孫崎享著「小説外務省ー尖閣問題の正体」を拝読ー棚上げ論の死活的重要性

孫崎享著の「小説外務省ー尖閣問題の正体」(現代書館)を一気に拝読した。サイト管理者が理解させていただいたところよると、「尖閣諸島問題(領有権問題)」は国際政治史(ヤルタ協定、ポツダム宣言、サンフランシスコ講和条約)および日中関係史(日中国交正常化交渉、日中平和条約締結交渉)を踏まえれば、「棚上げ論」が正解である。しかし、冷戦後に世界戦略を変化させた「宗主国」米国の指令の下、日本側が歴史を無視して「尖閣諸島固有領土論」を主張し始めたため、「日中関係」は一触即発の事態に陥っている。日中で「偶発的」であるかに見える「意図的」衝突があったとしても、日米安保条約は「張り子の虎」で役に立たず、中国の圧倒的に有利な軍事力の下に、尖閣諸島の実効支配権は中国側に移る、というものである。

これは「ノン・フィクション小説」であり、実在の人物が実名で登場してくる。サイト管理者としては、著者の主張には賛成であるが、日本が真に「神の国」なら、「終章」のようになる事態は避けられると信ずる。なお、かなりのベストセラーのようであり、近くの書店(広和堂)はもちろん、渋谷の啓文堂でも売り切れでなかった。こうなると、アマゾンしかない。特急便で注文すれば、翌日には届く。しかし、アマゾンは法人税を日本には納税していない。日本の財務省ー国税庁が抗議したが、そもそも「宗主国」に対して要求を貫くことができるはずはない。

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本著は100年間続いた「一向一揆」で知られる「加賀の国」(石川県)出身のエリート外務省官僚・西京寺大輔とその恋人で同じく外務省のキャリア官僚・小松奈穂子との交流を縦軸に、「尖閣諸島問題」の真実を論理的かつ実証的に描いたノン・フィクション小説で、マスゴミと揶揄される大手メディアが伝えない真実を明らかにして、日本国民に警告を発している。誰でも分かるよう小説形式で、平易かつ面白く書かれており、全国民必読書の書である。

それで、ひとつだけ感想を述べれば、好著の「戦後の正体」と比べて、「日米安保条約」に対する見方がより現実的でシビアになったことである。日米安保条約では次のように記されている。

  • 第五条
     各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
     前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、国際連合憲章第五十一条の規定に従つて直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。

これについて、「正体」では、「米国は『自国の憲法に従って』という条件はつけているものの、日本を守る義務を明記しました」(114頁)としている。しかし、「小説外務省」では、中国人民解放軍幹部に、次のように語らせている。

日米安保条約の中で、米国は実質的には日本防衛の約束は何もしていないと説明している。日米安保条約で日本側に約束したことは、「自国の憲法上の規定及び手続きに従って共通の危険に対処するように行動する」とということである。米国では交戦権は議会にある。この条文は米国議会に募り行動する以上のことを何も言っていない。そのことを米国は我々に繰り返し説明している。米国はNATO条約の規定『必要と認める行動(兵力の使用を含む)」を【中略】直ちに執る』とは根本的に違うことを説明している。
尖閣諸島で日中間の戦闘が起こったとしても米国が出てくる可能性はない。

こちらの理解の方がより、現実的であろう。つまり、米国が戦争したくない中国にとって、日米安保条約はは「張子の虎」でしか過ぎないのである。本書は「尖閣諸島問題」に特化しており、それだけに国民が知らされていない機密情報が満載である。秋にも施行される「秘密保護法」を意識したものと言えよう。

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さて、最後の終章「尖閣諸島問題」の未来では、日本が米国に押し付けられた環太平洋連携協定(TPP)で経済(特に、農業・医療・雇用)が破壊され、長く続いてきた自公政権に対する国民の不信と国内に動揺が起こることが示される。放っておけば、反米・反自公政府に対する批判的暴動が全国で展開される。米国としては、アジアの拠点である日本を何としても支配下に置いておく必要がある。このためには、国内の不満を中国に向けさせることが最適だとして、対米隷属主義者の大泉(純一郎)首相に対して2021年2月、自衛隊員10人の尖閣諸島上陸を指示する。

大泉首相は首相官邸に、石川外務省事務次官、木内防衛次官、池田官房長官、山田内閣情報調査室長を呼び、自衛隊員の尖閣諸島上陸に「何か問題があるか」と尋ねる。対米従属官僚は自衛隊員が上陸した場合は逆に中国側の攻撃を受け、尖閣諸島の領有権が同国側に奪われることを承知しながらも、米国の指令を受けた首相の指令であることから、木内防衛次官は「我々は、中国と戦った時、勝つ能力がありません。総理、(自衛隊員の尖閣諸島上陸は)やめてください」とはとても言えず、「了解しました」とことなかれ主義に徹する。

ここで、毅然として左遷覚悟で大泉首相の説得に当たるのが、本省に帰ってきた西京寺第三国国際情報室長である。本小説では、大泉首相への西京寺室長の進言で幕を閉じる。この舞台での双方のやりとりは圧巻である。日本の国民一人ひとりが、本ノン・フィクションを頼りに、自分の頭で自己の運命と日本の将来について、考えることをおすすめしたい。

 【追記】要するに、対米隷属主義・張り子の虎の「日米同盟」・新自由主義路線に惑わされ、自分の頭で物事を考え、1990年以降の冷戦崩壊後の国際秩序の在り方を構想できないことが、現在の日本の思想、政治、経済、社会の混迷の最大の原因である。日本の歴史の基層を貫いてきた日本教の限界である。

 

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