日本一新の会・代表 平野 貞夫妙観

○ 『立憲政治を護る闘い』はこれからだ!

七月一日(火)、安倍自公政権は集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行った。この暴挙は、憲法九条に対する権力によるクーデタだけではなく、立憲政治へのテロ行為といえる。

何故、憲法が集団的自衛権の行使を許さなかったのか。それは国連憲章五十一条の立案経過を知っていた日本の指導者たちが、「不正な侵略戦争」に利用される可能性を危惧していたからである。ベトナム戦争など戦後史を知ればわかろう。安倍首相は「国際情勢の変化」を理由とするが、確かに「変化」があった。しかし、それは集団的自衛権の行使によって問題が解決できない情勢への変化である。

その変化は、グローバル化によって人・情報・文化などが国境を消した情勢になったことだ。紛争や戦争となれば人類の多くが受ける悲劇は計り知れない。憲法九条で世界の信頼をもつ日本が、智恵と外交力で世界の混乱を収めることこそ、「積極的平和主義」である。

情報によれば、安倍首相がこうまで急ぐ理由は、イラクで米国が参戦する事態を想定してとのこと。それを阻止できない公明党とは何であったか。結党五〇年という節目で、これまでの矛盾した政治行動を自爆させることになった。創価学会員を言い含めることはできても、国民を騙すことはできない。

わが国の議会政治の混迷に驚いているのは、首都東京に雹を降らした、お天道様だけではないようだ。六月二十六日(木)、二十七日(金)と立て続けに二人の報道記者が私に連絡をしてきた。朝日新聞政治担当のA記者と、共同通信政治担当のB女史で、二人とも「集団的自衛権の解釈改憲」が入り口だが、日本政治の根本問題について私から話を聞きたかったようだ。僅か二人とはいえ、諦めてはいけない。まだこの国に望みはある。

話の要点を、メルマガ読者諸兄に紹介しておこう。

(朝日新聞政治部A記者との懇談)

A氏は、「竹下内閣や海部内閣時代、自民党一強時代でも野党と徹底した話をした。国会も厳しい議論をした。国民も納得した」と昔話から始めた。「昨年の特定秘密保護法といい、今年の集団的自衛権問題といい、民意がまったく生かされていない。国会が役割を果たしていない事態をどう考えればよいか」と攻めてきた。

私は、「国会や政治の動きを正確に知りたいならば、単純に昔の国会と、今の国会の表側の動きだけを比較しただけでは駄目だ。動きの背景に何があったか、国民的合意をつくる核がどこにあったか、これらのことを知っておくことだ」と、まずはマスメディアの表顔姿勢を注意した上で、「僕が事務局日記をつけていた、昭和六十年から平成三年という時代は、自社五五年体制の崩壊期で、米ソの軍拡競争から冷戦終結、そして国連中心主義の時代だった。

内外の政治の軸が激変していて、政治家もマスコミも先が読めず、そんな背景からお互いの立場を超えて真剣に議論した。国会運営だけではなく、政局や政党のあり方などについて、与野党の政治家から意見を求められた。それを日記に残したわけだ」という話から始めた。

A氏 今の政治を動かす軸は何処にあるのか?。

平野 表向きは安倍首相と側近だろうが、実体は安部人脈の官僚と有識者だろう。さらに、その政策の内容を無批判に正当化するマスメディアの一部もセットに考えるべきだ。今の国会は「脳死状態」だから国民的合意ができるはずはない。

A氏 自社五五年体制は、資本主義か社会主義かの対立軸があった。今、対立軸が不明だ。

平野 政党や政治家が対立軸に気づかないのだ。特定秘密保護法でも集団的自衛権問題でも「戦前回帰の政治か」、「戦前の軍国主義には反対だ」という根本的な対立軸があるのだ。そういう歴史認識を政治家だけではなく、マスメディアもしていない。

A氏 共産党・社民党はわかっていると思うが?。

平野 共産党の「唯我独尊姿勢」が結果的に戦前回帰政治に荷担することになっている。自党だけで政権を獲れるという幻想が最近強くなった。他の少数会派は、ほとんど影響力を行使する力はない。民主党にも安倍首相に同調する勢力が二〇人前後いる。維新の会、みんなの党、結いの党も、安全保障の技術論ばかりで、戦前政治への反省と歴史観を学んでいない。

