県知事選挙ながら「森友・加計疑獄」の影響で本来圧勝すべきはずの新潟県知事選挙(6月10日投開票)で野党統一候補が事実上大敗した。候補者を一本に絞り込むという戦術は間違っていないが、①野党候補統一戦略②憲法尊重と改正・真性民主主義制度の樹立・安全保障政策・原子力発電阻止とエネルギー政策・反貧困かつ経済成長を柱とした反グローバリズム基本経済政策ーなど戦略面での練り直しが必要である。
野党側は「僅差での敗北」と無念がっているが、①投票率は58・25%で、前回の53・05%を5・20ポイントも上回ったが、新潟市内、上越市内など新潟県でも都市部で異常に伸び悩んだ②確定得票は、自民・公明の支持する花角英世氏(60)が54万6670票、前県議で立憲、国民、共産、自由、社民が推薦する池田千賀子氏(57)が50万9568票で、4万票もの大差で敗北した。
大差と記したのは、「森友・加計疑獄」で安倍晋三自公政権に対する信認が根本から揺らぐという強い追い風が吹いていたからだ。それが、投票率の高さにもかかわらず、野党側が大敗北を喫した結果になったわけで、それには看過できない大きな要因がある。
第一は、野党側に県知事としてふさわしい政治家を判断する能力が欠けていることだ。今回の県知事選挙は、東京電力柏崎刈羽原発(同県柏崎市、刈羽村)の再稼働に慎重姿勢だった米山隆一前知事(50)が女性問題で4月に辞職したことを受けた選挙。ところで、この「女性問題」というのは、2018年4月16日、自身の金銭の授与のある女性問題(女子大学生への買春行為)が週刊文春に報じられる予定だったもので、要するに現職知事があるまじき買春行為をおこなっていたというもの。
同知事(当時)は支援者らと対応を協議した結果、18日の記者会見において知事を辞職する意向を表明、同日、県議会議長に辞職願を提出し、27日に開かれた新潟県議会の臨時議会において全会一致で辞職が同意され、同日付で知事を辞職したことが発端である。約1年半の在職期間にしかならず、歴代新潟県知事で最短となった。これは、野党側に人物を見る目がなかったことの証左である。
前回知事選挙での米山氏の当選は、野党統一候補による政権奪還の基本方程式として全国に喧伝されることになったわけだから、いくら戦術面で正しいとしても、野党側に人物を見分ける能力がなければ土台から崩れる。こうした経緯を踏めば、市政経験40年で前県議の池田千賀子氏ではいかにも玉が細かった。これは、池田氏本人と野党側の連携が確立されていなかったことを意味する。結果、新潟県の都市部では米山前知事ほど票を確保することができず、敗北の主因になった。自公政権側からは、「野党側に人材なし」と評価されるだろう。
第二は、「反原発」の代案不足である。2015年まで県副知事(行政経験があり、県民にはそれなりに安定感を与える)を務めた花角氏は、国土交通省などでの行政経験をアピール。観光振興や交通網の充実を公約の重点に置く行政のプロとしての経験を前面に押し出す戦術を取ったが、原発については建前ながら慎重姿勢を示し、再稼働を判断する際には「改めて信を問う」とし、辞職して出直し知事選で民意を問う可能性にも言及するなど慎重姿勢を貫いた。
これには、少し理由がある。柏崎刈羽原子力発電所は、新潟県柏崎市と、同県刈羽郡刈羽村にまたがる東京電力ホールディングスの原子力発電所で、1号機から7号機までの7基の原子炉を有し、合計出力821万2千キロワットと世界最大の原子力発電施設である。福島原発事故が起こったことと、活断層ないしは「活褶曲」(かつしゅうきょく)という地層に近接しているから大地震の起きる危険性とそれに基づく取り返しのつかない大事故が起こる可能性が指摘されていることから、運転を止めているが、原発再稼働を容認するための「原子力規制委員会」は既に「再稼働容認」の判断を示している。ただし、地元の賛同が必要なため、花角氏は原発反対派も取り込むため、上記のような戦術を取り、柏崎刈谷原発の再稼働を県知事選挙の争点にしなかった。
結果として、今回の県知事選挙では原発再稼働派を取り込むことに成功した。ただし、これは単なる騙しの戦術であって、原発再稼働を臆面もなく進める自公政権の意向を受け、柏崎刈谷原発の再稼働は予定されたものになっていると断言して良いだろう。池田候補が反原発を訴えたのは正しいが、原子力発電所は膨大な交付金と雇用を保証し、新潟県の経済を支える。原発から放出される放射性核廃棄物の完全廃棄もしくは再処理技術が全く未確立で技術的に行き詰まっていることから、「反原発」運動は正しいとしても、補助金の支給も含めた新しいエネルギー産業の創造ととそれに基づく従来原発立地県の雇用・経済を支える明確な青写真を提示しなければ、日本における反原発運動のうねりが広がり、高まる公算は大きくない。
第三に、NHKが10日8時13分にサイトで公開した出口調査の記事によると、野党側は立憲民主党と共産党が支持層を固めたとされていたが、国民民主党については触れていなかった。自由、社民党は支持層が少ないので、触れなくて当然だが、民主党→民進党→国民民主党と変遷してきた国民民主党の支持層は新潟県にも一定の数的基盤があるはずであり、同党の支持者の出口調査に言及して当然であるが、そのことについては触れていなかった。同党の支持者が、花角氏投票に赴いた可能性は小さくない。
第四に、日本共産党の動向である。同党が野党候補の統一に尽力していることは高く評価できるがやはり、コミンテルンの日本支部として創設された日本共産党では、「日本共産党」のままでは野党の統一は難しい。未だに日本共産党の名前にこだわっているのは、共産主義を止揚(揚棄)できる見通しが立っていないことの現れであろう。日本共産党が、「日本発達史講座」(岩波書店)の原点に帰り、悪なるイメージ(暴力革命・民主集中制と一党独裁体制・生産手段の社会化・国有化=すべて日本国憲法違反=)の強い共産主義を揚棄し、同党名と党綱領の変更を国民の前に明確にしない限り、日本において真性野党の結集は困難である。それができれば、野党の中の「隠れ自公派(ゆ党)」を追い出し、日本に政権交代可能な二大政党制が樹立できよう。「大異を残して大同には着けない」のである。