政府=安倍晋三政権が改正インフルエンザ特別措置法に基づいて「緊急事態宣言」を発出すると同時に「総事業規模108兆円」の緊急新型コロナウイルス感染症対策のための緊急経済対策を打ち出したが、意味のない内容が多すぎる。特に、「公共の福祉」に寄与する代償として絶対に必要な「休業補償」の金額があまりに少なすぎる。これでは国民は安心して生活できない。しかも、緊急コロナウイルス感染症対策専門家会議の打ち出しているPCR検査抑制方針は最先端の感染症対策から完全に逆行しており、このままでは2週間経っても7都府県での感染者確認数の増加はピークアウトする見込みがない。安倍内閣は総辞職、専門家会議は全員辞めてもらい、遺伝子工学と情報工学の専門家にその座を譲るべきだ。

総額108兆円規模とされるコロナウイルス感染症への経済面からの緊急経済対策については、内閣府のサイトから「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策について」と題するPDFに記してあり、ダウンロードできる。本文に趣旨を含め、内容が書いてあるが今回の大不況の入り口が昨年10月1日の「消費税増税強行」であったことには「米中貿易戦争の煽りを受けた」などと責任転嫁し、一言も触れていない。植草一秀氏のメールマガジン「第2597号 最低最悪の安倍コロナ経済対策の正体」を参照にしながら、安倍首相が緊急事態宣言を発出すると同時に発表した「緊急経済対策」は話にならないことを指摘したい。

首相官邸で7日、改正新型インフル特措法に基づいて緊急事態宣言を発出するアベノマスクを装着した安倍晋三首相

各経済対策の内容と規模については附表に概略が示されている。全体の内容は次の通りだ。

驚くべきことに、コロナがまだ問題とされなかった昨年12月に決定された総合経済対策(事業規模19.8兆円)、今年に入って「発動」された第1段・第2弾(事業規模2.1兆円)が含まれていることだ。事業規模108.2兆円などとマスコミでは踊っているが、誰でも普通に解釈すると、新たに108.2兆円の対策が打ち出されたと思うだろうが、そうではない。これが、ペテンの第一。

第二にペテンとして重要なのは、「総事業規模」のうちの「財政支出」だ。総事業規模の中には、いずれは納税・納付しなければならない税金や社会保険料の納付猶予額26兆円が含まれている。いずれは納税・納付しなければならないから、先を見れば国民の負担軽減には何の役にも立たない。総事業規模の中身の事業には、こうした役に立たない事業がてんこ盛りで、あたかも政府=安倍政権が「国民のためを思い、財政を有効に使っている」と錯覚させる。

総事業規模の中でコロナ対策として役に立つのは財政支出。通常、建設国債、赤字国債発行で資金を調達し、財政支出を拡大する「真水」と呼ばれるものだ。これは、全体で39.5兆円、今回の追加分で29.2兆円となっているが、このうち財政投融資は真水には入らない。財務省管轄下の日本政策投資銀行(DBJ)などの融資金額の合計で12.5兆円。いずれ返済しなけければならないが、安倍首相が「(コロナウイルス感染拡大の終息には)長期間を要する」と語っているから、終息しないうちに返済を開始しなければならない公算が大きい。

39.5兆円から12.5兆円を差し引くと27.0兆円。ただし、これはあくまでも昨年12月の経済対策以降の全体の真水。今回追加された真水は、2020年度第一次補正予算案で総額16.8兆円に過ぎない。その内訳は、一般会計で建設国債7兆3320億円、赤字国債3兆4870億円合わせて国債追加発行額計10兆8190億円の追加発行。特別会計で1.9兆円。これに、真水ではない財政投融資の6兆1000億円が加えても18.6兆円。財政投融資が第二の予算と言われていることも考慮しても補正予算の規模は18.6兆円にすぎないから、お寒い限りだ。

本来は、➀最終的に消費税は廃止し、税制の抜本改革を行うにしても、時間の制約から取り敢えずは消費税をゼロ%にし、それに伴う22兆円の財源を調達する②迅速・簡素・直接を基本として取り敢えずひとり10万円を直接支給することによる10兆円の財源調達に、③無症状・軽症状(5%が重症化)の隔離施設の確保や地域の中核病院など一般病院でPCR検査を実際に行うための防疫検査体制の整備、新型コロナウイルスを感染力と毒性の強いものに変異させず、罹患患者が安心して服用できる治療薬の開発に3兆円-など、35兆円を国債で調達し、国民と地域の中核病院を柱とする医療機関に直接給付すれば良い。ただし、現時点では確たることが言える状況にないから、様子を見て、第二次補正予算案を追加で策定することが必要になるだろう。

