現代貨幣理論を正しく創造的に適用すればハイパー・インフレ、円の暴落は起きないーコロナ、菅政権のマッチポンプか

現代貨幣理論(MMT)はケインズ理論を正統的に発展させたものだが、日本においては「財政再建原理主義政策=緊縮財政」を長期にわたって続けてきた結果、20年にわたるデフレ不況が起こってきた。また、現在新型コロナウイルスの第三波が襲来しているとの見方が大勢をしめるようになったので、「大胆な積極財政」への抜本転換が絶対的に必要になっている。しかし、MMTに対しての無知、一知半解の知識から、ハイパーインフレや円相場の暴落を引き起こすとの誤解がある。これらの方々にはMMTを正しく理解する努力を求めたい。

11月13日土曜日コロナ感染状況

本日11月13日金曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では午後15時の速報値で新規感染確認者は1週間前の6日水曜日の242人より132人も多い374人(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)、東京都基準の重症者は前日と変わらず39人だった。東京都のモニタリングhttps://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は288.1人、PCR検査人数は4740.4人だから、陽性率は6.08%。東京都独自の計算方式でも5.8%。感染者のうち感染経路不明率は57.78%だった。陽性率が6.0%前後になっている。
全国では午後23時05分の時点で新規感染確認者は既に昨日を上回る過去最多の1705人死亡者は15人確認されている。NHKによる都道府県別の感染者数はこちらです。1112日時点の実効再生産数は全国が前日比0.02人増加してと1.42人、東京都では前日比0.02人増加の1.36人と急激に悪化している。
東京都よりも全国の感染状況が悪いのが気になる。菅政権は感染拡大防止を主張しながら、「Go To トラベル」を止めない。これが、北海道や沖縄で感染が拡大していることの一つの大きな理由だ。そして、1兆円規模の多額の予算をかけて全国民に安全性が確認されていないワクチンを強制接種しようとしている。マッチポンプであることが濃厚だ。
【参考情報】ブルームバーグによると、新型コロナウイルスに90%効くワクチンを開発したというファィザー社の「アルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)は、保有する自社株の売却(60%)で約560万ドル(約5億9000万円)を手にした」https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-11-11/QJN4I1T0AFB901)という。

サイト管理者(筆者)が尊敬しているある日本で最も有力な政経アナリストがおられる。その方は、MMTを批判している。次のように主張しておられる。
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近年MMT論議がかまびすしい。通貨発行権を有する一国政府が国内で国債を発行、消化する限り、財政赤字を拡大することに問題はないとする主張が展開されている。いくらでも財政赤字を拡大させて、市民に対する財政支出を拡大するべきとの主張が唱えられている。しかし、この主張に傾きすぎることは適正でない。市民は無制限、無尽蔵の財政赤字拡大に賛同しない。他方、経済理論の視点から見ても、この主張は正当性を有しない。極端な事例を考察することによって本質が見える。

日本で政府が国債を増発し、その国債を全額日銀が引き受けて財政支出を拡大するケースを考察する。すべての国民に1人1億円の現金給付を行う。財源は国債発行により、その国債を全額日銀が引き受けることとする。赤ん坊からお年寄りまで、すべての国民に1人1億円の現金が配られる。財源は国債発行で、日銀がすべての資金を融通する。国債追加発行額は給付人口が1億人なら1京円ということになる。この施策を実施すれば、確実に物価水準が上昇する。インフレが誘発されることになる。
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というものだ。

しかし、現代貨幣理論(MMT)は「いくらでも財政赤字を拡大させて、市民に対する財政支出を拡大するべきとの主張」を唱えているわけではない。MMTも国庫短期証券や一般会計での赤字国債、建設国債などの発行には明確に上限を定めている。本サイトでも述べてきたように、「インフレ率」だ。インフレ率が制御不能になるような極端な規模の国債の発行を許容しているということはない。この点については、サイト管理者(筆者)が投稿した次の記事をご覧頂きたい。

