安倍晋三首相が2月29日午後、新型コロナウィルス感染防止対策で突如発表した幼稚園・保育園、小中高校の突然休校命令の釈明を中心とした記者会見を初めて行った。注目された休校命令で勤務している会社などを休業しなければならない園児・学童・生徒の世話を含む保護者の休業補償措置や中止に追い込まれた大きな集会・イベントのキャンセル料などの補償措置は2700億円程度の2019年度予備費から捻出するという。その程度の予算措置では保護者の休業補償、大会・イベントのキャンセル補償にはまさに、焼け石に水だ。3月10日に補償措置を含めた第2次緊急対策の具体策を発表すると言うが、10日と言えば2月25日に新型コロナウィルス感染対策本部(本部長・安倍首相)が発表した「ここ1,2周間がヤマ」の2週間めに当たる。ヤマ場を越えてからの緊急対策というのはありえない。裏を返せば、ヤマ場を越えられないとの認識を示したものだ。
2019年度の予備費2700億円を休校を余儀なくされた保護者一世帯に直接20万円支給するとしても、135万世帯にしか支給できない。現在、幼稚園児・保育園児・児童・生徒は全国で1350万人程度。保護者世帯は政府=安倍政権が対策を怠ってきた超少子化で世帯数が昭和の時代に比べて相対的に多くなっているから、135万世帯程度ではどうしようもない。これに、自粛として事実上の休止を命じたイベントや一定規模以上の大会のキャンセル料に対する補償が加わると、予備費では焼け石に水どころの話ではない。
元来は、衆院本会議で2020年度予算案を可決する前に新型コロナウィルス対策のための2019年度第二次補正予算案を編成し、成立させた上で、2020年度(2020年4月以降)に対しては取り敢えず暫定予算案を組んで当座をしのぐとともに、昨年末に決定した2020年度予算案を大幅に組み替えるべきだった。
既に投稿したように、2月末の1周間、米国の主要企業で作るダウ工業株30種平均(ダウ平均)はリーマンショックを超えるほどの週間下落の展開になった。米金融市場は新型コロナウイルスの感染拡大に恐怖を感じていると言って良い。週末2月28日、前日比357ドル安の2万5409ドルで終え、7営業日連続での下落になった。週間(5営業日)での下げ幅は計3583ドルと、2008年のリーマン・ショック後を超えて過去最大を記録した。ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は利下げを余儀なくされている。
朝日デジタルによると、世界保健機構=WHO=のテドロス・アダノム事務局長は2月28日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大や影響の世界的なリスク評価について「非常に高い」と述べ、感染が広がり続ける状況に危機感を示した。それまでは単に「高い」としていた。要するに、エピデミック(一国内など地域的流行)がパンデミック(世界的大流行)に暗転する可能性を示唆したわけだ。そう言いながら、つい先程パンデミックにはならないとも述べている。本当のところは、どうなのか。
その後、同事務局長は前言を修正し「重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)ほど致命的ではないようだ」と語ったが、発言に一貫性がない。良く言えば、世界の諸国・諸国民に不安を与えないことを配慮した発言、悪く言えば情勢に応じて使い分ける政治的発言である。国連の専門機関であるWHOは正しく情報公開を行うべきである。
これに関連して、大型豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号での感染者、死亡者は日本国内での感染者、死亡者に入れていない。同船は2月1日に那覇港に入稿し、入国手続き・防疫を行っている。横浜港から乗船し香港で下船した乗客が新型コロナウィルスに感染していることが判明したのはその後だから、日本政府=安倍政権は同船の乗客・乗員の上陸を禁じ、船内でPCR検査を行うなどの対策をとったが、全乗組員3711人に対してではなく、症状が出ている一部の乗客・乗員273人に限られ、他の乗客・乗員への対策は何らなされなかった。このため、PCR検査をすれば陽性との判定を受けていたけれども、自覚症状のなかった乗客・乗員が隔離されなかったため、感染が広範囲に拡大し、英国に帰国後亡くならた同国人を含む6人の死亡者も出た。これに3月1日15次現在の死者6人を加えると、事実上日本国内で死亡した方は日本人、外国人も含めて12人である。高齢者で心臓疾患、糖尿病など持病を持たれた方が多い。
