専門家会議提案への疑問-期待できぬPCR検査数の増加、薄い検査と補償の一体的把握(加筆補強)

4月22日夜に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が新たな提言を発表した。➀大都市圏で医療崩壊が進行しており全国に波及する恐れが極めて強いこと②感染経路が不明な感染確認者が急増していることから、暗に「集団感染(クラスター)」を中心とした対策・提言からPCR等検査の徹底化を中心とした対策・提言に変えている。しかし、医療現場の混乱から3月の段階で予測できたこと。また、内容の大部分を接触率を80%以下に抑えられているかの分析、さらなる自粛陽性に終止しており、公表資料にも不自然なところがある。さらに、自宅待機・テレワーク・休業自粛を要請する割に、それと一体となる国民の生活保障・企業の休業補償などへの財政投入を求める提言があまりにも弱い。現在の専門家会議はメンバーを総入れ替えし、政治に左右されない仁術を心得た感染症研究者・感染症専門医師を積極的に起用すべきだ。

さたすま4月22日夜に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が新たな提言は次のサイトで閲覧・印刷・ダウンロードできる。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000624048.pdf。「Ⅱの1.現状と課題2.医療をめぐる現状と課題Ⅲ提言」が主要内容だ。ただし、本サイトなどでも指摘してきた、PCR等検査の抑制の結果、保健所機能を含む医療崩壊の進行・感染経路の掴めない感染者の急増を認めざるを得ない内容だが、それらの現場の混乱が、集団感染(クラスター)対策を中心に据え、PCR等検査を抑制してきたことに根本原因があることは認めていない。加えて、既に感染源の特定できない感染事例が東京都を中心に多発しており、これまでの対策の中心である集団感染対策は破綻しているが、破綻していることへの言及がなく、緊急事態宣言後の接触率の8割削減の効果の分析に終止しているだけだ。

一応、PCR等検査(Smart Amp=理化学研究所(以下、理研)と神奈川県衛生研究所が開発した2019新型コロナウイルスの迅速検出方法に基づく研究用試薬=やLAMP=栄研化学が開発した35分で新型コロナウイルスを検出できる検査キット=など新規に導入された検査法も含む)の徹底を提言せざるを得ない内容になってはいる。それでも、はっきり言ってPCR検査等については、検査の人材や試薬などが不足する恐れを指摘し、水際対策でのPCR検査の縮小を提言している。安倍首相はPCR等検査能力の拡充を挙げ、1日9000件の検査能力を確保すると言っていたが、どうなったのか。現段階では実際の検査数はまだ2000件程度であり、専門家会議のリポートによるとこのうち1000件程度は入国審査の際の無差別検査だ。

本投稿記事では、第一に、専門会議のリポートに示されている日本の10万人あたりの死亡者数の不自然さを指摘し、第二に、「PCR等検査の積極的推進」の内容について公表提言から抜粋し、その問題点を明らかにする。第三に、自宅待機・休業要請の両輪の輪である生活補償・休業補償についても提言の中でも繰り返し言及すべきであるが、「感染拡大を抑えるための自粛・休業要請と財政による生活補償・休業補償」が対策の両輪であることへの強い言及がない。政府=安倍晋三政権の「了解」を「いただいた」うえでの提言内容であることは明らかだ。

なお、提言内容は「接触率を8割以上に削減するための10のポイント」を付属文書で掲げている、その中では都市部に限らず、スーパーマーケットに買い物に行くことも自粛を求めており、自宅待機のために公園に国民が集まりすぎているとして、公園でストレスを解消することの自粛も要請している。前者は国民に買い溜めを急がせる内容であり、後者は自宅待機などによるストレスの高まりへの対策も記すべきだが見られない。今後、接触率削減の大義名分のもとに、感染症対策に効果がないことを棚に上げて、国民に責任を転嫁してくるだろう。

4月22日開かれた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

第一に、データについて。提言では、「4月 21 日現在の諸外国の累積死亡者数については、アメリカ 41,872 人、イタリア 24,114 人、スペイン 20,852 人、フランス 20,265 人などとなっている一方で、我が国は 244 人となっている(4月17日段階)。諸外国と比較すると累積死亡者数は少ないが、増加の一途をたどっている」となっている。世界各国の人口10万人当たりの死亡者は、地方での感染確認者・死亡者が少ないこともあるが、日本だけが異常な数字である。提言が示した図表は以下の通り。

