岸田文雄自公政権は07月10日行われた参院選で圧勝したことで政権基盤を強化したと見られているが、ウクライナ事変に伴う米英ディープ・ステート(DS)主導の対露経済制裁の「先鋒」に立たされているため、国際的な原油価格の高騰やサハリン2からの日本企業の締め出しによる液化天然ガスの供給停止などから今夏以降、少なくとも三年間はスタグフレーションが深刻化することは必至。第二次安倍政権時代に安倍晋三首相が二階俊博幹事長と手を組んで米中両属・新露外交を展開し、最悪の場合は安倍元首相がロシアを和解訪問する可能性も残されていたが狙撃テロで射殺されたため、それは不可能になった。前途洋々と見える岸田政権が政権運営に行き詰まる公算は小さくない。
米英ディープ・ステート(DS)の対露経済制裁の「先鋒役」を担っている(やらされている)自公岸田政権は、ロシアのプーチン大統領の怒りを買ってサハリン(樺太)南部で天然ガスを生産し、液化天然ガス(LNG)化して日本を始め世界に輸出する「サハリン2プロジェクト」から締め出された。
ロシアから天然ガスの供給を受けられなくなったことの悪影響は大きく、米国のバイデン大統領が13日から16日にかけてサウジアラビアを訪問、原油の増産を要請したものの実質的に断られた(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220716/k10013720141000.html)ために石油価格の高騰が続くこととあいまって、日本の経済は深刻なスタグフレーション入りすることが確実だ。経済産業省はサハリン2での日本企業の締め出しに備え、「節ガス」を企業や国民に強要しようとしている(https://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN2OM04O.html)。以下は、それぞれの記事の引用。
中東のサウジアラビアを訪問しているアメリカのバイデン大統領はサルマン国王や、人権状況をめぐって批判の対象としてきたムハンマド皇太子と会談しました。ガソリン価格の高騰が続く中、バイデン大統領は「数週間のうちに対応がなされることを期待する」と述べ、サウジアラビアなどによる原油の増産に期待を示しました。(中略)
米 シンクタンク “ガソリン価格の低下難しい”
アメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所でエネルギー問題を専門とするサマンサ・グロス研究員は「ガソリン価格や世界的な原油価格を引き下げるためにバイデン大統領ができることは非常に限られている。その中で精一杯の手を打とうとしている」と指摘しました。
その上でウクライナ情勢の影響もあって原油価格が高騰していることについて「バイデン大統領が増産を要請するサウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦などには余力があるが、それでもロシア産の原油の分を補うことは難しいだろう。さらに産油国は原油価格の高騰で利益を得ているため増産する動機がうまれにくい」として、ガソリン価格の低下につながるような目立った成果を出すのは難しいとの見方を示しました。
[東京 11日 ロイター] - 経済産業省は、液化天然ガス(LNG)の調達難に備え、都市ガスの消費を抑える仕組みの検討に入る。電力分野ではすでにある制度と同様の制度をガス業界でも導入し、「節ガス」の制度作りを行う。深刻な需給逼迫時には、大口企業に使用制限令を出すことができるようにするかどうかについても検討を行う。経産省は今夕に有識者会議を開き、具体的な検討に入る。
ロシアからのLNG輸入に不透明感が強まる中、今冬の需要増大時に間に合うように制度を整える方針だ。原料の調達リスクを踏まえ、電力と異なり制度的な仕組みのないガスに関しても需要抑制策について検討を進める。総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)で詳細を詰める。仮に「使用制限令」まで踏み込む場合、ガス事業法の改正が必要となる。(以下、略)
この「節ガス制度」の有識者会議の第一回目の会合は次のPDFでまとめられている(https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/gas_jigyo_wg/pdf/021_03_02.pdf)が、結論が出ている訳ではない。天然ガスの大口需要家(企業)に対する「使用制限令」だが当然、国民生活にも悪影響を与えてくる。スタグフレーションの悪化につながる内容だ。
さて、日本ほどではないが米国に対する隷属国家であるG7諸国のドイツなどでも状況は深刻だ(https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/07/15/23809.html)。
ロシアの“武器”は天然ガス?ドイツでいま何が?日本に影響は?
