3回目の緊急事態宣言解除まであと10日あまりになった。新規感染者数は減少傾向が出ているが、東京都などは依然として新規感染者数はステージⅣの段階。全国的に見ても死亡者数、重症者数、療養者数は高止まりの状況が続いている。新規感染者数は季節要因(今年2021年は5月中旬前後がピークだと言われる)で減少していると見られるが、新型コロナウイルスが感染力と重症化力の強い英国型(N501Y2)に置き換わっているためだと思われる。ここに来て、インドの在留邦人8000人が大量帰国するため、市中感染が拡大しインド型の二重変異株が猛威を振るいそうだ。緊急事態宣言の効果は限定的で、強行開催されると見られる東京オリンピック/パラリンピックは「一大感染イベント」になる可能性が濃厚だ。日本版疾病予防センターの確率が急務だ。
緊急事態宣言、6月20日までの延長の方向で検討か(沖縄県は5月23日から6月20日までの期間で発出)
【追記】複数のメディアによると、緊急事態宣言は6月20日までに延長の方向で検討されているという(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021052100894&g=pol、https://www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN2D2013.html、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-05-21/QTEEDIT1UM1701など)。
東京オリンピック/パラリンピック開催の可否に影響を与えることは必至。国際オリンピック委員会(IOC)のジョン・コーツ副会長兼調整委員会委員長(トーマス・バッハ会長を上回るぼったくり公爵)は「緊急事態宣言」下でも東京オリンピック/パラリンピックは強行開催できると言っている(https://digital.asahi.com/articles/ASP5P72S0P5PUTQP02B.html?iref=comtop_7_04)。単に、米国NBCの放映権料などが欲しいだけのことだ。ただし、米国の選手団が参加するとは言い切れない状況にある。
大会で来日する予定の人数は選手1万5千人、大会関係者7万8千人。大会関係者の内訳は、五輪で5万9千人(各国・地域のオリンピック委員会の関係者2万3千人、放送関係者1万7千人、プレス関係者6千人)、パラリンピックは1万9千人(各国・地域のパラリンピック委員会の関係者9千人、放送関係者4千人、プレス関係者2千人)
5月中旬までのコロナ感染状況
昨日2020年5月20日の日本国内のコロナ感染状況は、新規感染者が5721人、死亡者106人、重症者106人だ。NPO法人・医療ガバナンス研究所の上昌広理事長・医師によると、世界の権威ある医学雑誌から新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスの一種であり、夏場に小流行、冬場に大流行するという季節的要因がある。今年は5月上旬が夏場のピークと見られるという。緊急事態宣言の「アナウンスメント効果」で、人の流れがある程度抑制されたこともあるが、基本的には季節要因のために、それ以降は新規感染者数が減少傾向に転じている模様だ。下図は東京都の感染状況だ(差し替え有り差し替え済み)。
全国では23時59分の時点で、新規感染者数は5253人、死亡者113人、重症者は1294人。大阪府は新規感染者が415人、死亡者22人。沖縄県に5月23日から6月20日まで「緊急事態宣言」が発出されることになった。
東京都の新規感染者数は5月14日から8日連続で前週比減少傾向に転じている。しかし、21日の1週間の移動平均は704674人で、人口10万人当たりの1週間の新規感染者数は、704674×7÷140(10万人)=35.233.7人とステージⅣ(感染爆発段階)の25人をかなり上回っている。このため、20日の入院感染患者数は2351人(うち重症者69人)、宿泊療養者数1171人、自宅療養者数1904人、入院待ち患者数1027人と厳しい状況だ。後三者は十分な治療を受けることが出来ていないと見られるが、その数は合計4102人。人口10万に当たり29.3人。21日の入院感染患者数は2321人(うち重症者65人)、宿泊療養者数1138人、自宅療養者数1874人、入院待ち患者数899人と厳しい状況だ。後三者は十分な治療を受けることが出来ていないと見られるが、その数は合計3911人。人口10万に当たり28.0人だ。
