コロナ新規感染者数の減少に油断は大敵、今こそ検査体制の抜本的拡充を(森会長辞任追記)

大手メディアによると、政府=菅義偉政権は8日から再延長することにした緊急事態宣言を12日も解除する意向だったが、10都府県全てで解除しないことに決めたという。当然のことだが、1カ月の延長予定をすぐに解除すると考えること自体が有り得ない。米国のバイデン大統領が東京オリンピック/パラリンピックの夏の開催は、「安全に開催できるという科学的根拠に基づくべきだ。現在は何も決断していない」との初めての公式見解にあわてているようだが、「ワクチン一本足打法」では間に合わないし、危険だ。

2月11日コロナ感染状況

本日2月11日木曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の2月4日木曜日の734人から300人減少して434人、500人以下は5日連続。重症者は前日と同じ103人だった(https://www.fnn.jp/articles/-/61484)。ただし、21人が亡くなられている。入院待ちなどの感染患者が急逝されたのかどうか、不明だ。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は465.47人、PCR検査人数は7640.1人だから、瞬間陽性率は6.09%。東京都独自の計算方式では5.2%。感染経路不明率は49.40%。移動平均は500人を下回った。アップル社の人口移動指数からは21日日曜日前後からの週の動向が焦点になる。
全国では、午後23時59分の時点で新規感染者は1693人、死亡者は78人。重症患者は前日比23人減少の713人。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、2月10日時点の実効再生産数は全国が前日比0.01人増加の0.74人、東京都は前日比0.01人増加の0.79人となっている。下げ止まりの兆しは出ているため、慎重な見極めが大切だ。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

まずは、大手メディアの代表としてNHKの「緊急事態宣言 10都府県 すべて地域で解除しない方針 政府」と題する報道を紹介させていただきたい(2月11日午前05時40分公開:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210211/k10012860521000.html)。

新型コロナウイルス対策の改正特別措置法が、13日施行されるのを前に、政府は12日、専門家などでつくる諮問委員会に意見を求めたうえで基本的対処方針を変更する方針で、これにあわせて緊急事態宣言を解除できる地域がないか検討してきました。

首相官邸と内閣官房・内閣府
首相官邸と内閣官房・内閣府

菅総理大臣は10日、西村経済再生担当大臣や田村厚生労働大臣らと宣言の扱いをめぐって協議し、対象地域では、新規の感染者数が減少傾向にあるものの、依然として病床がひっ迫している状況などを確認しました。

菅義偉首相とコロナ担当相の河野太郎行革担当相の記者会見
菅義偉首相とコロナ担当相の河野太郎行革担当相の記者会見

そもそも、日本最大の感染源である東京都の新規感染者の推移は次のグラフの通りだ。減少が急激であることは確かだが、第一波、二波に比べてなお、高水準だ。10日段階の7日移動平均では、508.3 人。加えて、減少はしているが、昨日10日の時点で入院待ち感染患者数が1473 人、家庭内感染を引き起こす自宅量感染患者数は1265 人と、無症状、軽症者者でも2783人だ。双方ともこのところ、かなり減ってきてはいるが、それでも実質的に治療を受けられない感染患者は多い。しかも、日本全体での100万人当たりの累計死亡者数は52人なのに対して、医療資源が全国の道府県より最も豊富なはずの東京都の累計死亡者数は1078 人だから、東京都の人口(1400万人=14×100万人)100万人当たり77人だ。

人種の遺伝子要因、獲得している免疫力(交差免疫)、米を主食とした食品要因などから、新型コロナの悪影響が比較的軽かった東アジア諸国では、人口100万人当たりの死亡者はベトナム0.4人、台湾0.7人、中国3人に比べて、それぞれ3593倍、1540倍、359倍の悪さだ。最悪はインドネシアだが、医療資源が貧弱なことがある。国立病院、大学附属病院など高度な医療資源が豊富で、ホテルも多く、簡易医療施設を設営できる財政状況にある東京都はもちろんだが、日本全体の「感染症対策」に根本的な欠陥があることは国民の誰の目にも想像がつく。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

東京都では、毎日15時に発表されるのは東京都の各基礎自治体から報告のあった新規感染者数と重症患者(ただし、厚生労働省の基準にそったものではなく、小池百合子都知事率いる東京都独自の判断で、実際よりも少なく見せかけている可能性が濃厚だ)。死亡者数は夜発表される。15時発表される新規感染者はその日に訂正されることはないが、あくまでも15辞時点なのだから、それまでに判明している死亡者も暫定値として公表すべきだろう。