「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」ドイツのショルツ首相の発言です。ロシアからのガス供給が完全に止まるのではないかと懸念が広がるドイツ。ヨーロッパ最大の経済大国で今、何が起きているのか。ロシアからのガスが止まるとドイツはどうなるのか。(中略)
ロシアがガスを政治的な“武器”として使い、ドイツに揺さぶりをかけていると受け止められているからです。ドイツの政治経済界では、ガスの輸入はドイツに有益なことであるだけでなく、ロシアも潤い、互いにメリットがあることという受け止めでした。しかし、ロシアのプーチン大統領は7月8日、クレムリンでエネルギー関係の会合を開き「ヨーロッパ諸国はロシア産からの代替エネルギーを求めているが価格の高騰につながるだろう。さらなる制裁は世界のエネルギー市場に、より深刻で破滅的な結果をもたらすかもしれない」と欧米側を強くけん制しています。
パイプラインの点検でガスの供給が止まることはこれまでもありましたが、いずれも一時的なものでした。しかし、今回は大きく状況が異なります。欧米とロシアの対立が深まる中、ショルツ首相は「ロシアはエネルギーを“武器”にドイツを攻撃している」と強く反発しています。
ロシアからドイツを始めとした欧州諸国に天然ガスを送るパイプライン設備はノルドストリームと呼ばれている。Wikipediaによると、ノルドストリームには1と2があるが、2はウクライナ事変のため使用が停止されている。1も「定期点検」と称して07月11日から21日まで天然ガスの供給が停止されているが、コモディティ大国のロシアが石油、天然ガスを「戦略兵器」として採用しているため、供給再開の見通しは不透明だ。供給を再開しない可能性も高い。
ノルドストリーム(英:Nord Stream、ロシア語: Северный поток 、 Severny potok )とは、欧州のバルト海の下をロシアからドイツまで走る海底天然ガスパイプラインのシステムである。名称について、ノルドには「北」、ストリームには「流れ」という意味がある。ロシア北西部のヴィボルグからドイツ北東部のグライフスヴァルト近郊のルブミンまでの2本のパイプラインを含み、最初のノルドストリーム(ノルドストリーム1、旧名称)を形成している。また、ロシア北西部のウスチ・ルーガからルブミンまでの2本のパイプラインは「ノルドストリーム2」と呼ばれている。ルブミンでは、ノルドストリーム1は、ドイツ東部のチェコ国境にあるオルバーンハウへのOPALパイプラインと、ドイツ北西部のブレーメン近郊のレーデンへのNELパイプラインに接続されている。
ノルドストリーム1は、ロシアの国営企業ガスプロムを大株主とするノルドストリームAGが所有・運営している。ノルドストリーム2は、ガスプロムの100%子会社であるノルドストリーム2 AGが所有し、運営する予定である。ノルドストリーム1の第1ラインは2011年5月までに敷設され、2011年11月8日に開通した。ノルドストリーム1の第2ラインは2011年から2012年にかけて敷設され、2012年10月8日に開通した。全長1,222km(759mi)のノルドストリーム1は、ランゲルド・パイプラインを上回る世界最長の海底パイプラインとなった。
2018年から2021年にかけてノルドストリーム2の敷設が行われ、2021年6月にノルドストリーム2の1号線が、2021年9月に2号線が完成した。ノルドストリーム1の年間総ガス容量は550億m3(1兆9000億cu ft)であり、ノルドストリーム2の建設により、この容量は合計1100億m3(3兆9000億cu ft)と倍増する見込みであった。
これほどの大規模な天然ガスの供給をストップされると、いくら「節ガス」を行ってもドイツ経済は成り立ち行かない。サハリン2から締め出された日本も同じで、先のNHK記事も次のように伝えている。
ロシアのプーチン大統領は6月30日、日本企業も参加する極東での石油・天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」について、事業主体をロシア企業に変更するよう命じる大統領令に署名。ガスプロムを除く株主に、1か月以内に出資分に応じた株式の譲渡に同意するかどうか通知するよう求め、日本に対しても揺さぶりをかけています。ドイツは、「脱ロシア」のためLNG確保を進める方針で、世界のエネルギー獲得競争がさらに激しさを増すことは必至です。天然資源に乏しい日本にとっては、「サハリン2」の問題だけでなくドイツ国内のエネルギー事情がどうなるかも、今後のエネルギー安全保障に大きな影響を与える可能性があるのです。
