「日本一新運動」の原点(277)ー戦争法案廃案の死角⑫【下田見解で政府を追及せよ】

日本一新の会・代表 平野 貞夫妙観

いよいよ戦後70年の8月に入った。「安保法制関連法案」の参議院審議も序盤戦を終えた。衆議院での審議に比べ、野党側の「廃案」という言葉の使用頻度は増えたが、国会を取り巻く民衆の気持ちを代表する本気度が不足している。安倍政権追及の戦術論ばかりで、廃案に追い込む戦略的質疑が聞こえてこない。法案の文言追及では安倍政権の術中に嵌るだけだ。

安倍首相の説明不足が内閣支持率低下の原因と、与野党やマスコミが論じる中での審議だが、この見方が間違っていることに気づく人は少ない。〝説明不足〟ではなく、〝説明能力がない〟のである。具体的にいえば、それぞれの法案の真の狙いや意味がわかっていないのだ。否、官僚から誤った情報を注入されている、〝ロボット〟たちが担当閣僚なのだ。または「嘘で塗り固められた」説明ばかりだ。

さて、会期は残すこと(ところ)53日となった。9月14日から再議決可能期間となるまでの審議日数は39日間となる。これは盆休み・土日祝日を入れた数字なので、参議院での審議期間は意外に短いと言わざるを得ない。そんな中で「廃案」とするにはどんな戦術と戦略で臨むべきか、猛暑の中ではあるが、頭を涼しくして冷静に考えてみたい。

○安全保障法制関連法案を廃案にする〝死角〟がありますよ!12

1)「60日ルール」の再議決の可能性は?
95日間という国会史上最長の会期延長を強行採決した安倍自公政権の発想は、参議院自公与党の意向と、山崎参議院議長が、「参議院で強行採決などで混乱させたくない」との自己保身の考えを反映したもので、当然再議決を前提としたものであった。ほとんどのマスコミも政治評論家も、衆議院での「再議決確実」との見方であった。安倍政権は長期会期延長で成立を確実にしたことで心理的緩みが出た。それが安倍チルドレンによる報道弾圧発言や、磯崎首相補佐官による「法的安定性は関係なし」との暴言である。原点―271号(6月25日)で「国会の会期が増えるほど、廃案とする〝死角〟が多くなる」と記したとおりの展開となりつつある。

国民世論の反発は強烈で、歴史的世論操作である安倍首相の、「新国立競技場白紙決断」にもかかわらず、安保法制への反発は強まるばかりである。そんな中、特筆すべきことは創価学会会員からの反対活動である。この動きがこれからのカギとなる。まず衆議院に戻して「再議決」する「参議院軽視論」に強く反対することが予想される。

「再議決」を行うためには公明党が同意しなければ憲法59条の3分の2の数に足りない。もっとも公明党が同意しても、自民党衆議院議員12名が欠席すれば再議決できない。非常に微妙な問題で、会期延長直後の想定とは大きく変化した。しかし「再議決」方式は消えたとも言えない。それは極めて政局が変動しているからである。さて、参議院で可決させるとなると、国民の反対運動の盛り上がりや、内閣支持率のさらなる低下によって容易なことではない。

参議院での可決成立を目指してもさまざまなアクシデントで不可の場合、会期末の土壇場で衆議院での再議決戦略に変更がありうる。いかなる事態にも対応できる柔軟思考が必要である。何としても参議院の審議において、あらゆる意味で安保法制関連法案が日本国を滅ぼす法案であることを、国民により徹底させるべきだ。そのためこれまでの審議をみて、留意すべき点を挙げておく。

2)「国際情勢の変化に対応するため」という安倍首相の立法理由を逆手に採ること

「安保法制審議」で、安倍首相の発言が唯一誤っていない言葉がある。「国際情勢が大きく変化した」ということだ。その通りだが、その変化とは歴史的なもので国連憲章にいう「集団的自衛権制度」が機能障害を起こし、新しい国際情勢に対応できなくなっていることに気がついていないことである。審議の中でテロやゲリラなどの実例を挙げて野党の追及があったが不十分極まりない。集団的自衛権という制度自身が、民主化の弾圧・冷戦の代理戦争・植民地利権の争奪など、国連憲章の理念に反して乱用・悪用されてきた実態がほとんど議論されていない。

