米側陣営の株価の最高値更新に伴って、金価格も最高値を突破し始めた。金相場や原油・天然ガス相場など実物資産の相場は2022年4月にウクライナ戦争が始まって以降上昇し始めたが、米側メディアに煽られた投資家(投機家)の間ではインフレが落ち着いてきたとの見方から、米国のバーナンキ議長率いる連邦準備制度理事会(FRB)が年内にも利下げ(翌日もの短期金利であるフェデラルファンド・レート=FFレート=)の引き下げに踏み切るとの見方が強まっており、これに伴って株価が最高値を更新してきた。一般に、利子を生まない金など実物資産は利下げ局面では相場(価格)が上昇すると言われている。今回もその局面との見方がマス・メディアや投資家(投機家)の間では強い。しかし、米側陣営はウクライナ戦争で国内物価が上昇すると、利上げ(FFレートの引き上げ)に転じ、さらには、表向き従来のQE(Quantitative Easing=量的金融緩和政策=)をQT(Quantitative Tigtening=量的金融引き締め、中央銀行保有証券を売却して市場から資金を引き揚げること=)に転換した。つまり、金融を引き締めても緩めても金価格は上昇している。なお、金価格はインフレのときには必ず上昇する。国際政治情勢を正しく反映する金価格が制御不能なように上昇すると、米側陣営の金融・資本市場は崩壊する。金価格は基本的に、米側陣営の中央銀行の中央銀行によって1トロイオンス=2000ドル以下に抑えられてきたが、それがもはや限界を露呈してきたと見るべきではないか。
金価格が1オンス=2000ドルを力強く突破すると国際金融情勢が危機に陥ることを示す
NHKは8日朝、「NYダウ 2日連続の値上がり 金の先物価格は史上最高値を更新」と題して、次のように報じている。
7日のニューヨークの金融市場では、FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長の議会上院での発言を受けて、年内に利下げが行われるとの見方を背景にダウ平均株価が値上がりしたほか、金の先物価格が史上最高値を更新しました。(中略)
FRBのパウエル議長がアメリカ議会上院で、「物価上昇率が持続的に2%になると確信できるまで遠くない」などと発言したことを受けて、年内に利下げが行われることへの期待から買い注文が増えました。主要な500社の株価で算出する「S&P500」の株価指数も史上最高値を更新しました。
また、ニューヨーク商品取引所では利下げの影響を受けにくいとされる金を買う動きが強まり、取り引きの指標となる金の先物価格が一時、1オンス=2170ドルを超え、2日連続で史上最高値を更新しました。
一般論として、利子を生まない金価格は利上げ局面では資金が金融市場に流れるため値下がりし、利下げ局面では金市場に資金が流れ込んでくるため金価格は上昇するというのが、定説になっている。しかし、2022年4月に起こったロシアの特別軍事作戦(ウクライナ戦争の始まり)で天然ガスや原油、金に代表される貴金属相場は上昇を始め、それ以降、米側陣営はインフレに苦しみ、金融引き締めに転換してきた。経済がインフレになり、金融引き締め局面に陥ると、金価格は必ず上昇する。特に、基軸通貨国に政治・経済上の異変が起こるとその傾向が全般的になる。
その結果、金価格(1トロイオンス=31グラム)も上昇を続けてきた。米側陣営では、昨年2023年後半くらいから金融引き締め政策への転換が功を奏してインフレが落ち着いてきているとの見方が強まっている。パウエル議長の発言だが、「アメリカのFRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は、6日、議会下院で証言し、政策金利がすでにピークに達しているという考えを示した上で『年内のいずれかの時点で利下げを始めることが適切になるだろう』と述べました。ただ、具体的な時期の言及は避けました」(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240307/k10014381491000.html)という、いつもの思わせぶりな発言だ。
