景気後退時の昨年10月に消費税税増税を強行したことに加え、新型コロナウイルス感染の本格拡大による経済活動の萎縮=コロナ大不況の追い打ちで、経営者に景気の良し悪しを調査した今年3月の日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)は、代表的な指標の大企業・製造業の業況判断指数(DI)が前月のプラス1からマイナスへと8ポイントも悪化した。3カ月後の先行きはさらに悪化してマイナス11ポイント。新型コロナ感染拡大の終息の見通しが立たないことから、大規模な財政出動を➀迅速②簡素③直接-の3つの理念に基づいて発動すべきだが、政府=安倍晋三政権の対応が鈍すぎる。同政権にその考えはさらさらないようである。
4月1日に発表された日銀短観をもとに、大企業の製造業と非製造業に分け、主な業種の景況感の悪化を簡単な表にまとめてみる。
主な業種 | 12月調査 | 3月調査 | 先行き予想(3カ月後) |
製造業 | 0 | -8 | -11 |
鉄鋼 | -2 | -11 | -30 |
生産用機械 | 4 | -11 | -15 |
自動車 | -11 | -17 | -24 |
非製造業 | 20 | 8 | -1 |
建設 | 37 | 36 | 16 |
小売り | -3 | -7 | -9 |
運輸・郵便 | 17 | -7 | -11 |
宿泊・飲食 | 11 | -59 | -61 |
比較的堅調だった非製造業も今回の3月調査では12ポイントも落ち込み、3カ月後の先行きはマイナスに転落している。特に、土日祝日の外出規制が要請されたため、ホテル・観光業などの宿泊・飲食業は大手も厳しくマイナス59ポイントへと極端に悪化。先行きもさらに悪化予想だ。
全国規模の大手百貨店の売上高は前年の同じ月に比べて、今年の3月は極めて厳しい。異常な落ち込みである。
三越伊勢丹 | −35.1% |
大丸松阪屋 | -43.0% |
阪急阪神 | -28.1% |
高島屋 | -35.1% |
そごう・西武 | -31.9% |
基調的には消費税強行増税後の実質消費支出の落ち込みの中で、コロナ大不況が世帯の消費支出の大きな足かせになっている。下図は、総務省の家計調査のデータだが、「1月に入って個人消費の持ち直しが見られたが、コロナで悪化した」という政府=安倍政権の説明は全くのウソ。個人消費が悪化する中、コロナで追い打ちを食らったというのが、正しい説明だ。
消費税強行増税直後でコロナの影響を受けていない昨年10-12月期でさえ、実質経済成長率(実質国内総生産=GDP=伸び率)は年率換算7.1%の落ち込みであり、名目GDPが年間40兆円が吹っ飛ぶ勢いである。これにコロナ大不況が追い打ちをかけるから、実質経済成長率が10%ほど、つまり、国民の給与収入と企業の利益が50兆円〜60兆円ほど吹っ飛ぶことは覚悟しなければならない。
特に、第二次安倍政権以降、「多様な働き方」とか「働き方改革」とか言って、正規労働者を雇用の不安定な非正規労働者な転換する「政策」を推し進めてきた。このため、今回のような重大な局面では非正規雇用者が大きな不利益を被る。雇い止めを余儀なくされることや、強制休業時の休業補償が、通常勤務した場合の賃金収入より労働基準法によって非常に低く抑えられている平均賃金の、そのまた60%に抑制される水準に定められるなど、事実上休業補償にはなっていないことは、その端的な例である。
また、新型コロナ感染拡大も政府=安倍政権がPCR検査抑制方針を貫いているため、日本の感染の実態は不明であるが、それでもなお、東京、大阪、愛知県などの大都市圏で感染確認者の数が傾向的に加速している。既に、「爆発的感染者拡大(オーバーシュート)」局面入りしていると把握すべきだろう。
都道府県によって感染確認者にばらつきがあるため、改正インフル特措法に定められている「非常事態宣言」を発令しにくい状況ではある。しかし、「爆発的感染者拡大(オーバーシュート)」に陥ってから「非常事態宣言」を発令しても遅い。
日本の経済社会がこうした超緊急事態に陥っていることを踏まえれば、可及的速やかに➀PCR検査抑制体制を捨て去り、院内感染を阻止する方策を講じることを前提に、PCR検査を徹底的に行うことを感染防止対策の根本に置く②大規模な財政出動を行う-必要がある。両者は、両輪の輪である。
財政出動のうち、「識者」と言われる者の中に「似非識者」としか思われないものが少くない。その代表例が「消費税を減税あるいはゼロにしても高所得層に有利になり、貯蓄に回るだけだから、効果はない」と語るものである。消費税には、低所得者層ほど不利益を被るという逆進性があることは誰でも知っていることだ。年収200万円以下の勤労者は少くない。これらの低所得層の勤労者に10%もの消費税を課せば、年収の1割もの負担を強いられる。月収が全額吹き飛んでしまうのである。「消費税減税は高所得者に有利になる」という議論は詭弁以外の何ものでもない。
財政出動の柱は、➀消費税率の減税ないしはゼロ%への移行②一人あたりの直接的な現金支給③中小企業の資金繰りを支援するための無担保、無利子、長期にわたる返済猶予期間の設定-が柱にならなければならない。直接的な現金支給についてだが、概算で一人あたり10万円支給すると10兆円で済む。世帯当たりに換算すると、10万円に世帯数を乗じたものが、世帯あたりの受給金額になる。これに、2020年度予算で21兆7190億円を見込んでいるから、取り敢えず税率ゼロ%にすると20兆円の財源で済む。これに中小企業に対する無利子・無担保のための金融支援(国費による利子補給)などを加えれば、50兆円から60兆円程度の真水(赤字国債の発行)で済む。財務省のウソとはことなり、日本は財政危機にないというのが実際のところだから、その程度の真水は出せるはずだ。
財政・貿易の双子の赤字をなお抱える米国でさえ、2兆ドル(220兆円、家計への現金給付や企業の給与支払いの肩代わりなどに取り組む。売上高の急減や生活の困難に直面する企業や個人への「安全網」を整備するのが柱)財政支出を上下両院で可決した。日本の経済規模は米国の4分の1程度だから、少なくとも50兆円から60兆円の財政出動をしなければ米国よりも危機意識が薄いということになる。その結果は、日本の経済社会の大崩落と安倍内閣の退陣という形ではね帰ってくる。