4月22日夜の専門会議公表のデータから。

しかし、コロンビア大学修士課程修了で、プリンストン日本語学校高等部主任の冷泉彰彦氏が日本版News Weekに寄稿した記事(2020年04月21日(火)17時30分投稿)「日本がコロナ死亡者を過小申告している可能性はあるのか?」によると、同氏が世界で最も閲覧されている米国のジョンズ・ホプキンズ大学が開設している新型コロナウイルス関連のサイトから引用した人口10万人当たりの新型コロナウイルス感染関連の死者数は次の通りである。

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アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学が公開しているコロナ関連のポータルによれば、死亡者数の累計と同時に人口10万人あたりの死亡者数が確認できます。その最新の数字は以下のようになっています。

▼ベルギー 死亡者5683人(人口10万人あたり49.75人)
▼スペイン 死亡者2万453人(人口10万人あたり43.77人)
▼イタリア 死亡者2万3660人(人口10万人あたり39.15人)
▼フランス 死亡者1万9744人(人口10万人あたり29.47人)
▼イギリス 死亡者1万6095人(人口10万人あたり24.21人)
▼アメリカ 死亡者4万661人(人口10万人あたり12.43人)
▼日本   死亡者236人(人口10万人あたり0.19人)
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冷泉氏はこの数字を正確なものとして受け入れているが、この少なさはやはり異常ではないか。同氏は、日本で原因不明の死亡者が増えており、その中に新型肺炎等によるものが多数含まれているという各種のメディアが断片的に伝えるニュースをご存知ではないと思われる。

第二に、専門家会議がPCR等検査を自由に受けることができるようにすれば、医療機関に検査希望者が殺到し、医療崩壊が起きるとしていた厚生労働省の検査方針に、専門家たるメンバーが何らの批判もしなかったことが問題である。経過を遡ると、2019年12月31日に中国が湖北省武漢市で発生した新型肺炎(COVID-19)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるものとして、その遺伝子解析情報を世界保健機関(WHO)に報告した。

武漢市当局は当初、新型ウイルス感染症の拡大を隠したが、その後、1月には武漢市で爆発的感染(オーバーシュート)が起こり、習近平政権は感染症対策の専門家を同市に派遣。派遣された専門家たちは、武漢市当局の初動対策の誤りを見抜き、確立していたPCR検査をフル活用した。具体的には、武漢市を3カ月にわたって都市封鎖(ロックダウン)するとともに、千床はある医療施設を突貫工事で2施設建設、武漢市民に居る感染が疑わしい市民に対するPCR検査を片っ端から行って、陽性患者をこれらの医療施設をはじめ、武漢市内の各種の医療機関に隔離した。「検査と隔離」の徹底である。この措置をWHOは受け入れ、世界各国の新型コロナウイルス感染拡大防止の基本対策にした。武漢市は取り敢えず、3カ月で制限付きで都市封鎖を解除している。

この方針に逆らったのが、東京オリンピックを強行開催したい政府=安倍政権と東京都、オリンピック組織委員会である。3月1日には応援するファンの濃厚接触が予想されるのに、東京マラソンなど大規模なスポーツ・イベントを強行し、「検査の徹底と隔離」の方針に逆らった。PCR検査を受けさせないために、地方自治体管轄の保健所を使って、軽症でも症状のある患者の検査には障壁を設けた。

また、政府=安倍政権と専門家会議は院内感染による医療崩壊には無頓着だったから、無防備の医療機関に新型コロナウイルス感染者が診察や見舞いに訪れることになり、入院患者はもちろん医師、看護師、職員が次々と感染、院内感染が始まり、新規外来患者の受付や救急患者の受付ができなくなるなど、東京都を中心に医療崩壊が大都市に広がっていった。その代表例が東京都台東区にある中核病院で慶応大学病院とも医師の相互派遣、入院患者の総合移転で深いつながりのある永寿総合病院である。大都市以外でも感染者が増加しているが、地方の医療体制には限りがあるので、医療崩壊に陥りやすい。このため、全国の医療機関は歯科医院も含め、内科を中心に診察を拒否している。

