岸田政権、歴代自民党政権の対米隷属外交一辺倒から徐々に中露重視・多極化外交に転換の可能性(追記:再論「国際勝共連合」)

岸田文雄政権は歴代自民党政権の対米隷属外交一辺倒から徐々に中露重視・多極化外交に転換することを模索しているようだ。日本政府が18日発表したことだが、外務事務次官を務めて外務省を退館後、第二次岸田政権の下で国家安全保障局長兼内閣特別顧問の要職にある秋葉剛男氏は17日、中国・天津市で中国共産党の楊潔篪(ヤンチエチー)政治局員と約7時間会談し、同氏は中華人民共和国(中国)政府の国是であり、日本が1972年09月29日の日中共同声明で認めた「台湾は中華人民共和国(中国)の不可分の領土」という主張を改めて了解したと見られる。

岸田政権の多極化外交の可能性について

中国・天津での秋葉氏と楊政治局員の7時間にも及ぶ会談は、米国のペロシ下院議長(民主党)が訪台したことに、中国が強く抗議して行った台湾周辺での軍事演習で、弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことなどのため、日本政府が表面上強く抗議。そして、8月4日に予定されていた日中外相会談をドタキャンしたことに、中国側が強い不快感を示していたことを受けてのものだ。会談の狙いは、日中関係の冷え込みを防ぐ狙いがあったものと見られる。朝日デジタルは「秋葉国家安保局長が訪中 『建設的かつ安定的な関係』の実現へ一致」(https://digital.asahi.com/articles/ASQ8L3HZTQ8LUTFK001.html)と題する記事で次のように伝えている。

秋葉氏は、中国が日本近海に弾道ミサイルを落下させたことなどについて抗議。一方、両氏は昨年10月の日中首脳電話協議で一致した「建設的かつ安定的な関係」の構築に向けて、「双方の努力で実現していく」との認識で一致した。(中略)

中国の国営新華社通信によると、楊氏は「台湾問題は中日関係の政治的基盤と両国間の基本的な信義にかかわる問題だ」と強調、中国側が主張する「台湾は中国の領土の不可分の一部」との立場を守るよう求めた。楊氏は「平和共存と友好協力が両国関係の唯一の正しい選択だ」とも述べ、「新時代の要求に合った中日関係の構築にともに努力すべきだ」と語った。

NHKも次のように伝えている(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/87856.html)。

今回の会談は中国の呼びかけで、17日午後に北京に隣接する天津で行われ、7時間にわたって意見が交わされました。秋葉局長は、中国軍の軍事演習は、地域や国際社会の平和と安定に深刻な影響を与えるものだとして抗議し、自制を求めました。

一方で、両国の国交正常化50年の節目を来月に控えていることも踏まえ、対話の重要性を再確認し、両国の「建設的かつ安定的な関係」の構築に向けて対話を継続していくことで一致しました。

単なる外交儀礼的なものだと片付けることも出来るかも知れないが、7時間に及ぶ会談は通常の儀礼的な会談にしては長すぎる。かなり、突っ込んだ話し合いが行われたのではないか。これについて国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は19日に発表した「短信集・日本の隠然非米化、など」と題する論考(https://tanakanews.com/220819tansyn.php、有料記事)で次のように解説している。まず、リード文(無料)は次のようなものだ。

日露関係は悪化していない。日中関係はどうだろうと思ってたら、8月18日に日中の政権中枢の安保担当者どうしが会談し、日中双方が、相手方と協調関係を保つことを望んでいることが確認された。日本政府が対米従属を最重視して、米国の言いなりになって中国を敵視しているなら、こんな会談は行われない。

