生活保護申請時の「扶養照会」の問題点と最近の新規感染者数の減少について

政府=安倍晋三政権、菅義偉政権は2020年度にコロナ禍対策と称して総額73兆円の補正予算を計上した。しかし、医療体制の抜本的強化はもちろん、企業の持続化給付金や雇用調整助成金、生活支援金の支給額が極めて少ない。このため、医療体制が崩壊して死亡者が急増している中、企業の倒産、営業停止、廃業が続出、国民の生活も不安定になり、生活に困窮する国民も続出している。こうした中で菅義偉首相は「最後は生活保護制度に頼れ」と無責任な発言をした。生活保護申請には行政の都合で「扶養照会」が行われ、制度の円滑な利用を妨げ、実質的に生活保護が受けられないようにしている。十分な補償制度を担保したうえで、コロナ禍対策の抜本的転換を図るとともに、まずは、生活保護制度申請時に「扶養照会」の行政手続きを廃止し、制度を「生活保障制度」に抜本転換する必要がある。

1月31日コロナ感染状況

本日1月31日日曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の1月24日日曜日の986人から353人減少して3日連続で1000人を下回る633人になったが、重症者は140人になった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は850.1人、PCR検査人数は8361.1人だから、瞬間陽性率は10.12%。東京都独自の計算方式では7.7%。感染者のうち感染経路不明率は51.05%だった。PCR検査人数(7日移動平均)が前日と同じなのは時々あり、理解が出来ない面がある。
全国では、午後29時59分の時点で新規感染者は2673人、死亡者は612人。死亡死者数は65人。重症患者は前日から1人減少して973人になっている。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、1月30日時点の実効再生産数は全国が前日比変わらずの0.77人、東京都は前日比0.01人層の0.77人となっている。反転の兆しか見極める必要がある。
※最近の新規感染者数の減少傾向についてはこちらへ

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

コロナ禍を収束させるための最も適切な対策は、感染を拡大する無症状感染者を発見し、保護・隔離・適切な医療施設での早期治療をおこなうためのPCR検査、抗体検査の大規模な実施体制を確立することだ。これについては、政府=菅政権の経済財政諮問会議の民間議員である新浪剛史サントリーホールディングス社長が21日の初会合で菅首相に諌言した。

しかし、上記の投稿記事で紹介しているように、菅首相はこれを受け入れる意思はない。コロナ禍収束のためには、十分な企業への補償・国民への生活支援を確保したうえで、強力な緊急事態宣言を実施し、感染拡大者(スプレッダー)になっている無症状感染者を発見・保護・隔離・適切な医療施設での早期治療を実施する体制の確立が必要である。「新型ワクチン一本足打法ではだめだ」(新浪議員)。2020年度補正予算(総額73兆円)はこれらのために拡充すべきだった。

ところが、三次にわたる補正予算では、この抜本対策への予算措置がまことに不十分だ。むしろ、Go To トラベル/イートのような全国にコロナ第三波の襲来を大きく助長した利権集団への利権供与の政策に充てられてきた。このことは、西浦博大阪大学教授が論文で示唆されている。

なお、西浦論文に対する菅政権側と見られる「専門家」からの批判に対して、西浦教授は「(Go To トラベルと全国での感染拡大の因果関係を研究した論文の執筆動機が)『Go Toトラベルという政策が(コロナ感染)制御を考える上で(は)あり得ない』という感染症疫学専門家としての信念があるためであることは否定するものではありません」と述べている(https://news.yahoo.co.jp/articles/1b8728b5775defe7c94701f86c2cb83a0bc4165b)。話を元に戻すと、例えば第三次補正予算は次のとおりになっている(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6383568)。

2020年度第三次補正予算
2020年度第三次補正予算

これに示されているように、コロナ対策は4兆円程度と脇役に追いやられている。また、この期に及んでGo To トラベル/イートに1兆1千億円程度の予算措置が講じられている。さらに、感染症法に刑事罰を盛り込む開催案や新型コロナ対策特措法(新型インフル特措法)に罰則規定を盛り込む改正案を審議した厚生科学審議会感染症部会(議事録は27日に公開=https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_127717.html=)では、積極的に改正案に賛成したのは18人の委員のうち3人だけ。反対多数なのに、菅政権の意向を忖度してきた部会長の国立感染症研究所の脇田隆字所長は「いろんな意見もあるので反映する必要がある」として、「提案された方針でよしとする」として了承した(https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF28AVC0Y1A120C2000000/)。

