8月15日は「終戦記念日」で、安倍晋三首相が官僚の作文を読み上げていた。英霊を追悼するのは当然のことであるが、戦争の責任を明確にしなければ英霊も浮かばれまい。この日、サイト管理者は「終戦のエンペラー」を鑑賞した。昭和天皇に太平洋戦争の責任があるかどうか。ダグラス・マッカーサーGHQ最高司令官からその調査を命ぜられたボナー・フェラーズ准将の孤軍奮闘を、鹿島あやとの恋愛物語を織り交ぜて描いた作品だ。映画としては面白いが、真実は異なる。

改めて、孫崎享氏の「戦後史の正体」を読んだ。終戦の日は、昭和天皇の玉音放送が流された8月15日ではない。戦艦ミズーリ号で「無条件降伏調印式」が行われた翌9月2日である。調印文書の内容は、「日本政府は『連合国最高司令官からの要求にすべて従う』」というものだ。マッカーサーは米国製憲法とキリスト教の布教(同書72頁、実際新憲法施行後の最初の総選挙で総理大臣となった日本社会党委員長の片山哲はクリスチャンでもあった。GHQないし米国の承認がなければ、総理大臣になることはできないし、国民の民意で選ばれた総理大臣であってもGHQないし米国が気に入らなければ、東京地検特捜部とマスコミを使って内閣を打倒する)で日本を民主化しつつも、工業力と軍事力を徹底的に破壊し、三流国に落とす方向で占領政策を進めていたが、冷戦の始まりで占領政策は一変する。つまり、米国は「ソ連への対抗上、日本の経済力・工業力を利用する」という方向に180度転換したのである。



「つづいて、朝鮮戦争が起こり、米国の対日政策の変化が確定します。米国は日本に経済力をつけさせ、その軍事力も利用しようと考えるようになりました」(98頁)。その過程で、昭和天皇の果たした役割が次第に明らかになりつつある。その第一歩が1979年、進藤栄一・筑波大学助教授(当時)が、米国の公文書館から発掘した文書を元に雑誌「世界」4月号(岩波書店)に「分割された領土」と題して発表した論文である。

この文書とは、終戦後、昭和天皇の側近となった元外交官の寺崎英成が、GHQ側に接触して伝えた沖縄に関する極秘メッセージである。このメッセージは、マッカーサー最高司令官の政治顧問だったW.J.シーボルトの書簡に記されている。

「天皇の顧問、寺崎英成氏が、沖縄の将来に関する天皇の考えを私に伝える目的で、自日をあらかじめ約束したうえで訪ねてきた。寺崎氏は、米国が沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を継続するよう天皇が希望していると、言明した。(略)さらに店の走破、沖縄(および必要とされる他の諸島)に対する米国の軍事占領は、日本に主権を残したままででの長期租借―25年ないし50年、あるいはそれ以上―の擬制(フィクション)に基づいてなされるべきだと考えている」(87頁)

ここのところは、原文がネットで公開されている。

===========================================

<資料1> 総司令部政治顧問シーボルトから国務長官宛の書簡、東京 1947 年9月 22 日
主題:琉球諸島の将来に関する日本の天皇の見解
国務長官殿 在ワシントン
謹啓
天皇の顧問・寺崎英成氏が当事務所を訪れたさいの、同氏との会話要旨をメモした 1947年9月 20 日付けマッカーサー元帥あて覚え書きのコピーを同封することを光栄とするものです。

米国が沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を続けるよう日本の天皇が希望していること、それが疑いもなく私利に大きくもとづいているものである点が注目されましょう。また天皇は、長期租借(そしゃく)による、これら諸島の米国軍事占領の継続を求めています。

寺崎氏の見解によれば、日本国民はそれによって米国に下心がないことを納得し、軍事目的のための米国による占領を歓迎するだろうということであります。

敬具
合衆国対日政治顧問 代表部顧問、W.J.シーボルト
────────────────────────────────────────
<資料1の原文> UNITED STATES POLITICAL ADVISER FOR JAPAN、Tokyo, September
22, 1947.
Subject: Emperor of Japan’s Opinion Concerning the Future of the Ryukyu Islands.
The Honorable, The Secretary of State, Washington.
Sir:
I have the honor to enclose copy of a self-explanatory memorandum for General MacArthur,
September 20, 1947, containing the gist of a conversation with Mr. Hidenari Terasaki, an adviser to
the Emperor, who called at this Office at his own request.
It will be noted that the Emperor of Japan hopes that the United States will continue the
military occupation of Okinawa and other islands of the Ryukyus, a hope which undoubtedly is
largely based upon self-interest. The Emperor also envisages a continuation of United States
military occupation of these islands through the medium of a long-term lease. In his opinion, the
Japanese people would thereby be convinced that the United States has no ulterior motives and
would welcome United States occupation for military purposes.
Respectfully yours,
W. J. Sebald, Counselor of Mission
────────────────────────────────────────
<資料2> 「琉球諸島の将来に関する日本の天皇の見解」を主題とする在東京・合衆国
対日政治顧問から 1947 年9月 22 日付通信第 1293 号への同封文書
マッカーサー元帥のための覚え書連合国最高司令官総司令部外交部、1947 年9月 20 日