取り敢えずは、これだけの財政出動を迅速・簡素・直接に行えば良い。ところが、トンネルの先がまだみえないのに、政府のコロナ緊急経済対策では「V字型回復」の必要性などといって、余計な財政支出を追加する。

Ⅲ以降は現時点で必要のないものであり、要するに財務省が業界を手なづけるための裁量的利権支出に過ぎない。その狙いは、「政治と癒着する観光業界、全体で統一的な事務局(=天下り機関)を設置する官僚機構、自公とつながる企業団体、キャンペーンを実施するイベント実施企業、収入減に直面する広告代理店にだけ、利益を供与する仕組みなのだ。政治屋への献金というキックバック、選挙の際の票の取りまとめ、政治を支援
させるメディア関連事業、芸能興業社への利権支出を確保すること」(植草氏)にある。植草氏が新たな利権支出につながる「コロナ対策」として掲げている主なものを下記に引用する。

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➀(地域経済の活性化「政策」)
肥育牛経営等緊急支援特別対策事業(農林水産省)
肉用子牛流通円滑化緊急対策事業(農林水産省)
漁業収入安定対策事業(農林水産省)
スポーツイベント再開に向けた感染症防止対策・広報等支援(文部科学省)
生徒やアマチュアを含む地域の文化芸術関係団体・芸術家によるアートキャラバン(文部科学省)
子供たちの自然体験・文化芸術体験・運動機会の創出(文部科学省)
日本政府観光局(JNTO)を通じた訪日外国人旅行客の需要回復のための大規模プロモーション(国土交通省)
放送コンテンツを活用した海外への情報発信事業(総務省)
地域経済の見える化システム開発による地域再活性化支援事業(内閣府)

②沖縄県への利益誘導「政策」
沖縄での政治的な利益誘導のため沖縄振興特定事業推進費(内閣府)

③財務省利権拡張のための「政策」
DBJ(政策投資銀行)の投資機能を活用する「新型コロナリバイバル成長基盤強化ファンド(仮称)」の創設

④強靱な経済構造の構築
サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金(経済産業省)
海外サプライチェーン多元化等支援事業(経済産業省)
サプライチェーン強靱化に資する技術開発・実証(経済産業省)
東アジア経済統合研究協力(サプライチェーン強靱化・リスク管理等)(経済産業省)
生産拠点の国内回帰等を踏まえた企業のRE10021等に資する自家消費型太陽
光発電設備等の導入による脱炭素社会への転換支援(環境省)
希少金属(レアメタル)備蓄対策事業(経済産業省)
JAPANブランド育成支援等事業(経済産業省)
コンテンツグローバル需要創出促進事業(経済産業省)

さらには、五輪延期の費用までが、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期を踏まえたホストタウン支援(内閣官房)として計上されている。
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「新型コロナウイルス感染症対策」の失敗によって改正インフル特措法に規定された「緊急事態宣言」を発出したどさくさに紛れて、安倍政権=官僚=業界団体の「利権トライアングル」を構築するという汚いことを盛り込んだのが、今回の「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の本質である。しかも、非常事態宣言に実務的責任を持つ西村康稔経済再生担当相は、緊急事態宣言の発出で「2週間以内に新型コロナウイルス感染確認者の新規増加数はピークアウトするはずだ」と根拠の定かでない発言をしながらも、もしそうならなければ「もっと強い措置を取る」と国民を脅している。

こうした「緊急経済対策」に野党からはもちろん、与党内でも不満が強まっている。不満の最大の対象は、住民税が世帯全体でゼロでなければ、現金30万円を給付しないとした生活支援金制度についてだ。朝日デジタル2020年4月8日 5時00分掲載の記事では、「7日の総務会の前日(6日)に開かれた政務調査会でも緊急経済対策に批判が続出した。安藤裕衆院議員は『経済対策の体をなしていない。こんな対策しかできないんだったら与党でいる意味がない』と幹部に迫った」、「『一律で現金を給付する方が良かった』。7日の自民党総務会では、出席議員から不満の声が出た。減収世帯に対する30万円の現金給付について、対象を絞ったことで手続きが煩雑になり、給付までに時間がかかるおそれがあるためだ」。ただし、不満議員も自民党から離党、決別する勇気のある議員はひとりもいない。同じ、「政治屋船」に乗っているからだ。

さて、今回の改正インフル特措法に基づく緊急事態宣言の発出に果たして効果はあるのか。スイス・ジュネーブにある世界保健機構(WHO)のテドロス・アダノム事務局長(エチオピアの保険大臣を務めた)は、米国のトランプ大統領から中国寄りと批判を受けている。しかしテドロス事務局長は「パンデミックの事態に政治を持ち込むべきではない」と強く反論。➀ワクチンや特効薬の開発には時間がかかることを前提に、PCR検査を徹底的に行い感染患者を明確に識別すること②感染患者を無症状・軽症の患者(5%は重症化)と重症患者を別々の診療施設、医療機関に隔離すること-こそが、コロナウイルスが人命と経済社会に与える被害を最小限に抑えることができるとのWHOの見解を崩していない。

