政府=安倍晋三政権は14日午後、新型インフル特措法に基づく緊急事態宣言を特別警戒地帯の愛知、福岡、石川、茨城、岐阜の5県を含む39県で解除した。解除基準は、「直近1周間の新規感染者数が人口10万人当たり0.5人以下程度」になっていることを基本条件に総合的に解除する、というもの。しかし、ゴールデンウイーク以降、PCR検査などの検査数が減少している中でのこうした解除基準は、医学的・感染症学的・科学的には根拠がない、感覚的なものに過ぎない。再度、緊急事態を発出しなければならなくなるだろう。韓国や台湾で採用されている「GPS個別追跡型」のさらなる精緻化が必要だ。
本論に入る前に、朝日新聞が15日付の2面で、経済不安の解消に向けて舵を切った政府=安倍政権だが、首相が14日夜の記者会見で、「元の日常に戻りたいという気持ちがみんな強いと思うが、ワクチンや治療薬が出現するまでの間はある程度の長期戦も覚悟しながら、少しずつ進んでいくということだと思う」と述べたと報道。これは、首相がいわゆる「出口戦略」に自信がなく、非常事態宣言発出と解除の繰り返しを試行錯誤で行っていくしかないことを、首相らしくなく吐露した形だ。
※追記(2020年5月15日18時10分)
5月14日の専門家会議の報告内容については、次のサイト(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00093.html#h2_1)に本文・要約・訂正が掲載されています。
拝読して気になったのは、第一に、世界保健機構(WHO)のテドロス・アダノム事務局長の上級顧問で英キングス・カレッジり渋谷健司教授が5月15日朝日新聞2面で、「日本はPCR検査数が少なく、感染可能性の高いサンプルを選んで検査しているため、感染者数を過小評価している懸念がある。専門家会議が検査体制の重要性に言及したことは歓迎したい」と述べているが、これは当たり前のことである。安倍首相は2月の初めから検査体制を充実すると述べているが、「検査数を増やす」とは言っていない。これは、「ヤルヤル詐欺」に等しいし、専門家会議が3カ月後の今頃、検査体制の充実の必要性を主張し始めたことについては大いに問題だ。
第二に、検査体制の整備の一環として「抗原検査」を持ち出してきたが、血液検査で感染履歴が分かる抗体検査については全く触れていないことだ。第三に、下記に期した実効再生産指数については詳しく試算してはいるものの、「緊急事態措置の解除の考え方」の項目の中では①新規報告数(直近1周間の新規感染者の報告がその前の1周間報告数を下回っており、減少傾向が確認できること)②直近1周間の10万人当たりの累積新規感染者の報告数が0.5人未満程度−を指針として挙げるにとどまっていることだ。これらの結果として、新型コロナウイルスの実効再生産指数が高々1以下にとどまり続けることが重要と思われるが、そのことへの言及が見当たらない。
第三に、集団感染地帯(クラスター)の例としてキャバレー等の接待を伴う飲食業、ライブハウス、バー、スポーツジムをやり玉に挙げているが、最も重大なクラスターとして真剣な対処が必要である医療機関、高齢者、障害者用の介護施設への言及がないことである。第四に、国民に対して「行動変容」を押し付けるだけで、政府や専門家会議がPCR検査などの検査の必要性やその実態を分析してこなかった真の原因についての言及がないことである。変容を求められているのは、多くの指揮者が指摘するように国民ではなく、政府=安倍政権とその意向を忖度し続けてきた専門家会議である。
感染拡大の防止のためには、実効再生産数(社会で免疫を確保した人の割合を考慮して、1人の感染者が実際に他の人を感染させる人の数)が1を下回ることが絶対に必要だ。朝日デジタルが2020年5月14日20時58分に投稿した「東京などの宣言、首相『31日待たずに解除も』」と題する記事によると、緊急事態宣言の解除についての記者会見に同席した専門家会議の尾身茂副座長は、次のように語っている。
