明日2月7日解除の予定だった緊急事態宣言が3月7日まで延長されることになった。1月下旬から新規感染者が減少しており、7日移動平均で新規感染者数1日25人(東京都では全体で500人)を下回る可能性も出てきた。厚生労働省が定めている陽性率もステージ3/4の10%を東京都では昨日5日の時点で5.6%と急低下している。緊急事態宣言解除のシナリオを東京オリンピック/パラリンピックと関連させて記事を投稿しておきたい。
本日2月6日土曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の1月29土曜日の769人から130人減少して639人、21人か亡くなられた。重症者は前日から3人減って114人になった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は601.1人、PCR検査人数は87754.9人だから、瞬間陽性率は7.75%。東京都独自の計算方式では5.7%。感染者のうち感染経路不明率は43.34%だった。
全国では、午後18時30分の時点で新規感染者は2279人、死亡者は94人。重症患者は前日から65人減少して815人になっている。重症者減少の主な理由は死亡によるものと見られる。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、2月5日時点の実効再生産数は全国が前日比0.01人減の0.74人、東京都は前日比0.01人減の0.74人となっている
本投稿記事は、NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長で医師の「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか」(毎日新聞出版)と敏腕検事として知られた郷原信郎弁護士のYoutubeチャンネル「日本の権力を斬る」の第60回「新型コロナ感染動向と医療体制について上医師に効く」(https://www.youtube.com/watch?v=Zcbd3Po9SXY)を参考に、サイト管理者(筆者)がまとめたものです。
なお、上理事長は灘高出身で東大理科三類、医学部、大学院を卒業後、虎の門病院、国立がんセンター(血液腫瘍・骨髄移植医療従事)、東大医科学研究センター(国立感染研究所、国立国際医療研究センター、東京慈恵医大と厚労省医系技官技監技監=医師の免許を持つだけで、国家公務員状況私権は免除されれて厚労省の「高級官僚」になれる=からなる「検査利権ム」ラのひとつ。前身は旧陸軍、海軍の病院)を歴任。世界標準の科学誌「ランセット」や「ネイチャー」など多数の世界標準の医学論文集などを読みこなし、世界で共有されている最新の医学情報を発信している。
また、東大大学院卒業後の職歴から、日本の医療体制の問題点に詳しい。
冒頭に掲げた著書にさらに詳しく記載されている(朝日新聞記者の経歴を持つジャーナリストの佐藤章氏から上氏の著書を照会いただいたこともあり、佐藤氏の著作も紹介しておきました)。先月1月中旬後半以降、東京都では新型コロナの感染者が前週の同じ曜日に比べて200人から300人程度急減し、陽性率も一時ステージ4段階の基準になる10%を超えていたが、その後は急低下し、昨日6日は5.6%にまで低下している。新規感染者数の減少については、やはりPCR検査が少なく、従って新規陽性者が発見されていないとの見方が根強い。確かに、東京都公表値によると、5日の検査人数は8363.6人であり(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)であり、このところPCR検査人数は減少傾向にある。
ただし、東京都でのPCR検査人数の傾向的な低下は、冬入り間近にGo To トラベルを開始、強力に第三波襲来を助長したため、新規感染者が急増。つれて基礎疾患のある都民や高齢者の都民が感染し、重症者、死亡者が増えたため、PCR検査をこれらの方に限定するようになったためだと思われる。神奈川県が東京都に先んじて行ったが、実はこの方針は菅義偉首相が臨時国会の冒頭の10月26日の所信表明演説で「重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患を有する方に徹底した検査を行うとともに、医療資源を重症者に重点化します」と言い切ったことに端を発している。
