政府=安倍晋三政権は5月4日、同日発表の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(座長=脇田隆字・国立感染症研究所長)の現状分析・提言を「踏まえ」、緊急事態宣言の延長を正式に表明した。しかし、今月31日までの延長としているが、その感染症学的、医学的根拠は不明で、日本国憲法第25条(生存権の保証)、第29条(公共の福祉のため私権を制限する場合は正当な補償が必要)違反の同宣言が今後も続く公算は大きい。高くとも新型コロナウイルスの実効基本再生産数が1未満であることが宣言解除には必要条件になるが、今回の専門家会議の分析・提言ではPCR等検査が異常に少いことを認めざるを得ず、従って国内の感染状況の実態が不明なのに、確かな実効基本再生産数を割り出せるはずがない。現状分析・提言ではPCR等検査の異常な少なさに対する言い訳に終止している。他方で、安倍政権はコロナ禍のどさくさに紛れて、今国会はコロナ禍対策一本に絞るべきところ、年金制度改革法案や検察庁検事の定年延長法案など喫緊でない法案も強行採決しようとしており、さらには極右団体の「日本会議」のネット集会に、安倍首相が登場、憲法に非常事態条項などを盛り込んだ憲法改正=憲法破壊を約束するなど、「火事場泥棒」と遜色ない行動に踏み切っている。安倍政権の悪あがきがいよいよ顕著になってきた。
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の記者会見では、独立行政法人地域医療機能推進機構理事長の尾見茂副座長がグラフを使って、➀今後、対策が長期化する中で、まん延防止を第一としつつ、社会経済活動との両立を図ることが課題②政府においては、長期的な対策の継続が市民生活や経済社会に与える影響という観点からの検討を行う体制整備も進めるべきである-など、対策の長期化を強調した。
本来なら座長の脇田隆字・国立感染症研究所長が説明すべきだが、いつも副座長の尾見氏が前面に出てくる。理解に苦しむところだ。なお、厚労省は専門家会議での「専門家」の発言内容は極めて重要なため、その議事録は速記して作成、出席者を全員明記したうえで正しい日本語に「翻訳」して公開すべきだが、そうしているかどうかは不明だ。
さて、尾見氏が説明に使うグラフの縦軸、横軸には明確な目盛りがない。ダイヤモンド・プリセンス号で感染症拡大阻止対策提案、実施のため同船に乗り込んだが、レッドゾーン(汚染区域)と非レッドゾーン(非汚染区域)を峻別するなど、感染症対策専門家として当然の対策を提示しながらも2時間で同船を追放された千葉県・亀田総合病院の感染症総合診療・感染症科部長の岩田健太郎氏の最近著「新型コロナウイルスの真実」(KKKベストセラーズ)によると、これは記者たちを通して国民に説明するためのグラフとしては落第だ。
同書によると、「あのグラフはずるくて」「縦軸にも横軸にも何も書いてないんだから、(感染者数の)ピークがどのくらいかは示さない、いつ来るのかも示さない」。このことで、➀今後、日本で何が起きようとも、「想定の範囲内」ということで言い逃れが出来る②現在の日本ではPCR検査をかなり押さえているので、この山(1日の感染者数のピーク値)がどれくらいの数字になるのか、またはどれくらいの数字にするのか(1日の感染者数のピーク目標をどの程度に抑えるのか)が分からず、責任逃れもできる-などと指摘している。
※ただし、岩田氏は政府=安倍政権・厚労省の集団感染(クラスター)対策自体は評価し、ざっくり言ってPCR検査は適度にやれば良いとの立場。大阪府、兵庫県(神戸大学医学部出身)の感染拡大防止対策が生ぬるいとしていて、東京都はあまり気にしていない。あとがきで、「ぼくが論じていた内容が本質的に間違っていたら、ということもあるかも知れません。(中略)その場合は後に自説を修正するでしょう」と記されているが、あとがきを執筆された3月23日以降の推移を見る限り、そうされた方が良いかと思う。
さて、政府=安倍政権と専門家会議がやっと、米国など国内外からの日本国内のPCR検査数の異常な少なさを批判する声の高まりから、PCR検査の異常な少なさを認めることを余儀なくさせられた。しかし、それでも国内の感染状態の把握は可能であり、「感染者の爆発的増加(オーバーシュート)」は抑えられていると強弁。緊急事態宣言下での新しい生活の在り方(生活様式)まで「提言」している。まず、専門家会議がPCR等検査の異常な少なさを認めされられたことを示す図は下図の通り。
しかし、それでも専門家会議は検査数に占める陽性判定率は低いとして、感染状況の把握に対して問題はなかったことを示唆している。そのことを示したのが、数である。
このグラフは、世界の主要国でPCR検査を行った際の陽性判定率を示したものだ。しかし、日本は国際保健機構(WHO)が、確かな抗ウイルス薬とワクチン開発が望めない現状、最良の選択肢として勧告した「検査・検査・検査と隔離」を、世界各国に先駆けて中国とは異なる民主主義社会で先行実施し、個人情報の保護に注意しながらIT技術(GPS= Global Positioning System、米国によって運用される衛星測位システム(地球上の現在位置を測定するためのシステムのこと=)を駆使した韓国よりはるかに高い。韓国では、国民に対して手持ちのスマートフォンに新型コロナウイルスに感染する恐れが強い地点を知らせるシステムを運用、経済社会への悪影響を最小限に抑えながら、日本の一律の行動規制よりはるかに効率的な行動推奨勧告を行っている。
