不安定化する中東情勢、イスラエルに不利な展開にー激動する国際情勢(追記:ガザ問題)

現地時間で今月4月2日、イスラエルがシリアにあるイランの大使館領事部に対して国際法違反の攻撃をしたが、その報復としてイランが14日、イスラエル本土に対して初めて無人機やミサイルで報復した。ただし、これは、事前にアラブ諸国を通じて米国やイスラエルに対して、攻撃の日程や対象地域(イスラエル国民が密集していない地域)を伝えて、イスラエル・米国側の迎撃を許すなど手加減をしていた。イランによるイスラエル攻撃の目的は、イランがイスラエル本土(本国)を攻撃できる能力を持っていることを世界に知らせることであったと考えられるが、この報復攻撃に対して、イスラエルは19日無人機を使って、イラン中部のイスファハン州の空軍基地周辺を攻撃した。ただし、イスラエルのネタニヤフ戦時内閣体制側も攻撃をエスカレートさせないように抑制している模様だ。しかし、イスラエルのガザ地区に対する戦争犯罪とも言える攻撃は、中東諸国のイスラム教徒(主に、イランが盟主のシーア派)の強烈な批判という火に油を注いでいるようなものであり、イラムラム教徒の動向によってはイランがイスラエル本国に対して、本格的な報復攻撃を仕掛ける可能性もある。その場合、イスラエルは核兵器を保有していることから、核戦争(イランはイスラエルの核攻撃用施設の破壊を目指す)に暗転するという最悪の可能性も考慮しておかなければならない。

イスラエルとイランの報復戦闘、イランに余裕

まず、今月2日のシリアにあるイスラエル大使館に対して、イスラエルが国際法違反のイラン大使館に対して行った攻撃について、英国の公共放送であるBBCは「(イスラエル)シリアのイラン大使館領事部に空爆、死者多数 イスラエルを非難」と題する記事で次のように報道している(https://www.bbc.com/japanese/articles/c51dvn7l6lko)。

イランの革命防衛隊は1日、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館の領事部がイスラエルによって攻撃され、将官7人が死亡したと発表した。シリア国防省によると、イスラエルの航空機が1日午後5時ごろ、同国が占領するゴラン高原方面からイラン領事部の建物を攻撃した。領事部は大使館の隣で、ダマスカス西部メゼ地区の高速道路沿いにある。

発射されたミサイルの一部はシリアの防空システムが撃ち落としたが、他のミサイルが「建物全体を破壊し、中にいた全員(注:主にイランの革命防衛隊)が死傷した」という。

イスラエルを先制攻撃したのはハマスだが、レバノンやシリアにあるハマス(注:正式名はムスリム同胞団パレスチナ支部)の支援勢力(最大の後ろ盾はイラン)といえども、世界各国に所在する大使館を攻撃することは、明らかに国際法違反だ。このため、イランではイスラエルに対する報復攻撃を求める圧力が高まっていたが結局、イランのライシー政権は14日、イスラエル本土(本国)に対して、イラン本土(本国)から多数のミサイルや無人機を使って報復攻撃を行った。

ただし、この報復攻撃はアラブ諸国や米国、中東のメディアを通じて米国政府やイスラエル戦時内閣に対し、攻撃の日程や対象(イスラエル国民が密集していない地域)を伝えて、イスラエル・米国側の迎撃を許すなど手加減をしていた。目的は、イランが、イラン本土からイスラエル本土を攻撃できる能力を有していることを公にすることにあったと見られる(https://www.youtube.com/watch?v=usMqVl3ql4o、動画の後半部分の孫崎享氏の発言)。

これに対して、イスラエルのネタニヤフ戦時内閣は昨日の19日、無人機を使って中部のイスファハン州にある空軍基地を攻撃した模様だ。NHKは「イランの爆発 イスラエルが対抗措置として攻撃か」と題して、次のように報道している(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240420/k10014428071000.html)。

イランの複数のメディアは、19日、中部のイスファハン州にある空軍基地の近くで爆発があり、複数の小型無人機が撃墜されたと伝えました。これについてイスラエルは何も発表していませんが、アメリカの複数のメディアはアメリカやイスラエルの当局者の話としてイスラエルによる攻撃だと伝えています。

このうちABCテレビはアメリカ政府高官の話として、イスラエルがイランの大規模攻撃に対する対抗措置として複数のミサイルで攻撃したと報じたほか、ワシントン・ポストはイスラエル当局者の話として「イスラエルにはイラン国内を攻撃する能力があることを伝える意図があった」としています。

