植草一秀氏「資本主義の断末魔ー悪政を打ち破る最強投資戦略」を上梓ーリバタニアズムにリベラリズムで対抗(追記:パーティ券問題)

日本の国内外の情勢分析・政策提言で国内きっての理論家であり「ガーベラ革命」を主導する運動家としても知られる植草一秀氏が、ビジネス社から「資本主義の断末魔ー悪政を打ち破る最強投資戦略」を上梓された。市場原理と自由主義を神格化する限りー政治哲学としてのリバタニアズムを信奉する限りそうなるー、貧富の極端な拡大と一般的な国民(海外諸国を含む)の絶対的な貧困化は避けられない。植草氏はリバタニアズムに対置する意味でのリベラリズムを根本原理とする「ガーベラ革命」を起こすことで、悪政を重ねる自公政権、とりわけ岸田文雄政権と「けもの道」から脱却できない日本銀行(植田和男新総裁は前任の黒田東彦前総裁の呪縛から逃れようとはしている)に変わる新たな政権・正常な日銀の樹立を目指されている。本書は小著(300頁)ながら、その必要性と必然性を力説した大著である。加えて、悪政の中にあってもそれに負けずに最良の投資利益を得るための投資戦略をも紹介している。江湖に一読をお勧めしたい。

政治哲学としてのリバタニアズム(超自由主義)とリベラリズム

本書は、投資家向けにスリーネーションズ・リサーチ社(https://www.uekusa-tri.co.jp、著者はその代表取締役社長でもある)から発行している『金利・為替・株価特報』(月2回発行)の年次版でもある。対象読者は投資家に限定されない。本書のテーマは、①激動する(国際情勢とその分析を踏まえた)現代経済金融動向の解析②世界経済の正体と行く末の展望ならびに政治哲学の考察③(自公政権、とりわけ岸田政権の)悪政を打ち破る(透徹した)最強投資戦略ーの三点だ。

評者(サイト管理者である筆者)としてはまず、筆者が対置している政治哲学から紹介しておきたい。著者は現代の政治哲学としてリバタニアズム(「超自由主義」)とリベラリズムを対置している。リバタニアズムは一般には聞き慣れない言葉だが、評者の調べによると米国で生まれた「自由」を神格化する思想のことで、他人=隣人には全く無関心でいる。ただし、評者としてはそれは自由のはき違えであり、自由には責任と実績を伴わなければ天賦の基本的人権としての意味がないのではないか。

それはさておき、筆者によれば「弱肉強食主義」の下で私有財産制度を神格化し、経済運営を、絶対善として位置づける市場原理に委ねる政治経済社会哲学がリバタニアズムである。リバタニアズムを政治哲学とする現代資本主義は、市場原理の不可侵性と私有財産の神格化を根本原理とするが、それを絶対善として積極的に容認する。(206〜207頁)。そして、政府はこうした自然の「摂理」に対して手を加えるべきではなく、その役割は国防、警察に限定すべきであると主張する。

かつては「新自由主義」と呼ばれていたが、新自由主義の「奥」には深い政治哲学、つまり、リバタニアズムが存在するため、新自由主義の正体を暴露することを目的に「リバタニアズム」という言葉をあえて使われたものと評者には思える。

本書によると、貧困と不正を根絶するための持続的な支援・活動を行っているオックスファム・インターナショナルが2023年1月に公表した調査結果では、「世界で裕福な富豪8人の資産総額が約4260億ドル(約48兆6000億円、当時の為替レート換算値)で、世界人口のなかでの所得の低い半分にあたる36億7500万人の資産総額とほぼ同じ」(169頁)状況になっており、8人と37億人の資産が同じになっているというのである。この巨大な貧富の格差が、リバタニズムによる政策運営の帰結である。

筆者はこの現状に対して、「自由主義を根幹に据えながらも、結果として生じる著しい『不均衡』を是正することを政府の役割であると考える政治哲学」を「リベラリズム」と呼んでいる。理想としてはリベラリズムが混迷する現代社会の脚光を浴びて当然だが、現実にはそうではない逆の思潮変化=つまり、リバタニアズムが急速に広がり始めていると分析している。これについて日本に関して詳細に述べたのが、「第4章 衰退日本と混迷世界」の「第3極政治勢力として台頭する日本維新の会」だ。