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「1番大事」として言及したのは、感染者数の推移と「直近1週間の新規感染者数が人口10万人あたり0・5人未満」という水準だった。ただ、尾身氏は「それだけを金科玉条とするのではない」と説明。感染者1人が(他の)何人に感染させるかを示す「実効再生産数」や、感染経路を追える状態になっているかも「当然、参考にする」と述べた。
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まず、ゴールデンウイーク以降、感染確認者が減少しているように見えるのは、PCR検査数自体が減少しているためだ。検査数が減少すれば感染確認者も当然、少なくなる。また、PCR検査は他の検査に比べても精度は高いほうだが、「陽性」なのに「陰性」と判定する「偽陰性」が多い。逆に、「陰性」なのに「陽性」と判定する「偽陽性」のケースも少なくない。だから、「直近1週間の新規感染者数が人口10万人あたり0・5人未満」といっても、信頼性は高くはない。このため、1人の検査対象者に対して何件も検査する必要が出てくる。「偽陰性」の場合が多いから、陰性判定が出ても複数回検査する必要があるし、抗原検査・血液検査で可能な抗体検査も併用して、国内感染の実態を正確に掴む必要が欠かせない。必要がある。
なお、抗体検査は血液検査で可能で、感染歴を調べることができる。これについて、朝日デジタルは2020年5月15日7時00分に投稿した「感染者、どれぐらい? 抗体検査の結果が示すもの」と題する記事で、抗体検査には精度の問題がありそのままでは鵜呑みにできないものの、「感染歴を調べられる抗体検査に、独自に取り組む医療機関が国内で出てきた。検査数はまだ少ないが、自治体が把握する感染者数よりも大幅に感染が広がっている可能性を示唆するデータもある」として、抗体検査の結果について報道している。
それによると、「大阪の一般市民の1%程度が、新型コロナに対する抗体を持つ。大阪市立大は1日、こう推察する研究結果を発表した。神戸市立医療センター中央市民病院も2日、3月31日~4月7日に一般外来を受診した患者1千人の抗体を調べ、33人が陽性(3%)だったと発表した」という。大阪市によると、令和2年4月1日現在の大阪市推計人口は2,746,983人で約275万人だから、その1%は2万7500人。人口10万人当りでは、27.5で割ればよいから、1000人程度になる。神戸市の場合は単純計算で、3300人。公表値と桁が大幅に異なるので、信頼性は低いだろうが、逆に言えば、厚労省や都道府県の公表値は抗体検査による感染者数との整合性も問われることになる。
下図は昨日、専門家会議が公表した資料から取ったものである。
専門家会議の公表値では、①新規報告数:直近1週間の新規感染者数が前週を下回る②直近1週間の10万人あたり累積新規感染者数:0.5人未満程度−としており、今回の緊急事態宣言解除の根拠になっている。しかし、重要なのは人口10万人あたりの直近1周間あたりの累積感染者数ではなく、やはり、新型コロナウイルスの実効再生産数であろう。確かに、専門家会議では実効再生産数の重要性を指摘し、その計算の結果も示している。
しかし、同時に、「感染者数が少ない場合、実効再生数の増減は大きくなる」との指摘も行っている。これは、大きく言えば、感染者数そしてその基になるPCR検査数が少なければ、実効再生産数は信頼のできないものになるということであろう。やはり、新型コロナウイルス拡大防止と経済社会活動の両立のためには、大前提として信頼できる実効再生産数を計算し、1よりかなり低い水準まで引き下げる必要があろう。また、PCR検査数を一桁は増やして国内の感染者数をより正確に把握し、実効再生産数の最新の数値も非常事態宣言発出・解除の数値目標に含めるべきだろう。