本論考での関連内容は次の通りだ。

米国が欧州の同盟諸国に自滅的な中露敵視を強要し、欧州は石油ガスなど資源類が輸入できなくなって経済破綻が加速し、「先進国」でなくなり、石油ガスを握って豊かになる中露・非米諸国との「米中逆転」が進んでいる。日本も、隠然と親中国路線・米中両属戦略を進めてきた安倍晋三元首相が7月8日に殺された後、米国の言いなりになって中露敵視を強めて自滅していくのか、と懸念された。だが、8月8日の記事「安倍元首相殺害の深層 その2」( https://tanakanews.com/220808abe.htm )に書いたように、日本は中露敵視を強めておらず、ロシアのサハリン2ガス田に対する日本企業の資本参加も続けることにした。日露関係は悪化していない。日中関係はどうだろうと思ってたら、8月18日に日中の政権中枢の安保担当者どうしが会談し、日中双方が、相手方と協調関係を保つことを望んでいることが確認された。この日、岸田政権で安全保障を担当する秋葉国家安全保障局長が中国を訪問し、中国共産党中央政治局の外交担当である楊潔チ(注:楊潔篪(ヤンチエチー))と長時間の会談をした。日本政府が対米従属を最重視して、米国の言いなりになって中国を敵視しているなら、こんな会談は行われない。 (Japan Remains Open to Dialogue With China -Japan Foreign Minister

ロシアの石油・天然ガス生産プロジェクトのサハリン2に対する記事はこちらを参照していただきたい。

なお、米国(隠れ多極派に支配されたバイデン民主党政権)は世界の諸国を4つに分類しているという。

①中露イランなど米国の敵性諸国に対しては、稚拙に過激に敵視を強め、相手国が対抗して台頭してくるように仕向け、多極化推進に貢献させる②一応米国の味方だが対米自立的・非米的な傾向を持つインド、トルコ、サウジアラビアなどに対しては、表向き味方・同盟国の関係を維持しつつも、相手国に人権や貿易紛争などの問題で難癖をつけて敵視を強め、相手国に対米自立を加速させ、米国側から非米側に転じさせる③同盟国のうち、米(米英)覇権体制の永続化に熱心な英国、EU(独仏)、カナダなどNATO諸国、豪州などに対しては、米国と一緒に過激で自滅的な中露敵視・対露制裁をやるよう巻き込み、足抜け不能な状態にして自滅させ、米覇権体制の崩壊・弱体化につなげる。イスラエルは③にされるのがいやなので②の方に動いている。④同盟国のうち、米覇権体制の永続化に熱心に関わるというよりも、対米従属しておいた方が得策だと考えているだけの日本、韓国、ASEAN、NZなどは、米国覇権が低下して中露が台頭するほど、目立たないように隠然と非米化していこうとするが、隠然とやっている限り、米国はこれらの諸国の非米化を黙認する。

日本は安倍晋三首相(当時)が④の外交を展開し、中国敵視軍事同盟AUKUS(形式的な名称はオーストラリア・英国・米国パートナーシップ)には入らなかったが、田中氏は同元首相がテロ狙撃事件で暗殺されたことで、④からAUKUSにも加盟する③に移行して自滅する可能性を危惧しておられたが、岸田政権は安倍路線を継承するだろうとの見方に転換した。

私は最近まで、日本は、米国から「頼れる同盟国」とみなされたいがゆえに、④から③にわざわざ移動して自滅していくのでないかと懸念していた。日本の権威筋は戦前から世界・国際政治の見方が浅薄・中途半端なので事態を見誤り、第2次大戦で超間抜けな大敗をしてしまい、今回また、まさに米覇権が崩壊していくときに、米覇権からうまく逃げて非米化するのでなく正反対に、自国の運命を米覇権と一蓮托生にして馬鹿みたいに自滅していくのかも、と思っていた。日本を④から③に移動させるために、日本を④に留めていた安倍が殺されたのでないか、と懸念していた。しかし、日本はその後も④にいて、ロシアとも中国とも、表向きは敵っぽいが本質的には協調関係を何とか保っている。 (安倍元首相殺害の深層