しかし、弱肉強食主義を根本是とする現代資本主義は成長の限界にぶち当たっているというのが筆者の見方であり、そのために、新たなビジネスモデルが画策されているという。

筆者はその例として、①消費税率の引き上げによる所得の逆再配分②水道事業の民営化など公営で独占事業を無理やり民営化する公的事業領域の簒奪③新型コロナウイルスワクチンの異常な形での承認などによる公衆衛生=パンデミック=事業モデル(注:本来なら、ワクチンは臨床試験=第Ⅲ相試験=で、有効性と安全性に関して厳格な評価が行われた後に承認されるべきだが、特例承認と称してそれが省かれた。このため、新型コロナワクチン接種後の2021年、2022年と年間死亡者が10万人単位で急増した。筆者は、新型コロナのためにワクチンが開発されたのではなく、公衆衛生事業モデルのために新型コロナパンデミックが引き起こされたと見る=78頁以降参照=)④SDGsなどに象徴される国際特殊詐欺(フェイク)ビジネス=注:国連が2015年9月の国連で採択したSDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」のことであるが、筆者はSDGsを世界各国の財政資金を収奪するフェイクと見る=⑤(最後は、いつものように)ウクライナ戦争や米国を中心に予想される台湾有事などの戦争ビジネスーなどをあげる(173頁以降)。

筆者によると、これらのビジネスモデルは米国の軍産複合体、現在はディープ・ステート(DS)と呼ばれる存在が創作したものだ。しかし、これらのビジネスモデルは人の道に反する。評者の持論であるが必ず、「天網恢恢疎にして漏らさず」という事態に陥るだろう。著者としてはディープ・ステート(DS)の策動に対抗して、①最低賃金の引き上げ(1時間1500円)②生活保護ではなく生活保障制度の創設・確立③(注:逆進性が強く、内需の低迷をもたらしてきた)消費税の減税と廃止(注:消費税の度重なる増税のため、世界の主要国のうち経済成長率は名目、実質ともに日本が一番低い。158頁以降)ーを中心とした「ガーベラ(注:希望・愛の意味)革命」による新政権の樹立を提唱し、目指している。

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【追記:2023/12/22】パーティー券「キックバック」裏金疑惑について
出版時期の関係で本書では論考を展開することができなかったと思われるが、これについては東アジア共同体研究所(鳩山友紀夫理事長)が12月20日にYoutubeで放映したUIチャンネルの鳩山理事長と孫崎享所長との対談で、孫崎氏が、①安倍派の清和会だけでなく岸田派、麻生派の宏池会系派閥、二階派と自民党のほとんどすべての派閥が関わっているにもかかわらず、安倍派だけが槍玉に挙げられている②司法官僚である検察庁とマス・メディア、それに岸田政権(安倍派の松野博一前官房長官や高木毅国会対策委員長、萩生田光一政務調査会長、閣僚では西村康稔経済産業大臣=当時=らをその任から更迭した)が深く関わっていることから、安倍派=清和会潰しの可能性が強いと指摘。30年前の田中角栄前首相潰しの事件を例に、背後に三者を指揮している存在があると指摘している。

併せて、UIチャンネルでは民進党結成時に連携した小池百合子東京都知事や前原誠司衆院議員らが再び新党結成に動くなど中央政界が三極に分裂し、政界再編が起きる公算があるとも予想した。これに関連して、NHKは立憲民主党の泉健太代表が政治資金規正法の改正で日本維新の会や国民民主党と部分的な連携を目指すとの考えを示した(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231221/k10014294831000.html)。ただし、政界再編が起きて新政権が樹立されても、本書で政治哲学の大きな潮流と指摘しているリバタニアズムを政治哲学とすることに変わりはないだろう。
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評者にとって「天網恢恢疎にして漏らさず」の前兆として筆者が挙げているとも見られるのが、中露を中心とした非米側陣営の台頭と活性化である。日本のマス・メディアでは「グローバルサウス」と呼ばれているが、グローバルサウスには中国やロシア、インド、サウジアラビアなど北半球の国々も入っている。だから、「グローバルサウス」という言葉は適切ではない。国際情勢解説者の田中宇(さかい)氏は、リーマン・ショックが起こった2008年9月ころ、既に米側陣営が衰退する一方で非米側陣営が結束し、台頭してくると予想しておられたが、その動きは2022年2月のロシアによる「ウクライナによる特別軍事作戦(後に、ウクライナ戦争)」遂行後に顕著になった。

