率の引き下げ(所得減税)・法人税減税は、財政の所得再配分機能を否定し、経済社会の安定を脅かすものではないかと感じたこともある。さらに、サプライサイド経済学と言いながら、やっていることはスーパー軍事ケインジアン主義で巨額の財政赤字、大幅な経常赤字をもたらし、1985年には約70年ぶりに対外純債務国に転落するなど、「三つ子の赤字」を惹起し、米国の衰退の始まりをもたらしたからだ。その後の度重なる円高誘導政策や困った時の神頼み(ルーブル合意によるドルの下支え=具体的には、長期に及ぶ金融緩和=、その結果、1980年台の後半に日本にバブルを引き起こし多大の損害をもたらした=この顛末には、日銀の財政金融所長が「あの金融緩和の継続」は誤ってました、との発言を得た=)。

ただし、こうしたレーガノミックスの本質が新自由主義であることについては、菊池氏(本人並びに著書)に出会うまではわからなかった。この出会いによって、「なるほど、そういうことだったのか」と得心した。新自由主義はシカゴ学派のミルトン・フリードマン、そして、それを数学的に精緻化したロバート・ルーカスの新古典派マクロ経済学だと理解しているが、両人ともノーベル経済学賞を受賞している。ノーベル賞というのは、人類を幸福にするための理論的成果を収めた研究者に与えられるものとばかり思っていたが、ノーベル経済学賞に関してはどうもそうではないようである。

例えば、新自由主義に真っ向から反対しながら亡くなられた宇沢弘文氏やサッチャリズムを根本から批判された森嶋通夫氏らは常に、ノーベル経済学賞候補と言われながらも受賞されずに亡くなられた。ノーベル賞も政治的バイアスがかかっているような気がしてならない。

さて、本著については初めに新自由主義の意味とその手法について詳しく説明、その後、新自由主義が日本、米国、韓国を破壊していった跡を論理、実証的に、かつ非常にわかり易く説明している。特に、1987年秋の東アジア金融危機以降、韓国の経済が壊国させられてきた過程の分析には、明日の日本を占うものとして極めて貴重な内容になっている。

サイト管理者としては、中国の民主化と市場経済化に対して助言しつつ、日韓中三カ国でもって新自由主義を撃退しなければならないと感じている。その手がかりのひとつは、第2章「新自由主義を拒絶するヨーロッパ」にある。後半では、日本が石油危機以降、「Japan as NO.1」呼ばれるようになったのは、官民ベストミックスのケインズ政策であることを論理実証的に説明している。ここも、必読である。やはり、経済学の主流は財政政策を不可欠とするケインズ経済学(ただし、新古典派につけいるスキを与えたアメリカン・ケインズ学ではない)と信ずる。

本著の大きな特長はまた、菊池氏が長年構想しておられた骨太の「21世紀を生き抜く国家観」を提示されていることである。なお、サイト管理者としては、どうにもならないとされる国際連合であるが、国連中心主義を追加してはいかがかと思った。また、これに関して食料安全保障についても詳細に説かれているが、こちらも精読して巷のウソに騙されないようにしたい。本著の内容について詳述することはさけるが、政府、自公与党、日経新聞などメディア等巷のウソにだまされないために新自由主義の定義とその経済的手法(市場原理主義)について引用させていただきたい。また、国債保有の観点から見た米中関係について触れておきたい。

まず、新自由主義のキーワードはつぎのようになる(本著60頁)

 

  • 市場万能主義
  • 小さい政府
  • 金融万能主義(マネタリズム)
  • 健全財政と称する緊縮財政(特に税収の範囲でしか歳出を行わない基礎的財政近郊主義)
  • フラット税制(税制における応能原則の否定。行き着くところは人頭税)
  • 累進課税の否定(所得再配分による経済社会の安定化を極端に忌み嫌う)
  • 財政政策の否定(公共投資による景気振興策と富・所得再配分政策の否定)
  • 規制緩和(実際には、利権集団への富の集中)

次に、米国の国債保有については74頁前後に詳述されているが、①米国債の41%は年金基金など社会保障基金と中央銀行=FRB=が保有②残りの59%が民間保有だが、このうち34%は外国人投資家(外国政府関係機関含む)が保有している(民間保有の57%)③外国人保有分の21%を中国が保有しているーという。極端に言えば、米国が中国と戦争しようとすれば、中国は国債金融市場で米国債を売っぱらえば良い。そうすれば、再建・株・ドルのトリプル暴落となって、米国の経済は破綻に陥る。経済が破綻に陥ったほうが、戦争は負ける。

だから、米国の第二期オバマ政権の国務長官ジョン・ケリーは、「米国は中国を必要とし、中国は米国を必要としている」と言わざるを得ない。このことからすれば、今回の衆議院で可決した安全保障法案体系など、全く意味がない。なお、日本は米国債1兆4千億ドル(約170兆円)保有しているが、現実的には塩漬けにされており返してもらえないし、米国も返す意思も能力もない(三つ子の赤字)。米国債を売却したいと思っていた橋下龍太郎首相や中川昭一財務大臣は、孤独か悲惨な死を遂げた。

最後に、「おわりに」で菊池氏が紹介されている水野和夫氏について。サイト管理者は水野氏にインタビューした経験があるが、結局のところ、新自由主義の助長に一役買っているだけの人物であり、夢も希望もない持論を繰り返す。また、三菱UFJグループの組織人間でしかない。だから、財務省の意思を先取りしてくれる同省にとっては有難い「エコノミスト」で、消費税は10%どころか、どんどん上げなければならないとゴマをする。日本の未来を託すには不的確と思った次第である。

※追伸 新保守主義と新自由主義に親和性があると思うが、新保守主義というのはトロツキズムを信奉する米国共産党一派が保守に転向したので、「新保守主義」という指摘もある。レーガン政権を支えたのは、彼ら左翼知識人らしい。これは、今のところ、仮説である。

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