加えて、「緊急事態宣言」が発出された9都道府県、特に東京都と関西圏からそれ以外の県への移動は抑制されなかったので、例えば沖縄県では観光客・行楽客が増加し、1日の新規感染者数が200人を超えた。そのために医療体制のキャパシティから極めて厳しい状況になっており、沖縄県にも緊急事態宣言が発出される予定だ。全国に英国型のN501Y変異株が拡散したと見られ、このため、全国では新規感染者数、死亡者数、重症者数、療養者数が高止まりしている(https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/entire/)。
この状況で予定通り5月末に解除すれば、東京都医師会の尾崎治夫会長が指摘するように、「五輪は5波の最中」での開催になる可能性は濃厚であり、事実上「開催は絶望的」と見られる。「5波」というのは、東京オリンピック/パラリンピック開催でオリンピック招待客(オリンピック貴族)と報道陣7万人以上の外国人が来日するため、1万5千人から2万人の選手団(コーチ含む)にワクチンを接種し、選手村に「監禁」するとしても、彼らの行動規制がほぼ不可能であり、ボランティアを通して相互に感染が拡大することが濃厚だからであろう。
これに加えて、アジア人の持つ型(白血球抗原)の白血球の免疫力を無効化すると言われるインドの二重変異株の市中感染が懸念されることもある。
東京都医師会の尾崎会長は次のように指摘している(https://news.yahoo.co.jp/articles/226bcfd3c441ed24dd3a215165a51eaf4b4599ac)。1人の感染者から平均何人に感染を広げるかという「実効再生産数」は、宣言発出前には1.25近くまで上がっていましたが、従来株であれば、これだけ人流が減れば、0.7程度には下がったはずです。しかし、実際は、感染力の高い変異株が増え、1.0をわずかに下回る程度にまでしか下がっていません。1.0を下回れば感染者が爆発的に増えることはありませんが、期待したほどは下がりませんでした。いま、私たちは、感染者数を減少傾向にし、流行の山を下げる、ピークアウトができるかどうかの分かれ目にいると考えています。(中略)
一方、ゴールデンウィーク後、北海道を含め、観光地のある自治体で感染増が報告されました。感染増後に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置を出す、といった目先の状況だけを見て限定的に対策を取るのでは、もはや対処しきれない状態といえます。全国的に網をかけないと、感染は全国に広がっていくでしょう。(中略)
これまでの下げ幅でしか減らないとすれば、緊急事態宣言の続く5月末までには、都内の1日当たりの新規感染者数はせいぜい500人程度までしか下がらないのではないかと思います。そこで宣言を解除すれば、従来株より1.5倍程度感染力の強い変異株がまん延している中で、1カ月もたたずに感染者増が始まるでしょう。そうなれば、五輪開幕直前に大流行になり、五輪開催は絶望的になる可能性があります。
第5波が起これば、首相が7月末までに終えると宣言している、高齢者へのワクチン接種にも影響してくると思います。感染拡大の最中に大人数が一堂に集まる集団接種会場に行くのは、高齢者にとってむしろ危険です。(以下、略)
尾崎会長は東京都では新規感染者数を1日あたり100人以下(7日移動平均)に抑えることを、東京オリンピック/パラリンピック開催の条件にしている。しかし、5月末までに達成することは不可能だろう。こうしたことを踏まえ、日本共産党の志位和夫委員長は昨日5月20日、河野太郎行革担当・ワクチン担当相に対して次の3提言を行った。
- コロナ封じ込めを戦略目標にすえ、ワクチンの安全・迅速な接種、大規模検査、十分な補償と生活支援の3本柱での対策を強化する。具体的には、➀ワクチンの安全・迅速な接種のために、実態にそくしたロードマップ(工程)を示すとともに、安定したワクチンの供給と接種を行う自治体への万全の支援という、国の責任を果たすことを求める②高齢者施設・医療機関などに対する社会的検査を抜本的に拡充するとともに、無症状者に焦点をあてた大規模検査で感染を封じ込める(特に、インドで猛威をふるっている変異株を迅速につかむため、検査・ゲノム解析(注:ゲノム解析についてはイルミナ社日本法人のこちらのサイトをどうぞ)の拡充とともに、地方衛生機関で検査できるように人的・財政的支援を強化する。検疫・検査の強化とともに、入国者の停留期間を2週間に延長するなど水際対策を強化する)③自粛要請などで打撃をこうむっているすべての中小企業、個人事業主、労働者に対して十分な補償と生活支援を行うーの3点。