さて、そもそも今回の新規感染者数の減少は、限定的で補償が足りない緊急事態宣言が主な理由ではない。NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長・臨床医師が指摘するように、冬から立春の日を過ぎて、風邪コロナと同じように新型コロナの活性化も弱くなる「季節的な要因」が大きな理由と推定される。これに、補助的要因として極めて限定的ながら「緊急事態宣言」を再発令したことで、国民、都民に営業や不要・不急の外出自粛が加わったことがある。なお、英国や南アフリカ、ブラジルで変異した変異株の市中感染にも厳重な対策が必要であることは言うまでもない(後述のように市中感染は広まり始めている)。「緊急事態宣言」の発令が、主な新規観戦者減少の主要要因であることの「エビデンス(証拠)」はない。

中期波動を形成するアップル社の人口移動指数は下図の通りだ。1月末から少々傾向に転じており、3週間語の3月21日の週の新規観戦者数の動向が問題になる。緊急事態宣言の解除を早期に行うのは危険だ、日本の業界はもちろん、旅館・宿泊業界の業界自体にも不公正(高級旅館・ホテルほど旨味が大きい)なGo To トラベルの再開にふみきるなどのことをすれば、第三波の被害の甚大性を無視した暴挙と言わざるを得ない。

アップル社の人口移動指数
アップル社の人口移動指数
【追記】
英国のロイター通信社の東京支局の記者が2週間の自宅待機の途中で自宅からパブに出かけ、英国で変異しか変異株の集団感染を引き起こしたようだ(https://bunshun.jp/articles/-/43357)。記者が日本政府=菅政権の入国ルールを破ったことは問題だが、菅政権(厚生労働省)の「水際対策」が全くいい加減なものであることが判明してしまった。東京都のアドバイザリーボードの専門家も変異株の市中感染には特に注意を呼びかけているが、菅政権に対してざる状態の「水際対策」の抜本的見直しを強く要求し、抜本的に改めさせるべきだ。

なお、東京オリンピックの聖火リレーはこの週の24日から開始の予定だ。商業オリンピック問題に詳しい博報堂出身で作家の本間龍氏によると、大会組織委員会が基礎自治体に説明したセミナーでは、1カ月前に非常事態背宣言が発令された都道府県がひとつでもあれば、聖火リレーは中止すべきだとの要請を行っている。組織委の森喜郎会長の「女性蔑視」発言事案はまだ収まっておらず、12日に最終決着のための大会組織委の合同総会が開かれる。開催を強行するのなら、「安全に開催できる」という「科学的根拠」を明らかにし、フリー・ジャーナリストも含めた、一問一答形式の記者会見ではなく、何度でも質問できる日本としては「異例」(海外諸国では当たり前)の記者会見を行うべきだ。

【追記】
複数のメディアによると森会長は11日正午過ぎ、大会組織委委員会の会長を辞任する意向を周囲に伝えたという。出処進退が遅すぎるが、実務的に開催が不可能な情勢にあるから、「敵前逃亡」の意味もあるだろう。なお、当初は森会長の逆ギレ謝罪記者会見で「一件落着」とした国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長も責任を明確にしなけれはならない。また、森会長をかばった菅首相や二階俊博幹事長を始め、自民党幹部の対応も批判されなくてはならない。

ただし、東京オリンピック/パラリンピックの強行開催に道をつける意味があるとも思われる。その場合は12日の会見の場で、大会組織委が「安全に(実務的に問題なく)開催できる科学的証拠」を挙げなければならない。後任にはJリーグの初代チェアマンを務めた川淵三郎氏(84)が就任する予定だが、果たして東京オリンピック/パラリンピックの開催が可能であるか、「安全に開催できる科学的証拠」について説得力のある説明を行ったうえで、実務的に問題なく開催できることをスケジュールも含めて示す必要がある。

加えて、政府は「新型ワクチン一本足打法」にかけているが、効を奏するか否かは不明だ。南アフリカやブラジルの変異株は新型ワクチンが効かないという報告が相次いでいる。大手メディアは新型ワクチンについて、肯定的な報道ばかりしているが、本来は厚生労働省が責任を持って事実を公表すべきだ。しかも、新型ワクチンの接種については、情報が錯綜し、接種の総責任組織になる基礎自治体は振り回されている。第一に、当初は国民の大多数の接種を前提とし、2回接種する必要があるので、学校の体育館などでの集団接種を考えていた。