A氏 政治家の質の劣化が混迷の原因か?。

平野 国会議員の質が悪いからというだけで問題の解決にはならない。そもそも、「金権強欲社会」で質の良い国会議員が多く選ばれるはずはない。先進国でも同じことだ。デモクラシーの伝統をもつ国は、それぞれ国情にあった運営ノウハウを「影の制度」として持っていて、それがデモクラシーの欠陥を補完している。日本人はそれに気づかず、議会民主政治の建て前だけで、民主主義が機能すると錯覚している。

A氏 先進国のデモクラシー運営ノウハウとはどんなものか?。

平野 英国では内閣府の中に特殊な部署があって、議会と内閣が与野党の調整をやっている。表には出さないセクションだ。スタッフは議会の先例や歴史に精通しており、地位も名誉も金も要らない。「英国の政治が正常に動くことを生き甲斐」とし、大きなトラブルや問題を解決して、民主政治を担保しているのだ。
仏国では憲法院という法律の合憲性を審査する憲法裁判所が、その役割を果たしている。議会で制定し、施行前の法律も審査するぐらい議会へのチェックをやる。メンバーは大統領・国民議会議長・元老院議長が個人的責任で三人づつ任命し、元大統領が終身の構成員だ。その時代の賢人といわれる人たちが選ばれる。歪みとなった現代の代表制民主主義、迷走する直接民主主義の統治システムを補完している。
独国では、伝統的に内務省が国民に信頼されていて、ここで政治問題の調整をやっているといわれている。米国では最高裁判所が議会に対しても、行政府にも厳しく対処することで、デモクラシーを機能させてきたといわれている。最近、人事の問題で行政府が強くなったようだ。

A氏 日本はどうなんですか?。

平野 私の経験では、昭和四十~五十年頃には、政治の混迷に、元首相や元衆参議長が非公式に集まり、私たち国家の運営の先例や情報を知っている人間を使って収拾策をつくった。「角栄、いいかげんいしろ!」などと進言して、憲政の常道を守った時期があった。今では「憲政の常道」という言葉すら聞かれなくなった。今の日本で喫緊に必要なことは、国会・内閣・司法やマスメディアなど、憲法運用に関わる機関をチェックする「憲法オンブズマン」の設置だ。

(B女史との電話懇談)

B女史 憲法九条の解釈改憲といわれる「集団的自衛権問題」は七月一日に閣議決定して、十四・十五日に国会で集中審議で内定しているようです。納得いきませんが、論理的にどういうところが間違っているんですか。

平野 わが国は憲法九条の運用を「専守防衛とし、集団的自衛権の行使はできない」ことを国是として確立してきた。これを限定的とはいえ、行使できるように解釈で変更しようとしている。日米安保条約も自衛隊も憲法九条の解釈を変更したものだから問題ないと主張するのが自公両党だ。

これは不条理というものだ。戦後の厳しい国際状況の中で、憲法九条を必死に護り抜いてきた国民合意の限界をぶち破り、他国で戦闘できるようにすることは、九条の原理や性格を根本的に変更するものである。変更するなら憲法改正手続で行うべきだ。「自公政権は立憲主義を否定するものだ」と、衆参議長が抗議すべきだ。仏国の憲法院なら許さないことだ。

B女史 公明党はよく合意しましたね。

平野 民主党へ政権交代した時からの傾向だが、「弁護士政治家」に原因がある。国会を国民代表の議論の場ではなく、政党の民事訴訟の場にした。集団的自衛権の与党協議は自民党が高村副総裁、公明党が北側幹事長、それに加えて山口公明党代表も弁護士だ。

私に言わせれば政治家弁護士が、憲法の原理をもっとも知らないようだ。形式論理の三百代言で憲法の平和主義を冒涜している。与党から示された「高村妥協案」は、北側幹事長が裏でつくったといわれている。山口代表が高村合意案を「憲法九条の規範は変わらない」と評価したが、これは公明党の代表による自爆宣言だ。公明党の弁護士政治家と、裏で操っている創価学会顧問弁護士に問題があるようだと仄聞している。

安倍自公政権は「国会の憲法改正発議権」を踏みにじり、「国民投票による憲法改正権」を国民から奪った。お天道様はもとより、真実を知り始めた国民の怒りは厳しいと私は思う。「立憲政治を護る闘い」はこれからだ。(了)

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