期待しないほうが良い安倍政権の「緊急経済対策」

前日24日の米国株式市場では、米議会で検討中の新型コロナウイルスをめぐる経済対策が2兆ドル(220兆円)に上り、議会での合意が間近いとの報道から、ダウ工業株30種平均が暴騰し、史上最大の上げ幅の前日比2112・98ドル高の2万0704・91ドルで取引を終えた。これを受けて政府=安倍晋三政権も本来なら、赤字国債発行による消費税率のゼロ%に加え、国民に対する直接の生活支援金給付、可能な限りの建設国債発行を柱とする総額50兆円規模の大規模な経済対策を迅速に発動すべきところだが、期待すべくもない。

本論に入る前に、東京オリンピック開催延期問題について。国際オリンピック委員会(IOC)など関係組織は、4週間以内に7月24日予定の東京オリンピック開催の是非を検討すると言っていたが一転して24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)を含む東京オリンピック開催関係組織は、「開催の1年程度の延長」を決めた。

本サイトでは少なくとも開催時期の延長は避けられないとしてきた。しかしそれにしても、➀延期に伴い1000億円ほどの追加負担が必要になると言われているが誰が負担するのか②来年は国際スポーツ大会が目白押しで、各種国際スポーツ大会の最大規模であるオリンピックの会場並びに競技などの関連施設をどのようにして確保するのか③大会出場者の選考はどうするのか④そもそも、感染力と毒性を増しているとも言える新型コロナウイルス感染拡大が1年以内に終息することがはっきりしているのか-など肝腎な検討をしないで4週間ではなく2日間で急遽決定したことには驚き、呆れるだけである。
※追伸:社会民主党の福島瑞穂党首、立憲民主党の田島麻衣子参院議員がそれぞれ定例記者会見、参院予算委員会で述べていたように、「1年程度延期説」には来年2021年9月に任期が一応、満了する安倍晋三自民党総裁選を有利に進める狙いがあるものと見られる。パンデミックがいつ終息するのか、現段階では誰も分からない。形式的ではあれ、専門家会議に募るということを行ったわけでもない。ただ、菅義偉官房長官は田島議員の「1年後の終息には科学的根拠があるのか」と質したのに対し、「1年間も続いたら大変なことになる」と述べただけだった。

東京オリンピック開催延期を余儀なくされた安倍晋三首相=ロイター通信

この結果、東京オリンピックの強行開催のためにPCR検査抑制に全力を挙げてきた政府=安倍政権の「無駄な努力」も本当に無駄になった。その一方でこのところ、東京都や大阪府、愛知県など日本の経済社会を背負う大中核都市圏で感染確認者だけでも加速している状況に悪化しているから、感染者の爆発的拡大を意味するオーバーシュートが日本で発生する可能性は徐々に高まってきている。政府=安倍政権の感染者数を正しく公表しないという「無駄な努力」、いや害悪しかもたらさない「新型コロナウイルス感染拡大対策」のお陰で、東京オリンピックやパラリンピックが中止に追い込まれる公算が大きくなってきた。

さて、話を緊急経済対策に戻す。日経新聞社のサイトによると「トランプ米政権は21日、新型コロナウイルス対策として検討する大型景気刺激策が最大2兆ドル(約220兆円)に達すると表明した。連邦政府が1.3兆~1.4兆ドルの財政支出に踏み切り、米連邦準備理事会(FRB)などの追加支援で2兆ドルに積み増す」という。この中には、国民の生活資金に供与するため、企業が雇用を維持すれば返済は不要という特別融資制度も含まれる。

国内総生産(GDP)の規模は米国の1に対して日本は4分の1だから、政府=安倍政権の努力目標としては少なくとも50兆円規模の緊急経済対策が必要だ。しかも、植草一秀氏がメールマガジンの「第1584号 迅速決定実施すべきコロナ経済対策二本柱」で述べているように、➀迅速②簡素③直接-を基本原則として発動しなければならない。

しかし、現状では正反対の状況になっている。このことが良く分かるのは、漢字が読めない漫画大臣である麻生太郎財務相が、休業補償も満足に受けられず、さらには失業にさえ追い込まれている国民に対する生活支援を「現金ではなく商品券の形で支給する」との趣旨の発言をしたことだ。

今や、政府=安倍政権の新自由放任政策のために、勤労者の40%が雇用関係が不安定な非正規社員の状態に置かれている。こうした方々は低所得層であり、商品券の支給より現金の支給の方がもっとも有効だ。中間層は没落しているから残りは高所得層ということになるが、これらの国民は生活資金のやり繰りに困るということはまず考えられないから、商品券を受け取った場合(サイト管理者は所得によって生活支援金を増減させるべきと考えるが、複雑になると迅速・簡素という原則に反する)はこれを生活費に使い、生活費に使う予定の現金は貯蓄に回すだろう。要するに、生活支援金の代わりに商品券を配布するという措置の大義名分である「貯蓄に回る」というのは全く根拠がない。

