7月5日投開票の東京都知事選は小池百合子現職候補の得票率59.70%の「圧勝」に終わった。新型コロナウイルス感染再拡大が選挙終盤に「公表」されたこともあり、都知事選では妥当なコロナ禍対策論議が盛り上がらず、投票率が前回を4.73ポイント下回る55.00%にしかならなかった。小池都政に反対する野党と都民の共闘も、今回はあまり意味を持たなかったが、一本化されず、自公、連合に加えて支離滅裂だったコロナ禍対策を評価する「無党派層」が小池現職候補支持に回るという不可解な現象も起こった。その結果、野党側は宇都宮健児候補とれいわ新選組代表の山本太郎候補を合わせて24.48%にとどまるという結果になった。ただし、山本候補は得票数65万7277票、得票率13.37%になっており、善戦したと考える。今回の選挙結果は、小池現職都知事候補がステルス選挙を行ったということもあるが、理念・政策なき「野合の野党共闘」では国政選挙、東京都知事選挙などでは自公勢力から政権を奪還できないことを如実に示した。今後の衆院解散・総選挙では共生主義と積極財政を柱とした政策で一致した「政策連合」の形成が急務であることを示している。

朝日デジタルが2020年07月06日06時59分に更新した最終結果によると、各候補者の得票数、得票率は下図のようになっている。小池百合子現職都知事が366万1371票、得票率59.97%を確保し「圧勝」したのは、①東京オリンピックの開催を来夏に延期したこと②来夏のオリンピックの規模縮小を打ち出し−たことで、都民の意見が分かれるが、期待も根強いオリンピック開催で一定の支持を得たこと②開催延期が決まった途端、テレビで「ロックダウン」などの英語の言葉を使い、事実上のステルス選挙活動を行った③スポンサー企業、テレビ局と結託し、テレビでの候補者討論会を開催しなかった疑いがある④コロナ禍対策でテレビに露出、ステルス選挙を行った④コロナ禍対策が、1兆円程度の財政調整基金から「自粛要請協力金」を振る舞った−ことなどが大きい。

朝日デジタル調査による

しかし、①新自由主義=緊縮財政を政策の柱とする自民党やその御用組合の連合の組織票の支援があったことや財政調整基金は枯渇しており、コロナ禍対策の基本が「自粛要請」から「自衛」という名の「自己責任原則」に変更された②6月19日に全国への移動の撤廃を含め自粛を投開票直前になって、新型コロナ感染が再拡大してきたが、朝令暮改の典型である「東京アラート」制度の発出・廃止を行うなど、高い「評価」を受けたとされるコロナ禍対策が実際は支離滅裂だったこと③米国疾病予防管理センター(CDC)の東京都版である公約の東京都版CDCが十分機能するか④山本候補の打ち出した地方債発行の対抗策として、場合によっては補正予算の編成を打ち出してはいるが、有効に機能するか⑤学歴詐称問題の決着が着いていない⑤コロナ禍による大不況(場合により大恐慌に暗転の恐れ}は収まっておらず、むしろ今後本格するが、有効な対策を打てるか−などの問題がある。

また、今回の都知事選で「排除」発言を挽回したかに見えるが、東京都議選補選では自民党に復党して首相の座を目指すとの観測もある。しかし、都民ファースト、自民、立憲の争いになった注目の北区をはじめ、大田区、日野市、北多摩第三(調布、狛江市)の4選挙区(いずれも欠員1)でいずれも自民党公認候補が当選した。小池現職候補の再選は保守新党以来友好関係にある自民党の二階俊博幹事長の強力な支持があっての結果だから、安倍晋三政権のたびかさなる不祥事を前提にしても、小池第二期都知事の最大の野望である「(理念と政策なき)首相」を目指考えの観測も絶えないが、その障壁は高いと思われる。

野党側は宇都宮候補と山本候補の得票数の合計は150万1428票、得票率合計は24.48%と小池現職候補の得票数366万1371票、得票率59..70%に遠く及ばなかった。その中で、組織票では圧倒的に劣勢にあるれいわ代表の山本候補が、昨年夏の参議院比例代表選挙の東京都(投票率51.8%)で、れいわの都内得票数が約56万票だったことを踏まえると、今回の都知事選で65万7277票、得票率10.72.%を獲得したことは、新型コロナウイルス禍対策として、①15兆円規模の地方債発行による積極財政の実施②新型コロナ感染人数の1日あたり20万人規模への拡大−などを訴えたことが一定の効果を奏したと見られ、同候補の善戦を示していると考える。

なお、今回の都知事選の小野泰輔候補は自公補完勢力である日本維新の会の推薦を受けて立候補したが、国民民主党の前原誠司氏らが日本維新の会との連携の手始めに、知事選で応援したことも見逃せない。また、①消費税増税賛成を柱とした緊縮財政②積極財政への抜本転換③原発可動即時停止−など、御用組合でしかなく、自民党の支持勢力である連合傘下の連合東京が小池現職候補を支援したことも、連合の正体を明確に示すものである。

NHK調べによる(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200705/k10012498031000.html)