米国一極支配体制の崩壊と世界の多極化=非米側陣営の台頭

評者は「非米側陣営」という言葉を使わせていただきたい。本書の筆者である植草氏は非米側陣営の顕著な動きとして、第一に、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に中東の盟主・サウジアラビア、サウジアラビアの影響下にあるアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、エチオピア、アルゼンチンの6カ国が加盟することになったことを指摘する。その予兆として、今年の2023年9月にインドのニューデリーで開かれたG20首脳会議では、①2022年11月にインドネシアで開かれた同会議共同声明でのロシアに対する「非難」の文言は削除された②「ロシア侵攻」に対しては「異なる見解と評価があった」との付記が維持された③「ウクライナに対する戦争」が「ウクライナにおける戦争」に改められた(注:ウクライナ戦争は本質的にカトリックを信奉するウクライナ西部のウクライナ住民とロシア正教を信奉するウクライナ東南部のロシア系住民との内戦である。ロシアのプーチン政権が「特別軍事作戦」を展開したのは、ゼレンスキー大統領が2015年2月に国際条約として成立したミンスク合意Ⅱを守らず、2021年2月に成立した米国のバイデン政権とともにロシア系住民の大量殺害など大迫害を繰り返したためだ)ーことなどを挙げている。

なお、田中氏が12月14日に公開した「BRICS共通通貨」(https://tanakanews.com/231214dollar.php、有料記事=https://tanakanews.com/intro.htm=)によるとロシアは、共通通貨制度の創設に向けて動いているようだ。「ロシアの国際シンクタンクであるバルダイ・クラブのサイトに、今後のBRICSの通貨政策に関する提案論文が載っているのを見つけた。再来年にかけて、BRICS加盟諸国の通貨を経済規模で加重平均したIMFのSDRのBRICS版にあたるデジタル新通貨「R5+」を創設し、非米諸国間の貿易決済に使えるようにする。新通貨は、加盟諸国の既存通貨と併用される。R5+の価値はBRICS諸国の国債で担保する。金地金など資源類(コモディティ)は価格(相場)が不安定なので(当面)連動しない。といった内容の提案だ」。

ロシアが創設に向けて動いている非米陣営側の通貨制度は、米国のニューハンプシャー州で1944年7月に開かれたブレトンウッズ会議で英国のジョン・メイナード・ケインズが提唱した超国家的な国際決済通貨「バンコール」を使用する「バンコール構想」を取り入れているようだ。バンコール構想は当時、米国のホワイト案(金とドルとの交換性を保証した金ドル本位制)に葬り去られたが、米国が1971年8月、電撃的に発表した金とドルとの兌換制停止(ニクソンショック)後、SDR(国際通貨基金=IMF=に加盟する国が持つ「特別引き出し権(pecial Drawing Rights)」のことである。 出資比率に応じて加盟国に割り当てる仮想通貨で、通貨危機などで外貨不足に陥った加盟国は、SDRと引き換えに他の加盟国から米ドルなどの外貨を受け取ることができることになっている)が創設された。

もっとも、米国は「三つ子の赤字=毎年連邦政府の閉鎖が取り沙汰される膨大な財政赤字、世界最大の経常収支赤字、世界最大の対外純債務残高(累積経常収支赤字、2022年末で2067兆3330億円=16兆ドル程度)=」を抱えているから、根本的にはドル不安が常につきまとう。このドル不安の解消のため、中東産原油の取引はドル建てで行うことになっており、ドルは、ドル原油本位制になって信用を維持してきた。しかし、昨年2022年12月の中国の習近平主席の訪サウジアラビアで、モハメッド・ビン・サルムーン皇太子兼首相との間で中国人民元建ての原油取引で合意したことから、ドル原油本位制に風穴が開いた。中国はその後、スンニ派の盟主であるサウジとシーア派の大国であるイランとの国交回復の仲介を行った。

