朝日新聞が3月12日付3面で「日銀・黒田総裁再任へー異次元緩和 続く険しい道」と題する解説記事を報道したが、もの足りず不十分。日銀が金融機関から預かっている当座預金口座の金利をマイナスにする「マイナス金利」や日銀が市中から買い入れた既発国債450兆円に及ぶ超異例の「量的金融緩和」の副作用は今年、2018年から本格化する。この点についての指摘は皆無だ。
安倍晋三政権の「経済政策のブレーン」である米エール大学名誉教授の浜田宏一氏の、「(既発国債の大量購入による同国債の上昇=金利の異常な低下による)株高と輸出企業の(円安ドライブによる)輸出増加で一部企業の収益がさらに拡大、有効求人倍率も上がってくるなど、経済環境が好転している現在、黒田晴彦日銀総裁を変える必要はない」との進言で、合計10年にも及ぶ黒田日銀時代が確定したかに見える。ただし、こういう財政緊縮・金融緩和のポリシー・ミックスは、「近隣窮乏化政策」と言われ、とりわけ、(時代遅れだが)「米国ファースト」を掲げるトランプ米大統領の不興を買っている。
そのうえ、朝日も3面で指摘しているように、財務省出身の黒田氏が2013年4月に超強力な量的金融緩和政策の導入で、2年以内に消費者物価上昇率を安定的に2%程度に引き上げるとの「黒田バズーカ砲」は不発に終わり、消費者物価の安定的な2%上昇にはほど遠い。特に、変動の激しい生鮮食料品や為替の円安で上昇基調にあるエネルギー・資源を除いた本来の消費者物価上昇率は0%程度と何の効き目もない状態が続いている。朝日の解説記事はこの点には言及がない。
それはそれとして、朝日が「異次元緩和 続く険しい道」とする理由は、①市場で高まっているとされる米国や中国の2019年からの景気後退のため、欧米金融政策当局が採用し始めた出口戦略の採用は不可能で、黒田日銀がさらにより強力な量的金融緩和政策の採用に持ち込まれる可能性がある②黒田日銀総裁の一言一言で金融・資本市場が撹乱される異常な市場状態③安倍晋三政権がモリ・カケ・スパで内閣総辞職に追い込まれる政治的リスクーの3点のみで、日銀の異常な超量的金融緩和政策の本質を見抜けていない。
太平洋戦争時代には、戦費の調達のため当時の軍国主義政権(東条英機政権)が大量の国債を発行して、これを日銀に引き受けさせる「国債の日銀引き受け」政策を長期にわたって採用し続けた(この政策を最初に打ち出したのは高橋是清だったが、ケインズ政策が功を奏したことと、戦費調達のための日銀が国債を引き受けることに強く反対したため、1936年の2・26事件で青年将校に暗殺された)。明らかに、日銀貨幣(紙幣)の価値を毀損させる悪性の「政策」(悪性インフレーション惹起政策)だったが、軍国主義政権としては統制経済体制をせざるを得なかったため、インフレは表面化しなかった。この結果、敗戦に伴い統制経済体制が崩れるにつれて悪性インフレーションが表面化し、闇市場が横行するとともに、日本国民は塗炭の生活を強いられた。
これが終息するのは、GHQ経済顧問として訪日したデトロイト銀行(英語版)頭取のジョゼフ・ドッジが、立案、勧告したドッジ・ラインによる財政・金融政策。ドッジは、来日後の米国による戦後占領期時代に来日、1949年(昭和24年)2月に、悪性インフレ・国内消費抑制と輸出振興(当時、為替相場は1ドル=360円と日本に有利なように割安に設定されていた)を柱として、日本経済の自立と安定とのために財政・金融引き締め政策を断行。ドッジ・ラインと呼ばれた。さしもの悪性インフレも収まり、1950年台の前半の調整期を経て、1950年台後半から日本経済は盛り返し、日米安保闘争後の池田勇人=下村治のコンビによって高度成長政策路線が敷かれ、日本は高度成長期に入り、「昭和元禄」時代に入る。
このように、経済の安定と成長には、物価の安定(悪性インフレーションの終息)と設備投資の拡大、国内消費需要の盛り上がりが不可欠である。財政法も第5条で、「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない」と規定しており、但し書きはあるが原則的に「日銀による国債引き受け」は厳禁している。
しかし、黒田日銀の超量的金融緩和政策の正体は、実質的にこの「日銀による財政の引き受け」と等価である。要するに、新発債を国債買い入れシンジケート団に消化させ、既発債としたうえで、こく国債を日銀マネーで大量に購入するという迂回戦術を採っているのに過ぎない。日銀の健全性、日本通貨(円)の健全性はともに失われ、近い将来の「悪性インフレーション」の種をばらまいているだけの「政策」に過ぎない。
だから、黒田総裁が今月2日に「出口戦略」を口にした瞬間、長期金利は急騰、為替も円高になり、金融・資本市場は一時、混乱した。このため、黒田総裁は6日の参院運営委員会の所信聴取(日銀総裁及び副総裁は一応、国会での同意人事になっている)で、「2019年度にただちに出口を迎えると申し上げたわけではない」と発言の修正に追い込まれた。こうした状況だから、「悪性インフレーション惹起政策」を続けている黒田東彦現総裁を総裁から外すわけにはいかない。
しかし、異例の超量的金融緩和政策=悪性インフレーション惹起政策をいつまでも続ける訳にはいかない。それに、森友文書問題で安倍政権が総辞職に追い込まれる公算が限りなく高まっている。もし、総辞職しなければ、国民主権の崩壊へと続き、非常事態条項を盛り込む日本国憲法改悪で日本国は専制君主体制へと大暗転する。習近平主席が中国の全国人民代表者会議(日本の国会に相当)で、国家主席を無くす憲法改悪を可決させたことで中国共産党及び国家も一党独裁・権力腐敗体制が敷かれたが、これと同様なことが日本でも起こる。
心のある頭脳明晰な日本国民は今年、総力を結集して日本に真の民主主義を勝ち取らなければならない。