そのためには、①財政の大胆な支援で、医療機関の防疫体制を確実なものにし、赤字に陥っている医療機関に救済の手を差し伸べ、まず、瀬戸際で医療崩壊を防ぐ②財政措置を講じたうえで、PCR検査など可能な限りの検査手法を用いる必要がある。これに加え、それらの併用を行い、迅速で正確な検査のできる体制を完備する(かかりつけ医=主治医=と民間の検査機関の連携による検査能力の拡充)③財政措置によって、真の集団感染地帯(クラスター)である医療機関、介護施設(高齢者および障害者)の検査をもれなく実施する④財政措置を講じて「疑わしき者」は検査することとし、「保健所の帰国者・接触者相談センター」を間に介在させないようにする④新自由主義政策によって「医療の民営化」を徒に行ってきたことの誤りを真摯に反省し、新自由主義抜本的に政策を改め、廃止する−ことが重要である。「公でしなければならないことは、公でする」。
これらによって、信頼性の高い実効再生産数を獲得することができる。他に講じるべき策として次のものを挙げることができる。
第一に、経済活動との両立が必要であるが、そのためにも感染が拡大しないように、スマートフォンを使って感染危険地域を知らせる。この点も、情報工学との連携が必要であり、積極的な財政措置が必要である。また、国民の自覚が必要である。そもそも、「営業自粛と自宅待機」は感染症対策の基本である「検査と隔離」とは無縁である。「営業自粛と自宅待機」は、これを緩めれば元の木阿弥に戻り、感染の再拡大が必ず起きる。韓国でも夜のクラブで集団感染が発生し、対策に追われている。
第二に、新型コロナウイルスは構造上、変異を遂げる。残念ながら、感染拡大能力強化と毒性強化の方向へと変異しているようだ。例えば、台東区の中核病院である福寿総合病院では血液内科の入院患者48人のうち、22人が感染死亡したことが確認されている。このため、新型コロナウイルスに関する正しい情報提供が必要である。
第三に、日本国憲法第24条(国民の生存権の保証)、29条(国民の財産権の保証=営業活動の自由=)により、政府は積極的な財政支援措置を講じて、経済社会の安定を保証しなければならない。ただし、新型コロナウイルス拡大防止のため、財政支援をむやみに続ける一方で、経済社会の動きを止めることは、生産・在庫の縮小につながり、最終的には大不況下でのハイパーインフレーションを招く。大規模なスタグフレーションの到来になる。このため、感染拡大防止と経済社会の維持の両立を実現できる「抜本的対策」を打ち出さなければならない。それが、「GPS個別追跡型」の精緻化である。それには、医学、感染症学、遺伝子工学、情報工学の真の専門家の結集が必要であり、国民の主体的な自覚が肝要だ。
なお、本日15日には衆院内閣委員会で出席を拒んでいた森雅子法相が出席、「検察庁法改正案」の審議を再開する。しかし、政府=安倍政権は同委員会での採決は強行することにしている。これに関して、広島地検は、河井克行元法相・案里参議院議員の公職選挙法違反による逮捕・起訴に向けての準備が固まったとの情報がある。河合陣営には安倍総裁側から多額の資金援助があったとの指摘もあり、その場合は首相側も追及の手が及ぶ。国会開会中だから、議員は逮捕できないが、事務所・後援会の幹部は逮捕できる。
そのために、強行採決を急いでいると思われる。ただし、強行採決が衆院内閣委員会で行われれば、自動的に衆院本会議で可決の運びとなる。その後、参院の内閣委員会に法案を回すことになるが、広島地検の動きが大きくなれば、検察庁改革法案の審議の行方にも影響する。その可能性は期待したいが、黒川東京高検検事長の巻き返しで、広島地検の動きが封じられる可能性も限りなく大きい。同法案が国会で成立することになれば、来年秋までの総選挙がカギを握ることになる。三権分立制度が完全に崩壊するか否かの瀬戸際に立たされていることを自覚する必要がある。
※追記(5月15日午後1920分)
野党4党が武田良太・国家公務員制度担当相の不信任決議案を衆院に提出したため、本日の検察庁法改正案の採決はなくなった。ただし、数の力で不信任決議案は否決されるから、広島地検が動かない限り、自公の強行採決→検察庁法改正案成立の可能性は高い。
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