こうした状況に陥ったのは、政府=安倍政権に危機管理能力がなかったからである。医師としての良心を無視して安倍政権の言いなりになってきた専門家会議の罪も重い。政府と東京都が新型コロナウイルス感染対策に重い腰を上げ始めたのは、東京オリンピックの開催1年延期が決定してからである。ただし、延期しても再開できるかは不明だ。不思議なことにこの頃から東京など大都会で新型コロナウイルス感染者が激増し始め、小池百合子都知事は記者会見で「都市封鎖(ロックダウン)」という言葉を使い、都民をはじめ国民にある程度の状況を知らせ始めた。政府も、改正インフル特措法に基づく緊急事態宣言発令の準備に取り掛かった。

4月7日に7都府県に緊急事態宣言を発令し、16日には全国に拡大した。うち、13都道府県は「特定警戒都道府県」である。緊急事態宣言は5月6日までであるが、非常事態宣言の終結宣言は不可能だから、政府はその準備に取り掛かり始めている。その第一弾が4月22日の「専門家会議」の「提言」である。

この提言は、従来の感染症対策に対する批判を踏まえたものである。例えば、PCR等検査の推進については、次のように「提言」している。
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(2)PCR 等検査体制の拡充について
〇 都道府県等は、地域の医師会等と連携して帰国者・接触者相談センター業務の更なる外注や委託の推進により、できる限り保健所の負担を縮小化できるよう工夫する。また、政府及び都道府県等は、検体の送付先として、民間検査機関の更なる活用を推進する。
〇 都道府県等は、地域の医師会等と連携して、保健所を経由しなくても済むように、帰国者・接触者相談センター業務の更なる外注を推進するとともに、大型のテントやプレ17ハブ等の設置や地域医師会等と連携した地域外来・検査センターの設置など、地域の実情に応じた外来診療体制を増強する。(参考資料2参照)併せて、人材の確保に当たっては、一般社団法人 日本臨床検査技師会などにも応援を要請する。
なお、帰国者・接触者相談センターや、帰国者・接触者外来の名称については、市民に分かりやすく周知するため、地域の実情に応じて、「新型コロナ受診相談センター」や、「新型コロナ紹介検査外来」などの呼称を用いることも検討するべきである。
〇 PCR 等検査の速やかな拡充に向けて、知事主導で、医療機関等の関係機関により構成される会議体を設けること等により、検査の実施体制の把握・調整等を行う。また、今後、帰国者・接触者相談センターを経由しない検査の増加が予想されることから、都道府県等は、帰国者・接触者外来並びに(保健所が関与しない)検査センターにおいて、検査陽性が判明した際にその振り分け(宿泊施設あるいは自宅における健康観察、体調が変化した場合の入院の誘導)を担える体制の整備を図っていくことが不可欠である。
○ 参考資料2に示したとおり、医師が感染を疑い、重症化リスクを考慮して検査が必要と認める場合には、行政検査だけでなく保険診療による検査も活用して、遅滞なく確実に検査ができる体制は確保した上で、速やかに検査を実施すべきである。なお、無症状の濃厚接触者などについては、まずは2週間の健康観察を指示するなど、医学・公衆衛生上の必要性を踏まえた対応を行っていく。一方、都道府県等においては、速やかに PCR
等検査体制の拡充を図っていくことが求められる。
○ 患者数が大幅に増えた地域等では、医療機関や高齢者施設におけるクラスターに対応する場合等における検査を優先させることが必要である。このため、院内感染や施設内感染が疑われる場合には、疑い患者や感染者が発生した際の濃厚接触者の検査を優先的に実施できる体制を準備する。
○ PCR 等検査対象者については、重症化リスクの高い人(肺炎が疑われるような強いだるさ、息苦しさ、高熱等がある場合、また、高齢者、基礎疾患のある方)は、4日を待たず、場合によってはすぐにでも相談という旨を市民に周知すること(参考資料2)。
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このうち、目玉の「大型のテントやプレ17ハブ等の設置や地域医師会等と連携した地域外来・検査センターの設置など、地域の実情に応じた外来診療体制を増強する」については、多額の費用がかかるはずであるが、財政措置についての言及がない。