- 国民の生命を救うために(財政支援による)医療機関への減収補填、医療体制への支援強化を行う。
- コロナ封じ込めと医療に多大な負荷と困難をもたらす東京五輪の中止を決断する。
これらの点は、志位委員長によると立憲民主党もゼロコロナ対策で同様の主張をしており、「コロナ対策と五輪は両立しない」(枝野幸男代表)としているから、東京オリンピック/パラリンピック中止の考えも立民と考えを共有しているとしている。「コロナの波を抑える」というのではなく、「コロナの収束」を目指すという考え方である。コロナ・パンデミックは自然災害であるから、人類が気候変動(天災)を封じ込めることがまだできないように、コロナ・パンデミックも完全に封じ込めることは困難だろうが、接種のスケジュールが不明確な「ワクチン一本足打法」しかしない(やっている感を見せるだけの)政府=菅義偉政権よりははるかにまともであり、正しい政策である(ただし、副作用については医療措置と金銭的補償について十二分に廃位する必要があることは当然だ)。
しかし、志位委員長は厚生労働省の医系技官を中心とした「感染症利権ムラ」の問題点については触れていない。列島であることを生かした「水際対策」が「ざる対策」でしかなかったことや「感染症法」を盾に取り、PCR検査を行政検査として徹底的に抑制、検査結果を独占するとともに、医療体制の分業化(重症患者は国立国際医療研究センター病院などの国立病院や国公立私立大手大学附属病院、日赤、済生会病院に任せ、民間病院は中等以下の感染患者を治療するという医療機関の能力に応じた分業体制)を行ってこなかったのは、「感染症利権ムラ」だ。
本サイトでしばしば述べているように、「感染症利権ムラ」とは、医系技官による厚労省保健局結核感染症課を司令塔とした国立感染研究所、国立国際医療研究センター病院ー地方衛生研究所ー保健所(医系技官の天下り先)からなる。この「感染症利権ムラ」が、政府新型コロナウイルス対策本部の分科会(会長・尾身茂独立行政法人地方医療推進機構理事長)や厚生労働省のアドバイザリーボード(座長・脇田隆字国立感染研究所長)。「村長(ムラオサ)」は国立感染研出身の岡部信彦川崎市健康安全研究所(地方衛生研究所)所長(内閣官房参与)。これらの人物は、国民のPCR検査を求める動きにある程度軟化したが、詰まるところPCR検査を徹底的に抑制してきた。「さざ波内閣官房参与」はレント・シーカー(民営化ムラの村長=ムラオサ)の竹中平蔵パソナ会長(学商兼政商)と親しい。
しかも、「感染症利権ムラ」では、検査や医療の独占体制が敷かれているため、コロナパンデミックで急速に進んだ検査体制、医療技術の技術革新に追いつけていない。独占の弊害が顕著だ。日本を含む世界各国の民間では、急速に技術革新が進んでいる。日本で言えば、かつては「感染症利権ムラ」に属していたと見られる東京大学医科学研究所が癌研究(独立行政法人東京大学の付属研究所、国内で最初の伝染病研究所で北里柴三郎が活躍した歴史を持つ)と遺伝子治療のためヒトのゲノム解析に注力しており、日立製作所のスーパーコンピューターを使って世界でもトップレベルのゲノム解析能力を有している。
また、島津製作所と伊藤忠の子会社であるiLACは、共同開発を行い暫定的に変異株を即時に検出できるPCR検査キットを開発している。東大医科研(https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/overview/index.html)とiLACが組めば、1日で6千検体のコロナウイルスのゲノム解析が可能であるという。
これらの独立行政法人や民間研究所に対して政府が財政支援を行い、コロナについての医学的研究(遺伝子研究)や治療、ワクチンの開発を支援し、日本版疾病予防センター(CDC)を組織化すべきだ。そして、その技術を民間に開放して、最先端の検査と治療を行えるようにすれば良い。最近では、「コロナタスク制圧フォース」(https://www.covid19-taskforce.jp/、研究統括責任者:慶応大学医学部金井隆典教授、東大医科研の井元清哉ヒトゲノム解析センター所長も発起人)が、➀ヒトのゲノム解析と新型コロナのゲノム解析を行い、日本人の約20%が、ヒトの免疫作用で中心的な働きをする「DOCK2」と呼ばれる領域の遺伝子配列に違いが生じている場合、重症化しやすい(逆に言えば、遺伝子治療を行えば、重症化や死亡化を防げる)②日本人に多い血液がAB型の場合は、重症化しやすいーことを明らかにし(https://www.covid19-taskforce.jp/media/hst0517/)、コロナ感染症の遺伝子レベルの治療に道を開いた(プレシジョン・メディスン。参考:https://www.youtube.com/watch?v=FTDrorUcVUs&t=1157s)。
余談だが、今日問題になっている「感染症利権ムラ」を含め、自民党の政策調査会の続議員と官僚、一部利権企業が癒着している各種の「利権ムラ」が権力の私物化(税金の私物化)を行い、日本の政治経済社会を腐敗させ(特に、安倍晋三政権=当時=と菅政権はひどい)、日本を後進国に陥れつつある。このことは、日本の実質国内総生産(GDP、季節調整年率)の推移を見ればよく分かる。日本の実質GDPは消費税率の8%から10%引き上げ前の2019年7ー9月期に558円だったが、引き上げ後の10-12月期は547兆円。これにコロナ禍が追い打ちをかけ、1-3月期544兆円と減少、4-6月期は500兆円にまで減少した(https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2021/qe211/pdf/jikei_1.pdf)。
2020年度は三次にわたる補正予算で73兆円(2020年度対名目GDP=535.7兆円=比で実に13.6%。財政支出=真水=の実質GDP押し上げ効果を見るには、名目ベースで見たほうが良い)ものコロナ禍対策が打たれたものの、コロナ禍対策が利権ムラによって食い物にされたため7-9月期は527兆円までしか回復しなかった。73兆円のうち一律定額給付金は約13兆円で、60兆円が闇=旅行業界利権ムラなど各種利権ムラ=に消えた。なお、2020年度実質GDPは前年度比4.6%減の525.9兆円。コロナ禍は続いているし、経済も大幅に落ち込んだ。「二兎追うものは一兎も得ず」とはこのことである。
その中で、(旅行業界利権ムラのために)Go To トラベルを強行した10-12月期は541兆円になったが、季節要因とGo To トラベルによって第3波が発生した今年2021年1-3月期は、2回目の緊急事態宣言に追い込まれ、534兆円とまた下がった。要するに、各種の「利権ムラ」による権力の私物化=血税の横領・私物化のために、正しい意味での市場原理(競争による技術革新と経済成長)は働かず、日本経済は長期低迷を続ける中、産業競争力も先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも後進国になってしまった。一人当たり国内総生産では韓国に追い抜かれている。
東京オリンピック/パラリンピックは中止すべきだが、現状では「コロナ感染状況の如何にかかわらず」強行開催されるだろう。ただし、そのツケは政府=菅政権=自公連立政権に回ってくるはずだ。真正野党は、コロナ対策の抜本転換を提示した上で、➀消費税減税もしくは凍結(最低でも景気の情勢によって引き下げる「景気条項」を消費税法に入れる、立民の小沢一郎衆院議員の指摘・提案。山本太郎代表率いるれいわ新選組はこれに呼応すべきだろう)し、税制改革を行う②緊縮財政から健全財政を踏まえた積極財政③その他共生の経済政策➃原発ゼロ(スケジュールを明確にする)⑤平和主義外交(日米地位協定を改正し、徒に反中外交政策は取らず、憲法に基づく平和主義外交政策を取る)一致して、次期総選挙に臨む必要がある。
なお、政治・経済評論家の植草一秀氏が指摘するように、日本労働組合総連合会(神津里季生会長)の主力6産別(約400万人)は自公連立政権の補完勢力であり、全有権者1億600万人の4%だから、真正野党共闘からは締め出し、代わりに投票率を最低でも5%引き上げることが出来るように真正野党はまともな政策を打ち出すべきだ。本来は正しい政策を打ち出せば、コロナ禍の中、60〜70%まで有効投票率は上昇するはずであり、そうでなければおかしい。