結果的に、自民党の二階俊博幹事長と立憲民主党の福山哲郎幹事長との会談で、感染症法改正案からは「刑事罰」が削除され、前科にならない行政罰と過料(罰金)に変更されたが、政治・経済政策に詳しい植草一秀氏はメールマガジン第2823号「共助を国家が強制する菅首相の倒錯」で、第三次補正予算案にGo To トラベル/イートを盛り込むために、野党に有権者への見せ場を作るための三文芝居であったと指摘し、自民党は初めから刑事罰を盛り込む意向はなかったとされておられるが、サイト管理者(筆者)も同意する。

今回の第三次補正予算や感染症法改正案、新型コロナ特措法改正案に見られるように、総額73兆円もの支出は相当部分がコロナ禍を利用して利権支出に使われている。なお、感染症法やコロナ特措法の改悪案もコロナ禍に乗じて国民の基本的人権を破壊する大きな第一歩になる。それはさておき、仮に国民一人当たり10万円給付すれば、日本の人口を1億2千万人として12兆円になる。5回支給しても60兆円であり、10兆円以上余る。高所得者層には収入に加算し、累進税率を強化して返済してもらえば良い。Go To トラベル/イートのような利権支出より、はるかに公正で透明な支出である。

総額73兆円の2020年度の補正予算では、医療体制の抜本的強化や営業自粛に見合う企業の規模に見合った十分な補償金や持続化給付金、雇用調整助成金、特別定額給付金などの充実に充てるべきだった。その上で、強力な営業活動の自粛と感染震源地を中心とした最新鋭のPCR検査装置を使った大規模なPCR検査、抗体検査を国民が安心して受けられるようにすべきだった。Go To キャンペーンが強力に助長した第三波では、感染者が急増、東京都や神奈川県、大阪府では医療の供給能力が不足し、事実上のトリアージ(医療資源が制約される中で感染患者の緊急度に応じて、搬送や治療の優先順位を決めること。要するに、生命の選別)が行われている。自宅療養(自宅棄民)や入院待ちの感染患者に急死が多発しているのはこのためだ(https://www.youtube.com/watch?v=6zFFw9naBxI)。

急増するコロナ死亡者数
急増するコロナ死亡者数

第三波襲来は昨年初めの第一波から確実視されていたわけだから、政府や地方自治体のひとつの重要な仕事は医療資源の確保であったが、怠った。それだけではない。補償が極めて限定的なために、中小零細企業の倒産や営業停止、廃業も急増している。加えて、正社員や派遣社員の給与収入の減少や契約社員の雇止め・解雇も増えている。厚生労働省によると解雇による新規求人数は昨年12月の段階で、前年同月比で大幅に減少している(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000192005_00010.html)。コロナ禍の影響を見るためには、新規求人数の原数値を前年同月で比べた方が正しく把握できる。なお、新規求人倍率はその月に申し込まれ求職者数と、同じくその月に受け付けられた求人数を用いて計算され、有効求人倍率は、前月からの繰り越された求職者数と求人数に、上記新規求人倍率分の求職者数と求人数を加算して計算する。

令和2年12月の数値をみると、有効求人倍率(季節調整値)は1.06倍となり、前月と同水準となりました。新規求人倍率(季節調整値)は2.07倍となり、前月を0.05ポイント上回りました。正社員有効求人倍率(季節調整値)は0.81倍となり、前月を0.01ポイント上回りました。12月の有効求人(季節調整値)は前月に比べ0.1%減となり、有効求職者(同)は0.7%減となりました。
12月の新規求人(原数値)は前年同月と比較すると18.6%減となりました。これを産業別にみると、建設業(6.5%増)で増加となり、宿泊業,飲食サービス業(31.4%減)、生活関連サービス業,娯楽業(30.8%減)、卸売業,小売業(28.3%減)、情報通信業(26.8%減)、運輸業,郵便業(25.2%減)などで減少となりました。
都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)をみると、就業地別では、最高は福井県の1.62倍、最低は沖縄県の0.79倍、受理地別では、最高は福井県の1.54倍、最低は沖縄県の0.72倍となりました。
令和2年平均の有効求人倍率は1.18倍となり、前年の1.60倍を0.42ポイント下回りました。令和2年平均の有効求人は前年に比べ21.0%減となり、有効求職者は6.9%増となりました。

なお、読書家の清水有高氏による(https://www.youtube.com/watch?v=x4hAUBDrYsM)と、給与収入は正社員、非正規社員ともに名目ベースで低下傾向を続けており、しかも、簡単に雇い止め、解雇のでき非正規労働者は急ピッチで増加している(上の黒線は失業率、下の赤線は有効求人倍率)。2000年初頭の小泉純一郎政権から雇用の質、量ともに悪化しており、コロナ禍がこれを大幅に助長している。物価を調整した実質賃金ももちろん、悪化している。

