国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長(ドイツ国籍)は今月19日、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「東京オリンピックは延期を含めた複数のシナリオを検討している」旨の発言を行った。朝日デジタルによると、これを受けて大会の組織委員会の会長であり、「神の国」発言で辞任させられた元首相の森喜郎会長が22日(日曜日)夜9時にバッハ会長との電話会談を余儀なくされ、「延期を議論しないわけにはいかない。日本と考えを一致させたい」とのバッハ会長の要請に「いい機会を頂き、ありがとうございます」と言葉少なに応じたという。森会長はその後、安倍晋三首相や小池百合子都知事らに電話会談の結果を報告し、バッハ会長は22日に臨時理事会を経て、開催の延期を含めた検討を始めると表明した。大会の延期は確定したが結局、中止に追い込まれるだろう。政府=安倍政権がPCR検査などの検査を抑制する方針を貫いて、日本国内の感染状況の実態は厚生労働省が伝える「公表値」と異なって厳しい局面にあると見られるからだ。

まず、複数のシナリオと言ってもどの程度延期するか、その期間を検討するだけに過ぎない。取り沙汰されているのは延長期間が2カ月か、1年か、2年かの3つのシナリオだけである。それぞれに一長一短があるが、重要なことは今回の東京オリンピックは誘致すべきでなかったということだ。

東京オリンピック開催の延期検討の表明を余儀なくされる元首相の森喜郎組織委員会会長

話は遡るが2013年9月7日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれた第125回国際オリンピック委員会(IOC)で安倍晋三首相は、「フクシマについてお案じの向きには、私から保証をいたします。状況は統御されています。東京には、いかなる悪影響にしろ、これまで及ぼしたことはなく、今後とも及ぼすことはありません」と同首相ならではの大嘘をついた。

2011年3月11日に発生したフクシマ第一原発事故は9年が過ぎたのに「原子力緊急事態宣言」が発令されたままだ。地震か津波で電源系統が破壊され、原子炉の冷却が不可能になり、炉心が溶けてウランが核分裂した際に生成されるセシウム137が大量に飛散した。原子力発電所に詳しい京大原子炉助教の小出裕章氏によるとその規模は、米国が広島に投下した原発8000発分に相当するという。

このため、チェルノブイリ事故で当時のソ連政府(ゴルバチョフ書記長)が発電所全体を石棺で覆い、被害を最小限に食い止めようとした。ただし、それでも公開できないほどの被害が生じたと言われている。小出氏によると、もっともマシな対処法としてはこの石棺方式だという。ところが、地震の専門家の指摘を聞かず、対策を怠ってきた政府と東京電力はコストを抑えるために、溶けた炉心に毎日数百トンもの大量の水を注入して冷却、セシウム137の飛散を防ごうとしている。その結果、敷地内の1000基の貯蔵タンクに処理水という名の汚染水が貯まり続けている。

政府、東京電力など原子力マフィアはこれ以上の貯蔵は不可能だとして、来年以降に福島県沖に放出する予定だ。もちろん、福島県の漁業組合は猛反対しているが、石棺方式に変更する以外は代案はない。海洋に放出されたら、魚を通して日本はもちろん海外の国民の健康にも大きな被害を及ぼす。「状況は統御されています」という安倍首相のオリンピック誘致発言はいつもの通り、真っ赤なウソだったのである。

東京オリンピックは「復興五輪」を大義名分にしているが、根拠は全く無い。原子力マフィアの利益、オリンピック利権を獲得するための東京オリンピックだったのだ。こうした経緯を振り返ると、宗教・倫理的に言えば、政府=安倍政権は新型コロナウイルスの「登場」によって、その天罰を受けていると言える。

さて、東京オリンピック、パラリンピックが延期にとどまらず最終的には中止に追い込まれると述べているのにはもちろん、理由がある。補助線として、新型コロナウイルスが自己変容を遂げ、感染力と毒性を強めたと見られ、パンデミックが加速している状況から見てみよう。

朝日デジタル2020年3月24日 8時47分掲載記事によると、世界保健機構(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は「(新型コロナウイルスの)感染者は『世界中のほぼすべての国』に広がっていると報告した。そのうえで、WHOに最初の報告があった日から感染者が10万人になるまで67日、それから20万人に増えるのに11日かかり、『次の10万人までは、たったの4日だった』」とパンデミックの加速を極めて危惧している。

例外は、徹底して大量のPCR検査を行った中国と韓国、それにPCR検査をほとんど行っていない日本だけだ。中国と韓国なら話は分かる。日本はほとんどPCR検査を行っていない。しかし、感染者の数が海外諸国に比べて異常に少ない。3月23日午前零時54分のヤフーニュースによると、主な諸国の感染者、死亡者、致死率は次のようになる。比較時点を合わせるため、データはやや古い。
※中国は香港紙のサウスモーニング・チャイナ紙(電子版)が、中国政府は無症状の感染者4万3千人を感染者数に加えていないと報じたことから、括弧内は参考。朝日新聞24日付が報道したが、これが事実ならWHOのガイドライン違反である。ただし、同紙が「感染者」と判断しているならPCR検査など何らかの検査をしていることになる。