一般的には、野党の統一候補の一本化が出来なかったことが野党側敗北の原因と見られているが、山本候補の出馬記者会見によると、宇都宮候補には3月5日と25日の二回にわたって打診したが、5日には野党候補統一の可能性もあったが、その後の25日には、宇都宮候補が「必ず出馬する。(山本代表が出馬したければ)自由に出馬して下さい」と言明、野党統一候補を立てる考えのないことを明確にしている。

また、立憲民主党などから統一候補の打診があったが、コロナウイルス再拡大が現実のものになってきており、また、「自粛」に伴う経済への悪影響はまだまだ続いている現状、本来は消費税率ゼロ%への引き下げが筋のところ、取り敢えず5%への引き下げを統一候補としての出馬条件にしても、立憲側がこれを受け入れなかったことから、れいわ新選組公認候補として出馬せざるを得なかったという事情がある。

なお、れいわ新選組が民間調査会社に依頼して有効回答数3006人の有権者に対して行った調査は下図である。7月5日の当確情報が出た後の山本代表の記者会見で、小池現職候補の支持率が圧倒的に高く、他の候補はいわば「どんぐりの背比べ」の情勢だったと分析し、こういう選挙情勢状況下では「統一候補」を立てるということ自体が、意味のない選択肢であったと説明している。下図は当確発表前に示すと、公職選挙法違反になるため、選挙出馬改憲では「小池現職候補は圧倒的に強い」と反小池陣営の候補者一本化が無意味であることを示唆していた。

れいわ新選組の記者会見により。

宇都宮氏に対して、国民が6月3日に自由投票を決め、国民を除く野党が統一候補に決めたのは6月4日であり、国政選挙への考慮もなく、理念なき「野合の野党共闘」しか実現できなかったことは、野党全体のリーダーとしての立憲の枝野幸男代表の求心力の低下は避けられない。反小池都政層、政治に対する無関心・絶望派層を基本とする「無党派層」が小池現職候補に流れたこともあるが、基本的には全有権者の25%(今回の都知事選は33%)が選挙の結果を決めるというこれまでの「日本の選挙の経験則」の範疇に入る。

野党側の敗北の真の原因は、この「有権者の25%が選挙の結果を決める」という「日本の選挙の基本則」を破れなかったことにあることが大きい。具体的には、再拡大しつつある新型コロナウイルス禍対策の抜本対策を財源面で統一できず、そのために、投票率が大きくは盛り上がらなかったことにあると見られる。政府=安倍政権とその傘下にある小池第二期都政は、基本的に「自己責任原則」へとコロナ禍対策を転換した。これでは、「二兎追うもの一兎も得ず」という結果になるだろう。加えて、枝野代表率いる立憲側が「消費税減税」に事実上反対し、国政レベルでの選挙を見据えての「野党共闘」を打ち出せなかったことにもある。

「野党」とされる立憲、国民が御用組合であり、自公政権の政策を支持する連合の事実上の傘下にある限り。「野党共闘」と言っても、理念・政策での一致なき「野合の野党共闘」にしかならない。この「野合の野党共闘」路線はもはや完全に崩壊した。ただし、立憲・国民の執行部はこの点についての明確な認識がないと思われる。

本サイトでも基本主張として訴えさせていただいているが、①消費税減税②プライマリー・バランス論(一般歳出から国債の利払い費を除いた政策経費を税収の範囲に抑えること)に象徴される緊縮財政路線を通貨の本質を歴史的・実証的に解明しつつケインズ理論を発展させた「現代貨幣理論」をもとにした大胆な積極財政論への抜本転換③新自由主義路線からの完全決別④安保法制廃止=平和外交路線追及⑤原子力発電所の即時可動停止⑥国民主権・基本的人権の尊重・平和主義を理念に三権分立を目指す日本国憲法の尊重・擁護−などを柱とする「政策連合」の形成が急務である。

なお、山本太郎代表や国民民主党の国民民主党の馬渕澄夫衆院議員を代表とする「消費税減税研究会」のほか、水面下でれいわの提唱する現代貨幣理論(MMT)の提唱する国(政府と日銀)の通貨発行権を使った積極財政政策を支持する衆参の国会議員が増加しており、「政策連合」形成の動きが胎動している。また、自民党内にもMMTを支持する衆参の国会議員が100人程度存在している。

今回の東京都知事選挙を受け、野党側がいまだに「政策連合」を形成できていないことから、投票率の大幅上昇が期待できないことを見越し、有権者の25%が選挙の結果を決めるという「日本型選挙の経験則」が生きていると考えて、自公政権が今秋にも解散・総選挙に踏み切るとの見方が強まっている。


ただし、①河井克行克行前法相・河井案里参院議員の逮捕の本丸は1億5000万円の選挙資金を拠出した「自民党本部の責任者」にあること②新型コロナウイルス再拡大の局面に入っていること(5日は東京都の111人を含む全国で208人の新型コロナ感染者が確認された)−などの状況が解散・総選挙の在り方(安倍晋三政権のもとかそれとも安倍総裁交代後の新総裁・新首相下での解散・総選挙のいずれか)や時期を最終的に決定することになるだろう。

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