名目給与収入の減少傾向
名目給与収入の減少傾向
非正規雇用者が急上昇
非正規雇用者が急上昇

これらの全ては、政府=安倍政権(当時)、菅政権がまともな経済政策、コロナ禍対策を行ってこなかったためだ。非正規労働者で雇い止めに遭った失業者はもちろん、生活に困窮している。菅首相はこうした生活困窮者には手を差し伸べない。「生活保護制度に頼れ」と平然と言ってのけているし、厚生労働省も「生活保護」の受給は国民の「権利」だと主張しているが、生活保護を申請するには「扶養者照会」を行うという行政手続きをすることになっている。これが、「生活保護」を名ばかりの制度にしている。2020年に生活保護を申請した件数は3万8000件だが、扶養照会されて申請者を経済的に支援すると回答した事例は600件とわずか1.6%に過ぎない。

扶養照会手続きは、生活保護法第4条1項「保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」、第2項「民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」に基づいている。しかし、第3項では、「前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない」と定めており、今日のコロナ禍は当然、この条項の「急迫した事由」に該当し、扶養照会手続きの省略(廃止)は政治決断でできるはずだ。

また、「生活保護」の申請は日本国憲法に従った国民の権利だが、恥だとする風潮が政府のマスコミ操作によって流されてきたから、扶養照会で親族との関係が悪化することをを嫌って、申請すべき国民が当然の権利を行使しない。第4条3項に基づいて、少なくともコロナ禍収束までは扶養照会は行うべきではない。日本共産党の小池晃参院議員(同党の書紀局長)が、参院予算委員会で「菅首相が最後には生活保護制度があると言明したのだから、扶養照会は行わないと宣言すべきだ」と追及したが、菅首相は現場(厚生労働省と地方自治体)に任せている」と逃げた。

厚労省のサイトには、「生活保護」の申請は国民の権利と明記している(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatsuhogopage.html)が、田村憲久厚労相も生活保護申請の最大の障害になっている扶養照会は止めるとの政治決断は示さなかった。

厚生労働省のサイト
厚生労働省のサイト

扶養照会は法的には、民法877条1項「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」、第2項「家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる」に基づいている。欧州諸国では、個人の扶養義務は同居する配偶者と未成年の子どもだけになっている。まずは、生活保護法第第3条に基づいて、政治決断で「扶養照会」を止め、その後は時代遅れの民法と生活保護法を正しく改正すべきである。

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【最近の新規感染者の減少傾向について】

なお、今のところ毎日公表される新規感染者は少なくなっている。これは、➀限定的ではあるが、11都府県で緊急事態宣言が発令されたことで年末・年始の人の移動が減少した結果が現在表れている(年始以降は微増に転じており、3週間後の今週2月5日から顕在化する=アップル社のサイトhttps://covid19.apple.com/mobilityからCSVファイルをダウンロードし、ExcelやLibreOffice Calcで開いて、Japanのtransitの行を見ると分かる。12月31日でボトムの72.46を記録し、1月15日金曜日に直近の山93.59をつけて若干低下した後、29日金曜日には92.82に上昇している。ただし、PCR検査人数の変化を考慮する必要がある=)②多数の飲食店が営業自粛に踏み切っただけでなくテレワークの普及・増加などで国民が自ら、人と人との接触をある程度自粛している③11都府県でトリアージを実行することにより、若者に対するPCR検査を怠っている➃変異株の市中感染の影響が顕在化していないーことによるところが大きいと思われる。

ただし、菅首相(総裁)や二階俊博幹事長、東京・銀座のクラブを夜8時以降ハシゴしていた松本純国対院長代理や公明党の遠山清彦幹事長代理(後二者はいずれも役職辞任)など自公与党の議員は別だ。

また、なお、遺伝子工学に詳しい東大先端研の児玉龍彦東大名誉教授は、PCR検査が抑制されている場合は、死亡者数(広く解釈すれば、重症患者数と死亡者数の合計)がコロナ感染状況の重要な指標になると指摘している(https://www.youtube.com/watch?v=4kHcPm6b5lI&list=PLtvuS8Y1umY9sfiqMlek4Bg2D_e2naby3)。

しかし、十分な補償措置を前提としたコロナ禍の抜本的転換がなければ、国民の生活は困窮し、自殺者が急増する。その一方で、経済の供給能力が毀損され、財政政策が効かなくなる。野党はこのことをしっかりと受け止め、強力なコロナ禍対策、経済政策を打ち出して、国民の耳目に入るよう、提示すべきだ。


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