OPECブラスの日量200バレルの原産決定、米側陣営の経済破綻を加速ー秋の米中間選挙狙いで民主党は決定的に不利(追記:ケルチ=クリミア=大橋爆破事件)

石油輸出国機構(OPEC、13カ国)とロシアなど非加盟産油国で構成する「OPECプラス」が10月05日、日量200万バレルの減産を決定した。対露経済制裁の跳ね返りで経済的に苦境に陥っている米側陣営の経済破綻を加速するもので、タイミング的には11月08日の米中間選挙を狙ったもの。民主党バイデン政権にとっては決定的に不利になるだろう。

OPECプラス1の原油減産決定で米側陣営はスタグフレーション入りが本格化

米側陣営はコロナ禍から始まったサプライチェーンの寸断と今年2022年02月24日のウクライナ事変勃発に伴う対露経済制裁の跳ね返りで、コストプッシュ型インフレに直撃されている。インフレ抑制のため、QT(Quantitative Tightening=量的金融引締め政策=)を強化しようとしているが、金融引締め政策は需要抑制政策(要するに不況政策)であるため、双方相まって米側陣営は今後、スタグフレーションが本格化する。

こうした経済悪化の中で、OPECプラス(OPEC=石油輸出国機構=イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、ベネズエラの設立当初の加盟5カ国に加えた13カ国からなるが、これにロシアを加えたもの)が日量200万バレルの原産を決定したことは、米側陣営に本格的なスタグフレーションをもたらすものだ。OPECプラスの原産理由は、不況入りに伴う世界の原油需要の減少で原油価格が1バレル80ドル以下に下落したことに対応したものとされる。国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は10月10日に公開した最新の論考「産油国の非米化」(https://tanakanews.com/221010opec.php、有料版)

サウジアラビアが主導する産油諸国の国際組織OPECに、非加盟のロシアを加えた「OPEC+」が10月5日、米国の反対を無視して、11月から日産200万バレルずつ減産すると決めた。2月末のウクライナ開戦後、米国側が対露制裁としてロシアの石油ガスを買わなくなったため、石油の国際価格が1バレル120ドルぐらいまで高騰し、米国側の経済に打撃を与え、先進諸国が不況になった。だがその後7月ぐらいから、不況の影響で世界の石油消費量が減ったため(それと金融界による信用取引を使った石油相場の上昇抑止で)逆に石油価格は下がり、先月は80ドル以下になった。その対策として今回OPECが減産を決めた。石油やガソリンが再び値上がりしそうだ。 (Biden Regime Declaration of War on OPEC?

スタグフレーション入りしつつあり、11月08日には米国の中間選挙もあるこのタイミングで、OPECプラスが原油減産決定を決めたことについて、さすがの米側陣営のメディアも懸念を表明せざるを得ない。ロイター通信は「説得力欠く(注:表向きの理由は世界=米側陣営=の不況入りに伴う原油需要の減少に対応した措置、というもの)OPECプラス、大幅減産で高まるリスク」と題して次のように結論を伝えている(https://jp.reuters.com/article/column-russell-oil-opec-idJPKBN2R107B)。

OPECプラスは、単に市場のバランスを取ろうとしているのか、それとも世界的な景気後退を引き起こすことが確実な水準まで価格を引き上げようとしているのかどちらかだ。また、12月に欧州の輸入禁止措置が発動されればロシア産原油・精製品輸出が現物市場で実際にどうなるのか、さらに輸出価格上限が設けられる予定も現在の不透明感の一端だ。(中略)

まとめると、OPECプラスの大幅減産がもたらしたものは全体的なリスクの増大だ。現在の、そして将来起こりうる世界経済の状況に対して、原油価格が高止まりする可能性が高まった。米国とサウジのような伝統的関係にもひずみが生じている。

だから、米国連邦準備精度理事会(FRB)の議長も務めたこともあるイエレン財務長官は次のように述べている(https://news.yahoo.co.jp/articles/d53594ecdd9aea950b12de9506375102027dff4e)。

イエレン米財務長官は、サウジアラビアなど主要産油国で構成する「OPECプラス」が原油の大幅減産で合意したことについて、世界経済、特に新興国市場にとって「助けにならず、賢明でない」と述べた。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が9日報じた。

ここで、イエレン財務長官は「新興国市場」の「助けにならない」と述べ、自国を中心とする米側陣営が苦境に陥ることは棚に上げているが、既にインドや中国が水面下でロシアが主導する非米陣営側の結束(政治・経済=ドルを中心とした銀行間の国際決済システムSWIFTに代わる、資源・貴金属・穀物を裏付けとした新たな国際決済システムの強化を含む=・軍事)に協力しているから、新興諸国であっても米側陣営から非米側陣営に「鞍替え」すれば、「苦境」なるものは乗り越えられる。

実際に今回のOPECプラスの決定に反発しているのは米英両国を盟主とする米側陣営である。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「OPEC減産、米国で勢い増す報復論 解体も視野に」と題して次のように伝えている(https://news.yahoo.co.jp/articles/d2d77406b038b406f30c8bd0c6df9c7f98ca3da7)。