上理事長は「我々が一貫して主張している、無症状感染者(注:ステルススプレッダー)こそ、あるいは医療、介護、教育、食品販売などに従事するエッセンシャルワーカーこそ検査対象にして、経済と医療を両立させる方式には、今回もまた目を向けてくれませんでした」と、丁寧な表現だが厳しく批判しておられる。
なお、菅政権が緊急事態宣言の際に生贄(いけにえ)にした「飲食店」が新規感染源だったわけではない。このことは、世田谷区の調査で、主な感染源が家庭であることから分かる。
飲食店は10%で、圧倒的に家庭内感染が多い。新型コロナウイルスは唾液に含まれているため、飛沫感染によって感染するケースが最も多い。このため、飲食店も含まれるが職場や医療施設、福祉施設(高齢者介護施設)、友人・知人とマスクなしで長時間にわたり会話を行い、その飛沫感染によって帰宅した無症状感染者(ステルス・スプレッダー)が、家庭で他の家族に感染がうつるというケースが圧倒的に多い。1月中旬までの新規感染者の増加と陽性率(東京都では、7日間移動平均での陽性者の人数の合計を、その日までの7日間移動平均でのPCR検査人数の合計で割って「陽性率」を算出。本サイトでサイト管理者=筆者=が計算している瞬間陽性率を下回る)の高まりは、この二点で説明できると思っている。
こうなると、1月中旬以降の急激な新規感染者の減少がPCR検査の減少によってもたらされたとは言えても、陽性率のかなり急激な低下の理解には苦しんでしまう。新規感染者の減少と陽性率の低下をともに説明できるのが、上理事長が上記のYoutube番組で郷原信郎氏に述べた「コロナの季節要因説」だ。新型コロナウイルスは極めて危険なウイルスだが、分類としては風邪コロナの一種。風邪コロナの特徴は、冬に活発化し、夏風邪という言葉もあるように夏にも活性化する。
コロナ第三波は、コロナ第二波が谷をつけきらない中でGo To トラベルを強行したことによって襲来した。厳密に言うと、ミラノ型が欧州諸国からの帰国者が春先にもたらしたのが第二波。第二波から変異・出現した東京都や埼玉県で変異した変異株=首都圏型によって第三波がもたらされた。この第三波が谷を付けない中で秋冬に強行実施されたGo To トラベルが強力に推進されたため、厳密には第四波が襲来した。本サイトでは一般的には区別がつきにくいことと大手メディアなどで使用されているので、三波と四波を合わせて「第三波」と呼んでいる。東大先端研の児玉龍彦東大名誉教授の指摘に基づく。
しかし、新型コロナウイルスは風邪コロナの部類に属するので、冬と秋に流行する。特に、冬に大流行する。しかし、冬も1月中旬頃から2月末の春が訪れる頃には、活動期が終わって活性化しにくくなる。この「季節要因」が新規感染者数の減少と陽性率の低下の主な理由だと思われる。なお、昨年下旬から年初にかけて新規感染者が急拡大し、陽性率も上昇したことも、冬季入りてコロナウイルスが活性化したためだろう。ただし、上理事長・医師は英国や南アフリカ、ブラジルなどで変異し、日本でも市中感染が始まっている変異株の影響については、残念ながら郷原弁護士の質問される時間がなかった。
そこで、大きく分けて2つのケースが考えられる。ひとつのケースは、変異株の市中感染が非常事態宣言終了までに拡大して、感染が再拡大するケース。この場合は、より強力な緊急事態宣言に変更せざるを得なくなるだろう。その場合は、東京オリンピック/パラリンピックは中止せざるを得なくなる。ただし、変異株も風邪コロナの一種であることから、欧州諸国で真冬に起こったような都市封鎖(ロックダウン)には至らない可能性は否定は出来ない。厚生労働省が変異株の市中感染が拡大することを最大限、警戒していることもある。
第2のケースは、季節要因で新規感染者の減少傾向が続き、特に東京で1日の感染者が移動平均で500人以下になる場合。この場合は、政府=菅政権は、延長緊急事態宣言を解除して、今月13日に施行される改正特別措置法で設けた「まん延防止等重点措置」を適用しながら、「再拡大」を防ぐような努力をしながら、東京オリンピック/パラリンピックを無観客試合も選択肢のひとつに入れて強行開催し、Go To トラベルを中心としたGo To キャンペーンの再実施に踏み切るだろう。ホワイトハウスのサキ報道官も「東京オリンピックに選手団を派遣する」と述べているし、来年に冬季オリンピックを控えた中国政府も協力すると言っている。