イスラエルのイラン攻撃の場合も、取り敢えずは、「イスラエルにはイラン国内を攻撃する能力があることを伝える意図があった」ものと見られる。ただし、イスラエルがイラン本土を攻撃できる能力を保有していることは今回の攻撃によらなくても、明らかである。また、攻撃対象も限定されている。国際情勢解説者の田中宇氏は19日のイスラエルのイラン攻撃に対して、19日に公開された「イスラエルの窮地」と題する分析記事(https://tanakanews.com/240419israel.htm、無料記事)で次のように解説している。

イランは4月14日の攻撃で、イラン本土からイスラエル本土を破壊できる攻撃力を持っていることを示した。この示威が攻撃の目的だった。イランは事前にアラブ諸国を通じて米イスラエルに攻撃の日程や対象を伝えて迎撃を許すなど手加減をしていた。4月19日にイスラエルがイランを思い切り攻撃していたら、次回イランは間違いなく、4月14日よりはるかに強く広範に、事前通告なしにイスラエルを攻撃する。より大きな破壊を受けたイスラエルはあとに引けなくなり、自滅的なイランとの全面戦争に入っていかざるを得ない。
US call delayed Israeli ‘response’ to Iran attack – media

それを防ぐためネタニヤフは、4月19日のイラン攻撃を、与党内の極右から批判されるぐらい弱く小規模な範囲で挙行した。米バイデン政権はネタニヤフに反撃するなと加圧していたが、これは無視した。「必要な攻撃は米国に反対されてもやる」という態度を見せる必要があった(イスラエルは米国を見下すことで強い政治力を持てている)。だが、イランを本気で大規模に攻撃してしまうと、イランからの本気の反撃を誘発し、あとに引けない全面戦争とイスラエル亡国(とイランの大破壊)を引き起こす。国土が広いイランは大破壊、狭いイスラエルは国家滅亡になる。イスラエルがレバノンみたいになり、テルアビブがガザみたいになる。これはまずい。だからネタニヤフは、イランに反撃したものの、イランが自重してくれてイスラエルを再反撃しない程度の限定的な攻撃にした。ということでないか。
Futures Tumble, Oil And Gold Soar On Reports Of “Huge Explosions” In Central Iran, Israeli Airstrikes In Iraq And Syria

※【追記】イランが支援するイラクの民兵組織がSNSで発表したところによると、現地時間20日にはイラクの首都バグダッドの南にある基地で爆発が起きたという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240420/k10014428071000.html)。ロイター通信は、病院関係者の話として、1人が死亡、6人がけがをしたと伝えているという。イスラエルの攻撃によるものか、イラン側の自作自演なのか、そのいずれでもないか、詳細は不明だが、米国の複数のメディアによると「イスラエルがイランによる大規模攻撃への対抗措置として攻撃したと伝えました」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240420/k10014428031000.html)とのことだが、イランとしては『撃墜された無人機はいかなる被害ももたらさなかった』とした上で、『もしイスラエルがイランの国益に対してまた行動を起こすなら、イランは直ちに断固とした対応をとる』とイスラエルをけん制し」ているという。イスラエルがイランに対して本格的な対抗報復措置を執った場合は、イランが事前通告なしの本格的な報復攻撃に踏み切る可能性が強い。

取り敢えずは、イスラエルとイラン双方が戦闘拡大から本格的な戦争に暗転することを自重しているようだが、今後の動向については誰にも分からない。仮に、両国間の紛争がエスカレートすれば、イランの人口9000万人弱(8855万人)、面積(165億平方キロメートル)に対して、イスラエルはそれぞれ960万人(1000万人弱)、2億2140平方キロメートル(日本の四国程度)と人口、領土ともにイランが圧倒している。イランはしかも、昨年の科学技術論文の引用件数が世界13位の日本を上回るなど、高性能の軍事兵器の開発につながる科学振興に力を入れている。なお、引用件数の世界第一は中国である。

次第に科学技術大国・軍事力大国にのし上がりつつあるイランであるから、1948年から1973年までに起こった4次にわたる中東戦争ではイスラエルが基本的に勝利してきたが、エジプトがシリアとともにイスラエルを先制攻撃した第4次中東戦争(1973年10月)は実質的に痛み分けの形になり、「イスラエル無敵」の神話が崩れた。その後、1979年にはサダト大統領政権の際にイスラエルと国交樹立した。

