パソコンパーツ専門店の老舗であるDOS/Vパラダイス(通称ドスパラ)の新宿店が2013年07月15日をもって閉店することになった。本日確認してきた。さまざまな理由があるが、アベクロノミクスによる円安誘導「政策」で、パーツの値段が2割から3割跳ね上がり、客足が遠のいたことも大きな原因だ。
日本のパソコン業界の凋落は、MS−DOS時代に日本電気(NEC)が市場を独占していたことにある。市場の独占は必ず、産業の健全な発展を阻害する。NECは最初、N88Basic(NEC-DOSとも呼ばれる)を基本ソフト(OS)として搭載していたが、その後、パソコン16ビット時代にデジタル・リサーチ社との競争に打ち勝ったマイクロソフト社のMS-DOSを導入。MS-DOSをOSに選べば、どのメーカーのパソコンでもソフトが動作するという触れ込みであったが、実際にはMS-DOSのみでソフトを作成すると、耐えられないくらいにパソコンの動作が遅くなる。
そこで、NECは自社のパソコン用のソフト高速に動作させるため、同社のパソコン独自のBIOSを公開、当時のソフトハウスはこれを利用して高速に動作するソフトを作成した。このBIOSなるものはパソコン各社ごと異なることから、NECのパソコン用のソフトは他社のパソコンでは動作しない。NECはソフトハウスの囲い込みを行い、他社を圧倒するソフトの品揃えを行った。
コンピューターはソフトがなければ、ただの重たい箱でしかない。だから、ソフトのない他社のパソコンは売れなくなる。こうしてNECのパソコン独占王国が出来上がる。この王国をぶち壊したのが、マイクロソフトとIBMである(実際は、Compacで現在はヒューレット・パッカード)。IBMはBIOSも含め、パソコンのパーツの仕様を全面的に公開したため、台湾をはじめアジア諸国にIBM互換機用のパソコン・パーツを製作するメーカーが雨後の筍(たけのこ)のように続出した。
こうなると、量産効果でIBMパソコンの互換機は価格がぐっと下がる。さらに、パーツを自分で選んで自作するマニアが陸続として増加してきた。こうなると、NECのパソコンは価格ではIBM互換機に勝てなくなる。これに追い打ちをかけたのが、マイクロソフト社の戦略である。マイクロソフト社のMS-DOSは、IBM互換機用にはDOS/Vと呼ばれる。マイクロソフト社はDOS/Vの後継OSとして、Windows3.1を市場に投入、その後、同3.1を改良したWindows95を作成したが、NECのパソコンは相手にしなかった。
つまり、最初こそNEC用のWindows95を作成したが、その後、見向きもしなくなった。かくして、パソコンの主流はIBM互換機となり、OSはWindows95/98/MEの出来が悪かった(OSがアプリケーションソフトと同じ権限でしか動作しないため、アプリの出来が悪いとすぐにコンピューターが動作しなくなる。ユーザーは諦めてリセットスイッチを頻繁に押していた)ため、DECからデヴィッド・カプラーを引きぬき、コンピューターのOSの本流であるUnixをこっそり下敷きにして、Windows NT/2000を作らせた。このNT系のOSがパソコンOSの主流となった。かくして、世界のパソコン業界は、IBM互換機、Windows全盛時代となる。ドスパラはこの流れの中で産声をあげたパソコン専門店である。
自社でパソコンも作るが、部品はすべて台湾や中国から輸入したものである。だから、円高のころは高性能のパソコンが極めて安価に製造できた。また、自作マニアも高性能かつ低価格のパーツを購入し、組み立てたものだった。
ところが、アベクロノミクスの円安誘導「政策」の下で、パソコンのパーツが2割から3割高くなった。例えば、8GBの内蔵メモリー2枚が5000円以下で購入できたのが、いまや10000円から15000円もするようになった。これでは、客足が遠のくのも当然である。
もちろん、アベクロノミクスのせいだけではない。スマートフォンやタブレットパソコンの登場などで、パソコンの存在価値が低下したこともある。自作がゲーマーに限定されるようになったことも見逃せない。しかし、輸入を生業としている業界は、アベクロノミクスによる円安で悲鳴を上げていることは確かだ。
かといって、円安にして輸出が増え、それが内需に火をつけるという波及効果(乗数効果)も今は昔の話だ。情報とエネルギーを制するものは世界を制すると言われる。しかし、歴代の自民党政権は米国の横槍で日の丸OSの開発の断念に追い込まれた。かつ、今や円安による価格上昇が重なり、情報産業はどんどん衰退している。また、福島第一原発事故の傷も癒えないうちに危険な原発のプラント輸出にこだわり、核分裂、超高温熱核融合に次ぐ21世紀の有力なエネルギー源とされる「低エネルギー核反応(LERN)」の研究開発、商用化に向けた設備投資にも意欲のないのが、現在の安倍晋三自公政権である。同政権では日本の未来はない。