コロナ禍対策脇役、「ポストコロナ?」本命の政府追加経済対策

昨日12月8日に政府=菅義偉政権の追加経済対策が閣議決定されたが、コロナ第三波襲来の前から検討されていたものだから、第三波襲来への対策は「脇役」に追いやられた。総事業規模は73兆6000億円だが、一般会計から財政支出する「真水」はの金額は、10兆円の予備費も含めると30兆6000億円程度と言われている。しかし、予備費は7兆円程度以下に減少している。さらに、第三次補正予算案の総額は一般会計で19兆円程度だから、実際の真水は19兆円に予備費残高を加えた25兆円程度の見込みで、このうち「コロナ禍対策」とされるものは6兆円程度。これではとても、第三波のコロナ襲来に対応することはできない。

12月8日水曜日コロナ感染状況

本日12月9日水曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では午後15時の速報値で新規感染確認者は1週間前の12月2日水曜日の500人より72人多い過去2番めの572人、65歳以上の恒例死者が過去最高の103人だった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。東京都基準の重症者は前日比1人減少の59人。政府対策本部分科会の尾身茂会長は午後の衆院予算委員会でステージ3段階の地方自治体はGo To トラベルを一時的に中止すべきだと強調した。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は445.1人、PCR検査人数は6509.4.人だから、陽性率は6.84%。東京都独自の計算方式では6.1%。感染者のうち感染経路不明率は55.65%だった。ステージ3/4の陽性率は10%。
全国では午後23時59分現在、新規感染者数は過去最多の2811人、死亡者は42人が確認されている。Go To トラベルの影響は濃厚である。
東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、12月8日時点の実効再生産数は全国が前日比0.03人減少の1.02人、東京都では前日比0.05人減少の0.98人となっている。実効再生産数は一時、上昇傾向に会ったが下落傾向に転じてきている。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

東京新聞のWebサイト(https://www.tokyo-np.co.jp/article/73225)によると、「追加経済対策の3本柱のうち肝心のコロナ対策は財政支出で5兆9000億円となり、コロナ後(ポストコロナ)の経済構造の転換(18兆4000億円)、国土強靭化(5兆6000億円)の残る2本柱(注:合計24兆円)の4分の1にとどまった」。コロナ禍対策の主なものは、➀PCR検査の強化とコロナ新型ワクチン体制の確立②医療体制の崩壊を防ぐための財政支援(緊急包括支援金の増額)③地方自治体へのコロナ禍対策として地方創生臨時交付金1兆5000億円の追加交付(ただし、使途には縛りがかけられており、その自由度は低い。なお、東京新聞調べによると、財政調整基金(貯金)が2019年度末の1兆9160億円から今年2020年9月末で65.5減の6601億円に激減している)ーなどからなる。

追加経済対策の内容を決めた経済財政諮問会議
追加経済対策の内容を決めた経済財政諮問会議

コロナ第三波の襲来によって、全国で感染者が急増しており、今回は中高年層にも拡大しているため、重症者、死亡者も第一波、二波よりも多い。維新政権の社会保障切り捨て政策のために医療体制に赤信号が灯っている吉村洋文府知事率いる大阪府や中核病院で大規模な集団感染(クラスター)が発生した北海道・旭川市では自衛隊に看護士を中心とする医療班の応援を要請した。首都圏や阪神圏、中京圏でも実際のところは医療体制が逼迫していると思われる。

これらの大都市圏では、飲食・サービス業界の営業自粛やさらには外出自粛まで要請している。このため、こうした自粛要請が日本経済のさらなる悪化を招いている。本サイトの次の記事をご覧いただきたい。

総務省の労働力調査10月分
総務省の労働力調査10月分

第三波のコロナ襲来を食い止めるためには、➀無症状感染者を発見して保護・隔離・治療するための大規模な面的PCR検査体制の確立②医療機関や高齢者介護施設、学校での集団感染を防ぐための、全国規模でのPCR検査の実施③電気・ガス・水道など社会インフラを支えるためのソーシャルワーカーへの大規模な検査➃医療体制を強化するための医療機関の損失補填⑤感染症学、遺伝子工学、計測工学、情報工学を使った精密医療体制の全国的確立⑤経済の落ち込みを防ぐための持続化給付金制度や休業補償のための雇用調整助成金制度の延長、生活支援金の定期的給付、社会福祉協議会による生活総合支援金の融資制度の延長(場合によっては、融資から支給への切り替え)ーなど思い切った対策が不可欠だ。