しかし、実験的集団接種で明らかになったように、国民にはワクチンに対する健康被害の恐れが根強く、接種前の基礎自治体側の説明にかなりの時間を必要とすると見られる。また、副作用を確認するための待機時間がわずか15分であり、数日から数週間経って副作用が顕在化してきた場合の対処は不明確だ。このため、練馬区が病院やクリニックでの接種をワクチン接種の基本場所とすると発表したところ、これになびく基礎自治体が続出しているようだ。

基礎自治体では、ファイザー社のワクチンは零下マイナス70度で保存しなければならず、対処法に限界もある。自公与党所属の国会議員も選挙基盤が弱体化するのを恐れ、同調してきた。こうしたことのため、新型ワクチンは、有効性と安全性について政府=菅政権(厚労省)から正確な情報が得られないままに、菅首相が来週から接種を開始すると表明したものの、高齢者を含め、接種開始時期は不透明になりつつある(https://www.youtube.com/watch?v=rg7Yl1B8bbg)。

日本のコロナワクチンの接種スケジュール
日本のコロナワクチンの接種スケジュール

それに、ファイザー社製の新型ワクチンは当初、1回分のロットで6人分の接種が出来るとのふれこみだったが、実は5人分であった(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210209/k10012857431000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_001)。注射器の問題もあるようだが、詳細は明らかにされていない。

緊急事態宣言の解除が早すぎれば、国民の警戒感が相当和らぎ、人口移動数が高まって、中規模の新しい波が発生する可能性が大きい。夏場にかけて、新型コロナの活性期間に入れば、さらに大きな波が押し寄せてくる可能性は高い。新型コロナの収束には、コロナ感染のスプレッダーになっている無症状感染者を早期に発見、保護、隔離、治療して重症化を抑えるための国庫負担によるPCR検査体制の抜本的拡充、検査・療養施設が欠かせない。そうした体制を築いてこそ、「安全で有効な改良型新型ワクチン」を接種して「中和抗体」を産生し、集団免疫を獲得していくことも可能になる。ただし、集団免疫を獲得するためには、国民の6割程度が体内に中和抗体を産生する必要がある。

なお、広島県広島市では70万人ないし80万人ののPCR検査検査体制を築く予定であったが、9000人程度の規模に縮小された(広島県のコロナ重要サイト:https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/2019-ncov/pcr-202102.html)。政府や大手メティアの抵抗もあったようだ。遺伝子工学に詳しい東大先端研の児玉龍彦東大名誉教授も、本来なら、新規感染者数が減少に転じたところで、PCR検査体制の抜本的拡充が必要だと指摘している。

PCR検査体制の抜本的拡充については、実は東京都のモニタリンク会議もしてきしている(https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/012/788/2021011402.pdfhttps://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/013/025/2021021003.pdf。入り口サイトはhttps://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/saigai/1009676/index.html)。この中で、➀スプレッダーになっている無症状感染者対策の強化の必要性②新型ワクチンは、コロナ感染患者の重症化を防ぐことはできるが、新規感染拡大を抑えられるかは不明ーなどを指摘している。なお、最新の2月10日版は、新規観戦者数の減少で、新規感染者の前週比率が小さくなることを期待する楽観論に舞い戻っている。

東京モニタリング会議での専門家のコメント
東京モニタリング会議での専門家のコメント
東京都モニタリング会議2月10日版
東京都モニタリング会議2月10日版

なお、日本でコロナワクチンの研究開発、製造が全く追いつかないのは、情報の非公開と自前主義。現状維持を体質として持ち、臨床経験と研究論文の世界的に権威を持つ科学論文雑誌への発表に消極的な厚労省の医系技官を中心とした「検査利権ムラ=行政検査による検査、検査情報の独占と対価としての予算の獲得を目的とする=」によるところが極めて大きい。

。第一波と第二波に比べれば新規観戦者はなお水準が高く、加えて、第三波ではGo To トラベルの巨大な影響で死亡者数が急増した。

米国のバイデン大統領は、世界保健機構(WHO)の意見も踏まえ、「東京オリンピック/パラリンピックの開催については、安全性が科学的根拠に基づいて明らかにされること」を条件としている。コロナ禍対策を抜本的に変更せず、「新型ワクチン神風(かみかぜ)」に頼ることの結果は見えている。


この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう