東京都を含む残る7都道府県の「非常事態宣言」解除の予定は今月末だが、経済活動を急ぐため早まる可能性もある。しかし、政府=安倍晋三政権や東京都、大阪府が提示している解除基準は医学的・感染症学的・科学的根拠に基づくものではないため、新型コロナウイルス感染拡大阻止と経済活動再開の二兎を追っても二兎とも逃すだろう。東大先端科学技術研究センタープロジェクト・チームリーダーの児玉龍彦教授は、精度を高めた最先端の抗体検査機器・技術を使い、PCR検査とも組み合わせて自覚症状のない感染者も含め、検査→隔離→治療を早期に進め、GPS個別追跡型システムを本格導入して感染拡大阻止と経済活動再開の両立を図るべきだと指摘している。
本論に入る前に、昨日5月18日午前8時50分に内閣府が発表した2020年第1・四半期の国内総生産(GDP)統計について触れておきたい。統計では、実質GDP増加率(実質経済成長率)は前期比マイナス0.9%(年率換算でマイナス3.1%)、名目GDP増加率も前期比マイナス0.8%(同3.4%)になった。第2・四半期は感染拡大が本館的になり、非常事態も宣言されたため、さらに落ち込むと見込まれる。
朝日デジタルが2020年5月18日11時30分掲載した「1~3月期実質GDP、年3.4%減 消費落ち込み影響」と題する投稿記事によると「(今回の)1次速報に基づく2019年度の実質成長率は、前年度比0・1%減だった。年度を通してマイナスになるのは、消費税率が8%に上がった14年度の0・4%減以来、5年ぶりだ。19年度の実質成長率について、政府は、0・9%程度とする経済見通しを今年1月に閣議決定している。この数字は(2020年度)税収見積もりの基礎となっており、大幅な下ぶれは今後の財政運営をいっそう難しくしそうだ」という。
2020年第2・四半期の実質経済成長率は年率換算20%以下のマイナス成長とリーマンショックを上回る落ち込みの予想も出ている。万難を配して、コロナ禍対策と経済激落阻止のため、第二次補正予算案の策定を急がなければならない。政府=安倍政権は秋の臨時国会で検察庁改革法案を強行採決しようとしているが、遅くとも秋にはコロナ禍の第二波が押し寄せるとの見方も根強い。そもそも、「長期戦を覚悟しなければならない」と言明したのは、安倍首相ではないか。悪法強行採決を急ぐ理由は何ひとつない。しかし、安倍首相の良く言えば「信念」は変わるべくもないから、「安倍時代」の終わりの始まりがついに訪れたと見るべきだろう。
今回の実質、名目双方の国内総生産の落ち込みは新型コロナウイルス感染拡大によるものだが、初動対策を含むコロナ禍対策が拙劣だったことも災いしている。「営業自粛・自宅待機」だけで感染拡大が収束するとは思われないし、そもそも経済協力開発機構最下位クラスのPCR検査数では国際的に信用されないうえ、世界保健機構が勧告する「検査・隔離」にもならない。ましてや、早期に感染を発見し、早期に治療を行い、早期回復に向けての順を追った対策も示されていないから、経済活動の両立にもつながらない。
非常事態宣言の解除は、経済活動の再開を優先したもので、医学的・感染症学的・科学的なものではなく、情緒的・感覚的な内容だから「二兎追うものは一兎も得ず」という最悪の結果をもたらし得る。この状況に対して、新型コロナウイルスの論理・実証的研究をもとに抜本的なコロナ禍対策の転換を迫ってきたのが東大先端科学技術研究センタープロジェクト・チームリーダーの児玉龍彦教授である。デモクラシータイムスが昨夜、5月19日の夜にYoutubeで公開した。
結論を先取りして言えば、東大、阪大など全国の主要大学で導入、計測を開始している抗体の定性的、定量的分析が可能な最先端の抗体検査機器を最大限に活用、基本的には「疑わしき者は検査する」の方針を根本に据えるということである。条件が整えば、法人や学校、自治体、霞が関官庁の定期健康診断にも取り入れるべきだ。
具体的には、①抗体検査とPCR検査を併用して、患者さんの感染の段階、状況を早期に把握する②感染していること、そして、感染の段階が特定できれば、直ちに症状に応じた適切な医療処置施設で適切な治療を開始する③経過観察を行うとともにデータを大規模なデータベースに格納し、「マイナンバーカード」に紐付けられない形でストック、管理・運用を信頼のおける専門家に委託し、コロナ禍対策のためだけの新たな個人情報保護法を制定し、感染者および感染者集団(クラスター)の同意を得たうえで、国民に最適な行動様式を提供する④社会インフラを担う国民の方々は感染を避けられるよう、優先的で徹底的な指導体制を確立する−ことなどだ。