対米隷属の岸田政権は結局のところ、地震大国の日本で危険な原子力発電所多数の再稼働に踏み切ることになるだろう。しかし、日本の原発は現在頻発している地震に耐えられる設計にはなっていない。かつ、自民党の有力者である河野太郎衆院議員も「核燃料サイクル」の破綻を明言している。対米隷属外構が最大の問題だが、原発依存「体制」の強化も日本の物理的な存在自体を危うくする。本来は、安倍首相ー二階幹事長時代の米中両属、ロシア有効外交を継承・発展させるべきだ。
しかし今や、世界の石油・天然ガスなどエネルギー資源の利権はロシアやサウジ、イランなど非米陣営側のコモディティ大国が握るようになってきた。「持てざる国」が「持てる国」に勝つことはできない。本サイトで紹介してきたように、ウクライナ事変は米英ディープ・ステート(DS、バイデン政権を支配)と、2014年02月の非合法なマイダン暴力革命によって成立したその傀儡ウクライナ政権(現在はゼレンスキー政権)が国際法の地位を確立しているミンスク合意Ⅱ(2015年02月11日調印、①東部ドンバス地方での停戦②同地方のルガンスク、ドネツク両州に高度な自治権を付与)を守らず、ウクライナのロシア系住民を大量虐殺したうえ、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させたうえでロシアを破壊できる高性能軍事基地を建設して、ロシアを「ウクライナ侵攻」させるために引き起こしたもので、ロシア事変は単刀直入に言ってロシア側の正当防衛である。
ロシアとしては、G7諸国(米側陣営)がロシア産の石油や天然ガスを購入しなくても、非米陣営に転売すればよい。実際に、中国やインドなどに売却している。世界は今や、米側陣営(コモディティ大国)と非米側陣営(米国以外はコモディティ小国)に分かれて来ており、非米側陣営は陣営を維持するための新国際経済秩序を構築し始めているようだ。非米側陣営の中核はBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)であり、Wikipediaによると、BRICs4か国は、2009年6月16日にロシアのエカテリンブルクで初めての首脳会議を開催した。2011年4月13日に中国の三亜で行われた首脳会議には南アフリカ共和国が初めて参加し、首脳会議の正式名称をBRICS首脳会議(英語版)に変更した。BRICsは経済的な括りであり、同盟や連合ではない。2009年以降首脳会談が行われているが、非干渉、平等、相互利益を基本としている
。
そのBRICSにサウジアラビアやイランが加盟しようとしている。国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は07月16日公開した「腑抜けたバイデンの中東訪問」(https://tanakanews.com/220716saudi.htm、無料記事)で次のように述べておられる。まず、リード文は次のようになっている。次に、本文から引用させていただきたい。
バイデンの中東訪問の2つの目的(注:①サウジアラビアに対する原油増産願い②イスラエルとアラブが米国の傘下で連携してイランを敵視する「中東版NATO」を作り、今秋の中間選挙での民主党の不利を少しでも解消すること)は、いずれも達成できそうもない。しかも、達成できないことが事前にわかっていたのに訪問を挙行するというボケぶりだ。なぜ達成できないかというと、それはサウジアラビアがこれまで採ってきた対米従属の国是をすでに放棄し、ロシアや中国と結託しており、非米諸国の仲間入りをするためBRICSに入ろうとしているからだ。バイデンの中東訪問は、頓珍漢や的外れ、腑抜けが重なっており、中東諸国に米国の覇権衰退を痛感させるものになっている。
サウジ王室内でも特に親米的なリベラル派であるはずのファイサル家のトルキー・アル・ファイサル元諜報長官が、7月4日の米独立記念日という栄誉ある日をわざわざ選んで、米国のマスコミに「世界は米単独覇権体制をやめて中露が望む多極型体制に転換すべきだ」と主張する趣旨の論文を掲載した。この論文は、サウジ王政から米国への決別宣言になっている。バイデン訪問の直前に「米国は終わりだよ」と言ってしまったサウジ王政は「バイデンが訪問してきても無駄だよ」と米国側に伝えたことになる。だが、バイデンはそのメッセージを無視してサウジを訪問した。当然ながら、訪問の目的は果たせない。行くだけ無駄だ。 (Rethinking the Global Order — Turki bin Faisal al-Saud) (ロシア敵視が欧米日経済を自滅させ大不況に)