そして、このWHOの見解の正しさをある程度実証したのが中国である。当初は中国の習近平国家主席も新型コロナウイルスの危険性を過小評価していたようだが、最終的には2002年11月16日から中国・広東省で広がった重症急性呼吸器症候群(SARS、2003年3月12日にWHOから「グローバルアラート」が出され、同年7月5日に終息宣言)の苦い経験から、SARSコロナウイルス対策の陣頭指揮に当たった防疫専門家を起用。湖北省の武漢市に派遣し、陣頭指揮を取らせた。

中国では、世界最大規模のゲノム研究所を擁する国内薬品企業「BGI(華大基因)」が新型コロナウイルスの遺伝子解析(RNA構造の解析)に成功、スイスの大手製薬会社ロシュが同遺伝子を保有しているか否かの検査装置の商用化に成功した。中国ではこれらの情報、装置を使って徹底的にPCR検査を行うとともに、陽性の罹患患者を収容できる医療施設を突貫作業で建設、罹患患者に症状に応じた対症療法を行って、7月8日にいわゆる「都市封鎖」を解除した。全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開催に備えるための政治的判断とする向きもあるが、感染防止の措置を緩めていないことは確かだ。辺りの事情は、東大先端科学研究所がん・代謝プロジェクトリーダーの児玉龍彦教授が登場、説明したYouTubeに詳しい。

児玉教授は、新型コロナウイルスが感染者のせきやくしゃみから伝染る飛沫感染だけでなく消化管感染(接触感染=感染者が触った物を触ると感染する=)の二種類の経路で感染する非常にしつこい感染の仕方をすると警告。接触感染で感染すると、短時間に相当数の人が感染する。ダイヤモンド・プリンセス号では、乗員・乗客にアンケート調査を行ったが、回答を見るためにアンケート用紙を受け取った係官が多数感染したという。

そのうえで、最先端の現代医学・医療技術について、➀遺伝子工学と情報科学を用いて国民一人ひとりの遺伝子情報を解析、データベース化し、そのビッグデータを使って一人ひとりに適した治療方法を選択する「プレシジョン・メディスン(精密医療)」時代に変わっている②米国の疾病予防管理センター(CDC、政府とは一応独立)や日本の国立感染研究所(厚生労働省管轄)は残念ながら現代医療技術の変化に気づいていないし、ビッグデータを扱える専門家もいない③新型コロナウイルス感染症対策専門家会議にもそうした専門家はいない④政府=安倍政権はもちろん東京都を始め地方公自治体、日本医師会(医学の発達よりも診療報酬、薬価基準の改定に専念)もいまだにPCR検査に消極的で、政府=安倍政権や地方自治体で陣頭指揮する専門家も現代医学の最先端には通じていない➄新型コロナウイルス感染拡大に失敗した場合の判定が不明確で、責任の所在もあいまいなままになっている-などとして、新型コロナウイルス感染予防対策の刷新を訴えている。

日本ではオリンピック開催強行を最優先目標に置き、PCR検査を行ってこなかったので、無症状・軽症感染者を長く見逃してきた。これらの感染者が感染源になって、既に➀家族内感染②院内感染③地域感染-を引き起こしていると見られる。だから、➀PCR検査をしない②飛沫感染だけ避ける-という専門家会議の方針では、はっきり言って感染者数の爆発的増加(オーバーシュート)は阻止できない。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の対策の根本的な誤りを追及し、専門家会議のメンバーの総入れ替えを行って、医療機関がPCR検査を行えるように政府が財政措置を講じ(PCR検査検査キットと防護服などの提供し)て、防疫体制を確立しつつ、一般の医療機関でPCR検査を行う必要がある。併せて、無症状・軽症感染者を治療する医療施設(ホテルや旅館、オリンピック村などの借り上げ)を早急に確保し、重症者は地域の中核病院で診察することが緊急に必要だ。4月9日16時48分の朝日デジタルで既に「東京で1日あたり過去最多の新たに180人以上の感染者が確認され」ているというニュースが投稿されている。緊急事態宣言をしたので、飛沫感染が少なくなり、1日あたりの感染者数も2周間経てばピークアウトするという幻想も棄てるべきだ。

安倍首相がデタラメを言うようにPCR検査の能力を拡大することに意味があるのではなく、実際の検査数を加速することが重要である。そして、感染者ひとりひとりの遺伝子構造のデータベースを構築するとともに、スマートフォンを用いて行動を分析することが肝腎だ。プレシジョン・メディスン(精密医療)の専門家を要請、または中国、韓国、台湾などに教えを請うことが重要だ。

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