以上の内容を図にしてまとめると、次のようになる。
本投稿記事では、①政府=安倍政権や東京都などの地方自治体のコロナ禍対策の問題点を緊急事態宣言の解除条件に合わせて紹介すること②コロナ禍による死亡率の低い日本を含む東アジア諸国の国民がある程度、新型コロナウイルスに耐性(免疫力)を持っていた可能性があること③判明してきた新型コロナウィルスの特性④症状の段階に応じた治療方法の在り方−などをスライドのキャプチャ画像を使って説明したい。まずは、政府=安倍政権、東京都の非常事態宣言解除要件の問題点から紹介したい。まず、政府=安倍政権の解除要件から。こちらでは正式な公表はないようだが概ね、次の条件が解除要件になっていると思われる。
次に、小池百合子率いる東京都の解除要件だ。
これらの解除要件=基準では、何故感染拡大が防止できるのか、明確な医学的・科学的根拠が不明だ。これらの基準が達成できなくなれば、また「緊急事態宣言」を発出するという。要するに、責任は「国民」にあるということになるわけだ。
これでは、政府=安倍政権の豪華客船のダイヤモンド・プリンセス号のコロナ禍対策が完全破綻し、世界の主要国がチャーター機などを使って自国民を救出、日本国が国際的信用が失墜した二の舞になりかねない。同船での対策が何故失敗したかについては、政府のさる筋から依頼されて同船に乗り込んだものの、2時間足らずで追い出された感染症の専門家である神戸大学出身で現在、千葉県亀田総合病院の総合診療部長・感染症課部長の岩田健太郎医師・神戸大教授の著書「新型コロナウィルスの真実」に詳しい。基本的には、厚労省及び同省系専門家の官僚的「絶対無びゅう説」にあるとのことである。要するに、自己の信念のみが正しいと過信し、他者の正論を受け付けないし、正論と判断できる能力にも欠けるという精神構造の持ち主であったことが原因とのことだ。このクルーズ船の全国化を招きかねない。
政府=安倍政権、東京都の宣言解除要件=基準には、次の問題点がある。第一に、PCR検査などの最先端の検査が圧倒的に少ないこと。これは、政府=安倍政権が新自由主義に基づいて「医療体制の合理化」を大義名分に、政府直轄の保健所(政令指定都市や中核市に存在する保健所、厚労省直轄)と他の地方自治体直轄の保健所を最も多かった時期の半分程度に減らしてきたことが直接の原因だ。これに関して、地方自治体が管轄する都立、市立病院など。の統廃合を勧めてきたことも災いしている。
行政検査だったため、検査数に限りがあった。加えて、政府=安倍政権、小池百合子率いる東京都はオリンピックの強行開催を最上位目標に置いた。当然のことながら、「感染者数」を少なくしたいという誘引が働く。それで、集団感染地帯(クラスター)対策に力を入れざるを得なかったが、結果として最も重要な医療機関破綻を招いてしまった。下図は、集団感染地帯が医療機関や介護施設(高齢者、障害者)、警察などに集中していることを示している。東京都など地方自治体は、接待を伴う飲食店やパチンコ店、スポーツジムなどを目の敵にしているが、集団感染地帯を間違って「理解」している。
第二に、「自宅待機=ステイホーム」は感染症学的に言えば、「隔離」でも何でもなく、むしろ集団感染の温床になる場合が多かったことである。家庭が感染の温床になったとの報道があとをたたない。第三はこれに関連して、社会のライフライン防衛策がなかったことである。ライフラインの最大のものは、医療機関である。政府=安倍政権が十分な財政措置を講じなかったから、医療機関は貧弱な「防護服」や感染防備品のもとで、決死の覚悟で患者さんに対処する他はなかった。その煽りで、一般の医療機関は外来患者の受け入れを拒み、医療機関は大幅な赤字を余儀なくされ、外来患者は満足な診察を拒否されてしまった。
第四は、感染症対策のゴールは抗ウイルス剤とワクチンの開発である。しかし、「専門家」と称する「専門家集団」の見解では、その過程が分からない。西に東に効きそうな薬があると話があれば、治検もそこそこに、特例制度を使って緊急利用する。しかし、その裏でアビガンなど早期の症状に効く薬は横流しされているようだ。