こうした内容は、コロナ感染拡大を防止し、経済の強力な下支えになる。内閣府では34兆円のデフレ・ギャップがあると試算しているが、20年以上にわたるデフレ・ギャップがつ続いているため、実際のデフレ・ギャップはもっと大規模なものであろう。プライマリー・バランス論と緊縮財政を提唱し、その司令塔になって、日本を長期デフレ経済に陥れさせた主犯格の竹中平蔵パソナ会長(東洋大学教授)でさえ緊縮財政政策は謬りであったと述べ、100兆円規模の国債を追加発行してもインフレにはならないと断言している。そんなことは、まともな経済政策の専門家なら既に承知していることだ。上記の政策を行い、大不況が恐慌に陥るのを回避して、経済再建への脱出を図るというのが、本来の追加経済対策の在り方だ。

なお、余談だが、竹中パソナ会長の発言の真意は、ベーシック・インカム制度の導入し、日本の社会保障制度(年金制度、健康保険=医療保険=制度、介護保険制度)を破壊して、代わりに外資がこれらの保険業務を実質的に代替させることだ。ただし、日本の社会保険制度を破壊することは実務上も国民感情からしても無理だ。それはさておき、竹中パソナ会長は、菅首相が設けた成長戦略会議(議長・加藤勝信官房長官)の民間議員に抜擢されているが、実質的な議長は竹中パソナ会長である。成長戦略会議には要注意であり、今回の追加経済対策にも手始めとして中小企業の再編・合理化対策が盛り込まれている。「今だけ、カネだけ、自分だけ」の風潮を蔓延させた竹中パソナ会長は即刻辞任すべきだ。

さて、政府=菅政権はコロナ第三波を全く意に介していない。それどころか、特定の業界・規模の観光会社や高所得層に利益を与えるGo To トラベル(相対的に少ない税金しか納税していない者たちが、税金によって利益を被る逆再配分政策であるというのが、Go To トラベル政策の本質)を来年6月末まで続けることにして4兆円ほどの財政措置を講じることにした。しかし、東京新聞12月8日付け3面では、Go To トラベルとコロナ感染の相関性が高いとする東大などのの研究チームの研究結果を記事を掲載している(Webではhttps://www.tokyo-np.co.jp/article/73050)。一部、引用させていただく。

政府の観光支援事業「Go To トラベル」の利用者の方が、利用しなかった人よりも多く新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を経験したとの調査結果を東大などの研究チームが7日、公表した。PCR検査による確定診断とは異なるが、嗅覚・味覚の異常などを訴えた人の割合は統計学上、2倍もの差があり、利用者ほど感染リスクが高いと結論付けた。
(中略)
調査に加わった津川友介・米カリフォルニア大ロサンゼルス校助教授(医療政策)の話
(中略)
実際にはGo To トラベル事業の利用と新型コロナウイルス感染が疑われる症状の有無には強い相関が示された。(中略)調査結果を踏まえれば、事業を中止する必要はないと思うものの、感染拡大が落ち着くまでは一時停止を検討すべきだ。(再開しても)「COCOA」の使用を義務付けるなど、感染拡大のコントロールと経済活性化の両立を可能とするような仕組みも採り入れる必要がある。

共同通信が今月5、6日に行った世論調査でも48.1%の国民がGo To トラベルに対して、「全国一律に停止すべきだ」、30.1%が「東京都も一時停止すべきだ」と回答している。本サイトでも繰り返し指摘しているように、新型コロナウイルス感染症を第Ⅱ塁相当の指定感染症に指定し、さらには、コロナの感染拡大力が極めて強いことを考慮すれば、コロナ感染拡大とGo To トラベルの実施は、矛盾の極みとしか言いようがない。政府=菅政権はコロナ禍など意に介していないと言わざるを得ない。通常の年末・年始どころではなくなる。

【追記】本日12月8日午後の衆院予算委員会で、政府コロナ対策本部分科会の尾身茂会長は「』ステージ3相当の地域は今の感染状況を打開するには『Go To』含めて人の動き、接触を控えるべき時期だ』と述べた。高齢者や基礎疾患がある人を自粛としている東京都の『Go To トラベル』について、すべての人を対象に一時停止すべきだとの認識を示した」(https://digital.asahi.com/articles/ASND942ZXND9ULBJ006.html?iref=comtop_7_05)。政府=菅政権は受け入れそうにない。

また、2021年度も5兆円程度の予備費を計上する意向だ。今回の追加経済対策は、巷間言われるような「ポストコロナ対策」が中心的な内容になっている。本サイトで繰り返し述べているように、これは財政民主主義に反する。今回の追加対策の内容を見ると、政府=菅政権はコロナはコロナ・ワクチンという「神風(かみかぜ)」に頼っている。「神風」が吹くことはないだろう。



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