野党と称する政党でも、このくらいのことは気づくだろう。だから、衆参両院の予算委員会で麻生漫画財務相の屁理屈を徹底的に追及した方が良い。自公両党は強行採決はするだろうが、形だけでも「福祉の党」を標榜する公明党を説得するくらいの努力はしなければならない。そうでなければ、国民の支持はますます離れ、来年秋までの総選挙では大敗するだろう。

さて、緊急経済対策のもうひとつの柱としては、取り敢えず消費税の税率をゼロ%にするとともに、消費税の納税主体である事業者からの、前年の消費税納税額に応じた中間納税ををやめることだ。まず第一に、今回の世界恐慌に近づきつつある大不況の発端は昨年10月、景気が2018年10月から後退局面にあるのに、加計学園問題で財務省に借りがあるため消費税の増税を強行したことにある。このため、駆け込み需要が盛り上がらなかったうえ、昨年第4四半期の実質経済成長率(実質GDP増加率)は年率換算でマイナス7.1%の大幅悪化になった。

日本の名目国内総生産は550兆円程度であるから、年間換算で約40兆円ほど国民の給与と企業の利益が吹っ飛ぶことになる(短期的には、名目GDPに実質経済成長率を乗じた額が年間の名目GDPの増減額に近い)。また、消費税の納税主体は売上高年間1千万円以上の事業者であるが、前年の納税額に応じて今年の納税額を納めなければならないという制度になっている。しかも、期限までに納税できなければ10%を上回る滞納税を差し出さなければならない。事業主の毎年の売上額は変動するから、こうした仕組み自体撤廃するべきだが今年は特に、コロナウイルス問題の影響で売上高が著しく減少している。このため、中小企業を中心に膨大な負担がかかり、消費税滞納倒産が今年は激増するだろう。これを阻止しなければならない。

財務省や地方自治体の納税課は基本的に取税人でしかないから、事業会社や国民の生活を考えるよりも、税収を最大化するために行動する習性が根付いている。しかし、日本国憲法に定めているように国家公務員や地方公務員は「公僕」なのであって、国民の生活を守る義務が課せられている。しかしながら、そこのところは敢えて、無視している。

さて、世界各国の株価は暴騰、暴落しながら傾向的に暴落を続けている。株式投資にも詳しい植草氏の調べによると、各国の代表的な株価指数下落率は以下の通り。日本32.2%、米国36.0%、ドイツ40.2%、英国38.0%、ブラジル48.4%、ロシア42.0%。

1929年10月24日の木曜日に起こったニューヨーク株式市場での株価大暴落

こうした暴騰暴落は、1929年10月24日の木曜日(ブラックチューズデイ)以降の大恐慌の前触れだった。今回もその可能性が高い 。新型コロナウイルスの正体がまだ十分に解析できておらず、免疫力をつけるためのワクチン開発も相当に困難と言われているためむしろ、大恐慌をしのぐ情勢である。

新型コロナウイルス感染拡大防止のため外出禁止措置が打ち出されたニューヨーク

朝日デジタルは2020年3月24日 13時30分にサイトにアップした「失業率30%、GDP30%減 米経済を覆う恐慌の懸念」と題する記事で、「感染拡大を抑えようと当局が外出禁止などの措置を強めれば強めるほど、経済は鈍っていく。少なくとも短期的には、90年前の世界恐慌に匹敵する不況が米国を襲うかもしれない。そんな見方が日増しに強まっている」と観測。

新型コロナウイルス感染拡大で失業率が大恐慌時代並に上昇するかも知れない=時事通信社より

時事通信社も2020年03月25日07時05分にサイトにアップした「米失業率、大恐慌並みに悪化か 与野党対立も足かせ―新型コロナ」と題する記事で、「新型コロナウイルスの感染拡大で米国経済の停滞が長引き、4~6月期の米失業率が1930年代の世界恐慌と同程度まで悪化するとの見方が出てきた。秋の大統領選をにらんだ与野党対立で大型経済対策の成立も遅れ、景気不安が一段と強まっている」

冷戦に勝利したと酔った米国の軍産複合体が国際通貨基金(IMF)など世界の諸機関を操り、米国のミルトン・フリードマンを始祖とする自由放任主義を謳歌してきたことのツケが、新型コロナウイルスの出現で一挙に噴出したようだ。新自由放任主義が否定してきた財政政策についての正しい経済理論の構築と、それに基づく経済政策を仁義の精神で展開・実施する時代に突入した。

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