米国がサウジに石油の増産を求めても、非米側に入ってロシアとの関係を重視するサウジ王政は、米国のロシア敵視に協力することになる増産に応じない。サウジはむしろ最近、軽油などをロシアから積極的に買い増すようになっている。ロシアは米国側に売れなくなった石油類を安く非米諸国に割引販売してくれるので、サウジは産油国だがロシアの石油製品を買いたがる。サウジは、親米の姿勢を維持しつつ、ロシアとの関係を強化して非米側の国になる姿勢を強めているインドと似た道を歩んでいる。サウジは、親米の国だが、もう米国からの要求を、自国の国益になる場合にしか受け入れない。国益に反しても米国の要求を受け入れ続けねばならない米国側の(逃げ遅れている)日本や欧州とは違う。 (Can Biden Break The Alliance Between Saudi Arabia And Russia?) (Saudi Arabia doubles second-quarter Russian fuel oil imports for power generation)
BRICSにはサウジだけでなく、イラン、トルコ、エジプトも加盟申請する予定だ。今後、サウジとイランの両方がBRICSに加盟したら、サウジとイランの和解は中露などBRICSの非米諸国によって仲裁されることになる。BRICSではすでに、中国とインドが対立しつつも両方がBRICSに加盟し、協調できる部分で協調している。中印は2国間で対立しているが、もう一段大きな視野で見ると、中印ともに米国の単独覇権体制を否定する非米側の国として仲間だ。今後、サウジとイランもBRICS内で中印みたいな協調関係になっていくことが予測される。サウジもイランも産油国であり、石油ガスなど資源類を持っている非米側が米国側より優勢になる今後の2分割された世界では、サウジもイランも非米側に入っておいた方が策だ。 (“Preparing To Apply For Membership” – Saudi Arabia, Turkey, Egypt Plan To Join BRICS) (いずれ和解するサウジとイラン)
戦後、米国の「戦利品」としての対米隷属外構を続けてきた日本の岸田政権も新しい時代の幕開けが見えていない。
ウクライナ開戦後、米国は世界に対して「ロシアを敵視しない国は米国の敵とみなす」という米露二者択一的な姿勢を強硬に採っている。このような「俺が敵視した奴を敵視しない奴は全員俺の敵だ」と言い放つ態度は、そいつが強大なパワーを持っている限り、他の奴らを沈黙・服従させることができるが、パワーが落ちている時にそれをやると全員からのけ者にされて弱体化が加速する。米国は、そういう状況にある。欧州や日本は、米覇権下から逃げ遅れて自滅策を採らされている。日本は(安倍晋三)元首相まで米国に殺された(注:奈良市での狙撃射殺テロ事件)。イスラエル以外の中東諸国は、早めに逃げ出して非米側に転じている。イスラエルはどうなるかわからない。バイデンの中東訪問は、頓珍漢や的外れ、腑抜けが重なっており、中東諸国に米国の覇権衰退を痛感させるものになっている。 (Biden Goes to Saudi Arabia to Advance Peace But Local Analyst is Skeptical About His Intentions) (Is Saudi Arabia In Discussion To Join BRICS?)
今夏以降、G7諸国(米側)陣営の「持たざる国」は激しいスタグフレーションに見舞われることになる。日本の行く末はすべて岸田文雄首相に委ねられた形になったが、安倍政権時代の「俯瞰外交」の意義を再考するべきなのに、国葬に熱中しているだけのように見える。サイト管理者(筆者)は世界が二極化、多極化することは望ましいとは思わない。人類としては「地球共同体」としての「地球村」の建設に尽力するべきで、極東に位置する日本は「東アジア共同体」の構築に向かって進むべきだ。新自由主義の継続や「ロシアのプーチン大統領は最大の悪者でウクライナのゼレンスキー大統領は英雄」とする説に軽々しく同調しているリベラル側陣営の浅薄な国際情勢把握の感覚では時代を乗り切れない。