ただし、サキ報道官は記者会見で北京での冬季オリンピックについて聞かれたものと思い込んでおり、「東京オリンピックのことだ」と質問されて、「日本の選手団は派遣する」と言い直した。米国選手団の派遣は極めて重要なことであり、バイデン大統領自身の公式声明がなければ、米国の正確な意図は断定できない。なお、無観客試合ではオリンピック開催の異議が問われる。参加国を限定して開催するにしても、➀オリンピック憲章の「へぇあプレーの精神」に反し、参加できない諸国(特に、発展途上国)の不満は高まる。なお、国際オリンピック(IOC)や日本の大会組織委では再々延期はないと言明している。
ここからが問題だが、新規感染者が減少したとしても、無感染症者(ステルススプレッダー)は補足できないから、無観客試合を強行開催するにしても、東京オリンピック/パラリンピックが開催される夏に新型コロナウイルス再拡大が起こる可能性が濃厚だ。
この場合は、オリ/パラ開催前か開催中に「非常事態宣言」をまたまた発動しなければならないことになり、東京オリンピック/パラリンピックはもちろん、日本は大混乱に陥ることになる。なお、上氏は東京オリンピック/パラリンピックを開催する場合の条件として、新型コロナについて日本が「徹底的にクリーンになること」(23頁)が条件としている。少なくとも、無感染症者(ステルススプレッダー)を早期に発見・保護・治療体制を確立できる社会検査体制を大規模に整備することが必要条件だと思われるが、それでも選手やコーチなど関係者が感染する可能性は否定できず、医療資源不足の問題も出てくる。
さて、無感染症者(ステルススプレッダー)を補足できないのは、感染症法を盾に検査利権ムラがPCR検査を抑制していることに尽きる。「利権検査ムラ」は、厚生労働省の医系技官(国家公務員試験を受けなくても医師の免許があればなれるし、高級官僚にもなる)が戦前の陸軍病院、海軍病院が前身で、国立感染研究所、東京大学医科学研究所、国立国際医療研究センター、東京慈恵医科大学の4組織を傘下に置いて、「利権ムラ化」する。政府=安倍政権や菅政権のの専門家会議とその後継の感染症対策分科会の主なメンバーは利権ムラ出身者が大半を占める。情報の非公開と自前主義に立つ「利権検査ムラ」は検査利権の獲得(血税の予算措置化、行政検査としてのPCR検査は利権になる)を最大の目標に置いており、行政検査としてのPCR検査の抑制はムラの利益に叶う。しかし、大規模なPCR検査を行うこととは相容れない。
厚生労働省が2月3日時点で挙げたPCR検査能力は1日当たり14万7999件。しかし、この能力は海外諸国に比べて異常に低い。流行が発覚した中国・北京市では、市内の食品卸売市場「新発地市場」で感染が確認された20020年6月以降、1日当たり100万人の検体を処理している。北京市の発表によると、7月3日までに合計1005万9千人にPCR検査を実施し、335人の陽性者が発見された。
青島でも昨年10月12日、青島市で12人の国内感染者が発見されると、中国政府は全市民940万人を5日間で検査をすると決定、14日までには750万人の検体採取を完了し、検査結果が判明した406万人はすべて陰性だった(上氏著書「84頁」)。日本では世田谷区が求めていた複数の検体を同時に検査するプール方式がやっと厚労省から承認されたが、世界最強とされるオランダのモレキュラー・バイオロジー・システムズ社の製品は多数のPCR検査を30分以内で完了できるという。遺伝子を拡大するPCR検査方式は比較的古い検査方式だが現在、技術革新が急速に進んでおり、検査時間の短縮とコストの大幅低下が可能になっている。
日本では、情報の非公開と自前主義前提とする「検査利権ムラ」が行政検査を独占するため、こうした検査機器の近代化には極めて消極的だ。だから、無症状感染者(ステルススプレッダー)を市中に放置したままになり、保護・隔離・早期治療ができない。この市中に放置した無感染症者(ステルススプレッダー)から、次のコロナ感染拡大の波が起きる。「検査利権ムラ」がマスメディアを通して流すのは、「PCR検査は感度(正確に陽性と判定できる割合)が70%程度と低く、陽性ではないのに陽性と判定する偽陽性の結果が出ることがあるが、その場合であっても感染法上病院に収容しなければならなくなるから、医療体制の崩壊を招いてしまう」などと言い訳をする。
