ガバナンス崩壊のオリ/パラ組織委、密室での会長人事強行(追記:検討委橋本五輪相に一本化事案)

オリ/パラ組織委会長(当時)の森喜朗氏の「女性蔑視」の発言で同氏が引責辞任に追い込まれた後も、昨日16日から「密室」で会長人事が行われている。誰が新会長に選ばれるとしても、組織委のガバナンス回復には程遠い。「オリンピック開催ありき」が前提の組織委はオリンピック憲章にもとる。会長候補検討委は橋本聖子五輪担当相に一本化したようだが、新会長が誰であっても、コロナ対策をはじめ実務問題の処理には大きな困難が伴う。コロナ禍の抑え込みが現在の日本の喫緊の最重要課題であることを考えれば、一刻も早く東京オリンピック/パラリンピック大会については、中止を公式に発表すべきだ。

2月17日水曜日コロナ感染状況

本日2月17日水曜日の新型コロナ感染状況は、東京都では新規感染確認者は1週間前の2月10日水曜日の491人から113人減少して378人、500人以下は11日連続。都基準の重症者は前日比5人減の87人(https://www.fnn.jp/articles/-/145277)。ただし。死亡者は13人。
東京都のモニタリング(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)では、7日移動平均での感染者数は353.6人、PCR検査人数は6858.6人だから、瞬間陽性率は5.16%。東京都独自の計算方式では4.2%。感染経路不明率は49.32%。
全国では午後20時15分の時点で、新規感染者数は1447人、死亡者数は79人が確認されている。重症者数は前日比37人減の607人。
【参考】東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、2月16日時点の実効再生産数は全国が前日比0.02層の0.77人、東京では同0.01人増の0.77人。実効再生産数は下げ止まりから反転上昇の兆しも出ているが、なお、注視が必要だ。

東京都のコロナ感染者数の推移
東京都のコロナ感染者数の推移

森氏は引責辞任だったから、組織委理事会で公開または議事録を残し、「透明性」を確保したうえで、新会長を選任すべきところだった。ところが、引責辞任だったものの、森氏が菅義偉首相、安倍晋三前首相、小池百合子東京都知事、武藤敏郎組織委事務局長だけに相談して、要するに「密室」で後任人事として元Jリーグ会長だった川淵三郎氏を就任させることを主導したというのが公然の秘密だ。おまけに、森氏を相談役に就任させることまで決めていた。

すべて、その筋の間では嫌韓・反中の「極右」として知られている川淵氏が不注意で報道陣に口を滑らせたことで発覚した。このため、組織委としては菅首相の了解を得て、「透明性」をもって新会長を専任するという形を取ることになり、そのために、理事会内に「組織委新会長選任検討委員会」なるものを設け、この検討委員会で会長候補を選任し、公益財団法人である大会組織委の執行部である理事会で新会長を選任するという形にした。

というのは、武藤事務総長は12日の記者会見で、この「組織委新会長選任検討委員会」のメンバーは「非公開」とするということを発表したからだ。メンバーは下図の8人らしいが、各種メディアではあくまでも「関係者によると」との形で、メンバーの名前が伝えられており、正式に公表されたメンバーではない。

リークされた組織委会長選定検討委員会のメンバー
リークされた組織委会長選定検討委員会のメンバー
田中理恵氏、検討会委員会目バーであることは公式的には言えないと語る
田中理恵氏、検討会委員会目バーであることは公式的には言えないと語る

ただし、アスリート(体操)の田中理恵氏は検討会委員会目バーであることは公式的には言えないとしている。実質的に、会長候補者検討委員会は「極秘会」であり、検討委に透明性は欠け、組織委のガバナンスは崩壊している。このメンバーが昨日2月16日に第一回会合を開き、本日2月17日に「新会長候補」を恐らく1人に絞り込んで内定、今週中に決定する模様だ。NHKは本日早朝の午前5時18分、次のように報道している。

辞任を表明した森会長の後任候補を選ぶため東京オリンピック・パラリンピック組織委員会が設置した「候補者検討委員会」の2回目の会合が17日、開かれます。会合では委員会が取りまとめた新会長に求められる5つの資質に沿って具体的な名前を挙げて検討が進められ候補者が1人に絞り込まれる可能性があります。(中略)

関係者からは政府や東京都と連携を図り、支援が得られる人物が適任だという声も上がっていて、17日の会合では具体的な名前を挙げて検討が進められ候補者が1人に絞り込まれる可能性があるということです。

組織委員会は17日の議論を経て早ければ今週中にも理事会を開いて新しい会長を選出したいとしています。

深読みすれば、「出来レース」であることが分かる。東京東京オリンピック/パラリンピック強行開催ありきで新会長と組織委が「突き進んでいく」ことを前提にしている。しかし、これは、「候補者検討委員会」が新会長に求めていた、「オリンピック憲章を熟知し、誠実に憲章の理念に従う」という要件にもとる。オリンピック憲章・オリンピズムの根本原則の第2条では、「オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」と明記している。

つまり、「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すため」にオリンピックがあるのであって、その逆ではない。「人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すため」に現在の日本および世界で最も重要なことは、コロナ禍の収束である。コロナ禍の収束にこそ、最大の力を注がなければならない。東京オリンピック/パラリンピックを、たとえ無観客試合で強行したとしても、多数の選手団。コーチが外国から訪れ(ただし、参加しない国や選手も出てくることは確実で、根本原則第4条の「フェアプレイの精神」にも反する)、新型コロナの拡大抑制には悪影響が出るからだ。競技自体が体液を出し、声を掛け合うことで飛沫感染を誘うことで、東京オリンピック/パラリンピック自体が、感染源になることも十分有り得る。

NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広選手を始め政府=安倍、菅政権のコロナ禍対策に異議を唱え続けていた見識者たちによると、夏場の東京オリンピック/パラリンピックの強行開催で、季節要因から新たな新型コロナ感染の波が訪れるか、拡大する可能性もある。なお、東洋経済ONLINE(https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/)では、2月15日時点の実効再生産数は全国が前日比変わらずの0.75人、東京では同0.01人増の0.76人。簡易実効再生産数がこのところ横ばい水準なのに加えて、空港検疫をすり抜けた変異株への市中感染が拡大の様相を呈していることも気がかりだ。公式発表では英国などで変異した変異株への感染者は16日、新たに23人が確認されており、京都府と鹿児島県では初。累計では空港の検疫も含めて合わせて151人の感染が確認されている。

それに、アップル社の人の移動指数が先月末頃から次第に上昇しているのも気がかりだ。季節要因から春から変異株も含めた新型コロナの活性化の度合いにもよるが、その影響は2月21日日曜日前後から表れる。要するに、バイデン大統領が明言した「安全に東京オリンピック/パラリンピックを実行できるという科学的事実(証拠=エビデンス)」は存在しないのだ。

医療ガバナンス研究所の上昌広理事長・医師と郷原信郎氏の対談
医療ガバナンス研究所の上昌広理事長・医師と郷原信郎氏の対談

東京都では新規感染者数が減少しているが、東京も含め、日本の政府=菅政権、国民ともに気を緩めてはいけない。日本では感染拡大のスプレッダーになっている無症状感染者は見逃していることか最大の問題だ。このところ、さすがに政府=菅政権も「積極的疫学調査」の失敗を認めずに、コソコソと検査拡大に舵を切り始めたが、まだまだ頼りない。今こそ、国家の総力を挙げて十分な国民の生活・企業存続の補償を前提として重点地区を明確にした全員検査など徹底的なPCR検査を行い、国立病院や国立・市立大学附属病院の手も借りるべきだ(厚生労働省と文部科学省の縦割り行政の廃止)。

なお、政府=菅政権としては今週中の緊急事態宣言解除は見送り、来週以降に判断を先送りする見通しだ。政権内や与野党内では3月7日ぎりぎりまで解除判断を見送るべきだとの声もでている。

大会組織委の新会長としては、「女三四郎」と呼ばれ、正論を唱えてきた山口香氏が適任だろう。同氏は、「五輪後の日本は、どうなるのでしょうか。変異種を含めたウイルスが一気に持ち込まれて、冬に向かって感染が再拡大する可能性も十分に考えられます。そうした事態をみんなが恐れていて、そのことが世論調査『反対8割』として表れているんだと思います。世論調査によると、国民の約8割が『五輪を開催すべきではない』と考えています。このことは重要視すべきです」などと語ってきた。オリンピック憲章・オリンピズムの根本原則の第2条「オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」はもとより、「人の道」をわきまえていいる。

本来は、山口氏を新会長に迎え、政府=菅政権や東京都、国際オリンピック委員会(IOC)とともに、東京オリンピック/パラリンピック中止の公式生命を発表すべきところだ。しかし、同氏は「選考委員会」のメンバーにさえ加わっていない。組織委は表向きは、東京オリンピック/パラリンピック強行開催に進むようである。

【追記17日18時】複数のメディアによると、「検討委員会は」橋本聖子五輪相を新会長として推薦したようだ。橋本五輪相は森前会長が領袖を務めた清和政策研究会(現在細田派、安倍晋三前首相も所属する)に所属しており、また、バイデン大統領が「安全に開催できる科学的事実(根拠)が必要」と明言するなどコロナ対策をはじめスケジュールの遅れ・未定問題などの実務的難問を処理できるか、疑問との指摘もある。サイト管理者(筆者)も同じ見方だ。検討委員会は本日18日も会合を開き、同五輪症の承諾を得られれば会長候補者を最終的に決定する予定と伝えられているが、森前会長に「院政」の余地を残す出来レースの可能性が濃厚である。

ただし、本サイトでも伝えたように、菅首相にはオリ/パラ中止の以降もあるようだ。小池百合子東京都知事も「今は(オリ/パラよりも)コロナ対策(が重要)」と微妙な発言をしている。

なお、日刊ゲンダイ2月17日号(16日発行)が2面で「森人脈ズラリの『怪しすぎる財団』」というタイトルの記事を報道した(https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/285281)。一部、引用させていただきたい。

役員一覧を見ると、「レガシーコミッション」の最高顧問は森会長と御手洗冨士夫キヤノン会長兼社長CEOの2人。御手洗氏は、森会長の後任会長候補を選ぶ組織委の「候補者検討委員会」の委員長も務める。

さらに、理事長は遠藤利明元五輪担当相、理事には山下泰裕JOC会長、評議員に馳浩元文科相や組織委の武藤敏郎事務総長など、“森人脈”がこれでもかと名前を連ねている。15日の衆院予算委で、立憲民主党の斉木武志衆院議員が、森会長とかかわりが深い「一般財団法人日本スポーツレガシーコミッション」なる団体について質問。日本オリンピック委員会やJOC関係者の間では、五輪の剰余金がこの団体に贈与されると言われているというのだ。(中略)

「週刊新潮」(2020年2月13日号)によれば、「レガシーコミッション」の設立者は、森会長が代表理事を務める〈一般財団法人嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター〉で、「この新財団をゆくゆくは公益財団法人にして、東京五輪終了後の剰余金の受け皿にするのではないか」という文科省関係者のコメントも紹介していた。

嘉納治五郎氏は日本柔道界の設立者で、オリンピックにも貢献した著名な人物だ。しかし、元々の「嘉納治五郎財団」には嘉納治五郎の親族は存在しない。また、日本オリンピック委員会(JOC)会長、国際オリンピック委員会(IOC)委員、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会副会長を歴任した皇族の竹田恆和氏に、東京都へのオリンピック招致に当たっての贈収賄容疑が発覚、フランスから捜査されているが、竹田氏の贈収賄にあたって利用されたのが、「嘉納治五郎財団」と言われている(朝日新聞記者、アエラ記者を歴任して現在、フリージャーナリストの佐藤章氏による。参考Youtube:https://www.youtube.com/watch?v=Q8d2F8dsBRs)。

コロナ禍の中、利権と汚職にまみれ、しかも、血税を原資とする3兆円を超える東京オリンピック/パラリンピック開催には正当性がない。3月24日には福島県から聖火リレーが始まる。一刻も早く中止したほうがオリンピックの精神を守りことと日本を含む世界のアスリート、そして何よりも日本国民を守ることになる。


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