話がそれたが、本書の筆者が示すもうひとつの非米陣営の活性化は、軍事機構などとして重要な役割を持つ上海協力機構(中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの6カ国による創設で発足した)だ。最近では、正式加盟国としてインド、パキスタン、イランが加わり、これ以外にもオブザーバー国、対話パートナー国として多数の国が加盟しつつある(64頁)。非米側陣営の台頭で「欧米の軍事同盟であるNATOへの対抗という側面も拡大しているが、同時に世界一極体制の根幹である米ドル支配体制への『侵食』も始まりつつある」(65頁)。本書の筆者である植草氏もまた、「米国一極支配体制から世界の多極化」時代に入ったと認識するようになっている。

これに関して重要なのは、第一に米中軍事衝突が米側陣営のマス・メディアによって喧伝される中、「台湾市民の考え方は冷静である。米国の台湾におけるさまざまな活動について、その目的は米国自身の”利害”のためであり、台湾市民にとって利益になるものでないとの判断が世論調査などで示されているからだ。(中略)一言で要約するなら、米国が主導する台湾と中国との”関係悪化工作”を台湾市民は批判的に見ている。台湾有事=台湾における戦乱勃発を望んでいない」(82〜83頁)。2024年1月13日の台湾総統選挙で現在の民進党が勝てば、民進党が米国と結託して、重大問題が勃発する可能性がある。

ロイター通信は来年2024年1月13日に実施される台湾総統選挙について、次のように伝えている(https://jp.reuters.com/world/taiwan/OHTUHAUKNBLHJMILBWBGVX763A-2023-12-21/)。ただし、各候補の演説は台湾市民の根底にある中国・台湾の関係の在り方に対する考えを踏まえて報道する必要がある。下記の引用記事は民進党が完全に中国から独立することを目標にしているような内容になっており、実際はそうではない気がする。なお、中国にとっても、TSMC(台湾積体電路製造股份有限公司、台湾でRyzen CPUなどの高性能な半導体を製造する世界最先端の技術を持った会社)などハイテク産業で栄えている台湾の攻撃などしたくないだろう。

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[台北 20日 ロイター] – 来年1月の台湾総統選に向けた20日のテレビ演説で、最有力候補である与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳・現副総統は、中国が自身を含む与野党候補3人全員を分離主義者と見なしているとの見解を示した。頼氏は国民党の侯友宜氏、野党第2党の台湾民衆党の柯文哲氏と共に政策演説に臨み、テレビで生中継された。頼氏は中国が国の方針として台湾を「飲み込もう」としていると指摘。「中国から見れば、総統選に立候補している私たち3人全員が台湾独立を支持している」とした。

(注:国民党候補の)侯氏は頼氏が中華民国という正式名称を捨てて台湾の正式な独立を望んでいると改めて批判。「台湾の独立は戦争につながり、戦争はますますわれわれに迫っている」とし、「私は(中国が提案する)一国二制度に反対で、台湾独立にも反対だ」と語った。

第二に重要なことは、中国経済が不動産価格の暴落で今にも破綻するとの見解が流布されている中、本書の筆者である植草氏は「中国が不動産バブル崩壊による金融システム不安を回避できる可能性は高い」と見ていることだ(229頁以降)。「責任問題処理の重要性を認識しつつ、金融システム不安を発生させないこと。この点の明確化と、それに見合う政策対応実施が鍵を握る」(231頁)との大前提を確立することが重要であり、習近平政権が現在進行させているのは、この考え方に基づく問題処理であると見ている。