石油輸出国機構(OPEC)内外の主要産油国で構成する「OPECプラス」が大幅減産を決定したことに対し、米国が反撃に出る構えをみせている。米議会では、OPEC主導の石油カルテル解体や世界貿易機関(WTO)への提訴に加え、加盟国の米国資産凍結も視野に入れた法律制定を目指す機運が高まっている。OPECプラスが5日、日量200万バレルの減産を決めると、ホワイトハウスは議会とともに、エネルギー価格に対する石油カルテルの影響力を弱める報復措置に乗り出すことをにおわせた。ただ、実際に踏み切れば、米国の輸出も落ち込むとアナリストはみている。

それに加え、OPECと米国の間でここ数年、かろうじて保っていた緊張緩和の流れが完全に途絶えるかもしれない。

米国がOPECプラスの減産決定に対して報復に乗り出すことは結局のところ、同決定がスタグフレーション入りする米側陣営を一段と苦境に陥れるからだろう。これについて、田中氏は先の論考で次のように述べている。

サウジは、2016年から用意していたOPEC+でのロシアとの結束を活用し、ロシアとサウジが協力して米国側の石油価格をつり上げ、経済面から米国覇権を潰そうとする策略が強められた。米覇権を運営する諜報界はこの四半世紀、ロシアと中国とサウジを別々に敵視し、嫌がらせを続けてきた。以前は米国が圧倒的に強かったので、サウジ、中国、ロシアの順番で、敵視されても無視して米国と仲良くしようとしていたが、ウクライナ開戦後、露中サウジが結束して米国覇権を潰して世界を多極型に転換しようとする流れに転換した。20年前の敵視開始から今年の転換まで、米諜報界(多極派)の長期戦略に沿っていると考えられる。 (“OPEC’s Action Is Testimony To A Staggering US Geopolitical And Geoeconomic Error”

民主党バイデンの米政府は、11月の米中間選挙での敗北に直結しかねない石油製品の高騰を防ぐため、サウジに増産を頼んだものの断られ、むしろ今回減産されてしまったので、拙速な対策として、米政府が持つ非常用の戦略備蓄の石油を放出し、石油製品の価格を引き下げようとしている。米政府は、短期間に戦略備蓄の25%を放出した。この傾向が続くと、今後もし本当に戦略備蓄の石油が必要になった時に備蓄不足の状況になりかねない。バイデン政権があがいても、中間選挙は共和党の圧勝になり、民主党は議会の上下院とも多数派を共和党に奪われそうだ。 (US Strategic Oil Reserve Hits Lowest Point in Decades

サウジ王政もプーチンも、米国が共和党政権になることを望んでいる。共和党のトランプ前大統領は、ロシアやサウジと仲良くしたがっていた。民主党はマスコミなどと組んでインチキなロシアゲートをでっち上げ、トランプとプーチンが仲良くするのを妨害してきた。露サウジが今回減産したのは、1ヶ月後の中間選挙で民主党を負けさせ、共和党に両院を取らせるための策略ともいえる。バイデンは不人気が増しているのに再出馬するので、2024年の大統領選でトランプが返り咲く可能性も高まっている。トランプの共和党が政権を奪還すると、米国は多極化を容認して覇権放棄や孤立主義化を進め、NATOや日韓との安保関係から手を引く傾向になりそうだ。日韓はすでに、多極化の準備として中国にすり寄って米中両属の隠然策を強めている。欧州は対米従属とロシア敵視策のはしごを外され、エリート支配が崩れて非米型のポピュリズムが強くなる。世界は長期的に、露中サウジが満足する方向に進んでいる。 (Escobar: The Whole Chessboard Is About To Be Radically Changed

一段と苦境に立たされたのは、民主党バイデン政権のほうだろう。米側陣営の経済の暗雲が漂い始めた今年2022年に入り、02月24日にウクライナ事変が勃発したのは、バイデン政権が辛傀儡政権であるゼレンスキー政権を使ってロシアの「ウクライナ侵攻」を誘引したこともあるが、プーチン大統領が米側陣営の経済的苦境を見越して敢えてウクライナ侵攻に踏み切った可能性も強い。

ケルチ海峡にかかるクリミアとロシアをつなぐクリミア大橋(クリミア大橋)の大爆発について

黒海とアゾフ海を結ぶケルチ海峡にかかり、クリミア半島とロシアを結ぶ交通の大動脈であるケルチ大橋(クリミア大橋)が11月08日早朝、何者かによって爆破された(https://news.yahoo.co.jp/articles/ade8e434b6beb17152848734c545ad5a74b69534)。

ロシアに併合されたウクライナ南部クリミア半島とロシア本土をつなぐ欧州最長の橋「ケルチ橋」で8日早朝、燃料タンクが爆発し、複数のロシア当局者によると、橋の一部が崩落した。