韓国は日本政府に対して水面下で、恐らく人道主義的観点から、同国が開発したシステムの提供はじめ、コロナ禍対策に必要な感染防止医療用装具の提供を申し出ているようだが、政府=安倍政権は「嫌韓主義」に立脚・こだわっており、好意を政治的意図があるものとして素直に受け入れない。
また、日本はドイツと同程度であるが、東ドイツ出身のアンゲラ・メルケル首相が国民に対して直接、「自由と基本的人権の尊重を獲得してきたドイツ国民が、コロナ禍によりそれらを一時的に制限するのは大変残念なことです。しかし、国民の生活の保証は政府が十二分にしますから、心配しないで日常の行動を自粛して下さい」との旨の発言を行い、実際、大規模な財政措置を講じ、その通りにしている。ドイツ国民はこれを受け入れ、同首相と党首を務めるキリスト教民主同盟の支持率は急上昇している。安倍首相は記者会見を早々に終えた。
シンガポールはこれまでは感染症対策では優等国であったが、社会インフラを支える低所得者層に新型コロナウイルスの感染が急増し、PCR検査に対する陽性化率が上昇している。欧州では、日本の国立感染症研究所の調査を信じるとすれば、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスA型が変異して、耐性と毒性の強い新型コロナウイルスのB型が蔓延していることが、PCR検査の陽性判定率が高いことの原因である。さて、米国ではニューヨーク州の陽性判定率が高いが、これよりはるかに高いのが日本を支える中核大都市圏・東京の陽性判定率である。
これをみると、 東京都の検査実施人数には、医療機関による保険適用での検査人数は含まれていないが、PCR検査の陽性判定率は39.2%。アンドリュー・クオモ州知事がトランプ大統領と対立しながらも最前線で陣頭指揮しているニューヨーク州の34.3%より高い。東京オリンピック開催延長を取り付けた後、コロナ禍対策の大義名分の下、テレビにしゃしゃり出て5月の都知事選挙運動を行っている小池百合子都知事とクオモ・ニューヨーク州知事との政治屋と政治家の違いが分かる。
なお、上の表では全国のPCR検査での陽性判定率は9.5%になっている。これは、専門家会議が発表した5.8%とはかなり差があるが、これはイタリア籍の豪華客船「コスタアトランチカ」の乗員に対して、PCR検査を行ったためである。人種差別をするわけではないが、日本国内でのPCR検査での陽性判定率を平均で把握する場合には、イタリア籍の豪華客船「コスタアトランチカ」の乗員に対するPCR検査数などを除いた数字も併記すべきだ。
それにしても、京浜工業地帯の東京大都市圏は東京都の39.2%、神奈川県の17.2%、千葉都民の住む千葉県の12.3%、埼玉県の9.9%、阪神工業地帯の大阪府の12.4%、兵庫県の8.3%、中京工業地帯の愛知県6.9%と高い。これらの三大工業地帯は日本の経済社会を支えている。そのうえ、弱肉強食の新自由(放任)主義に立脚している政府=安倍政権の下で「税と社会保障の一体的改革」の大義名分=ウソの下に消費税増税は強行される一方、社会保障は切り捨てられている。そして、「多様な働き方」の大義名分の下に、非正規労働者は極端に増加している。だから、「新型コロナ感染症対策」を抜本転換しない限り、PCR検査での陽性判定率と経済社会情勢が相互連関して上昇、悪化のスパイラルに陥ることは目に見えている。
次に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型肺炎(COVID-19)での死亡者数だが、現状分析・提言では、「人口10万人あたりの新型コロナ死亡者数は、日本は欧米の1/10以下」として問題ないことを示唆している。しかし、5月5日午前10時32分段階でジョンズ・ホプキンズ大学がリアルタイム公開しているデータによると、発展途上国も含めた新型コロナ感染者数358万247人のうち、死亡者数は25万1365人で、死亡率は7.0%。これに対して、日本国内では昨日午後22時の段階で感染確認者数1万5621人のうち死亡者は556人で、死亡率は3.6%。これは、日本のように本来、医療機関と医療技術が整った国としては高水準である。しかもこの中には、原因不明の肺炎で亡くなられた不審者の方々の人数は含ま。れていないから、3.6%よりは高いと推定される。
しかも、東京都の大手クリニックや神戸市の病院、慶応大学附属病院で行った新型コロナ感染を意識していない患者に対する無作為抽出の抗体検査(新型ウイルスに感染してから1周間程度に産生された抗体の検査)によると、3%ないし6%が陽性判定が判明している。これは、市中感染の割合と推定できる。となると、実際の感染者は、1万5621人どころではなくなる。これについては、次の日本共産党の小池晃書記局長(参院議院)に詳しい。