現代貨幣理論の提唱者のひとり・ニューヨーク州立大学のスステファニー・ケルトン教授
現代貨幣理論の提唱者のひとり・ニューヨーク州立大学のスステファニー・ケルトン教授(Wikipedia)

ただし、1京円とまではいかくなても、大規模な赤字国債を発行すれば制御不能なインフレに陥る、だから、MMTは間違った理論だとの批判があとをたたない。上記の投稿記事で不足していた内容を取り上げ、この批判に応えておきたい(藤井聡著「MMTによる令和」『新』経済論参照)。これらの批判を紹介する。

  1. 日銀の原田泰新議委員は(中略)「現代貨幣経済理論(MMT)に否定的な考えを示した。「必ずインフレが起きる」。(提唱者は)インフレになれば増税や政府歳出を減らしてコントロールできると言っているが、現実問題としてできるかというと非常に怪しい(日本経済新聞2019年5月22日)
  2. MMTの提唱者は「(極度の)インフレにならない限り、財政赤字は問題ない」と主張するが、増税や歳出削減には法律改正や政府予算の議決が必要で、それほど機動的に変更できるわけではないから、インフレ加速の危険性が明らかになってから財政赤字を削減しようとしても間に合わない可能性が大きい(東洋経済ONLINE、2019年4月28日、櫨 浩一(はじ こういち)ニッセイ基礎研究所専務理事
  3. 予算というものは、一度、それを作ったら、それを前提とした様々な社会構造が出来上がり、変更するには多大な経済的社会的コストを要するうえ、民主主義社会においては政治的コストも膨大で、インフレ率を見て突然変えるなどと言うことは到底出来っこないものなのです。(朝日新聞社系列のオピニオン誌・論座2019年5月16日、米山隆一前新潟県知事。弁護士・医学博士)

そして、これらの批判に共通しているのが、米国の財政学者でノーベル賞受賞者のジェームズ・マギル・ブキャナン(1919年10月3日 – 2013年1月9日)の「財政赤字の政治経済学」で展開された財政思想だ。大要は、「民主主義(社会)においては、政治家が人気取りの減税や公共事業などの『バラマキ』に走りがちで、その結果、財政赤字が膨らんでしまう。これを防ぐためには、我々知的エリートが財政の規律を正すため、無知蒙昧でエゴイズムに染まった大衆を善導していかなければならない」というものだ。

このブキャナン「理論」が世界各国に及ぼした悪影響は大きく、ミルトン・フリードマン(ノーベル経済楽章受賞)を開祖とする新自由主義とともに、先進諸国の政府や経済協力開発機構(OECD)や国際通貨基金(IMF)などの国際機関がケインズ理論否定の経済運営を否定するようになった。ただし、OECDやIMFには各国政府の官僚が出向しているから、国際機関の「権威」で、不況下にあっても財政再建原理主義政策=緊縮財政を強要することになってしまう。これは、国民や住民を軽蔑する一種の「悪しきエリート主義」に他ならない。

ブキャナン「理論」をも含めたMMT批判は正しくない。財政(税制)によるインフレの調整は可能である。まず第一に、政府予算には当初予算と補正予算がある。補正予算は増額することも出来れば、減額することも出来る。つまり、補正予算の制度を効果的に利用すれば、年度を通じての財政規模を調整することができる。また、当初予算も補正予算も調整が効かないというのであれば、それは日本国憲法第83条「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」の財政民主主義を否定するものだ。また、ブキャナン「理論」が通用するのは、政府が愚民化政策を行っている場合だ。

国民の倫理・道徳の向上に努めるとともに、中高の公民や大学の教養過程で財政(税制)とインフレの関係を正しく教育していれば、インフレが度を超しそうになれば、財政を調整しなければならないなどのことは、国民は容易に理解できる。ブキャナン理論は国民(民衆)をエゴイズムで凝り固まった無知蒙昧な人間と見ており、その根底には「性悪説」がある。人間には「性善説」的なところもあり、「性悪説」的なところもある。これを前提にして、国民を正しく導いていくのが真の教育の在り方だ。なお、いわゆる「エリート」には「高貴なる者の義務(ノブレス・オブリージュ=Noblesse Oblige=)」というものがあって、当然だ。

