安倍晋三首相と「ナチス発言」が問題になった麻生太郎財務相(副首相)の法人税引き下げをめぐる論争が話題になっているが、茶番劇のようでもありそうでもないようである。その根底には、ネオ・リベラリズム(新古典派経済学から導き出された新自由主義)をめぐる安倍首相と麻生財務相の「対立」があるかも知れない。真偽はもう少し様子を見てみないと判明しないが、いずれにせよ、ネオ・リベラリズムの正体は「究極の利己主義」であり、言わば、「悪魔の思想」である。

安倍首相の主張は、「日本は法人税の実効税率が高すぎる。これを下げるべきだ」という陳腐なもの。これに対して、麻生財務相は「法人税を払っている法人はわずか4分の1程度であり、法人税の引き下げで利益を得るのは主として大企業である。その大企業は減税分を剰余金(内部留保)に回すだけで、国内には投資をせず、(賃上げにも使わないから)経済的効果は期待できない」と考えているとのことだ。

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麻生財務相の考えは正しい。日本財政金融研究所長であり経済アナリストとして知られている菊池英博氏は週刊紙「通信文化新報」の2013年10月07日号に寄稿した論考の中で、アベクロノミクス(アベノミクス)を次のように厳しく糾弾している。

企業の剰余金(内部留保)の推移を見ると、1990年度には127兆円であった金額が、2011年度には2・2倍の250兆円を超えている。中でも、超優良企業である大手30社の剰余金の増加は著しい。2013年03月期で見ると(共同通信社の調査)、大手30社では1年間だけで6兆円の内部留保が増え、総額77・6兆円まで増加している。この間、大手企業の人件費は減少しており、安倍総理が期待するような「法人税引き下げ➤従業員の賃金上昇」という政策は、全く有り得ない。法人税減税は、まさに「泥棒に追い銭」ではないか。

これに加えて、安倍首相は「復興特別法人税」の停止を主張している(停止分の減額分は確保するとしているから、国民から収奪するのだろう)のだから、同首相が日本を支配している「米官業」の走狗であることは間違いない。ただし、麻生福首相もホンネの「ナチス発言」は言語道断である。だから、「論争」も茶番劇である可能性を否定できない。

東西冷戦終了前から、「主流派経済学」としての新古典派経済学に基づいたネオ・リベラリズム(新自由主義=市場原理主義)が台頭、冷戦終了後は世界を席巻しているが、これによって戦後のIMF・GATT(WTO)体制が崩壊してきた。以下、箇条書きで恐縮ですが、暫定的にこれについて述べ、ネオ・リベラリズムの実態が究極の利己主義(エゴイズム)であり、「悪魔の思想」であることを指摘したい。

  1. 新自由主義(ネオ・リベリラズム)は戦後のケインズ政策(ただし、アメリカン・ケインジアンによるもの)を元にした修正資本主義路線(欧州では福祉国家路線➤社会民主主義路線)が奏功しなかった(完全雇用とインフレなき経済成長の実現に失敗、看過できないインフレとモラルハザードなどの悪弊をもたらした)ことに反発、市場原理を「貫徹」させることを訴えて登場してきた。
  2. 元祖は1970年代の米国はシカゴ学派の統帥ミルトン・フリードマンである。彼自身によれば、ハンガリーから米国に移住してきたユダヤ人であるという。フリードマンは、財政政策によっては「自然失業率(完全雇用時の失業率)」を引き上げることはできず、インフレを加速させるだけであるなどとして、財政政策の無効性を主張した。また、大恐慌は金融政策の失敗によるものであると指摘し、金融緩和政策の有効性を訴えた。
  3. 新自由主義は、財政政策の無効姓(均衡財政➤緊縮財政)、金融緩和政策の有効性、市場原理を貫徹させるための規制緩和(規制改革、規制撤廃)の三点セットからなる。
  4. 新自由主義的政策を最初に取り入れたのは、チリのサルバドール・アジェンデ政権を米国のCIAとともに軍事クーデターで崩壊させて成立したアウグスト・ビノチェット政権であるが、結局のところ新自由主義に基づく経済政策は失敗している。
  5. 本格的に導入したのは、英国のマーガレット・サッチャー政権であ。彼女は1976年に首相に就任すると直ちに、①金融・資本市場の自由化②労働組合の弾圧③国民皆保険であった医療制度の破壊―など、福国家路線を破棄した。しかし、英国でのサッチャリズムは奏功せず、逆に法人税・所得税の大幅減税などにより財政が悪化。最後は、中世の税制である(赤ん坊にも課税する)「人頭税」を提言したが、これが保守党内からも不評を買い、首相を辞任せざるを得なくなった。
  6. やや遅れて米国ではロナルド・レーガン政権が誕生、レーガノミクスを打ち出した。その骨子は、①一種のウルトラ・ケインズ政策である国防費の大幅拡大(ただし、外部経済効果を増強する意味での公共投資ではない。軍事兵器はすべての財・サービスを破壊するための消費財に過ぎない)②法人税・所得税の大幅な減税(法人税は最高税率を50%から30%へ、所得税の累進税率は70%から最終的には28%へと大幅に引き下げた。これは、事実上のフラット税制)による社会安定化政策としての財政による所得再配分機能の停止③大幅な規制緩和―である。なお、財政を大幅に拡張したため、高金利・ドル高となり、内需拡大政策と相まって貿易収支の悪化がいっそう進み、1995年には純債務国に転落した。この結果、巨額の財政赤字・大幅な経常赤字・世界最大の対外純債務国という「三つ子の赤字」に苛まれるようになり、ドルに対する信認が一段と低下、戦後の国際通貨制度破綻の引き金を引いた。
  7. 日本では「ロン・ヤス関係」で知られる中曽根康弘政権以降、次第に三点セットの新自由主義政策が採られるようになり、橋下竜太郎政権、小泉純一郎政権、安倍晋三政権下で本格的な新自由主義政策が採られるようになった。その結果、デフレーターでみた1997年度からの累積デフレ率は20%と真綿で首を締められるような長期デフレ不況に陥った。名目国内総生産は1997年の523兆円から2012年の476兆円まで50兆円も減り、税収も1990年度の61兆円から2012年度の43兆円に激減、デフレ不況と財政の悪化は深刻化の一途を辿った。
  8. 米国ではブッシュ政権二期目にリーマンショックを引き起こしたがそれ以降、なりふり構わずケインズ政策に逆戻りしている。しかし、事態は一向に改善されていない。
  9. 日本は安倍政権が完全な対米隷属政権と化して、新自由主義政策を一段と推進、亡国への道を着実に歩みつつある。
  10. 国家(財政)の役割を国防(実際には、国家=国民から徴収した税金=を国際金融資本と軍産複合体に奉仕させる)のみに限定する新自由主義は「今だけ、自分だけ良ければよい」という究極のエゴイズムであり、「悪魔の思想」である。
  11. 新自由主義を打破し、個の確立と自立を前提とした「共生共栄友愛社会」の実現が求められている。

以上は骨子であり、詳細は別の機会に述べたい。

 

 

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