ロシア国営タス通信によると、プーチン大統領はケルチ橋の「緊急事態」を調査する政府委員会の設立を直ちに命じた。タス通信によると、ロシア緊急事態当局と交通当局のトップが現場入りしているという。ロシアが任命したクリミアのセルゲイ・アクショーノフ首長は、爆発後に橋の一部が崩落したことを確認した。

NHKによると、プーチン政権はウクライナに対して即座にミサイル攻撃を行った(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221010/k10013854231000.html)。

ウクライナで10日、首都キーウをはじめ各地でロシア軍による大規模なミサイル攻撃があり、合わせて11人が死亡したほか、インフラ施設が被害を受けました。ロシアのプーチン大統領は、一方的に併合したウクライナ南部クリミアとロシアをつなぐ橋で起きた爆発に対する報復措置だと主張し、欧米各国からは非難が相次いでいます。

日本のメディアは爆破の「犯人」を可能性の高い順に、①偶発事故②ロシア側の「偽旗作戦」③ウクライナ側犯行説ーとしているが、偶発事故などは論外。ケルチ大橋はクリミアとロシアを結ぶ交通の大動脈であるし、プーチン政権はノボロシア構想を進めていると考えられ、インフラの破壊は目的ではないから、ロシア側が爆破したとは考えにくい。ウクライナ内務省傘下のネオ・ナチ勢力にバイデン民主党政権の米国を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国の関連機関が支援したのではないか。報復は報復を呼ぶから厳に戒めなければならないが、日本のメディア、特に公共放送のNHKがロシアのミサイル攻撃の非難に重点を置いた記事をWebサイトで公開するのは、報道の中立性を鉄則とする放送法違反ではないか。

今回の重要事件については、①ロシア側がケルチ大橋爆破の情報を察知できなかったのか②ケルチ大橋警備の体制に大きな問題はなかったのかーなどロシア側の徹底した調査と公開が必要だろうが、既にロシア側はウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南東部のザポリージャ州、南部のヘルソン州の4州を併合しており、ウクライナ事変はロシア側にとって「祖国防衛」戦争に転化している。プーチン政権のロシアへのミサイル攻撃は、「祖国防衛」に向けての不退転の決意を示す象徴だろう。

今回のケルチ大橋の爆破事件の背後には、米国の「隠れ多極派」が存在するようだ。田中氏は10月11日投稿した「米国がウクライナにテロやらせてプーチンを強化」の投稿記事の中で次のように述べている(https://tanakanews.com/221011russia.htm、無料記事)。

米国の報道によると、匿名のウクライナ高官が、大橋の爆破がウクライナ当局によるものだと認めている。また、ウクライナ政府は爆破の数時間後、爆破を祝賀する記念切手の発行を発表している。発表のタイミングからみて、ウクライナ当局は大橋の爆破を計画・挙行し、記念切手の発行まで事前に決めていた可能性が高い。ロシア政府は10月10日、クリミア大橋の爆破はウクライナ(内務省)の秘密警察(諜報機関)によるテロ行為だと発表した。これらの状況からみて、大橋を爆破したのはウクライナ当局である。ロシア軍は10月10日、クリミア大橋へのテロ攻撃への報復として、ウクライナ国内20都市のインフラをミサイル攻撃して破壊した。 (Senior Ukrainian Official Confirms Ukraine Orchestrated Truck Bomb Attack On Crimean Bridge; NYT Reports) (Ukraine unveils stamps celebrating Kerch bridge explosion – hours after the attack)(中略)

ロシアと米諜報界の「協業」によって米欧のインフレが悪化し、米英などの中銀群が利上げやQTを続行し、債券の金利が上昇して金融危機がひどくなっている。英国では国債が暴落し、長期国債の金利が5%になろうとしている。9月28日に英中銀が介入し、英国債を無限に買い支えると宣言して、いったん金利が下がって危機が遠のいたものの、10月10日に再び国債が急落し、長期金利が再度5%を越えそうになっている。英国はもう中央銀行が救済策を打っても金融崩壊を防げない状態になっている。 (破綻が進む英米金融) (BoE’s New Support Plan Fails As UK Gilt Yields Explode Higher

英国が崩壊したら、次は米国だ。米英は、金融バブルが猛烈に拡大した状態なので、長期金利が5%以上の状態が長引くと利払いの増加によって金融システムが確実に破綻する。米金融界がそう言っている。ドル崩壊が目の前まで来ている。このような事態の中、隠れ多極派の米諜報界がプーチンをけしかけ、インフレをさらに悪化させてドルや米覇権にとどめを刺そうとしている。そんな状況が、クリミア大橋の爆破攻撃の背後にある。米諜報界を乗っ取って覇権を自滅させて世界を多極化) (Are Central Banks Going Bankrupt? Morgan Stanley Makes A Striking Observation


これに対して、バイデン政権とNATO加盟諸国は強い反撃の姿勢を露わにしている。ウクライナ事変はウクライナ戦争に格上げされ、前半で述べたことと併せるとますます長期化が予想されることになり、米側陣営が一段と不利な状況に追い込まれることになった。



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