果たして、現在の菅義偉政権に高貴なる義務をもった閣僚・官僚が如何ほど存在するのか。菅首相は、内閣人事局を用いて国民が求めてもいないことを平然と行っている。例えば、「ふるさと納税」の問題点を指摘した総務省の官僚は更迭する。これでは、優秀な官僚であっても、その能力を発揮できず菅首相の意向を忖度せざるを得なくなる。ニュースサイトのリテラ(https://lite-ra.com/2020/11/post-5697.html)によるが、NHKの10月26日の「ニュース・ウオッチ9」で、有馬嘉男(ありまよしお)キャスターが日本学術会議会員任命拒否問題で「あの、多くの人がその総理の考え方を支持されるんだと思うんです。ただ前例に捉われない、その現状を改革していくというときには大きなギャップがあるわけですから、そこは説明がほしいという国民の声もあるようには思うのですが」と、菅首相を忖度しながらもやや遠慮気味に突っ込んだ質問を行った。

これに対して菅首相は「説明できることとできないことってあるんじゃないでしょうか。105人の人を学術会議が推薦してきたのを政府がいま追認しろと言われているわけですから。そうですよね?」と日本学術会議法違反であることを認めたうえで、逆ギレし、国民が納得できる理由も説明しなかった。そのうえ、山田真貴子内閣広報官がNHKと官邸との「窓口役」と言われる原聖樹政治部長に対して「総理、怒っていますよ」と電話をかけてきたという。これで、これまで時の首相を忖度し続けてきたNHKが大騒ぎになっているという。菅首相が「高貴なる者の義務」を持ち合わせているだろうか。

さて、インフレをコントロールする第二の手法は、「財政(税制)のビルト・イン・スタビライザー(景気の自動安定化機能)」機能だ。所得税や住民税、法人税の累進性を適正なものにしておけば、好況時には税収が増え、インフレの抑制に大きな役割を果たすことができる。現在は、新自由主義政策の下に、所得税や住民税の累進性が大幅に簡素化されており、利子所得課税は低率の分離課税だ。法人税には累進制度が導入されていない。しかも、法人税率は引き下げられる一方だ。また、消費税には政府の意向を忖度する新聞社などには軽減税率(といっても8%)があるが、基本的には一律の税率(10%)であり、欧州の付加価値税のような複数税率は存在しない。欧州では食料品など生活必需品などの付加価値税率はゼロ%近くに抑えられている。

これでは、「財政(税制)のビルト・イン・スタビライザー」の機能は働かない。応能原則が取り入られていないことと重複しており、税制の抜本改革が必要な大きな理由のひとつである。サイト管理者(筆者)は消費税廃止論者だが、かつての物品税のようなものを復活して、高率の物品税を課するという手もある。

インフレ率を調整する第三の方法は、金融政策を効率よく実施することだ。これがまた、機能していないのが日本の現状だ。量的金融緩和政策という「金融政策」の目的はインフレ率を2%に引き上げることだが、導入してから10年程度経つのに、目標は達成できていない。財政民主主義の確立(第二次補正予算時の予備費10兆円)というのは、財政民主主義に反する)や財政(税制)の抜本改革によるビルト・イン・スタビライザー(景気自動安定化)機能、正しい金融政策の実施などによって、激しいインフレーションは防げる。

ハイパー・インフレーションが起きるのは、戦争や天変地異によって、経済の供給能力が大幅に毀損された場合で、第一次大戦後のドイツや太平洋戦争の終了後の日本がそれに当たる。また、戦後ハイパー・インフレーションに陥ったのは、ジンバブエやザイール、ベネズエラなどの生産能力が存在しない発展途上国に限られる。MMTが提唱する政策によってインフレが制御不能になった事例は、もちろん採用されたことがないから、存在しない。けれども、日本は需要不足がデフレの根本原因になっていること、さらには、コロナ禍に見舞われていることから、MMTの正しく創造的な適用が必要な状態だ。日本は世界各国の中でも、断トツに国内総生産(GDP)成長率が低い。