こうした論考からすると、岸田文雄政権は歴代自民党政権の対米隷属外交一辺倒から徐々に中露重視・多極化外交に転換することを考慮している可能性があることが伺える。なお、田中氏は08月20日に公開した論考「イラン核協定で多極化」(https://tanakanews.com/220820iran.php、有料記事)でも次のように述べている。

米国のJCPOA復帰は、政治的に、米国の覇権衰退に拍車をかける。米国の覇権が衰退するほど、プーチンのロシアも好き勝手にやれるようになるし、習近平は岸田に「もう対米従属ではやっていけなくなりますね。仲良くしましょう」と諭し誘うようになる。米国がJCPOAに戻らないと、米国側との断絶が続く非米側の経済システムが強くなる。米国がJCPOAに戻ると、政治的に米国の覇権低下に拍車がかかる。ロシアやイランにとっては、どちらでもかまわない。JCPOA players agree on 90% of issues reached on Iran’s nuclear dossier, says Tehran) (非米化で再調整が続く中東

なお、JCPOA(イラン核協定)とは核開発の嫌疑をかけられているイランに対して、核開発を放棄するなら経済制裁(世界トップレベルの埋蔵量を誇る石油・天然ガスの輸出を禁止することが主な目的)を解除しようというものだが、トランプ政権時代に米国が脱退して経済制裁は解除されていない。参考サイトとしては、知恵蔵のネット版である次の箇所をご覧いただきたい。(https://kotobank.jp/word/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%B3%E6%A0%B8%E5%90%88%E6%84%8F-1822992#E7.9F.A5.E6.81.B5.E8.94.B5)。

イラン核兵器開発を大幅に制限する合意。イランと6カ国(米・英・仏・独・ロ・中)が2015年7月に結び、国連の安全保障理事会でも決議された。正式名称は「包括的共同行動計画(JCPOA)」。合意内容は、イランが濃縮ウランや遠心分離機を大幅に削減し、これを国際原子力機関(IAEA)が確認した後、見返りとしてイランへの経済制裁を段階的に解除するというもの。

米国の脱退でロシアの代替国が見つからず、世界の石油・天然ガス価格が上昇している。その関連で米国の物価上昇率が高まり、米国民のバイデン政権に対する米国民の不満が高まる一方で、支持率は低下し続けている。秋の中間選挙では民主党が大敗する見通しだ。その予兆は、イラク戦争を引き起こしたチェイニー副大統領(子ブッシュ政権時代)の娘であるリズ・チェイニー下院議員が地元ワイオミング州の共和党内予備選挙でトランプ派の候補(ハリー・ハーグマン氏)に惨敗したことだ。トランプ共和党の中で、トランプ全大統領の支持は急増している。

このため、バイデン政権はJCPOAに再加盟し、イランによる石油・天然ガスの輸出を解禁し、物価上昇率を引き下げようとしているが、時(とき)既に遅しだ。カスピ海諸国を中心としたロシア・トルクメニスタン・アフガニスタン・パキスタン・イランなどの諸国が結束してパイプラインを完成させ、石油や天然ガスの販路を開拓している。米側陣営に対しては高値で売れば良い。つまり、バイデン政権がJCPOAに再加盟することは、米国の覇権の一層の低下を招くことになるだけだ。

なお、トランプ前大統領は機密文書持ち出し事件で危機に立たされているとされるが、法的には何の問題もない(機密文書は、大統領辞任時に米政府の公文書記録管理局の倉庫と前大統領の大統領図書館に分けられ、仕分けが続いているところだった)ものだ。それを、11月08日火曜日の中間選挙での大敗を阻止するため、バイデン政権下のFBIが勝手に機密文書を隠匿していると言い出したわけで、卑劣極まりない。これは多極化を志向しているトランプ前大統領の人気を一段と高めるだけで、2024年秋の大統領選でトランプ前大統領が優位になるだけだ。これについては、やはり「短信集・日本の隠然非米化、など」(https://tanakanews.com/220819tansyn.php)が詳しい。やはり、欧米文明の時代は急速に終わりつつある。