このため、日本政府=安倍政権は裏でWHO(国連の専門機関で、日本は中国に次いで世界三番目の分担金国)に圧力をかけたと見られ、ダイヤモンド・プリンセス号は日本国外の洋上で乗客・乗員が新型コロナウイルスに感染したことにしてしまった。これは、同船が那覇港で入国手続きを行い、すでに国内の豪華客船であるという法的事実と矛盾している。これまでの経緯からすると、政府=安倍政権はの新型コロナウイルス対策の根本は、同ウイルス感染者数を見かけ上少なくして、東京オリンピック、パラリンピックを開催することに置かれているよう見える。菅義偉官房長官が回答する内閣記者会見では、「オリンピックと国民の生命・財産とどちらが大切か」を問い、「もちろん、国民の生命・財産です。これに支障が出るような状態になると、当然オリンピックの開催は中止します」との回答を引き出さなければならない。
新型コロナウィルスに効くワクチンの開発が根本的な解決策であるがその開発が困難な現状、もっとも有効な対策は、PCR検査を行い、陽性と判定された患者に適切な医療施設などで最適な医療措置を講じることである。ところが、そのPCR検査は現状、新型肺炎らしい症状に罹患し、緊急入院した患者にしか行われていない。また、政府=安倍政権の緊急対策でも医師が診断し、PCR検査が必要とした患者に対してのみPCR検査が可能というばかげた仕組みになっている。
上昌広・医療ガバナンス研究所理事長が2月26日のTBS番組「News23」で発言したところによると、「軽い症状の人がふだん通り(公共交通機関に乗って入社、出社し)働いて(会社内と公共交通機関など)周囲に(ウイルスを)まき散らす。従って、そういう方々に正確に診断することは本当に大切なこと」「高齢の持病をもった方で亡くなっている。弱い患者さんがわかっている。そういう人には早く診断して、早く治療しないといけない。最近になって、効く薬がわかってきている。どうして入院を要する肺炎まで待たなきゃいけないのか。これは医療倫理にかかわる問題。常識では(厚生労働省がPCR検査を拒否することは)常識ではあり得ない」と指摘。また、日本には民間の検査会社が100社あってそれぞれ検査施設を複数有していることから、900の検査施設があり、各検査施設で1日に100人検査できるとすると、日本全体では1日で9万人ほど検査専門技師により正確な検査ができるということである。
だから、取り敢えずは院内感染が危惧される医療機関、高齢者養護施設からPCR検査を行い、さらには、PCR検査を希望する国民に対しては医療機関を通して自由に検査が受けられる体制(検査費用面では保険適用かつ自己負担の一部は財政から支出する国庫負担にする)を整えるべきだ。ところが、2月29日に掲載された朝日新聞の首相記者会見によると、安倍首相は「検査、医療体制を構築し、すべての患者がPCR検査を受けることができる十分な検査能力を確保する」と、「患者」の定義は明らかにしていない不十分な記者会見で、検査対象が自覚症状のある「患者」に限るとの姿勢を崩していない。
自覚症状はないがPCR検査をすれば陽性と判定される国民による感染拡大防止策を講じることが急務である。北海道で感染者数が多いのは、2011年4月から2019年2月まで2期8年夕張市長(第18代)を務めた鈴木直道知事が先頭に立ち、自治体の判断でPCR検査体制を強化しているからだ。検査人数が多くなれば当然、陽性の感染者数も多くなる。韓国で感染者数が多いのは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領がそうしているからだ。新型コロナウィルスも生き物だから、ヒトの体内に入らなければ「栄養」を取れなくなり、死滅せざるを得ない。思い切った予算措置を講じて、PCR検査体制を大幅緩和・拡充するべきである。
※追伸
植草一秀氏のメールマガジン第2566号によると、スイスの製薬会社ロシュ・ホールディングが新型コロナウイルス感染を簡単に判定できる商業用医療検査ツールを開発したという。これについてのニュースを米国の大手通信会社ブルームバーグが報じている。中国に投入することになっている。なお、同氏は日本で感染者数として厚生労働省が公表し、マスコミが報道される数字は、あくまでも感染確認者数であって、実際の感染者数はこれよりはるかに多いと指摘しているが、サイト管理者も同感である。