検察庁改革法案強行採決は安倍政権の終わりの始まり

予想されたように検察庁改革法案を柱とする国家公務員改正法案は5月15日、同法案を審議している内閣委員会で答弁の中心に立った武田良太・国家公務員制度担当相に対して、野党4党が不信任決議案を提出したため、強行採決は見送りになった。しかし、数の横暴で衆参の内閣委員会、本会議で強行採決を行い、法案が今国会で成立する可能性は依然としてかなり高い。しかし、成立した場合は民主義国家の基幹制度である三権分立制度が完全に崩壊することになるので、日本は独裁国家に最終変質するか、安倍政権の崩壊の終わりが始まるかのいずれかになる。国民の良識で、安倍政権時代には幕を閉じることが肝要だ。

今国会はすべての不要不急な法案はすべて審議をストップし、コロナ禍対策国会としてまともな新型コロナ対策への抜本転換とその速やかな実施のみを審議すべきところだ。ところが、コロナ禍の重大性はそっちのちけにして、政府=安倍政権は東京オリンピックに固執し、国連のアダムノ事務総長の「検査・検査・検査と隔離」にも耳を傾けなかったから、ダイヤモンド・プリンセス号の感染防止対策に完全失敗をしたのをはじめ支離滅裂な対策を繰り返した。また、PCR検査阻止にやっきになり国内の感染状況を未だに正しく掴めていない。こういう状況下で49県で緊急事態宣言を解除しても、国民は感染拡大阻止に疑心暗鬼で、経済活動も通常には戻らない。

だから、真水の規模が全く不十分で至るところで欠陥が露呈している第一次補正予算案に続いて、2020年度予算の予備費をすぐに使って医療機関の防疫体制の整備などに充て、さらに速やかに第二次補正予算案を編成すべきところだ。しかし、こうした喫緊の課題が突きつけられているのに、安倍政権はいつものように検察庁法改正案を柱とした国家公務員法改正案を今国会で成立させることにやっきになっている。

検察庁改正法案は内閣官房のサイトに掲載されているhttp://www.cas.go.jp/jp/houan/200313/siryou4.pdfの文書で見ることができる。93ページ以降に改正案と現行法対処で調べられるが、大量の文書料なので該当部分は当サイトにリンクしておきます。

要は、「内閣は、前項の規定(検察庁幹部の役職定年)にかかわらず、年齢が63年(歳)に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢63年(歳)に達した日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該次長検事又は検事長が年齢63年(歳)に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる」というもの。簡便に図式化すると次のようになる。なお、地方検察庁の長である検事正は法務大臣の裁量で続行させることができるようになっている。ただし、検察官部の定年延長の基準については、これから考えるというのだから、法案の骨格がない。

時事通信社による。

戦後日本の裁判所・検察制度は三権分立を実現するための基幹制度ではなかった。特に、検察はどの案件を立件するかの裁量権も持っているうえ、立件・逮捕・起訴の対象者は内閣総理大臣経験者をも含む。そして、裁判所は検察の起訴には十分な証拠があると頭から「理解」しているから、検察が持ち込む刑事裁判はほとんどが検察側の勝訴になる。これについては、郷原信夫東京地検検事へのインタビューを行ったデモクラシー・タイムスの次のインタビュー番組をご覧いただきたい。

検察が起訴する刑事裁判で無視できないのは、有罪が確実である案件を立件しないこと及び検察審査会を操って国策捜査を行い、有力政治家や有識者を失脚・冤罪に追い込むことだ。そのもっとも典型的な例は、自民党から二度の政権奪取を果たした小沢一郎民主党幹事長(当時)に対する、検察審査会を使った「陸山会の政治資金規正法」違反の疑いをかけた国策捜査だ。しかし、小沢幹事長の秘書役を兼ねていた石川知裕衆議院議員が東京地検特捜部とのやりとりをテープレコーダーで録音していたことから、2011年12月15日の小沢一郎氏起訴事件の公判で、東京地検特捜部が虚偽の捜査報告書を作成したことが発覚した。