世界各国では見られない発言だ。これに対しては、➀感度問題については複数繰り返せば良いというのが世界の常識である(「感度」よりも「頻度」)②PCR検査の技術革新によって検査制度も向上している③医療施設が問題になるが、国立大学附属病院や国立病院が文部科学省の傘下に置かれ、大学の医療資源(大学附属病院を含む)が全く使われていない(上理事長、児玉龍彦東大名誉教授らの指摘による)から、縦割り行政を止め、全面的に大学の資源を活用するーことなどで対応できる。政府=菅政権のコロナ対策分科会の尾身茂座長は独立行政法人地域医療機能推進機構理事長であるが、傘下に東京メディカル・センターなど大型で高度医療機能をもつ専門病院を保有しているが、これらの病院でもコロナ重症患者を受け入れれば良いのではないか。
なお、最大の問題は2020年1月28日に、厚労省の要求で新型コロナ感染症(Covid-19)を感染法上、第Ⅱ類相当の指定感染症に政令指定したことだ。Ⅱ類相当に指定すれば、感染者は生活不安を抱えたまま、濃厚接触者も陽性判定が出れば、ともに無症状でも入院しなければならなくなる。だから、欧米諸国のように「誰でもどこでも気軽にPCR検査を受ける」体制ができない。このため、新型コロナに感染していることの判定が遅れ、突然死や重症化、死亡をもたらし、日本の死者数は6000人を超えてしまい、人口大国でもある中国(死者数4700人程度)にコロナ感染防止対策で抜かれてしまった。
なお、これより先の2020年1月17日に厚労省が、国立感染研究所に積極的疫学調査の開始を指示、感染研がその実施要項(一般の国民は体温が37.5度以上の状態が4日間、高齢者や基礎疾患を持つ場合は2日間続かなければ、PCR検査を受けられないなど)を作成し、全国の保健所に通達した。これら2つの行為は潜伏期間が非常に短い場合は有効性を持つ。しかし、2020年1月24日、香港大学の研究者たちが英国の権威ある科学誌ランセットに、無症状の感染者が存在することを報告している。
この無症状感染者がステルス・スプレッダーになり、全国・全世界に新型コロナを拡大させる最大の要因になったわけだが、「検査利権ムラ」の「専門家」たちはこれを無視したか、論文を読まなかったと推察される。このため、➀新型コロナは潜伏期間が長く、無症状感染者が多く、症状が出ている人も基本的には軽い人が多く、一部の人が重症化する②無症状感染者が感染を拡大する(ステルス・スプレッダーになる)ーという特性を念頭に置いた対策が出来なくなった。
濃厚接触者以外の一般の発熱患者はもちろん、定期健康診断などの際にも、PCR検査を厳しく抑制してしまうことになった。欧米では当たり前の社会的検査の道を閉ざすことになってしまったのである。
感染症法の改正は行政罰を設けることではなく、➀十分な営業活動の停止や休業に対する補償を具体的に明記するか、関連法として営業損失補填・生活補償用の法律を定めること②指定感染症Ⅱ類相当の規定を改め、新型コロナ感染症の位置づけを変更して、国民に対して柔軟に対応できる措置を同法に盛り込むことーだった。
本書が紹介している国民民主党代表の玉木雄一郎代表の試案は、➀保健所が中心となって行う行政検査のほかに、医師の判断で行うことの出来る保険適用検査や民間企業、大学などが行う医師以外の検査も出来るようにして、行政検査とは別の「社会的検査」のカテゴリーを新設する②医療機関や介護施設などに従事するエッセンシャル・ワーカーについては、公費で定期的にげPCR検査や抗原検査を受けるようことができるようにする(抗体が免疫暴走を起こさないかを早期に発見できる抗体検査も含めるべきだ)③原則、陽性者は全員入院としている規定も変え、無感染症乗車や軽症舎については法律上、ホテルや自宅での療養ができるようにするーことなどを提言している。なお、自宅療養では、家族が感染する場合が最多ケースになっているから、原則として簡易医療施設を設営すべきだ。
なお、感染症法の該当条項は、次のような条項だ。法律条文なので、厚労省がまとめた次図で概要が分かる(https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000040509.pdf)。
