世界に動乱をもたらすエジプトの軍事クーデター(追記)

エジプトで軍事クーデターが起こり、ムスリム同胞団の弾圧と国民に対する大量虐殺が進行している。その背後では、中東でイスラム原理主義が広まるのを恐れるイスラエル右派(対イスラム強硬派)とイスラエル右派と連携している米国の軍産複合体、国際金融資本がモサド(イスラエルの諜報機関)とバラク・オバマ政権を使い、傀儡政権を樹立、維持しようとする動きがあるようだ。

エジプト史上初めて国民の選挙で民主的に選ばれたモルシ大統領の軍部による排除と同政権の解体は、明らかに軍事クーデターである。オバマ大統領は、この事態をクーデターとは認めず、軍事暫定政権に対する軍事援助を停止する考えもない。次のロイターの報道を見ればあきらかである。

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[ワシントン 15日 ロイター] – エジプトの治安部隊によるデモ隊強制排除で多数の死者が出たことを受けて、オバマ米大統領は15日、来月のエジプト軍との合同軍事演習を中止すると発表した。大統領はこの発表でエジプト当局の強硬策に不快感を示したが、軍への支援凍結にまでは踏み込まなかった。

エジプト保健・人口省によると、モルシ前大統領を支持するデモ隊の強制排除などでは少なくとも623人が死亡。この他、数千人の負傷者が出ている。

専門家らは、オバマ大統領の方針が不十分で遅きに失しており、米政権が混乱したメッセージを投じ続けていると指摘。米国の中東専門家でつくる超党派グループ「Working Group on Egypt」は声明で、大統領がエジプト軍への支援を凍結しなかったことは、「(エジプト情勢における米国の)目標を損なわせ、米国への信頼性を弱める戦略上の失策だ」と批判した。

オバマ大統領の発表について、複数の元米当局者は、エジプトで最初の自由選挙で選ばれたモルシ氏の失脚以来続けてきた大統領のバランス重視の対応を反映したものだと分析。米国はこの失脚劇をモルシ氏復帰を求めないことで事態を黙認しているとされている。

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記事中「エジプトの治安部隊によるデモ隊強制排除」とあるが、これは間違い。「軍事クーデターによる暫定政権のムスリム同胞団の弾圧と市民の大量虐殺」である。また、死者の数は本当のところは分からない。だから、記事中の超党派グループはオバマ大統領を批判している。国際政治経済評論家の植草一秀氏のブログなどによると、背後にはモサドを操るイスラエル強硬派(右派)とCIAを動かす米国の軍産複合体および国際金融資本(金融帝国主義者)がいる。サイト管理者も諸般の情況からして、この分析を支持する。

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しかし、根本的な原因はイスラム教対ユダヤ・キリスト教の戦いである。オバマ大統領がモサドやCIAを使って軍事クーデターによる傀儡政権を樹立させたとしても、イスラム勢力はその事実と狙いを知っているから、イスラム教ユダヤ・キリスト教の全面的な紛争・戦争に移行する公算は否定できない。

ハルマゲドンの戦い(最終戦争)が新たな局面に突入した。

【追記】
焦点は二つある。ひとつは、軍事クーデターによる暫定政権のムスリム同胞団を中心とした国民の大量虐殺が収まるかどうか。これは、国連安保理が一致して大量虐殺を止めるよう国連軍を組織し介入しなければならないところである。しかし、武力行為の即時停止の「声明」を出すだけで、何の力も発揮できない。もうひとつは、これに関連したことだが、欧米先進諸国と日本を含むアジア諸国など海外諸国が今回政変をクーデターと認定するかどうか、である。

まず、米国は中東の大国で、唯一イスラエルと国交を持つエジプトへの影響力を強めておきたい。チュニジアで起こった「アラブの春」以降、イスラム―極端に言えば、イスラム原理主義―への回帰の動きが拡大しており、米国のアラブ諸国への影響力は低下しつつある。このため、米国は巨額の財政赤字を抱えるにもかかわらず、年間で13億ドル(約1300億円)の軍事支援(要するに、軍産複合体の生産した武器の購入代に充当する)を行うなど、エジプト軍の育成に努めてきた。

だから、今回の軍事クーデターの背後に新イスラエル国家・米国とイスラエルが存在することは間違いない。このために、バラク・オバマ政権は今回の軍事クーデターを軍事クーデターとして認めない。軍事クーデターとして認めると、対外援助法の規定により、軍事援助を凍結せざるを得なくなり、エジプトへの影響力を低下させるからである。米国のホンネとしては、軍事暫定政権の支持(ムスリム同胞団の解体)であろう。米国の追随国家である英国や日本の政府も同様に軍事クーデターとは認めていないから、米国とイスラエルが背後で軍事クーデターを操っていることは確かだろう。CIAやモサドが反モルシ大統領側の失策に乗じて展開された反モルシーデモの背後で暗躍していると見られる。

なお、戦後の米国はいたるところで、自国に不都合な政権は直接、間接に打倒している。例えば、孫崎享氏の「戦後史の正体」は、1960年安保闘争は、米国の意思に反して自主独立、政経分離による中国との関係修復を狙っていた岸信介(のぶすけ)首相の打倒が狙いであり、そのため、経済同友会と全学連(戦後、米国が育成した経済同友会が全学連による反安保闘争の資金を提供した)を使ったことを明らかにしている。米国は自国に不都合な政権を騒乱を画策して打倒することを、「得意技」のひとつとしている。