もっとも重要なことは集団的自衛権に代わる新しい制度を国連として整備することだ。そのため日本が先頭に立って提案すべきで、米国の国益と利権を守るなど、国際世論から批判される20世紀の戦争の延長である集団的自衛権の行使など、廃止すべきとの議論を展開すべきである。

3)「法的安定性」の根本は「憲法原理の安定性」のことである。
磯崎首相補佐官の発言を、普通の法律などの解釈・運用の法的安定と捉える政治家やマスコミが多い。これは間違いで、集団的自衛権の行使ができるように憲法を解釈で変更することが、憲法の原理を骨抜きにすることである。磯崎発言を分かり易くいえば「国を守る法制(戦争遂行法制)は、憲法の法的安定とは関係ない」ということだ。これが今回の安保法制関連法案を立案する、基本姿勢で安倍自公政権の本音なのだ。国を守るのは憲法だという立憲主義を否定している。

安倍首相の発言や説明がわかりにくいとか、説明不足というのは、この本音を隠しいかにも憲法の法的安定性・基本原理を尊重しているかの如く嘘言を弄する答弁だから意味不明の説明になるのである。この「磯崎発言」を徹底的に追及することで廃案への死角が拡がるのだ。単に補佐官の首をとって終わりで済まされる問題ではない。安保法制の立法過程における、安倍首相の責任を徹底追及すべきだ。磯崎氏本人の説明と、民主党だけの質疑で幕を下ろすような野党では国民が許さない。

3)自衛隊発足時の下田見解を野党もマスコミも、何故に議論しないか!
政府として初めて「集団的自衛権行使」を違憲とした吉田首相兼外相の元での下田見解を、メルマガで毎号論じているが野党もマスコミも私を信用しないのか、知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいる。集団的自衛権行使問題の憲法上の法的安定性はこの下田発言からスタートしたといえる。それなのに、誰もが知らん顔で安保法制関連法案審議が続くことを恐ろしく思う。野党は廃案に追い込む気がないようだ。

与党側は、砂川事件の最高裁判決の古証文を作為的に政治犯罪ともいえる嘘言で持ち出し集団的自衛権の合憲論に悪用している。下田見解は「共同防衛条約などがあって初めて条約上の権利として生まれる。日本国憲法下では締結できないから、行使できない」というものだ。それを岸田外相は「条約などであらかじめ特定される必要はない」と答弁している。エイプリルフールの日とはいえ、日本政府として何時・どんな理由で変更したのか説明がない。憲法上の法的安定性の基本問題である。与野党ともこれを放置して、経済大国の国会審議といえるか。

4)天皇陛下の年頭所感及び敗戦の「玉音放送原盤」の公開などに思う。
 今年の天皇の年頭所感の一部を紹介しよう。

 「・・・・・この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」

このお言葉の意図するものは何か。戦前、特に「満州事変以後のわが国の軍事国家に回帰してはならない」というお気持ちと推察できる。そのお心根は、近時の日本政治に対しての思いがあることの表れといえる。この言葉が憲法上どのような性格か即断はできない。「準国事行為」と考えられるが、そうすれば「内閣の承認」の対象になるのか、といった問題がある。

まず、私が知りたいのは、この年頭所感を内閣としてどう取り扱っているのか。例えば承認とか了承の手続きをとっているなら、「安保法制関連法案」の内容との矛盾など議論となろう。また憲法99条は、天皇にも憲法を尊重擁護する義務を規定している。その意味は「憲法の規定およびその精神を忠実に守る義務の意」(宮沢・芦部全訂日本国憲法)としている。となれば、天皇として憲法の平和主義を守る義務があるといえる。

宮内庁は8月1日付で敗戦の「玉音放送原盤」の公開と、当時の御前会議が開かれた防空壕の現状写真などを公開した。報道によれば今上陛下のご希望だったとのこと。憲法上制約された厳しい立場で、憲法平和主義の大事さを、陛下は国民に訴えようとしているのだ。国民を代表する国会議員がどの程度理解しているのか、私には見えない。 
(続く)

(「平成の日本の政治改革の原点」は休みました)

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