しかし、コストプッシュインフレをデマンドプル(内需抑制)の金融引き締めで阻止するというのは、金融政策としては間違い(筋違い)だ。ウクライナ戦争を終結させるしかないのだが、バイデン政権とゼレンスキー大統領、ネオコン派の米国マス・メディアは嫌がっている。なお、イスラエルに対してはトルコなどイスラム諸国がこっそりと原油を融通しているようだ。米国としても、経済制裁を加えるつもりはない。要するに、今は金融を引き締めようが緩めようが、金価格は長く続いた1トロイオンス=2000ドル台のボックス圏内を突破しようとしているかに見える。この1トロイオンス=2000ドルという上限は、米側陣営の中央銀行の中央銀行である国際決済銀行(BIS)が金の先物売りによって実現してきたものだ。
第二次世界大戦中に取り決められたブレトンウッズ体制では当初、金・ドル本位制が取られ1オンス=35ドルと決められていた。ドルが金でその価値を裏付けられていたわけだ。しかし、日本と西ドイツの対米貿易が大幅な黒字になり、両国が米国から金を引き出すにつれてドルに対する不安は高まっていった。このため、1971年8月に当時のニクソン大統領が金とドルとの兌換性を停止する「ニクソンショック」を引き起こすことにより、米側陣営の通貨体制は変動相場制へと移行した(第二次ブレトンウッズ体制)。サイト管理者(筆者)自身はケインズ政策を否定するものではないが、厳密に言えば、ドルの価値が保証されなくなったわけだ。そのため、ドルの安定性は大幅に損なわれたが、その中でG5カ国の間でプラザ合意(1985年9月)やルーブル合意(1987年2月)が取り決められ、ドルの価値がかろうじて維持された。
その後米国は、中東産油諸国の盟主であるサウジアラビアに命じて、原油の決済をドルに限ることにして「ドル・原油本位制」を長らく続け、ドル価値の安定性につなげてきた。しかし、中国の習近平国家主席が一昨年2022年の12月、サウジアラビアを訪問して、同国の実力者であるモハメッド・ビン・サルムーン(Mbs)皇太子兼首相と会談して、人民元建ての原油決済を行うことで合意した。ドル・原油本位制に風穴が開き、ドルの今後はまた不安定になって行く。
ここで、三菱マテリアルの図表から、金価格の長期的な推移を見ることにする。長期チャート→5年チャート→1年チャート→1カ月チャートの順に挙げてみる(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/)。ドルの価値の低下は目を覆うばかりだ(灰色の線グラフで目盛りは左)。
1年もののチャートを見る限り、昨年の4月には一時的に1トロイオンス=2000ドル台を突破したが。5月末から6月初めにかけてボックス圏内に押し戻された。しかし、今年の2月前後から再び同2000ドルを突破しており、この1カ月間では「金融引き締め緩和」ないし「利下げ観測」の追い風もあって、金価格は再び1トロイオンス=2000ドル台を突破してきている。この追い風がいつまで続くかは、国際決済銀行(BIS)次第だが、米側陣営は次第にドルの価値を維持することが難しくなっていくのではないか。
2000年代後半からイランやヒズブッラーの支援を受け、2015年の政権奪取およびイエメン内戦以降、急速に軍事力を拡大させてきたフーシー派による米側陣営の海路大動脈である紅海の輸送船攻撃もコストプッシュ・インフレに輪をかける。これに関して、国際金融にも詳しい国際情勢解説者の田中宇氏は2月18日に公開した「金融システムの詐欺激化」と題する論考(https://tanakanews.com/240218money.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)で次のように指摘している。
マスコミや金融専門家たちは「インフレは沈静化した。連銀は今年5回利下げする」と昨年末から言い募っている。実のところインフレは続き、米国民の生活は悪化し続けている。連銀は利下げできない(選挙前にやらされて1回か?)。政治的に、利上げを続けることもできない。金利上昇を受け、米国の従来型の銀行界は、昨年春のシリコンバレー銀行の破綻から預金流出が止まらず、米連銀からの資金供給によって表向きだけ経営が維持されているゾンビ状態だ(日本の銀行界も前からゾンビだったが、日本はゼロ金利なのでゾンビを続けられる)。(悪化する米欧銀行危機)
米国の金融システムは、1990年代の後半から詐欺的な傾向が拡大した。インターネットで経済効率が急上昇するとはやされ、ネット関連株が軒並み高騰したが実はインチキで、2000年のIT株バブル崩壊になった。その後は住宅ローン債券が急激に膨張して詐欺の領域に入り、サブプライムローン危機からリーマン倒産に発展し、債券金融システムが自滅した。そのままドルが崩壊するかと思いきや、連銀がQEを開始して自滅した債券金融に資金注入して蘇生したかのように見せる詐欺をやり、米金融の蘇生力が喧伝された。(What The Fed Accomplished: Distorted The Economy, Enriched The Elites, & Crushed The Middle Class)
ウクライナ開戦直前に米議会が連銀に加圧し、インフレ対策としてQE終了とQT開始に転換させられた。QTは昨秋の金融危機につながりかけたが、新たな裏資金注入策が始まり、不況なのに株価の最高値更新というインチキになっている。米金融システムの詐欺は激化したが、相変わらずほとんど誰も気づかないままになっている。(債券金融システムの終わり)
今の裏資金システムはいつまで維持できるのだろうか。リーマン倒産後のQEは、2008年から2022年まで14年間も続いた。2022年のQE終了は、米議会によるインフレ対策強要などの(コロナ時のQE急増の反動も?)政治要因が大きく、政治要因がなければ今もQEが続いていたかもしれない。QEとの比較で考えると、裏資金注入による金融市場の好転がこれから15年間続いても不思議でない。だが、その途中で政治要因による裏資金中断もあり得る。(来年までにドル崩壊)
今年は米選挙なので、金融危機はないだろう。今年の金融危機の顕在化を防ぐために裏資金注入が始められた。トランプが当選しても、自分の政権下で金融危機が起きるのを防ぐため、金融界などと手打ちして裏資金注入の継続を認めるのでないか。金融の状況は、実体経済や需給と無関係な政治謀略の分野に入っている。オルトメディアが言うように、金融はいつ大崩壊してもおかしくない半面、裏資金注入で何年も延命する可能性もある。
(We Are On The Brink of A Catastrophe)米欧日の実体経済は、不況とインフレの両方が悪化するスタグフレーションになっている。この状態は今後ずっと続く。実体経済の悪さと、表向きだけの金融市場の好転との対照性がしだいにひどくなっていく。いつまで人々が軽信して騙され続けるのか、騙されなくなった時にどうなるのか。株や債券が上がれば、裏の構図はどうでも良いのか。世界的な実体経済の中心は非米側に移っていくが、米国側中心の今の情報体制下では、それもろくに報じられない。世界経済の非米化が無視されることも、政治謀略の分野の話だ。
なお、国際政治情勢に詳しい植草一秀氏によると、不況の中で株価が史上最高値を更新しているのは、①株価指標から判断して日本株価が割安であること②企業利益が拡大していること③第円安で外国資金が流入しているーためで、要するに日本全体の景気にはマイナーな存在となってしまった資本への分配率が高いためである。米側陣営の投資家(投機家)やマス・メディア、それに政府が株価や金価格の最高値更新を手放しで喜んでいると、とんでもない先が待ち受けている。
韓国での合計特殊出生率の低下
話題は異なるが、韓国では昨年の第四・四半期に一人の女性が生む子供の数である合計特殊出生率が0.65になったという(https://news.yahoo.co.jp/articles/416ea654a20196e946ff09b2e8ea23f827cb6ebb)。これは人生の目的が分からなくなったことの端的な証拠だ。2023年の出生数は前年比5.8%減で、合計特殊出生率は1.20前後に低下したもようだ。2020年では世界の平均が2.30,米国は1.64,インドは2.05。経済的支援を行うだけでは全く限界がある。宗教団体側に責任がある。