40年以上も前のことであり、アラブ諸国の軍事兵器も高度化し、軍事力も強大化しているから、今後、イスラエルとイランの戦闘が戦争に暗転化すれば、人口・領土の絶対的な格差からイスラエルとしても保有核兵器の使用に踏み切る可能性が高い。イランとしては、イスラエルの核攻撃基地を先制攻撃するだろう。イスラエルとしても紛争をエスカレートさせる前に、ガザ南端のラファ地区に追いやったパレスチナ難民を国交のあるエジプトに追いやり、「パレスチナ国家構想」の消滅と引き換えにエジプトで成立することが予想されるムスリム同胞団国家の樹立を認め、自国の安全を確保したいところだろう。

イスラエルに自制を促すのは米国、英国の役割、イランの自制を促すのは、昨年2023年の8月、中国、ロシア、インド、ブラジル、南アフリカ共和国の新興5カ国で構成されるBRICSの首脳会議でイランの加盟を認めたBRICS(特に、中露印)だ。イスラエルは表向き、米国に強い影響力を有し、また、その支援を受けているが、モサドなど世界最高峰の諜報機関を有しており、現在の情勢では非米側陣営に勢いがあることを認識している。イスラエルは今後の外構基本戦略として、米国との関係は残しながらも、ムスリム同胞団国家の樹立を認めて、基本的には非米側陣営に移行することを決めており、現在はその過渡期にあると見られる。

歴史的なユダヤ系の人々の強力な世界政治への圧倒的な影響力は考慮しなければならないが、米国がキリスト教国家としての使命を棚に上げ、無謀なウクライナ戦争を誘発したことで、イスラム教徒のアラブ諸国にもチャンスは訪れている。今回のイスラエルのイラン攻撃について、田中氏も暫定的に次のような見方を披露している。

イランが自重して再反撃を控えるかどうか、まだわからない。だが、もともと今回の相互攻撃で、悪いのはイスラエルの方だ。イランは悪くない。イスラエルは4月1日にダマスカスのイラン大使館の別館を空爆したが、戦時であっても大使館(外交施設)への攻撃は国際法違反だ。イスラエルに対するイランの反撃は、国際法に沿った正当なものだった。ネタニヤフは、イランに正当性を与える失策をした(エジプトと和解するため中東戦争でわざと負けたゴルダ・メイア首相と同様の、意図的な失策だった可能性はある)。(Middle East redefined: Iran’s retaliatory attack on Israel signaled a major change in the region

イランは正しい。だから余裕がある。イランは、再度の反撃をせずに自重するのでないか(RT=Russia Tody、ロシア・モスクワに拠点を置くニュース専門局=などは、イランが再反撃しそうだと書いているが)。イスラエルは米国の軍事力と諜報力を私物化して強かったので、これまでシリアやレバノンのイラン系の民兵団や軍事施設を好き放題に攻撃してきた。イラン側は、イスラエルに攻撃されっぱなしだった。だが、今後は多分違う。4月14日のイランからイスラエルへの攻撃が、すべてを変えた。もうイスラエルは、簡単にイラン側を攻撃できない。したら亡国のリスクに直面する。イランとしては、イスラエルをそのような状態に陥れたことで、とりあえずの目的を達成している(イスラエルの方からゴルダ・メイア方式でそれを誘発した可能性もある)。IAEAも急にイランの味方をしはじめた。プーチンが満足そうに含み笑いしている。
Is all-out war in the Middle East now inevitable?)(‘No evidence’ Iran developing nuclear weapons – IAEA

また、田中氏は「イランとイスラエルの冷たい和平」と題する続報で、20日の続報(https://tanakanews.com/240420israel.htm、無料記事)で、イスラエルが本格的なイラン攻撃を仕掛けてきたらイランも本格的な対抗措置をするが、イスラエルが「一線」を超えない限りそうはしないだろうと予測するとともに、「ガザ抹消攻撃」は進めるとしており、既にヨルダンでムスリム同胞団の勢力が強まってきたと分析している。

4月19日のイスラエルからの攻撃に対し、イランは「とりあえず、すぐには」反撃しないことにした。ゆくゆく反撃する可能性を残しているが、イスラエルがあらためてイラン本土に対してすごい攻撃をしてこない限り、イランはイスラエルを攻撃しないだろう。イランは「今朝イスラエルが攻撃してきたが、全部迎撃した。勝った」と豪語している。イスラエルは依然として、シリアでイランが展開している軍事施設を攻撃している。今後もするだろう。昨日はレーダー網を空爆した。イランは、シリア内戦でアサドを支援する名目で、イスラエルに隣接するシリアとレバノンに、傘下のシーア派民兵団の施設を展開し、イスラエルに脅威を与えている。Futures Reverse All Losses, Oil Slides After Iran Plays Down Israeli Attacks, Signals No Retaliation