それでも、PCR等検査体制が不十分なことから、はっきり言ってPCR検査等については、検査の人材や試薬などが不足する恐れを指摘し、水際対策でのPCR検査の縮小を提言している。これを含め、今回の専門家会議の諸提言の実施には相当な財政措置が不可欠なはずである。当然、「専門家」の集団であるから、医療対策に必要な財政措置くらいは概算程度でも示して良いし、しなければならないはずだ。そういう「政府」を縛るような提言が抜け落ちている。総じて政府=安倍政権、専門家会議の根本的には誤った、そして、支離滅裂な対策に対する「謝罪・反省」は抜きにして、「感染拡大を防止」できるか否かは、国民の自粛活動に第一の責任があるというのが、この「提言」の第二の特徴だ。

※追記(4月23日23時20分) 
植草一秀氏のメールマガジン「第2611号 万死に値するPCR検査の妨害」によると、➀東京都の医師会がPCR検査センターを創設して、かかりつけ医の判断でPCR検査を実施できるように運用を変える方針を示しているが、厚労省のサイトには掲載されていない②補正予算にPCR検査予算が盛り込まれていない③(WHOが布製マスクには感染予防の効果はないとして否定している)アベノマスクに拠出した466億円で350万件(人の)のPCR検査を実施できる③(そのアベノマスクには)カビや髪の毛、汚れの着いた不良品が続出しているがそのアベノマスクを提供したのは一体誰か(毎日新聞が2020年4月21日 22時38分に投稿した記事によると、厚労省は4月21日、社民党の福島瑞穂党首の質問に対して文書で回答し、発注先が興和・伊藤忠・マツオカコーポレーションの3社であり、総額90.9億円であることを明らかにした。政府は従来、アベノマスク配布に充てられる予算額は約466億円で、内訳は日本郵政の配達費128億円、マスク調達費338億円と説明しており、明らかに矛盾する。官僚の天下り企業との指摘もあり、この期に及んで利権支出を行っている可能性が極めて高い)④楽天が建設業者など在宅ワーク(テレワーク)のできない業者向けに販売しているPCR検査キットに対して、日本医師会が「精度」が低いとして事実上、販売の停止を求めている-などから、政府=安倍政権はあくまでもPCR等検査を妨害する方針を変更していないと強調している。

サイト管理者も植草氏の見解に賛同する。臨時国会では2020年度第一次補正予算は早急に成立させる必要があるが、衆参の予算委員会で政府=安倍政権のPCR検査抑制方針に対して徹底的に追及する必要がある。

第三は、「検査・隔離と政府による補償」が新型コロナウイルス感染症拡大の両輪になっていることに明確な言及がないことだ。第一次補正予算は早急に成立させる必要があるが、テレワークのできない業務・業種も多い。非正規社員の突然の解雇も相次ぎ、家賃代の支払いが困難になるなど生活に困窮している国民も多い。自宅待機・休業要請に対して補償が一回限りというのでは、新型コロナ大不況が新型コロナ大恐慌に悪化してしまい、取り返しがつかなくなる。提言での財政措置への言及に関しては、「社会を維持するために出勤せざるを得ない人と在宅勤務が可能な人との間で分断を招くことがないよう、社会的な理解を深めていく」「風邪症状を有する者の出勤免除、安心して休暇を取得できる体制の整備」「体調不良があれば、休暇が取れるように配慮すること」などの言及しかない。接触率の8割削減を求めるなら、継続的な財政措置への強い言及が必要なはずで、意図的に避けている。

なお、専門家会議は、連休中に接触率を8割削減するための10の方法を示している。

専門家会議ではICT(スマートフォンに搭載されている位置情報取得システム、要するに過去感染して退院した方々の位置情報を近くにいる人々にスマートフォンに通知する。個人情報保護に留意するとのただし書きがあるが、官僚の作文だろう。韓国の文在寅政権はこのシステムを利用したが、ともかくもWHOに従い感染の拡大と死亡者の増加にストップをかけ、総選挙で圧勝したことから韓国国民は文政権を信頼している。根本的に誤った対策を続け、「新型コロナウイルス感染者公開情報」も操作していると考えられる安倍政権が個人情報を扱うことには危険性が伴うのは必然的だ)を利用することをひとつの柱として提言している。要するに、10のポイントも含め、IT技術を使えと言っているわけだが、高齢者をはじめITには馴染めない国民も少くない。

専門家会議の提言を読んでみてもやはり、キレイ事ばかりで肝腎なことはぼかす官僚の作文であることを感じる。最良の「新型コロナウイルス感染症拡大」対策は、政府=安倍政権と専門家会議のメンバーが責任を取ってその任務を辞することである。

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