具体的には、①問題企業を確認し、早い段階で政府が企業解体に”着手する”②金融システム不安が連鎖的に広がらぬよう、中央銀行は無制限、無尽蔵の資金供給体制を確保する③その上で、問題を引き起こした当該企業の経営責任者に対しては、厳しい責任追及を行う(231頁)。「社会主義国家であり、国家権力が優越的権限を有するために行い得る権限であるが、逆にその強権を発動することにより、適正な責任処理と金融システムの危機回避という2つの要請を”達成”することが可能になる側面があると考えられる。(中略)中国政府は、金融問題処理の目処をつけつつ、同時に経済を活性化させるための財政政策を検討し始めているとみられる。習近平が掲げる経済政策の基本哲学は”共同富裕”である。一握りの資本家が富を集中独占することを許さず、国民全体の”(所得の)最低水準”引き上げに重心を置いている」(232頁)。

弱肉強食のリバタニアズムをひた走ってきた自公政権、特に岸田現政権が骨身にしみるほど学ぶべき内容である。なお、習近平主席の父君である習仲勲は毛沢東が後継者にしようとしたが、毛の経済政策の大失敗を根本から見つめ、米国のニクソン大統領・キッシンジャー補佐官による「忍者外交」を受けて市場原理を導入、「改革・開放路線」を展開した鄧小平は、習仲勲を失脚させた(227頁)。鄧小平の「赤い資本主義」が中国経済を発展の軌道に乗せたのは確かだが、その一方で、貧富の拡大をもたらしたことも確かである。習近平の共同富裕の政策は、鄧小平路線(注:米国経済の下請け工場になること)の抜本的是正を意味するだろう。中国共産党内部では、習近平派と鄧小平派(江沢民派)の熾烈な争いがなお続いていると見られるが、事態は全権力を掌握している習近平派の優位で動いているだろう。

評者の考えだが、その余勢をかって、①(注:ロシアの参謀総長は「ウクライナの反転攻勢は失敗に終わった」と述べている=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231222/k10014295641000.html=。米国連邦予算の編成権を握る下院がウクライナ支援に動かない。ゼレンスキー政権の敗北は既に決まっている)ウクライナ戦争の和平を(注:ロシアと連携を取りつつ)提唱する②サウジアラビアなど中東諸国との連携を強化し、米国一極支配体制に”対峙”する③英米が主導した”パレスチナ国家”に代わり、イスラエルとアラブ諸国の和解・平和関係の樹立を主導する(田中氏「ずっと続くガザ戦争」参照、https://tanakanews.com/231125gaza.htm)ーことも十二分にあり得る。

本書の筆者である植草氏は、ハマスがイスラエルを攻撃したのは「(注:中国による)イスラエルとサウジアラビアの国交回復」を「牽制する」ことが目的であった(232〜233頁)としているが、ハマスはエジプトで創設されたイスラム同胞団(イスラム教を国教とするが、王政は否定する)パレスチナ支部である。ハマスはテロ組織とされるが、イスラム同胞団はエジプトやヨルダンなどのアラブ諸国にも政治・経済・社会的に根をはっており、単純な軍事組織ではない。2006年は子ブッシュ大統領が嫌がるファタハ(パレスチナ解放機構=PLO=の主流派である武装・政治集団)を説得し、パレスチナで選挙をさせたが、同同胞団の大勝利に終わった。ファタハを支援する米国としては、この選挙結果を受け入れることはできなかったため、選挙結果を認めなかった。

それ以降、ハマスはガザ地区、ファタハはヨルダン川西岸というように分割統治が続いている。国際情勢解説者の田中氏は、英米が提唱しているが「パレスチナ国家」実現の見通しが立たないため、古くからのパレスチナ国家に代わる、イスラム同胞団を中心としたパレスチナ、エジプト、ヨルダンなどの新たな大アラブ国家の樹立を予想している。その場合は、ガザ南部と国境を接するエジプト(「アラブの春」でイスラム同胞団がムバラク政権を打倒し、2012年6月には選挙によりムルシー政権が樹立されたが、2013年7月に軍事クーデターで打倒され、シーシー政権が成立した)の動向が重要になるだろう。