上図のように、現段階での症状に応じた投与薬を勧告するのが専門家会議のひとつの仕事ではないのか。もちろん、投与薬は経験に応じて変更する必要がある。さて、このところ日本では新規感染者数が少なくなってきている。これについては、ゴールデンウイーク前後から厚労省のサイトを見て保健所などへの相談数やPCR検査数が少なくなっていることが大きな理由と考えていたが、どうもそれだけではなさそうだ。
児玉教授によると、東アジア地帯には新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に似たウイルスが過去に存在し、そのウイルスに対する免疫力があったことから、その免疫力が生かされているのではないかという仮設を立てている。
ただし、そうは言ってもSARS-CoV-2と過去のこれに似たウイルスは異なるから、SARS-CoV-2に対する徹底的な研究が必要なことは言うまでもない。その中で分かってきたことは、SARS-CoV-2に対するヒトの免疫力の働き方がこれまでのウイルスとは異なるということである。そして、そうした新たな免疫の働き方を、東アジアの諸国民が獲得しておいたのではないか、ということだ。通常のウイルスに対するヒトの免疫力は次のようなものになる。B型肝炎の例。なお、これらの実証的研究はPCR検査ではなく、定量的、定性的な検出が可能な最先端の抗体検査機器によって得られたものである。
従来の場合は、IgMの産生が早く、IgG抗体を経てウイルスに完全な免疫を持つ中和抗体が産生される。しかし、SARS-CoV-2の場合は、IgMの立ち上がりが遅く、弱いという。さらに、逆にIgMが早期に上昇する場合は、重症化する場合が多かったという。これは、IgMという抗体がかえってヒトの人体を攻撃するようになるからだという。中和抗体の産生に関してはよくわからない。
いずれにしても、新型コロナウイルスに対する抗体反応を定量的に検査しなければ、同じ新型コロナウイルスに感染したとしても、正しい診断と治療法は分からないということである。現在、市場には数多くの抗体検査キットが発売されているが、定性的な判断しかできないものばかりで、IgMやIgG、中和抗体などの定量的な分析ができる高精度な抗体検査ツール装置が必要であるとのこと。現在、東大をはじめとした全国の有力大学に導入され、精力的な実験が進められつつあるという。なお、萩生田光一文部科学相の指導不足の声もある。
東アジア地域の諸国民には、上図のようにSars-Xというウイルスに対する免疫力が獲得されていたのではなかったかというのが、児玉氏の仮定。いずれにしても、精密な定量分析のできる抗体検査の役割は重要であるという。
こうした抗体検査とPCR検査を併用してこそ、新型コロナウイルス感染患者の実情を把握し、症状に応じた対応が可能になるという。また、抗体検査は基本的に血液検査であり、しかも、こうした高精度の抗体検査装置の国産・輸入数量も増加しており、検査数を飛躍的に増やすことができるという(現在、1台で1日当たり500件の検査が可能と言う)。PCR検査にはある薬品が必要であり、その数量に限りもあるから、検査の隘路をなくすためにもまず、症状がない場合は抗体検査を行い、必要に応じてPCR検査を併用すれば良いとのことである。
医学的・感染症学的・科学的根拠に基づかない「新型コロナ感染症対策」をいくら講じても成果は出ない。偶然に期待するのがせいぜいのところだ。暑い夏が過ぎると、必ず第二波、第三波が襲うとの識者も多い。
医療機関の再建をはじめとして、今の間に十二分の財政措置の裏付けのある新型コロナ感染症対策、派遣切りや家賃対策、学生対策を含め経済社会再建策を緊急に講じておくべきだ。検察庁改革法案、種苗法改革法案(借り入れで確保した種子も多国籍企業のものになる)、スーパーシティ構想(首相と自治体の首長、利権主義起業家からなる住民会議区域会議が管理社会を築くための構想)実現のための国家戦略特別区域法改正法案、老後の生活設計に甚大な影響をもたらす年金制度改革法案などは、新型コロナウイルス感染拡大が収束してから議論すれば良い。