- 第19条「都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、当該感染症の患者に対し特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該患者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関若しくは第一種感染症指定医療機関以外の病院若しくは診療所であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該患者を入院させるべきことを勧告することができる」
- 第38条6項「第二種感染症指定医療機関は、第三十七条第一項各号に掲げる医療のうち二類感染症及び新型インフルエンザ等感染症の患者に係る医療について、厚生労働省令で定めるところにより都道府県知事が行う指導に従わなければならない」
- 第44条3の二項「都道府県知事は、新型インフルエンザ等感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、前項の規定により報告を求めた者に対し、同項の規定により定めた期間内において、当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の当該感染症の感染の防止に必要な協力を求めることができる」
- 第第46条「都道府県知事は、新感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、新感染症の所見がある者に対し十日以内の期間を定めて特定感染症指定医療機関に入院し、又はその保護者に対し当該新感染症の所見がある者を入院させるべきことを勧告することができる。ただし、緊急その他やむを得ない理由があるときは、特定感染症指定医療機関以外の病院であって当該都道府県知事が適当と認めるものに入院し、又は当該新感染症の所見がある者を入院させるべきことを勧告することができる」
玉木代表の提案の一部は、厚労省や地方自治体が、医療供給体制の逼迫から「温情」として行わざるを得なかったが、感染症法を正しく改正すれば法的裏付けを持って検査と保護・隔離が実施できる。「国民の権利」を獲得できることになるから、行政罰を科すという今回の「改正=改悪」は、間違っていることが分かる。問題は、世界標準から外れて、異常にPCR検査を社会的検査として行うことを妨げてきた「検査利権ムラ」だ。これについては、歴史的な経緯を踏まえて上氏が述べた本書第2章に詳しい。あの安倍晋三首相(当時)でさえ、「PCR検査の拡充」を求めたが、「検査利権ムラ」はサボタージュするどころか、PCR検査不要論を持ち出して妨害してきたというのが偽らざるところだ。
詳細は、貴重な本書第2を読んでいただきたいが、上氏によると、政府のコロナ対策委員会の分科会(尾身茂座長)のメンバーはおおむね、「検査利権ムラ」からなっている。このうち、国立感染研の感染情報センターのセンター長を務めた岡部信川崎市健康安全研究所長が、分科会を取り仕切っているという。社会的検査としてのPCR検査が必要だとの意見は、岡部氏が「PCR検査信仰」だとして無視し、PCR検査の抑制を主導してきた。その結果として、日本はコロナ禍対策でも東アジア諸国の後進国になってしまった。
例えば、2020年4月22日時点での新型コロナに関する国別の研究論文数(受理数)は、首位が中国で1158報、ついで米国1019報告、イタリア375報告、英国312報告、フランス182報告と続いていて日本は58報告と韓国や台湾にも劣っている。国立感染研ではわずか3報告しか出ていない(本書44頁、参考サイト:http://nagoya.chineseconsulate.org/jpn/zt/ngyfyjp/fszk/t1781669.htm)。
しかし、PCR検査を社会的検査として必要な地域では大規模に実施しなければ、無症状感染者(ステルス・スプレッダー)を早期に発見・保護・隔離・治療を行うことができなくなり、コロナ収束は実現できない。緊急事態宣言の再延長後の2つのシナリオは今暫く確定できないが、「新型ワクチン一本足打法」では危うい。感染症対策の基本に立ち返りながら、「検査利権ムラ」の実態を知ることと、その解体なくして、コロナ禍の収束はない。これも、政権交代が必要な理由のひとつである。