米国がカタールを通してハマスに資金援助したことやイスラエルがハマスに先制攻撃をかけさせたことも上述のUIチャンネルで指摘された。しかし、イスラエルもモサド(対外情報収集機関、全世界に張りめぐらせた世界各国の軍事、政治、経済、社会のすべての情報を収集するスパイ網)を通して、米国一極単独支配体制の終焉(同国の衰退)と非米側陣営の活発な動きを熟知しているはずだから、ネタニヤフ政権のホンネとしてはいつまでも米国に頼ってはおれず、アラブ諸国と和解し、正常で平和な関係を構築したいのだろう。評者(サイト管理者=筆者=)もその可能性は大いにあると思っている。

なお、一神教の高等宗教であるユダヤ教、キリスト教、イスラム教は旧約聖書創世記の旧約聖書の『創世記』22章1節から19節に記載されているアブラハムを共通の祖先とする兄弟宗教である。キリスト教はアブラハムの次男イサク(母親は正妻のサライ)の子であるヤコブの子孫であり、イスラム教の創始者であるムハンマド(マホメット)はアブラハムの次男イサクとは腹違いの長男イシマエル(イシュマエル、母親はハガル)の直系の子孫で、三大天使長のルーシェル(知)、ミカエル(情)、がブルエル(意)のうち、ガブリエルから啓示を受けた。ガブリエルはキリスト教に関してはバプテスマの洗礼ヨハネにイエス・キリストの出生を告知した。

ムハンマドは無学であったから、ガブリエルによる啓示なしにクルアーン(コーラン)は成立し得ない。天使などと述べると、日本では相手にされないが、高等宗教の一神教を信奉する諸国・文明圏では天使の存在は当たり前の事実である。

悪政の続く日本での最強の投資戦略と金地金投資の推奨

さて、本書の最後の第5章「生き残るための金融投資戦略」は、悪徳政治の続く日本での悪政に負けない見事な投資戦略の紹介である。基本的には、2022年にインフレ(注:筆者は新型コロナによる物流の寸断が原因とされているが、評者はウクライナ戦争による対露経済制裁も重要な原因であり、デマンドプル・インフレーションではなくコストプッシュ・インフレーションと認識している)と不況が併存するスタグフレーションに陥った米国ではこのところ、金融引締政策でインフレが落ち着いてきており、先行き利下げの展開になるとの予想が支配的だ。

著者は、これに応じて日本でも「2023年6月以降は(注:日本株は)「踊り場相場」に移行した。(中略)この「踊り場相場」を通過した後で日本株価が上方に上放れる可能性が高いと予測してきた。2024年にかけて日経平均株価は史上最高値を目指す動きを示すことが期待される。しかし、2024年のいずれかの時点で株価上昇が当面の終焉局面を迎える可能性が高い。残された上昇余地を確実に補足するための戦術構築が急務になる」(274頁)と指摘している。

そのための投資戦術構築とは、「ローリスク・ミッドリターン」(271頁以降)という戦略目標の達成のために、①損切り②逆張り③利食いの水準を素早く決定し、相場の④潮流⑤波動を見極めるーことである。本書では293頁に前著「千歳一遇の金融大波乱」で注目した銘柄の株価上昇率実績を挙げた上で、次の294頁以降には、注目株式銘柄21銘柄を紹介している。もちろん、株式投資は自己責任だから、投資家は本書を熟読されたうえで自らの投資戦略を立て、自ら投資株式銘柄を選ぶ必要がある。

なお、筆者が投資対象として「金取引には帳簿上の取引と金地金を直接保有する取引があるが、さまざまなリスクを回避する観点からは、金の現物=金地金を自分の手元に”安全管理”することが有益である」(266頁)としていることは、インフレが終息したと断定するのはまだ早いうえ(植田日銀総裁は金融政策決定会合後の記者会見で、インフレ率が適正水準の2%程度に落ち着いてきたら、金融政策を正常化すると発言している=https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231220/k10014293301000.html=)。このことは、債券・株式・RETIを含む不動産取引などさまざまな投資にはなお、スタグフレーションが完全に終息したとは言えない不確実性・不安定性がつきものであることを示しているのではないか。インフレの継続に関して例えば、サイト管理者(筆者)の知人が最近韓国に行ったが、以前は2万円前後で購入できた航空機の往復チケットが8万円もかかった。

