マスコミを通して安倍晋三首相や小池百合子東京都知事は、「東京オリンピックは来年の夏までに開催を延期する」と公式見解を述べた。しかし、朝日デジタルが2020年3月25日 21時51分に掲載したトーマス・バッハ国際オリンピック(IOC)会長によると、開催予定を来年夏までと限定したわけではなく、来年2021年内全時期が開催予定に含まれると改めて発言している。新型コロナウイルス感染のパンデミック宣言の解除がいつになるのか誰も分からないので、来年の夏と限定するのは危険が大きすぎると判断したのだろう。
朝日デジタルへの本投稿記事は翌日3月26日付の朝日新聞朝刊に同じ記事が掲載されている。引用させていただくと、「国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は25日、電話記者会見を開き、『遅くとも来夏までに開く』とした東京オリンピック(五輪)・パラリンピックの新たな開催時期について、『夏に限定していない。(2021年ならば)全ての選択肢が交渉のテーブルの上にある。幅広い視点で検討できる』と述べた」という。
世界保健機構(WHO)が新型コロナウイルス感染拡大についてパンデミック宣言を行ったのは3月11日。朝日新聞によると、その直後から安倍首相と小池都知事は秘密裏に会合を続け、「中止を避ける選択肢として浮上したのが、『(26日からの)聖火リレー前の延期要請』」だったと言う。バッハ会長が当初、安倍首相と小池百合子都知事との電話会談で提示したのは、➀2021年に延期②21年夏への延期に向けて事務レベルでの協議入り-の2案だった。
しかし、来年9月に自民党総裁選挙を抱える安倍同党総裁にとっては、総裁選を有利に進めるため(操れる後継者に勝たせる。なお、あり得ないことだが自民党内には4選を待望する声すらある)これは飲めない。そこで、「東京オリンピックは来年の夏までに開催を延期する」との逆提案をした。日本と東京都知事がそういうのなら、延期にかかる費用負担は全て日本側に押し付けられる。こう考えて、バッハ会長も一度は逆提案を容認した。
しかし、25日(日本時間26日)には、新型コロナウイルス感染のパンデミック宣言の解除がいつになるのか分からないためだろう、バッハ会長は自らが提示した第一案に差し戻す記者会見を行った。ということで、開催を来年に延期してもいつになるのか、誰も分からない。
最大の要因は、繰り返しになるが第一に、新型コロナウイルス感染のパンデミック宣言の解除がいつになるのか分からないためだろう。重症呼吸症候群(SARS、コロナウイルスが原因)の場合は、集団発生が2002年11月16日の中国の症例に始まり、台湾の症例を最後に、2003年7月5日にWHOによって終息宣言が出されたが、32の地域と 国にわたり8,000人を超える症例が報告された。SARSでさえ、終息宣言に9カ月ほどかかっている。
今回の新型コロナウイルスは、SARSの亜種だがSARSよりはるかに猛威を奮っている。パンデミック終息宣言がいつになるか分からない。このため、安倍首相や小池都知事のように、来年夏までと見るのは早計だろう。代表の見直しの是非、各種予選大会があり、施設の準備、受け入れ体制の整備も含めると、遅くとも来年第1・四半期には終息していなければならないが、その医学的・科学的根拠は明示されていない。
ところが、今年7月24日開催の延期宣言を出した途端、25日に1日の感染者が41人に著増し、日本の中核大都市の東京都が北海道を追い抜いて感染者が最多の都道府県になったことから、小池都知事から今のままでいくと、「オーバーシュート(爆発的感染者拡大)」になる懸念を公表する緊急記者会見が開かれ、そうなれば「東京都をロックダウン(都市閉鎖)」するとの見解が示された。同じ首都圏の神奈川県、埼玉県もこれに同調する。「オーバーシュートが始まる可能性がある」と指摘する専門家とされる人物も増えてきた。
原因としては、感染源の分からない感染者が増えているため、外国からの駆け込み入国が主な原因とされている。しかし、入国制限をするならそのまま公共交通機関を使って帰宅などさせるべきではなかった。一定の期間、隔離施設に収容し、PCR検査を行ったうえで経過観察を行い、帰宅などさせるという手順を踏むべきだっただろう。
また、小池都知事はじめ東京都のコロナウイルス感染対策室では、若者の中にPCR検査などを実施すれば陽性の判定が出るが、自覚症状がないため、意図せずして感染源になっているとの説明もしている。ただし、若者であっても、その中には感染初期には自覚がなくても、時間が立つに連れて軽症と言えども症状が表れてくる者がかなりいるはずだ。そうした若者が医療機関を訪れ、診察した医師がPCR検査が必要だと判断して、「関所」である地方自治体の保健所に設けられた「帰国者・接触者相談センター」に連絡しても、検査の必要性を否定されるケースが跡を絶たないようである。
このため、サイト管理者は本サイトでもしばしば述べているように、感染源の分からない感染者が増えているのは、PCR検査をするのを政府=安倍政権が基本的に拒否しているため、特に症状の軽い若者がPCR検査を受けられないために、意図せずして国内感染拡大に寄与していることが主因であると考える。特に、自宅の持病を持った高齢の祖父母に感染させると、重大な事態を招く。
日本国内でも政府=安倍政権が検査抑制策を採っていることを批判する医療、政治の分野での専門家が少なからずいる。民主党政権時代に首相を務め、一般財団法人東アジア共同体研究所理事長で政策連合・平和と共生オールジャパンの顧問でもある鳩山由紀夫氏もそのひとり。鳩山理事長は自身のツイッターで、「小池都知事が週末外出自粛の要請をされた。東京五輪の実現のために感染者の数を少なく見せ、東京はコロナを抑えている如く厳しい要請を避けて来られたが、延期と決まった矢先にこのパフォーマンスだ。その間にコロナは広がってしまった。あなたは都民ファーストよりオリンピックファーストだったのだ」と小池都知事を厳しく批判している(この項、3月27日午前8時追記)。
海外諸国のメディアでも、この問題を取り上げ始めている。時事通信社は2020年03月25日07時08分に「『日本のコロナの謎』 検査不足か健闘か、欧米注視」と題する記事をアップしている。詳細はリンクをご覧いただきたいが若干引用させていただくと、「日本の新型コロナウイルスの感染者数が統計上は先進国中で圧倒的に少ないことをめぐり、感染が急増中の欧米のメディアは、日本は検査不足で実態が反映されていないのか、それとも感染抑止で『健闘』しているのか注視し始めた。一方、世界保健機関(WHO)は単純に検査数で是非を判定するのには慎重な姿勢だ」。WHOの見解は、感染拡大防止の一番の決め手はPCR検査などの検査であると主張していることと、はっきり言って矛盾する。
26日の東京都での新型コロナウイルス感染確認者数は、2020年03月26日17時20分の段階で47人と25日の41人を上回っている。
こうした場合は、日本の中核大都市の東京都を首都閉鎖するだけでは感染拡大の阻止は出来ないだろう。PCR検査規制を撤廃し、同検査を含む各種の検査を早期かつ迅速に行い、症状の段階に応じて自宅などでの療養から病院での治療まで症状に応じて治療していくことが不可欠だ。当然、国民に対する休業補償措置、中小企業の売上減少対策、資金繰り融資を柱に大規模な財政出動も並行して行わなければならない。オーバーシュートが起きたら、東京オリンピックは開催延期どころか、中止に追い込まれる。そしてその可能性は現実のものになりつつある。