それによると、北海道大学大学院医学研究院教授で専門家会議のメンバーであり厚労省のクラスター分析班のメンバーである西浦博氏ですら、「実際の感染者は厚労省の公式発表(=大本営発表)の10倍はある」と言っているとのことだ。こういう状況では、新型コロナウイルスの日本国内での感染状況が掴めるはずがない。だから、出口戦略も、➀現在の枠組みの長期化によって、必要以上の犠牲を強いることのないようにする②このため、1~2週間程度の経過した時期に、出口戦略について検討を行う-とかの実際はないも同然の状況だ。
さて、出口戦略に焦点が移ってきたが、日本国内でのPCR等検査を少なくともOECD並に引き上げなければ、感染の実態は不明で、実効再生産数など必要な指標も信頼性のないものになる。安倍首相は2月29日の会見で安倍首相が「かかりつけ医など、身近にいるお医者さんが必要と考える場合には、すべての患者の皆さんがPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保いたします」と語ったが、「検査能力を確保します」と語っただけで、「検査数を増やします」とは言わなかった。ペテンに等しい。ただ、百歩譲って「検査数を増やします」の意味にとって、何故2カ月以上経つのに検査数がOECD諸国中下から2番目の35位と最後進国になったのか。その理由(釈明)を専門家会議のリポートから引用すると、下図のようになる。
要するに、➀地方衛生研究所で新たな病原体(新型コロナウイルス)に対する膨大なPCR検査は想定されていなかった②指定感染症では入院・隔離が必要で病床数不足が懸念された③民間検査機関利用の場合検体輸送に特別の対応が必要だった-などの言い訳をしているだけである。安倍首相の発言自体もペテンであるが、医師としての良心を持つなら、国民の生命を第一に考え、今になって言い訳を述べ立てるのではなく、検査数を増やす体制を整備することがまず必要だった。そして、そのことを政府の感染症対策本部(本部長・安倍晋三首相)に訴え、予算措置を講じるべきだった。米国の疾病予防管理センター(CDC)は強力な権限を持っていて、(トランプ大統領率いる)米政府とは独立している。
そもそも、新型コロナウイルス感染症を強制入院が必要な指定感染症Ⅱ類にする必要はなかったが、柔軟に対応して軽症患者には別の医療施設に隔離すれば良かった。また、民間検査機関への輸送体制の確立などは2カ月もあれば十分に出来たはずだ。
ところが、専門家会議は安倍首相の発言から2カ月を過ぎるのに、腰を全く上げなかった。要するに、最初からやる気がなかったのである。これは、➀OECD並の基準に引き上げるためには100万人に対するPCR検査が必要になり、180億円の費用がかかるほか、検査機関の防疫体制も確保しなければならないからそれなりに費用がかかるが、加藤厚労省は財務省の出身であり、これをケチった(国民のために使う国民の血税を自分たちの都合のいいように使える財源と錯覚している)②利権集団である政府=安倍政権と結託して、検体データ収集を国立感染研・地方衛生研が独占し、抗ウイルス薬とワクチンの開発に利用する開発利権を独占する-などのためだ。ただし、日本の国立感染研などは世界の抗ウイルス薬やワクチンの開発では、開発技術の面で世界の巨大製薬会社(メガ・ファーマシー)が大きな遅れを取っている。
安倍-加藤-尾身ラインは、自分たちの利権のために、国民の生命を守るためのPCR検査を抑制してきたわけである。なお、日本維新の会の副代表でもある吉村洋文副知事は、2020年5月5日19時02分に投稿された「大阪府 施設再開など判断の独自基準を決定」と題するNHKの報道によると出口戦略の数値目標として、「基準では、感染経路がわからない患者の数や感染しているかどうかを確認する検査を受けた人のうちの陽性者の割合、それに重症の患者を受け入れる病床の使用率などを指標にしていて、府ではこの指標に基づいて、今月15日に休業要請などの措置について段階的な解除を判断することにしています」という。
しかし、大阪府のPCR検査人数は5月3日時点で1万2492人と人口千人当たり1.4人に過ぎない。これでは、感染の実態が分からない。PCR等検査数を数字をOECD諸国並に引き上げなければ、新型コロナウイルスの変異による耐性と感染力、毒性に加え、陽性者者が免疫力の免疫力を考慮しなければ、数値目標も役立たないことを申し添えておく。
これから直ぐに、第二次補正予算案の編成にとりかかり、➀医療崩壊を防ぎ、医療機関の防疫体制を徹底的に整備したうえで、PCR検査・抗原検査・抗体検査などのPCR等検査を実際に行い新型コロナウイルスの感染状況を的確に把握する②憲法25条、29条に則り、国民、事業主の十二分の生活、事業継続支援を打ち出す③そのための予算措置を十二分に確保する-などの必要がある。このままだと、安倍内閣は追い込まれ解散・総選挙になるだろう。それに備えて、仁術を持ち合わせた専門家による新型コロナウイルス感染症対策を打ち出すとともに、政策連合を早急に結成すべきである。日本共産党もれいわ新選組を裏切ってはならないし、そろそろ「共産主義」というイデオロギーから脱却すべきだ。