ウクライナ産穀物の輸出協定失効の真相・深層ー困るのは米側陣営、特に欧州諸国
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ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定が7月中旬に失効し、アフリカの貧困国が打撃を被るとのロシアに対する批判が出ているが、実際に困るのは米側陣営の欧州諸国などのようだ。

英国のBBCは「ウクライナ産農産物の輸出協定、 ロシア延長せず失効」と題する記事(https://www.bbc.com/japanese/66229794)次のように述べている。

ウクライナ産の穀物を黒海経由で輸出する国際協定は、トルコ時間18日午前0時(日本時間同午前6時)、ロシアが延長しなかったため、失効した。西側諸国は、ウクライナの穀物が届かなければ世界で最も貧しい人々にとって打撃となると批判している。

ロシア政府は同日、国連とトルコ、ウクライナに対して、延長反対を通知。西側諸国が協定上の取り決めを履行していないことを理由として、西側が要求に応じれば協定に復帰する可能性を示した。

ロシアはこれまで、協定にもとづき、黒海に面するウクライナの支配地域にあるオデーサ、チョルノモルスク、ユージネ・ピヴデンニの港からの穀物出荷を認めていた。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はかねて、ロシア産の食料や肥料も輸出品に含めるという協定内容が順守されていないと不満をあらわにしていた。さらに、ウクライナ産の穀物は貧しい国に運ぶという協定の条件も守られていないと主張していた。

米側陣営は、世界的な食糧危機を招くとしてロシアを批判しているが、国際情勢解説者の田中宇氏が7月24日に公開した「米覇権ゾンビの裏で非米側が新世界を構築」(https://tanakanews.com/230724eurasia.php、有料記事)と題する公開記事によると、ロシアがウクライナ産穀物の輸出協定を延長しなかったのは、米国側がロシアの穀物関連機関に対する送金禁止(SWIFT=Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略称で、銀行間の国際送金システムや決済システムの総称。日本語ではスイフトまたは国際銀行間通信協会などと呼ばれる。 国際銀行間の送金や決済に利用される安全なネットワーク等を提供する非営利法人で、本部はベルギーにある=追放)などの経済制裁を解除する件を予定どおり履行しなかったため、報復としてロシアが協定更新を断った経緯があるとのことだ。

ウクライナとロシアはいずれも穀物の大産出国で、世界への穀物供給という人道上の見地からは、ウクライナ穀物船の安全確保だけでなく、ロシアの穀物輸出への経済制裁も解除されるのが正しい。米国側もそれを認め、協定と別に国連とロシアの間で覚書が結ばれていた。だが米国側は、ロシアの穀物機関をSWIFT締め出しなどで制裁したままウクライナの穀物輸出だけ続けようとしたので、当然ながらロシアが待ったをかけた。敵対を維持するために協定を失効させたのは米国側だ。いつものようにマスコミは歪曲報道に徹している。
Senior Russian diplomat explains to Turkish ambassador why grain deal was terminated

というわけだ。ただし、その裏側はもっと混み入っている。

とはいえ、さらに一歩掘り下げると露側の策略も見えてくる。露政府は「アフリカなどロシアの穀物を必要としている(非米)諸国への輸出は問題なく続けられる」と言っている。
SWIFTは、米国が非米側への経済攻撃の兵器として使いすぎたため、もうあまり非米諸国間の送金に使われず、代わりに露中などが構築した代替システムが多用されている。ロシアはもうSWIFTなんて要らないが、SWIFTを理由にウクライナの穀物輸出を止めた。
Russia Ready to Supply Grain While West Sabotages Global Food Security

ウクライナからの穀物輸出も、アフリカなど途上諸国に送る名目で米国側は穀物協定を発効した。だが実際には、開戦後ロシアからの穀物を輸入できなくなった欧州が、アフリカに行くはずのウクライナの穀物を横取りして輸入していた。代わりにロシアが、開戦前に欧州に輸出していた穀物をアフリカに輸出するようになった。そして米国がロシア穀物へのSWIFT禁止を解除しないまま、穀物協定は失効。ウクライナは、露軍に攻撃されない黒海内のルーマニアやブルガリアの領海を通る新航路を開拓したいと仲裁役のトルコに提案したが渋られている。
Turkey’s Fidan says no solution without Russia to grain deal impasse

このままウクライナが穀物を輸出できないと困るのは誰か。アフリカではない。欧州だ。ロシアは、非米側にしか穀物を売らない。欧州は米国に泣きついて、露穀物機関のSWIFT禁止を解除してロシアが協定に戻れるようにするか??。米国は了承しそうもない。この件はしばらく放置されそうだ。米国はそもそも、ロシアでなく欧州を自滅させる隠れ多極主義的な謀略としてウクライナ戦争の構図を作った。欧州が困るほど、米国の謀略は成功になる。
Moscow outlines terms for grain deal resumption
ロシアでなく欧州を潰してる

田中氏の分析によると、ロシアは米国の上層部を掌握している「隠れ多極主義勢力」と協調してブレトンウッズ3の国際金融・通貨体制を構築しているようだが、ブレトンウッズ3は「金資源本位制」相当のものになりそうだ。

今回の件は、ロシアが非米側の「金資源本位制」を強化するための謀略だ。資源の一種である穀物は、中露主導の非米側が米国側から世界市場の主導権を奪って自分たちの管理下に置きたいと考えている物資だ。今回の失効は、ウクライナの穀物を非米側に流す謀略になりうる。たとえば、ウクライナの穀物として船積みするのでなく、ロシアがウクライナの穀物をこっそり買って陸路でロシアの港に運び、ロシアの穀物として非米諸国に輸出するとか。欧州は、ウクライナの穀物を買えなくなり、食糧の不足やインフレ激化に直面しうる。石油ガスや希土類などで起き始めていることが、穀物でも起きる。
The U.S. Wars Against Russia And China Have No Economic Logic Attached To Them

ロシアがウクライナから穀物を買うと、ウクライナが対露戦争の軍資金を得てしまうという建前的な懸念がある。だが実質的には、ロシアはすでにウクライナに勝った状態で戦争構造を長引かせており、ウクライナがロシアから軍資金を得ても戦況は何も変わらない。ロシアが非米側の金資源本位制を強化して自国の台頭を加速する方が重要だ。
日本を含む米国側は、各種資源類を自由に輸入できた状態を一つずつ中露に剥奪されていく。米国は欧日に、永久に中露を敵視しろと命じ続ける。哀れだね。いや、皆さん何も気づいてないんだから構わないか。
How US Funnels EU’s Wealth Into Ukraine Proxy War

今回のウクライナ産穀物の輸出協定失効は、巨大な覇権移動(欧米文明の終焉と新文明の創出)の一環だ。

「覇権国の座が、米国から中国に移ろうとしている。数十年に一度の巨大な覇権移動が始まっている。(米国にくっついていた)西欧諸国は、対露敵視という間違った戦略のせいで弱体化しており(非米諸国にどんどん抜かれて)経済大国の番付から脱落していく」。ハンガリーのオルバン首相が最近、年次の演説でそんな展望を述べた。
China overtaking US – NATO member’s PM

サイト管理者(筆者)から見ると、この「覇権移動」=「文明の転換」は数十年に一度というものではなく、数百年に一度のものだろう。文明の転換という歴史的な地殻変動の中で、事態を把握する努力が必要だ。


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