しかし、この検察側の重大な過失はもみ消された。もみ消したのは法務省の黒川弘務法務省官房長だったと指摘されている。黒川氏は2011年8月に法務省大臣官房長に就任し、2016年9月5日に法務事務次官に就任。法務事務次官退任後検察庁に移り、2019年1月18日東京高等検察庁検事長に就任、慣例だけは尊守してきたことで満63歳の誕生日を迎えた2020年7月に検事長の役職を辞任するはずだった。しかし、2020年1月31日、安倍内閣がそれまでの人事院の解釈(国家公務員法に基づく定年延長は検察官には適用されない)を「口頭」で変えさせ、定年延長させた。

黒川氏は法務省時代に自民党の有力政治家をサポートしてきたとされている。例えば2016年1月、千葉県の建設会社「薩摩興業」が2013年に道路建設をめぐり甘利明内閣府特命大臣側に都市再生機構(UR)に対する口利きを依頼し、見返りに総額1200万円を現金や接待で甘利側に提供したと週刊文春が報道したことをきっかけに引責辞任はした。しかし、あっせん利得処罰法違反で刑事告発されたものの、東京地検特捜部は「嫌疑不十分」で起訴しなかった。

また、2014年10月16日に小渕敬三首相(当時)の娘である小渕優子経済産業大臣(当時)は、週刊新潮の報道やその後の調べで、政治資金収支報告書への未記載の費用が1億円を超えると報じられた。このため、東京地検特捜部が政治資金規正法、公職選挙法違反などの疑いで、10月末に群馬県内の関係先などを家宅捜索を行い、その際に、データなどを保存するハードディスクが捜索以前に電動ドリルで物理的に破壊されていたため、隠蔽工作も報道された(ドリル小渕事件)。しかし、関係者だけが執行猶予付きの禁固刑を受けただけで、小渕経産相自身は有罪判決を免れた。これらの事件の背後で有力議員の起訴・有罪判決阻止に向けて暗躍したのが黒川氏とされている。

この他、安倍政権が国有地を激安で払い下げた国民に対する背任罪が指摘される森友学園事件、それに関する財務省の公文書改ざん事件、獣医学部の新設で利便を供与した加計学園問題、公職選挙法違反が有力な桜を見る会前夜祭や桜を見る会などの疑惑では、地方検察庁の段階からして検察庁は動かなかった。これもまた、黒川氏の関与が指摘されている。

黒川氏は有能な国家公務員であり、自民党でも民主党(当時)でも時の内閣に忠実に使えて、国家公務員としての責務を果たしているとの評価もある。しかし、小沢氏の陸山会事件の経緯を見ると、自民党の「守護神」である可能性が極めて高い。このため、民主主義社会にあっては、検察庁は政治から独立しているのが当然であるが、戦後の検察庁の巨大な裁量権を考慮し、黒川氏が第二次安倍内閣をかばってきたと伝えられていることからすれば、1月31日の慣例違反の黒川氏の定年延長決定(法律上無理がある)とその決定を後付で正当化するためと見られる今回の検察庁改革法案は、内閣(行政)による、本来は政治から独立すべき検察庁の取り込みを合法化するものになる。それは完全に民主主義制度の根幹である三権分立制度を破壊するものである。もし、そうでなければ、黒川氏は少なくとも定年延長を受諾しなければ、丸く収まる。

このため、マスコミなどによると日本弁護士会連合(荒中会長)はもちろん、「松尾邦弘・元検事総長(77)ら検察OBが15日、政府の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案に反対する意見書を法務省に提出した。法改正について「検察人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込めることを意図している」と批判。定年延長を認める規定の撤回を求めた」(朝日デジタル2020年5月15日 15時33分)。

もっとも、数の力があるから、安倍政権が検察庁改革法案を衆参で強行採決し、成立させる可能性は極めて高い。ただし、朝日デジタル2020年5月16日11時51分投稿の「桜を見る会巡り首相を刑事告発へ 弁護士ら500人以上」と題する記事によると、「『桜を見る会』の前日にあった安倍晋三首相の後援会が主催する夕食会をめぐり、500人以上の弁護士や法学者らが21日にも、公職選挙法と政治資金規正法違反の疑いで、首相と後援会幹部の計3人の告発状を東京地検に提出する」という。「中央突破」作戦は、コロナ禍による日本の経済社会の混乱とも相まって、安倍政権の終わりの始まりになるだろう。

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