国名 感染者数 死亡者数 致死率
米国 2万2177人 278人 1.2%
イタリア 5万3578人 4820人 8.0%
フランス 1万4459人 562人 3.8%
イラン 2万610人 1556人 7.5%
中国 8万1008人(12万4千人) 3255人 4.0%(2.6%)
韓国 8799人 102人 1.1%
日本 1030人 36人 3.4%

この表を見ると、日本は感染者数が少く、また医療最先進国でもあるのに、致死率は韓国よりも高い。厚労省の公表数値に問題があると見て良いだろう。実態を探ってみると週刊誌などでは、➀かかりつけ医師が検査が必要だと判断しても、地方自治体管轄下の保健所に設けられた「帰国・接触者相談センター」が検査を許可しない②症状が重篤になって初めて検査を受けるように指示される③発熱患者や倦怠感を持つ患者が病院に外来で診察に訪れた際に、他の外来患者が感染し、帰宅後その家族が感染している-などの状況が伝えられている。

要するに、東京オリンピックの強行開催を最優先させてきたため、外来患者を診察した医師がPCR検査が必要と診断しても、「帰国・接触者相談センター」が受けさせないのである。6日の保険適用後も、状況に変化はない。その結果、➀検査を受けられるのは既に重篤症状に陥った患者とその家族、濃厚接触者だけだから当然、致死率は高くなる②新型コロナウイルスに感染しても症状が出ないか軽い感染者が満員電車などの公共交通機関、知人・友人との接触で意図せずに感染を拡大してしまう-といった現象が生じている。

PCR検査が異常に少なければ、それだけ感染者が表面に出てこないのも当然だ。この検査人数が極めて少ないということは、厚労省の公表データによっても裏付けられる。

上記の表の右端は累計検査人数で、3月22日の段階(と思われる)で2万140人だ。しかし、下記の注には「2月18日~3月21日までの国内(国立感染症研究所、検疫所、地方衛生研究所・保健所等)における新型コロナウイルスに係るPCR検査の実施件数は、38,954件。3月22日分は、現在集計中」とある。1万9千人の差がどうして生じているのか詳細は不明だが、取り敢えず後者によると期間は33日間だから、1日あたりの検査人数は1180人。これは、異常に少ないのではないか。だから、感染確認者も少く、致死率も高くなる。

安倍首相や加藤勝信厚労相は、「検査能力を大幅に強化します」などと言っているが、能力を高めても実際に検査できなければ意味がない。安倍首相が本部長の新型コロナウイルス感染症対策本部の諮問機関に過ぎない同専門家会議では19日に開いた会合の後で、「日本国内の感染の状況については、3 月 9 日付の専門家会議の見解でも示したように、引き続き、持ちこたえていますが、一部の地域で感染拡大がみられます。諸外国の例をみていても、今後、地域において、感染源(リンク)が分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えています」と、オーバーシュート(爆発的患者急増)しても責任を追及されないような文言に終止している。

しかし、既に投稿したように、この抑制された感染者数の数字によっても、大都市圏を中心に潜在的にはオーバーシュートの時期に入っている可能性が高いことが分かる。それならなおさら、発熱や倦怠感のある患者は医師の診察のうえで、早めに障害なくPCR検査などの検査を行えるようにして当然だ。

さる19日に開いた専門家会議の提言では、「新型コロナウイルス感染症においては、医師が感染を疑う患者には、PCR検査が実施されることになっています。また、積極的疫学調査において検査の必要性がある濃厚接触者にもPCR検査が実施されます。このように適切な対象者を検査することで、新型コロナウイルスに感染した疑いのある肺炎患者への診断・治療を行っているほか、濃厚接触者の検査により、感染のクラスター連鎖をとめ、感染拡大を防止しています。すでに、検査受け入れ能力は増強されており、今後も現状で必要なPCR検査が速やかに実施されるべきと考えています。今後は、わが国全体の感染状況を把握するための調査も必要です」として、要するに検査対象者を「適切な対象者」に絞っているのである。

「適切な対象者」というのは今も厚労省のサイトに掲載されている、➀風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)②強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)症状がある患者さんで、 高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合の患者さんである。専門家会議ではこうした検査障壁を撤廃するよう明確に提言すべきだが、それが見られない。

植草一秀氏が指摘しているように、政府=安倍政権は「なんとか持ちこたえている」と「判断」するが、実態にはこれと異なり、「危機的な状況が隠ぺいされている」のだ。このことを米国をはじめ諸外国が明確に認識するようになれば、東京オリンピック、パラリンピックは延期どころの話ではなくなる。中止を余儀なくさせられるのは確実である。米国が日本人の渡米を禁止する措置を打ち出したのも、こうした理由からだとも考えられる。

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