金相場(金地金価格)にも問題が出ている。金相場はながらく1トロイオンス(31グラム)=2000ドルの大台を超えることはなかったが、2023年12月に入って同2000ドルを突破することが目立つようになった。インフレがまだ収まっていないこと、そして、将来の不況を示すとも言われている逆イールド(長期金利が短期金利よりも低くなっている状態)も解消していない。金融界や、内容が当てにならないことも少なくないがWikipediaでも「フラット化が更に進んで、短期の債券より長期の債券の金利が低くなること(長短金利の逆転)がある。この場合のイールドカーブは、右下がりの曲線になる。これを逆イールドと呼ぶ。(注:イールドカーブ・コントロール=ECC=を行っていることもあるが)逆イールドは景気後退の予兆とされており、その発生を金融界や産業界は警戒する」と指摘している。

三菱マテリアル(https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/#gold_1year)
世界経済のネタ帳(金価格の推移)

なお、米側陣営の金融・資本市場の不安定性について、米国一極覇権体制の崩壊を早くから予測していた田中宇(さかい)氏は、2カ月前の論考だが、今年2023年10月4日に公表した「米国債の金利上昇(https://tanakanews.com/231004rate.php)」で、次のように指摘していた。

米国債は短期債と長期債の間で激しく金利が逆転している。翌日ものFF金利が5.5%なのに、10年もの米国債が今夏まで4%だった。長期の負債の方が高リスクなので高金利になるのが自然だが、ここ数年の米国はそれが思い切り逆転している。米連銀(FRB)と金融界が、資金をつぎ込んで10年米国債の金利上昇を抑えている。長短金利の逆転は「不況の前兆」を示す、というのが教科書的な説明だが、実際の米国の実体経済は「前兆」どころかとっくの昔に本物のひどい不況に入っている。The End Of The Road For The DollarAmericans Aren’t Buying The “Great Economy” Narrative

不況だと株価が暴落するはずだが、金融界は、指標銘柄に重点的に資金注入して株価をつり上げている。米連銀はQT(注:量的金融引締政策)を続けており、資金の原資が減っているが、重点注入の効率を上げて株価の高値を維持しているのだろう。マスコミや金融専門家たちは「米国の景気は良いんだ」とウソの喧伝を続け、株価の粉飾を隠している。長短金利の逆転が「不況」に関係した話だということも語られなくなった。Peter Schiff: A Fork In The Road)(中略)

10年米国債の金利急騰を前に、金相場が暴落した。1オンス1950ドルから1820ドルへと下がった。これは、米国債金利が急騰してドルの崩壊感が強まると、ドルの究極のライバルである金地金が高騰しかねないので、その前に信用取引を使って金相場を暴落させておく予防策だろう。今後、米国債金利の上昇が続くと、どこかの時点で金利上昇がドルの信用不安に発展し、金相場が反騰するのでないか。その前に金利上昇が止まれば、金相場は反騰しない。非米側は、安くなった方が金地金を買い込めるので歓迎している。

このところ、最新の雇用統計などから米国の長短金利は近い将来低下するとの見方が圧倒的に多いが、現実には、2023年12月に入って金価格は1トロイオンス=2000ドルを突破してきており、インフレが終息したとは言い切れない。インフレの収束のためにはウクライナ戦争の集結が必要というのが評者の考えである。評者は、本書「資本主義の断末魔ー悪政を打ち破る最強投資戦略」は内容が非常に濃く、国内外の金融・政治情勢の最新情報を提供しているので、江湖に是非一読をお勧めしたい。しかし、リバタニアズムによる弱肉強食主義で米側陣営では悪政が続き、米国一極世界支配体制に終止符が打たれ、非米側陣営の勢いが増している。こういう情勢では、米側陣営もリバタニアズムを克服し、非米側陣営との友好関係を築かない限り、金融・資本・商品市場の不安定化を拭い去ることは困難なのではないかというのが、本書を拝読させていただいたうえでの正直な考えである。

 

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