天皇の顧問、寺崎英成氏が、沖縄の将来に関する天皇の考えを私に伝える目的で、時日をあらかじめ約束したうえで訪問してきた。

寺崎氏は、米国が沖縄その他の琉球諸島の軍事占領を継続するよう天皇が希望していると、言明した。天皇の見解では、そのような占領は、米国に役立ち、また、日本に保護をあたえることになる。天皇は、そのような措置は、ロシアの脅威ばかりでなく、占領終結後に、右翼及び左翼勢力が増大して、ロシアが日本に内政干渉する根拠に利用できるような事件をひきおこすことをもおそれている日本国民の間で広く賛同を得るだろうと思って
いる。

さらに天皇は、沖縄(および必要とされる他の諸島)にたいする米国の軍事占領は、日本の主権を残したままでの長期租借[そしゃく]――25 年ないし 50 年あるいはそれ以上――の擬制[ぎせい=フィクション]にもとづいてなされるべきであると考えている。天皇によると、このような占領方法は、米国が琉球諸島に対して永続的野心を持たないことを日本国民に納得させ、また、これによる他の諸国、とくにソ連と中国が同様の権利を要求す
るのを阻止するだろう。

手続きについては、寺崎氏は、(沖縄および他の琉球諸島の)「軍事基地権」の取得は、連合国の対日平和条約の一部をなすよりも、むしろ、米国と日本の二国間条約によるべきだと、考えていた。寺崎氏によれば、前者の方法は、押しつけられた講和という感じがあまり強すぎて、将来、日本国民の同情的な理解を危うくする可能性があるとのことである。

W.J.シーボルト
────────────────────────────────────────
<資料 2 の原文> Enclosure to Dispatch No. 1293 dated September 22, 1947, from the United
States Political Adviser for Japan, Tokyo, on the subject “Emperor of Japan’s Opinion Concerning
the Future of the Ryukyu Islands”
Memorandum For: General MacArthur
General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers, Diplomatic Section、20
September, 1947
Mr. Hidenari Terasaki, an adviser to the Emperor, called by appointment for the purpose of
conveying to me the Emperor’s ideas concerning the future of Okinawa.
Mr. Terasaki stated that the Emperor hopes that the United States will continue the military
occupation of Okinawa and other islands of the Ryukyus. In the Emperor’s opinion, such
occupation would benefit the United States and a1so provide protection for Japan. The Emperor
feels that such a move would meet with widespread approval among the Japanese people who fear
not only the menace of Russia, but after the Occupation has ended, the growth of rightist and leftist
groups which might give rise to an “incident” which Russia could use as a basis for interfering
internally in Japan.
The Emperor further feels that United States military occupation of Okinawa (and such other islands as may be required) should be based upon the fiction of a long-term lease — 25 to 50 years
or more — with sovereignty retained in Japan. According to the Emperor, this method of occupation
would convince the Japanese people that the United States has no permanent designs on the
Ryukyu Islands, and other nations, particularly Soviet Russia and China, would thereby be stopped
from demanding similar rights.
As to procedure, Mr. Terasaki felt that the acquisition of “military base rights” (of Okinawa
and other islands in the Ryukyus) should be by bilateral treaty between the United States and Japan
rather than form part of the Allied peace treaty with Japan. The latter method, according to Mr.
Terasaki, would savor too much of a dictated peace and might in the future endanger the
sympathetic understanding of the Japanese people.
W. J. Sebald

===========================================

日本国憲法(米国およびGHQが冷戦の勃発に気づかない間=日本の民主化を目標としていた時期=に英語で作成した原文を、日本政府が日本語に翻訳、多少修正したもの)は、第四条において、「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」と定め、第九十九条 で、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と規定している。

この憲法の条文からすれば、戦後の日米関係の在り方を決定づけている日米安保条約(実質的には日米地位協定)の制定および沖縄県への米軍駐留をGHQに対して希望し、伝えた昭和天皇の行為は大きな議論を呼ぶものである。いずれにしても、日本人自らが天皇制度(国体)について、徹底的に掘り下げた理解をしない限り、日本の再生はない。「終戦記念日」は、「日本および日本人とは何か」を自らに問う日である。

※追記:自民党の「改憲草案」では、第九十九条は次のように改悪されている。

第百二条 全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
2 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

近現代の成果を得た憲法は国民を縛るものではなく、現代のリヴァイアサンである国家権力を縛り、暴走を抑えるものである。この改悪は、気違いのなせる業としか言いようがない。かつ、天皇は超法規的存在となる。

 

 

この記事が気に入ったら
フォローしよう

最新情報をお届けします

Twitterでフォローしよう