ここで、WikiPedia(サイト管理者はウィキペディアを全面的に信用しているわけではないが、事実関係はある程度信用している)によるモルシ政権のイスラム主義への回帰、米国離れ、軍事クーデターまでの経過を示す。

  1. 2011年のエジプト革命は30年続いたホスニー・ムバーラク政権を崩壊させ、軍による暫定的な統治の後にムスリム同胞団のムハンマド・モルシーが自由選挙を経て2012年7月に大統領に就任した。同国初の文民大統領である。
  2. 2011年12月、司法の独立を冒す暫定憲法宣言を撤回したうえで、国民投票によって憲法が承認された。ただし、ムバラク大統領の失脚以降、ムスリム同胞団を中心にイスラム勢力の台頭が著しく、憲法起草委員会の構成員の多くがイスラム主義者で占められたため、やはりイスラム色の強い憲法になった。具体的には、女性や非ムスリムの権利を縮小し、またイスラム化を促すものとして、反モルシー政権・ムスリム同胞団側から批判が巻き起こった。これに対して、同胞団側は、新憲法の第3条及び第43条を示し、キリスト教徒を含めた全国民の平等、自由、権利が憲法によって守られている、と主張した。
  3. モルシー政権誕生以降、モルシー政権側と反モルシー政権側との対立で、治安が悪化し、エジプト最大の産業である観光業が不振に陥り、観光収入が激減。エジプト・ポンドが大幅に下落して、食料品の3割高騰を中心にインフレに見舞われるなど、経済政策が失敗。国内対立に拍車をかけた。
  4. この国内の混乱、騒乱に乗じて、エジプトの軍産複合体(GDPの10%を占めると想定される)が利権温存の狙いもあり、台頭した。
  5. モルシーの大統領就任1年にあたる2013年6月30日に大規模な政府支持デモと反政府デモの両方が計画され、その数日前より治安部隊とデモ隊が衝突、犠牲者が出るなど緊張が高まった。
  6. 6月23日にアブドルファッターフ・アッ=シーシー国防大臣兼エジプト国軍総司令官は国が大混乱に陥った場合の軍による介入を警告し、1週間の猶予を与えた。しかし事態は改善されず、7月1日、軍はテレビやラジオを通じて声明を発表し、モルシーに対し48時間以内に国民の希望を実現する包括的なロードマップで合意するよう要求した。
  7. 7月2日未明、大統領府は軍の要求を拒否し、国民和解に向けた政府の計画を堅持すると発表し、またモルシー政権は憲法上正当なものであるとして、軍による要求を撤回するよう要求した。モルシー大統領自らも2日にテレビ演説を行い、自分は選挙で選ばれた大統領であり、国民が制定した憲法上の正統性は尊重されるべきであると主張。軍は本来の任務に戻るべきであるとしたほか、大統領を辞任する意向がないことを表明した。
  8. 2013年7月3日、シーシー国防大臣は国営テレビで演説を行い、モルシー大統領から大統領権限を剥奪したと発表。憲法を停止し、速やかに大統領選挙を行うことも表明し、それまでの間エジプトを統治する、アドリー・マンスール最高憲法裁判所長官を大統領とした暫定政権を樹立するとも発表した。
  9. 8月7日、エジプト暫定政権は、10日間継続していた欧米諸国やアラブ諸国とムスリム同胞団との和解交渉打ち切りを発表、モルシー政権支持者とムスリム同胞団の弾圧、大量殺戮を開始した。

以上が表面的な流れであるが、少なくともモルシー政権側は7月2日、軍の「最後通牒」に対し、「国民和解に向けた政府の計画を堅持する」としているのだから、これを無視して軍がモルシー大統領を拘束し、軍部による軍事暫定政権を「樹立」したのは、あきらかに軍事クーデターである。軍事暫定政権側は総選挙を行うとしているが、同政権側の狙いはムスリム同胞団の弾圧、解体であり、意味を持たない。背後ある本質的な対立は、中東におけるイスラム主義(シーア派に近い)とその拡大を恐れる米国とイスラエル(ユダヤ・キリスト教)との対立である。

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ムスリム同胞団は、中東の全域に根を貼っていると見られる。その弾圧は、イスラム教世界とユダヤ・キリスト教世界の深刻な闘争を引き起こすだろう。もっとも、岸信介と面白い「親交」のあった(「戦後史の正体」192頁―193頁)アイゼンハワー大統領の軍産複合体の危険性を警告した離任演説を無視して、米国の国際金融資本と軍産複合体(金融帝国主義)は、定期的に戦争を欲している。本来の建国の精神を失った現在の米国には中東紛争を解決する意思も能力も持たない。中東は死の商人の活躍の場であると思っている程度である。文明の中心は明らかに欧米からアジア、新興諸国に移りつつある。アジアの宗教界は一神教を理解し、和解に向けて立ち上がらなければならない。木は当然見なければならないが、森も俯瞰(鳥瞰)しなければならない。

 

 

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