イスラエルは今後も、これらの施設を空爆する。ヒズボラなどイラン傘下の民兵団もイスラエルを攻撃し続ける。代理戦争は続く。だが、イランとイスラエルとの直接交戦はこれで一段落した。イランとイスラエルは、代理戦争の部分を残しつつ、直接交戦の部分について「冷たい和平」の関係を構築した。イスラエルが再び一線を越えてイランを大きく攻撃したら、イランは4月14日のようなイスラエル本土への報復攻撃を行い、イスラエルは滅亡しうる中東大戦争に再び直面する。だが、イスラエルが一線を超える無茶をしない限り、イランはイスラエルの動きを黙認する。イスラエルは、イランに対してある種の安全を確保した。イランも、イスラエルを無茶しにくい状況に追い込めた。Israel Targets Syrian Air Defense Sites, Causing Significant Damage)(中略)

そして今回、イスラエルがガザ市民をエジプトに追い出す作業を開始して中東の混乱を強める前に、イスラエルはイラン大使館の空爆に始まる軍事報復合戦を誘発し、イスラエルとイランとの冷たい和平・一線の設定をした。これまで一線がなかった状態から、今後の状況変化に応じて関係性や一線を引き直していけば良い状態に変更した。これは偶然の産物でなく、ネタニヤフ政権による意図的な策だろう。ネタニヤフは、イランからの史上初のイスラエル本土への報復攻撃を予測しつつ、ダマスカスのイラン大使館を空爆したことになる。イスラエルはいったん窮地に陥ったが、これも予測の範囲だ。やはりネタニヤフは、わざと負ける「ゴルダ・メイア方式」をやったのだろう。(Markets Dump Then Rebound As Israel Retaliates To Iran In Oddly Toothless, Performative Response

イランやアラブ諸国は、ガザでムスリム(アラブ人)の同胞たちが殺されていることに怒っている。だが同時に、パレスチナ問題は、イスラエルの準国内問題でもある。イランやアラブや欧米は、イスラエルに「パレスチナ人を殺害・弾圧するのをやめて、パレスチナ人の面倒を見てやり、パレスチナの建国を支援しろ。われわれも支援するから」と言っているだけだ。イスラエルは、そんなの嫌だ、全員追い出す、抹消する、と言って殺害弾圧を続けている。イスラエルを改悛させることはできない。パレスチナ国家は永遠に実現しない。イスラエルに殺害・餓死させられるパレスチナ人が増えるだけだ。イスラエルは極悪だ。しかし、それを指摘しても、何も変わらない。消されていくガザ

そう言っている間に、パレスチナ人を追放して行かせる先の一つであるヨルダンで、王政が転覆されてハマスの政権になっていきそうな流れが始まっている。イスラエルは、ガザと西岸から追い出すパレスチナ人(というかアラブ人)のために、エジプトとヨルダンを、米傀儡国からハマスの国に転換することを誘発する。パレスチナ人を率いるハマス(ムスリム同胞団パレスチナ支部)は、イスラエルから追い出される見返りに、エジプトとヨルダンを得る。ハマスは今後もずっと表向きイスラエルを敵視し続けるが、実際は満足してエジプトとヨルダンを統治する。4月14日にイランが発射した無人機やミサイルは、ヨルダンの上空を通ってイスラエルに向かった。ヨルダン軍は、飛来物に対して迎撃を試み、一部を撃ち落とした。イスラエルは事後に、ご褒美としてヨルダンに1年間の水利権を与えることにした。Is the Gaza war destabilizing Jordan?Israel to Extend Water Agreement With Jordan ‘For Helping Shoot Down Iranian Drones’

お、今回のイスラエルとイランの戦闘などによって、非米側陣営が保有する資源・エネルギー価格が再び高騰してきている。これは、ロシアを始め非米側陣営の実質経済成長率をさらに加速する大きな要因になるだろうし、米側陣営のインフレ再燃の加速と経済・金融情勢の悪化をもたらすだろう(ジェトロによると2023年のロシアの実質経済成長率は3.6%、https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/02/f4a91dde588f6366.html#:~:text=%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%81%E3%83%B3%E5%A4%A7%E7%B5%B1%E9%A0%98%E3%81%AF2,%E3%82%92%E4%B8%8A%E5%9B%9E%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E6%8C%87%E6%91%98%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)。

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