ザポロジエ(ザポロージャ)原発基地にNATO型砲弾で攻撃

朝日デジタルによると欧州最大級のザポロジエ(ザポリージャ)原発の敷地内が、米国製の信管が使われた北大西洋条約機構(NATO)型の砲弾による攻撃を受けた模様。ウクライナ中南部ザポリージャ州エネルホダルのロシア側とされる行政当局が20日、SNSで明らかにしたものでタス通信が伝えたという(https://digital.asahi.com/articles/ASQ8L0QPVQ8KUHBI03F.html?iref=pc_rellink_02)。ザポロジエ原発基地はロシア側が掌握しているため、ウクライナ側が攻撃した可能性が強い。ロシア側は防空システムでドローンや重砲、多連装ロケット砲などでの攻撃を防いでいるという。同原発基地は国際原子力機関(IAEA)が査察することになっている。

時代遅れの「国際勝共連合」の「反共思想」

国際勝共連合のサイト(https://www.ifvoc.org/)によると、同連合は(1968年創設)は共産主義の脅威と間違いを訴え、自由と平和を守るために活動する政治団体で、幅広い世代の支持を得て、遊説・出版・セミナー等の政治活動に取り組んでいるとしているが、その理論的基礎になっている「勝共理論」は日本共産党がかつて出版した「共産主義読本(弁証法的唯物論・労働価値説と剰余価値説=資本論の大衆的「啓蒙」=)・階級闘争史観=史的唯物論または唯物史観=」(青木書店)を批判したものだ。しかし、共産主義読本は1960年代のもので古過ぎる。今はヤフオクなどで入手できる代物だから、絶版になっているのではないか。だから、国際共産主義勢力の脅威や新左翼運動の台頭もあり「勝共理論」も当時としては有効だったが、60年も前のものだから現代的有効さに欠ける。

かつて「共産主義」に騙されて建国し破綻したソ連や中国などでは、過去の重大な失敗・教訓を踏まえ、市場経済原理を導入しつつも、米側陣営とは異なった新しい非米側陣営を急速に築きつつある。こうした中で、過去の反共運動を展開するだけでは、時代の転換に乗り遅れかつ良識ある日本国民の共感は得られないだろう。

米国のディープ・ステート(DS)=軍産複合体=が引き起こした世界各地での戦争や内政干渉(アフガニスタン戦争、イラク戦争、シリア内戦。その他、ベルリンの壁崩壊時に約束した北大西洋条約機構=NATO=の東方不拡大の違反・ウクライナ東部ドンバス地方でのロシア系ウクライナ人の大量虐殺)の問題も含め、「日韓米の一体化による国際共産主義の打倒」などの時代遅れの反共運動に固執していては「国際勝共連合」の現代的存在意義が疑われる。

今のところ岸田政権は臨時国会を招集する意思は示していない(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220819/k10013778191000.html)が、上に述べたように、岸田政権が対米隷属外構を徐々に転換していく可能性を否定できない。その場合は、容赦なく切り捨てられるだろう。「反共」ではなく、「救共」という理念も含めて世界平和実現のための理念・思想と政策提言を行うべき秋だろう。

「国際勝共連合(日本だけの政治団体、世界的には「世界平和連合」とされている)」の創設者である文鮮明師はソ連邦が崩壊すると同時に、ゴルバチョフ大統領や金日成主席(当時)に会い、「神主義(頭翼思想=鳥には右の翼、左の翼とともに頭がある=)」による新世界秩序の建設(冷戦終結後の正しい処理策)を直接訴えられたと聞いている。「神主義(頭翼思想)」の理念を社会科学的にも明確にし、「共産主義」思想の本質(ユダヤ・キリスト・イスラム教や共産主義思想の誕生は歴史の偶然だったのか必然だったのかなどのこと)の明確かも含めて政策提言することが必要不可欠だ。


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