世界各国のGDPランキング(藤井聡著「MMTによる令和『新』経済理論」位置NO.671)
世界各国のGDPランキング(藤井聡著「MMTによる令和『新』経済理論」位置NO.671)
高深刻化する日本
高深刻化する日本

こう見てくると、MMTの批判に対してインフレ懸念を持ち出してくるのは、デフレ不況が続いても良いと考えている考え方の持ち主ということにならざるを得ない。しかし、あまりにデフレ不況が長期化すると、企業の生産設備が陳腐化・老化してくるから、供給能力にも問題が生じてくる恐れさえある。デフレ不況の長期化は現在、そして将来の日本国民に著しい被害を与える。

次に、インフレによって為替市場で円相場が暴落するという懸念もある。為替相場の厳密な決定論は経済学者で探求中だが、大まかな理論としては「一物一価の法則」に基づいた「購買力平価説」が今なお、有力である(https://gentosha-go.com/articles/-/7127)。これは、「カッセル(1866〜1945年)が提唱した理論で、為替レートは2国間貨幣のそれぞれの国での購買力の比率によって決定されるというもの」。円ドル相場の場合は、次の式で計算される。

購買力平価説
購買力平価説

基準時点は通常、日米ともに経常収支が均衡していた1973年を使うことが多い。物価指数としては、消費者物価指数(CPI)と輸出物価指数を使うかによって変わってくるが、現実の為替相場(レート)はその間に収まっている。

日本が戦争や大規模な地震、大規模な原発事故によって生産設備が破壊されない限り、円が暴落するなどということは有り得ない。なお、輸入に頼っているエネルギー価格や食糧価格の高騰などの要因で、コスト・プッシュ要因で「悪いインフレ」が起きる場合がある。そのためにも、技術革新が進んでいる太陽光や風力による再生可能エネルギーの供給体制を築くとともに、日本の農家を守るためにも、「種苗法改正案=改悪案」は国会の農水委員会を通してはならない。ただし、日本学術会議会員任命拒否事案とコロナ第3波襲来に目が注がれている中で、「種苗法改正案」がたいした議論もなく今臨時国会で成立してしまう可能性は濃厚だ。

これに対しては、➀日本学術会議会員任命拒否問題が国民の基本的人権を破壊する重大な事案である②コロナ第3波の襲来が国民の健康と社会経済を蝕む重大な事案であるーことを理由に、月内(下旬)と決まった集中審議をできるだけ前倒しする必要がある。立憲民主党の安住淳国対委員長は「高貴なる者の義務」の精神を持って、国会運営を野党側に有利に運ぶ責任がある。ガリレオは地動説の正しさを訴え続けたために死刑の憂き目に遭った。真理はいつも少数者側から誕生する。民主主義で「少数者の意見を尊重する必要がある」と主張しているのは、このためだ。現代貨幣理論(MMT)も今は激しい反対に遭っているが、同じことだ。ただし、少数派であったMMTの正しい理解者がこのところ、続出しているのは良いことだと思う。完全無欠な理論は、桃源郷の世界のことなので、正しく理解し、発展させることが必要である。

【追記:13日午後21時】立憲の枝野幸男代表と安住淳国対委員長が警察畑の杉田和博内閣官房副長官(官僚組織トップで日本版秘密警察組織の頂点に居ると見られている)に弱みを握られているとの観測が出ている。この観測が本当なら、本来なら学術委員会任命拒否事案とコロナ禍対策事案を「人質」にして、政府提出法案の審議を遅らせるべきだが、安住国対委員長はいつも実質的にゼロ回答しか持ち帰らない。もし、そうなら枝野代表と安住国対委員長は、「高貴なる者の義務」を果たして辞任し、代表選挙をやり直すことが筋論だ。取りあえずは、安住国対委員長を解任し、自民党の森山裕国対委員長に対して強い姿勢で交渉できる国対委員長を選ぶべきだ。野党共闘を組む各党の国対委員長は何をしているのかと言わなければならない。



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